研究開発コラム
発酵技術 新領域

微生物と食品の関わりを網羅解説 有益な利用法から食中毒の回避まで

「食品に関係する微生物の種類が知りたい」「微生物を利用した食品とは」と疑問に感じる方は多いでしょう。

食品に関わる微生物には、乳酸菌のように人間に有益に作用するものと、食中毒を引き起こす有害なものがあります。

この記事では、食品に関わる微生物の種類や、利用法、課題について網羅的に解説します。

また微生物による食品事業のポイントも紹介しているので、新製品の研究開発などを検討している方はぜひご覧ください。

微生物を利用した食品「発酵食品」

発酵食品は世界中に存在し多種多様である点が特徴です。

代表的な発酵食品は、次のとおりです。

  • ・味噌
  • ・醤油
  • ・日本酒
  • ・ビール
  • ・糠漬け
  • ・キムチ
  • ・ピクルス
  • ・納豆
  • ・テンペ
  • ・生ハム(※発酵で作られない物もあります)
  • ・ヨーグルト
  • ・チーズ
  • ・甘茶
  • ・パン

特に日本は発酵大国と呼ばれるほど種類が豊富であり、日本食は発酵で成り立っているといっても過言ではありません。

しかし微生物の性質をうまく活用した発酵食品にはまだ未解明な部分が多く、今後の研究の進展が望まれます

発酵食品に関わる3大微生物

この章では、発酵食品に重要な3大微生物について解説します。

1. 酵母

酵母の特徴や利用される発酵食品について、下記の表にまとめました。

特徴主な発酵食品
・糖をアルコールと炭酸ガスに分解する・アルコール発酵を行う・自然界に広く分布する・酒の種類によって「ビール酵母」や「ワイン酵母」などがある・日本酒、ビール、ワイン・パン・味噌、醤油・漬物・くさや など

酵母は様々な発酵食品の発酵過程に関与しているのが特徴です。

糖類の分解時に発生する炭酸ガスはパンの膨らみに、アルコールは日本酒やワインなど酒類の製造に利用されます。

さらに日本酒においては、吟醸香でも知られているとおりフルーツのような甘い香りを生み出すなどの役割を担う点もポイントです。

2. 細菌

細菌の特徴や利用される発酵食品について、下記の表にまとめました。

代表的な3種類の細菌を紹介します。

細菌名特徴主な発酵食品
乳酸菌・糖を分解して乳酸を生成する・自然界に広く分布する・種類が多く、菌株も多数存在する・乳酸発酵を行う・チーズやヨーグルトなどの乳製品・味噌や醤油・キムチや糠漬けなどの漬物・カルピス
納豆菌・タンパク質をアミノ酸に分解する・枯草菌の一種で、稲藁や枯れ草に生息・芽胞を形成し、熱や真空、酸性環境にも耐える・納豆
酢酸菌・アルコールを酢酸に変化させる・空気中や梅、ぶどうなどの果実、はちみつなどに広く分布・酢・ナタデココ

細菌は種類が多く、細菌ごとに特徴的な性質を備えています。発酵が進む際、食品にどのように作用し、どのような風味や味になるかは細菌の種類によって異なります。

3. 麹菌(カビ)

麹菌(カビ)の特徴や利用される発酵食品について、下記の表にまとめました。

特徴主な発酵食品
・カビの一種であり、麹をつくるための糸状菌・タンパク質分解酵素の「プロテアーゼ」や脂質分解酵素の「リパーゼ」などの酵素を産生する・実際には、麹菌から作られた麹を使用する・味噌、醤油・日本酒、焼酎・鰹節・チーズ・漬物・みりん など

