研究開発コラム
機能性食品原料

酪酸菌が腸内環境に与える驚くべき効果とは 有効な製品も紹介

「酪酸菌と腸内環境の関係について知りたい」「酪酸菌は腸内環境をどのように改善するのか」と悩む方は多いでしょう。

酪酸菌の効果についてはこれまでに多くの研究がなされており、糖尿病などの生活習慣病にも効果があると報告されています。

そこで今回の記事では、酪酸菌の基本事項や、腸内環境に与える影響について解説します。

また、食事からの摂取が難しい酪酸菌をうまく取り込むためのサプリメントも紹介しているので、ぜひ製品開発の参考にしてみてください。

酪酸菌の基本

酪酸菌は乳酸菌やビフィズス菌のように腸内フローラを形成する善玉菌の一種で、腸内環境を整える働きがあります。

酪酸菌は、「酪酸」を産生するのが特徴です。酪酸については多くの研究がなされ、腸内だけでなく全身の健康に関与していることが分かっています。

また近年では、酪酸菌が長寿と関係があることが、京都の大学が行ったコホート研究で示されました。

酪酸菌によって生成される酪酸には、さまざまな健康効果が期待されています。

参考:Yuji N. J Clin Biochem Nutr. 2019 Sep;65(2):125-131.

酪酸菌の特徴

この章では、酪酸菌の特徴について解説します。

熱や酸に強い

酪酸菌は芽胞(がほう)と呼ばれるカプセル状のものに包まれており、高温や胃酸、乾燥などの悪条件にも耐性があります。

さらに酪酸菌は100度の高温や胃酸などの強酸環境に晒されると活動を停止しますが、生存環境が良くなると生命活動を再開する点も特徴です。

そのため、下記のように酸素のない環境(カプセルなど)であれば経口摂取でも生きたまま体内に取り込めます。

また酪酸菌はその芽胞により、抗生物質にも強く抗生剤と一緒に処方されることもあります。

酸素がない環境を好む

酪酸菌は無酸素で生育する嫌気性細菌の中でも、酸素に暴露されると死滅する「偏性嫌気性菌」に分類されます。腸内に生息する偏性嫌気性菌は、酪酸菌のほか、ビフィズス菌やバクテロイデスやクロストリジウムなどがあり、体内においては酸素がない大腸のみで生育が可能です。

酪酸菌は、空気中の酸素環境で死滅してしまうため、食材からの摂取は困難です。酪酸菌を多く含む食品としては糠漬けが挙げられますが、基本的に食べ物からの摂取は現実的ではありません。

そのため、最後の章で紹介する整腸剤などを活用するのがおすすめです。

酪酸を産生する

酪酸菌の大きな特徴の1つは、短鎖脂肪酸の1種である「酪酸」を産生することにあります。短鎖脂肪酸には酪酸以外にも酢酸やプロピオン酸がありますが、酪酸を産生できるのは酪酸菌だけです。

酪酸は、多くの研究から次のとおり健康長寿に重要であることが示されています。

  • ・免疫機能の改善
  • ・腸内環境の改善
  • ・大腸がんの抑制
  • ・糖尿病の予防
  • ・長寿への貢献

酪酸による健康効果の詳細については、以降の章で詳しく解説するので参考にしてください。

また酪酸菌が酪酸を産生するには宿主であるヒトの運動や食事内容が関わっており、それらを改善することで酪酸を増加させられるとされています。

酪酸菌が腸内環境に与える影響

この章では、酪酸菌が腸内環境に与える影響を紹介します。

大腸の機能を正常に保つ

酪酸菌には大腸の機能を正常な状態に保つ働きがあります。

酪酸菌が産生する酪酸は、大腸の粘膜上皮細胞が活動するための重要なエネルギー源です。粘膜上皮にエネルギーが供給されることで、水分やミネラルの吸収、腸のバリア機能である粘液の分泌などが活発に行われます。

その結果、大腸の機能が正常に保たれ、それによる肥満防止や免疫機能の調整などの健康効果につながります。

さらに、酪酸は腸の蠕動運動を行うためのエネルギーとしても利用されます。腸の蠕動運動が促進されると、腸の内容物が肛門に向かって押し出されるため、便秘の解消に役立つのが嬉しいポイントです。

生成された酪酸は、大腸の粘膜上皮細胞の活動に寄与し、さらに腸の蠕動運動を促進することで、腸を守ります。

そのため酪酸菌を腸内環境に取り込めば、大腸の機能を正常に維持することが可能です。

参考:
田中彩ら 日本静脈経腸栄養学会雑誌 31(5):1095-1098:2016
坂田隆ら 日本油化学会誌 第46巻 第10号 (1997)