中国や台湾などにも、クモノスカビとよばれる麹菌が存在します。

なお、日本に生息するコウジカビは、日本の伝統食に欠かせない微生物として「国菌」に認定されています。

発酵食品に関わる微生物の利用例の一覧

この章では、発酵食品に関わる主要な微生物について、食品ごとに紹介します。発酵食品は非常に種類が多いため、比較的研究が進んでいる食品に絞りました。

味噌、醤油

味噌と醤油の製造に関わる微生物を下記にまとめました。

項目微生物名特徴
酵母Saccharomyces cerevisiaeSaccharomyces rouxiiTorulopsis versatilusTorulopsis etchellsiiSaccharomyces属はアルコール発酵や様々な発酵食品の生成に関与・Torulopsis属は、味や香りの形成に関連する後熟酵母
乳酸菌(耐塩性)Pediococcus halophilusTetracoccus sp.・22%の食塩濃度でも生育が可能下記の役割がある・香りを良くする・悪臭の低減・風味をよくする
乳酸菌(非耐塩性)Streptococcus faecalisStreptococcus faeciumPediococcus acidilactici・上からそれぞれ、豆麹、米麹、麦味噌で検出される・役割や特徴は不明な点が多い
麹菌Aspergillus oryzaeAspergillus sojaeAspergillus tamarii・米や大豆を分解する・A. tamariiは溜まり醤油の製造で使用される

味噌と醤油は、酵母、乳酸菌、麹菌がバランスよく作用し発酵が進むことで作られます。幅広い微生物が関わっており、その役割などについて比較的よく研究されている発酵食品の1つです。

酵母は、アルコール発酵に関わるものと、味などのフレーバーに関連する後熟酵母の2種類が使用されます。

参考:伊藤寛ら, 日本食品微生物学会雑誌Jpn.J.Food Microbiol.,11(3),151-157,1994

日本酒、焼酎、泡盛

日本酒、焼酎、泡盛の製造に関わる微生物の概要を下記にまとめました。

使用される酵母は目的に応じて使い分けされますが、全てSaccharomyces cerevisiaeに分類される点がポイントです。

微生物名\食品名日本酒焼酎泡盛
酵母Saccharomyces sake
・鹿児島酵母(Ko)・鹿児島2号(K2酵母)・鹿児島4号酵母(C4酵母)・鹿児島5号酵母(H5酵母)・鹿児島6号酵母(Ka4-3酵母)Saccharomyces awamori
乳酸菌Leuconostoc mesenteroidesLactobacillus sakeiLactobacillus属(L. plantarumL. satsumensisなど)
麹菌Aspergillus oryzae白麹菌:Aspergillus mut. kawachii黄麹菌:Aspergillus oryzae黒麹菌:Aspergillus luchuensisAspergillus luchuensis

日本酒は多様な微生物が複合的に関係し、複雑な変遷によって生み出されます。

黒麹菌の学名については、文献によって多少の混乱が見られるため注意してください。

参考:
Hong SB, Lee M, Kim DH, Varga J, Frisvad JC, et al. (2013) ASPERGILLUS LUCHUENSIS, AN INDUSTRIALLY IMPORTANT BLACK ASPERGILLUS IN EAST ASIA. PLOS ONE 8(5):

納豆、鰹節、酢

納豆、鰹節、酢の製造に関わる微生物を下記にまとめました。

納豆鰹節
納豆菌(Bacillus subtilis nattoカツオブシカビ(Eurotium herbariorum酢酸菌(Acetobacter pasteurianus, A. aceti)酵母(Saccharomyces cerevisiae)麹菌(Aspergillus oryzae

蒸した大豆を納豆菌が発酵させたものが、納豆です。納豆菌の種類によって味や粘り気などが変化すると言われています。

鰹節の製造に使用されるEurotiumは乾燥環境を好み、カビ付けと乾燥を繰り返すことで水分量を減少させる点が特徴です。

酢はアルコールを酢酸に変化させる酢酸発酵で作られ、使用する酵母の種類によって香りの品質が変化します。

納豆や鰹節など、単一の原料を単一の微生物で発酵させてつくる方法を単一発酵と呼び、ワインなども該当します。

糠漬け

糠漬けに関わる微生物を下記にまとめました。

乳酸菌酵母酪酸菌
Lactobacillus
Lactococcus
Leuconostoc属・Pediococcus
Pichia属・Debaryomyces属・Candida kruseiTorulqpsis etchellsiiSaccharomycopsis lipolyticaClostridium butyricum