腸内フローラを健康に保つ

酪酸菌を摂取すると、腸内フローラを健康に保つ効果が得られます。

腸内フローラの健康維持は、免疫機能の調整や有害物質の排除など、身体全体の健康をキープするのに重要です。

酪酸には腸内を弱い酸性状態に保つ機能があるため、有害な菌の繁殖を抑制し、乳酸菌などの有用な菌が生息しやすい環境を作り出せます。

また酪酸は大腸上皮細胞の主要なエネルギー源になる事で細胞の代謝を亢進し、大腸管腔内の酸素を大腸上皮細胞が酪酸代謝のために取り込むので、大腸内にある酸素を多量に消費する性質があります。そのため、大腸内の酸素が減少し、嫌気性細菌である酪酸菌やビフィズス菌が活動しやすい環境の形成に役立つので、宿主との互恵関係が成り立ちます。

参考:
安藤朗 日本内科学会雑誌 104 巻 1 号 29~34 (2015)
梶野リエら ファルマシア Vol.53 No.3 238-240 (2017)

酪酸菌を腸内環境に取込むことで得られる効果5選

この章では、酪酸菌を腸内環境に取り込むことで得られる効果を、5つピックアップして紹介します。

1.制御性T細胞を活性化する

酪酸が制御性T細胞を活性化することを示した研究について、下記に概要を記載します。

マウスに高食物繊維の餌を与えるグループと、低食物繊維の餌を与えるグループに分けて飼育し、実験・比較したところ、下記の結果が得られました。

  • ・低食物繊維食群と比較して、腸内細菌の活動が高まり、酪酸の生産量が増加した
  • ・低食物繊維食群と比較して、末梢組織と大腸の局所で、免疫寛容を担う制御性T細胞の分化誘導が見られた

※免疫寛容とは、体内に入り込んだ異物を受け入れ共存するよう機能し、過剰な免疫反応を抑制するしくみのことです

さらに慢性大腸炎のモデルマウスを用いた実験では、酪酸の働きによる制御性T細胞の誘導を介して大腸炎が抑制されることが示されました。

一連の研究から、酪酸は腸内で制御性T細胞の分化誘導を通して、腸管免疫系の恒常性維持の役割を果たしているといえます。

参考:Yukihiro Y. et al. Nature, 504, 446-450 (2013)

2. 糖尿病の予防に役立つ

酪酸が糖尿病の予防に役立つことを示した研究について、下記に概要を記載します。

研究では2型糖尿病患者について、食物繊維に富んだ食事(高食物繊維食群)を摂取するグループと、通常の糖尿病治療食(対照群)を摂取するグループに分け、両グループを比較したところ、下記の結果が得られました。

  • ・対照群と比較して、血糖コントロールに成功した参加者の割合が高かった
  • ・対照群と比較して、体重が顕著に減少し血中脂質が改善した
  • ・対照群と比較して、糞便における酪酸濃度が明らかに高かった
  • ・一方で、糞便における酢酸濃度は、両グループで差は見られなかった
  • ・対照群と比較して、28日目までに空腹時血糖値が一時的に有意に減少した
  • ・しかし、実験終了後は、両グループにおいて空腹時血糖値に差は見られなかった

上記の研究結果より、酪酸が2型糖尿病患者の症状改善に役立つことが示唆されました。

参考:Zhao L et al. Science. 2018 Mar 9;359(6380):1151-1156

3. インフルエンザ症状の軽減に役立つ

酪酸(短鎖脂肪酸)がインフルエンザ症状の軽減に役立つことを示した研究について、下記に概要を記載します。

高食物繊維食*を与えられたマウスと対照群のマウスに対して、インフルエンザウイルスを注入する実験を行ったところ、下記の結果が得られました。

※食物繊維は、酪酸などの短鎖脂肪酸が増加し、これを通して免疫反応を制御することが知られています

  • ・対照群と比較して、高食物繊維食を与えたマウスは臨床スコア(感染重症度)が明らかに低かった
  • ・対照群と比較して、インフルエンザ罹患後の生存率が向上した
  • ・対照群と比較して、炎症物質であるケモカインの産生が抑制された
  • ・対照群と比較して、免疫細胞であるマクロファージが増加した