糠漬けはそのシンプルな製造方法にもかかわらず、詳しい研究が進んでいません。主に乳酸菌による発酵が行われますが、酵母やそのほかの微生物の関与も考えられています

ヨーグルト

ヨーグルト(発酵乳)に関わる微生物(乳酸菌)について、下記にまとめました。

属分類主な菌株
Lactobacillus属(桿菌)Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus(ブルガリア菌)
Streptococcus属(球菌)thermophilus(サーモフィラス菌)
Lactococcus属(球菌)lactis・cremoris
Pediococcus属(球菌)halophilus

ヨーグルトは食品の国際規格(Codex規格)において「ブルガリア菌とサーモフィラス菌の共発酵品」と定義されています(日本では種菌として他の乳酸菌を用いてもヨーグルト(発酵乳)と呼びます)。酵母と同様、同じ分類であっても菌株によって性質が異なり、研究開発の際は菌株の見極めが重要です。

上記の他にも、メーカーが独自開発したものが数多く存在しています。

微生物と食品における課題「食中毒」

この章では、微生物と食品における課題である「食中毒」について解説します。

食中毒の種類と有害な微生物をまとめたので、参考にしてください。

感染型

感染型の食中毒について、下記の表にまとめました。

微生物名分布や特徴原因となる主な食品
ビブリオ属菌・海水中に生息し、塩分濃度2~5%でよく発育・発育速度は極めて早い・水道水では増殖不可・夏季沿岸で獲れた魚介類・刺身
サルモネラ属菌・ヒトや家畜の糞便などに広く生息・乾燥に強い・鶏卵・食肉類やその加工品
カンピロバクター属菌・家畜や家禽などのあらゆる動物が保菌する・大気中での発育不可・菌数がわずかでも発症する・鶏肉・鶏肉の関連食品
リステリア属菌・河川水や動物の腸管内などに広く分布・4℃以下の低温、食塩濃度12%でも増殖可能・ナチュラルチーズなどの乳製品・生ハムなどの食肉加工品・スモークサーモンなどの魚介類加工品

微生物が体内に取り込まれ、増殖することで発症します。低温や乾燥、高塩分濃度の環境でも増殖可能な微生物も存在するため注意が必要です。

生の食品だけでなく、加工品でも発症リスクがあります。

参考:
消費者庁|細菌・ウイルスによる食中毒
厚生労働省|リステリアによる食中毒

毒素型

毒素を放出する毒素型の食中毒について、下記の表にまとめました。

微生物名分布や特徴原因となる主な食品
ボツリヌス菌・自然界に広く分布している・芽胞を形成する・加熱調理でも生存・酸素環境下では生育不可・ボツリヌス毒素を放出する・食肉や魚肉、野菜類を原料とした発酵食品・瓶詰めや缶詰、真空包装の食品・はちみつ(1歳未満の乳児)
黄色ブドウ球菌・ヒトや動物の皮膚などに広く分布・100℃でも破壊されない毒素を産生する・おにぎりなどの穀類加工品・弁当・調理パン など
セレウス菌(嘔吐型)・自然界に広く分布・芽胞を形成する・加熱調理でも生存・酸やアルカリでも破壊されない毒素を放出する・焼き飯やピラフなどの米飯類・パスタなどの麺類
ウェルシュ菌・自然界に広く分布・芽胞を形成する・加熱調理でも生存・酸素環境下では生育不可・大量加熱した調理食品・特に、弁当、カレー、スープなどを加熱調理後、放置されたもの

毒素を放出し食中毒を引き起こす微生物の多くは、芽胞を形成し加熱殺菌や低温にも耐性を示すため注意が必要です。

参考:消費者庁|細菌・ウイルスによる食中毒

有害微生物による食中毒を減らす3つのポイント

この章では、有害微生物による食中毒を回避するための、重要事項を解説します。

1. 衛生管理の徹底

衛生管理の徹底は、食中毒の回避のために非常に重要です。

有害微生物の対策として、食品を扱う全ての事業者には一般衛生管理とHACCPの実施が義務付けられています

一般的な衛生管理基準を満たした上でHACCPを実施するため、どちらか一方のみを行うことはできません。

また施設内外の衛生管理や洗浄・殺菌に加えて、原料の受け入れ、保管、スタッフの訓練などのほか、標的を絞った対策も実施してください。

食中毒の発生は最悪の場合死亡するケースもあるため、衛生管理の徹底は必要不可欠です。

2. 微生物の効率的な検査や抑制技術の開発

微生物の効率的な検査や抑制技術の開発も、食中毒回避に有効です。

食中毒原因菌の検査には最低1〜2日、場合によっては4〜7日と長い時間がかかります。

しかし、食品の製造現場、特に非加熱食品において食中毒対策は必須であり、迅速かつ確実に検出できる技術の実用化が望まれます

また、検査技術だけでなく、そもそも微生物汚染を発生させない殺菌や増殖抑制手法の開発も課題です。

わずかな菌数で食中毒を発症する微生物も多数存在しているため、確実な殺菌、抑制の仕組みが求められています。

関連技術の開発に取り組む研究機関では検査技法の確立や効果的な殺菌方法について研究しているので、興味がある方はご覧ください。

3. 積極的な情報収集

食中毒の回避には、積極的な情報収集も大切です。

食中毒の発生に関わる情報を継続して収集することで、事前の対策ができるだけでなく、自社環境の食中毒発生リスクの判断材料にも役立ちます。

微生物には、基本的に次の特徴があります。

  • ・目に見えない
  • ・ヒトや動物、自然などあらゆる場所に生息している
  • ・温度や栄養条件が揃うと急速に増殖する
  • ・遺伝子変異が起きやすいため、環境への適応能力が高い

さらに少数でも発症したり、加熱調理でも死滅しないなどの微生物も存在します。そのため食品製造環境を常にベストに保てるよう、積極的な情報収集が必要です。

参考:農林水産省|有害微生物による食中毒を減らすための農林水産省の取組(リスク管理)

微生物を活用した食品事業を成功させるには

この章では、微生物を活用した食品事業を成功させるポイントについて解説します。

利用すべき微生物を見極める

微生物を活用した食品事業のポイントは、利用すべき微生物を見極めることです。

酵母や乳酸菌は同じ科や属に分類されていても菌株によって特性が異なるため、食品の風味や健康効果などに差が生じます。

そのため、目指す食品のイメージや健康効果などを見定め、目的に沿った微生物を選択することが重要です。

独自に研究開発する、専門機関に相談するなどの方法がありますが、いずれにせよ、微生物の見極めが食品事業の成否を左右するといえます。

環境管理を徹底する

微生物を利用した食品事業には、環境管理の徹底が必要不可欠です。

微生物の性質を利用して作られる発酵食品は、多種多様な微生物の絶妙なバランスで成り立っています。

微生物の均衡を保ち、異臭や風味の悪化などの悪影響を防ぐためには、環境を適切に管理することが重要です。

実際、味噌や醤油、日本酒などは微妙なpHや温度の変化で風味が変わるため、細心の注意を払って製造されています。

発酵食品事業を成功に繋げるため、適切に環境をコントロールしてください。

専門機関に相談、依頼する

微生物を利用した食品事業に関しては、専門機関に相談、依頼する方法がおすすめです。

発酵食品の開発製造には、最終製品の目的に適う適切な微生物の選択や、厳密な環境の制御などが求められます。

特に微生物の取り扱いは非常に難しく、専門知識や経験がないと困難であるため、スタートアップや初めて食品事業を扱う企業には高いハードルです。

「発酵」を専門に扱うヤヱガキ発酵技研では、50年以上の研究実績があり、発酵食品の設計、開発から製造までワンストップで提供可能です。

気になる方はぜひお問い合わせください。

参考:ヤヱガキ発酵技研株式会社|コラボレーション

まとめ:微生物による食品の製造はプロに依頼するのが近道

食品に関わる微生物には、大きく2種類あります。

1つは、人間に有益な作用をもたらす微生物で、主に発酵食品に関係しています。もう1つは、食中毒などを引き起こす有害な微生物で、食品全般が対象です。

発酵食品は、納豆やワインなどの1つの原料を発酵させてできるシンプルな発酵方法のほか、味噌や醤油などの微生物どうしが複雑に作用しあうものまでさまざまです。

一方、食中毒を起こす微生物は食品全般に発生し得るため、食品の製造現場では徹底的な衛生管理や予防が求められます。

発酵食品の製造では微生物の取り扱いの困難さに加え、環境管理の厳密さなどが課題になるため、知識や知見をもつ専門家に相談するとよいでしょう。

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