上記の実験結果より酪酸などの短鎖脂肪酸により免疫系のバランスが保たれた結果、インフルエンザの症状が軽減され、生存率の低下を抑制できたと考えられます。

参考:Trompette A et al. Immunity. 2018 May 15;48(5):1-14

4.抗うつ薬のような効果が期待できる

酪酸には、抗うつ薬のような効果が期待できる場合があります。

2007年の論文において、酪酸ナトリウム(SB)と抗うつ薬の一種であるフルオキセチンを用いた実験を行いました。

【実験方法】

マウスに下記の条件で薬剤を投与し、絶望感を測るテスト(テールサスペンション試験)を実施しました。※このテストでは、スコアが高いと絶望感があるとみなされます

  • A:SBのみ
  • B:フルオキセチンのみ
  • C:SB+フルオキセチン

また、海馬と前頭皮質において、神経細胞の成長因子であるBDNFの発現をモニタリングしました

【結果】

  • ・ Cの条件(酪酸+抗うつ薬)では、絶望感のスコアが低下した
  • ・AおよびB条件では、絶望感のスコアは限定的であった
  • ・酪酸を投与したマウスは、前頭皮質のBDNFが増加した

上記の研究から、酪酸が抗うつ薬のような効果を発揮できることが期待されます。

参考:Schroeder FA et al. Biol Psychiatry. 2007 Jul 1;62(1):55-64. Epub 2006 Aug 30

5.下痢型過敏性腸症候群の症状改善に効果がある

酪酸菌が、下痢型過敏性腸症候群の症状改善に効果があるとした2018年の論文について、下記に概要を記載します。

下痢型過敏性腸症候群(IBS-D)を患う200名の患者に対して、酪酸菌または偽薬(プラセボ)を4週間投与し、IBS-Dの症状、生活の質、便の硬さおよび便の頻度について調査しました。

研究の結果は、次のとおりです。

  • ・プラセボと比較して、全体的なIBS-D症状が改善された
  • ・プラセボと比較して、生活の質が向上した
  • ・プラセボと比較して、便の頻度が改善された
  • ・中等症以上の患者は、プラセボと比較すると治療効果の度合いが明らかに高かった

これより、酪酸菌が下痢型過敏性腸症候群に対して症状を改善する効果がわかりました。

また、メタゲノム解析による酪酸菌の機能予測では、アミノ酸代謝、脂肪酸代謝など複数の代謝経路がIBS-Dの治療に重要な役目を担っていると推定されています。

参考:Yi-Yuan Sun et al. Scientific Reports volume 8, Article number: 2964 (2018)

酪酸菌を腸内環境に届けられる製品

この章では、酪酸菌を腸内環境に届けられる製品について紹介します。

強ミヤリサン錠

酪酸菌を腸内に供給できる製品、強ミヤリサン錠について下記にまとめました。

商品名強ミヤリサン®(錠)
製造メーカーミヤリサン製薬株式会社
特徴や効果・酪酸や酢酸などの有機酸、ビタミンB群を産生する・ビフィズス菌や乳酸菌などの有用な菌の発育を助ける・有害細菌の発育を抑制する
成分酪酸菌(宮入菌末)

強ミヤリサン錠に用いられている宮入菌は、宮入博士によって1933年に発見され、その後、食中毒や腸炎などの消化器疾患に対する治療効果が示されています。

ビオスリーHi錠

酪酸菌を腸内に供給できる製品、ビオスリーHi錠について下記にまとめました。

商品名ビオスリーHi錠
製造メーカーアリナミン製薬株式会社
特徴や効果・腸内フローラと大腸のバリア機能を改善する・3種類の菌を含み、小腸や大腸の部位ごとに働きかける・便秘や軟便などの毎日のお腹のケアに役立つ・腹部膨満感を改善する
有効成分・酪酸菌・ラクトミン(乳酸菌)・糖化菌

ビオスリーH(散剤)については、生後3ヵ月以上の赤ちゃんでも服用可能です。

フェカルミンスリーE

酪酸菌を腸内に供給できる製品、フェカルミンスリーEについて下記にまとめました。

商品名フェカルミンスリーE顆粒
製造メーカー日東薬品工業株式会社
特徴や効果・3種類の菌を配合している・善玉菌を増殖させ、悪玉菌を抑制する・腹部膨満感や軟便、便秘の改善に役立つ・腸内細菌叢のバランスを整える
有効成分・酪酸菌末・納豆菌末・乳酸菌末

フェカルミンスリーE顆粒は、お腹にガスが溜まりやすい、冷たい飲み物で軟便になりやすい人におすすめの整腸剤です。また、生後3ヵ月以上の赤ちゃんでも服用できます。

まとめ:酪酸菌を腸内環境で増やすことで大きな健康効果が得られる

酪酸菌の摂取は、腸内に住むフローラを健やかにし、大腸の機能を正常に維持するのに重要です。

さらに酪酸菌が産生する酪酸には免疫細胞の活性化、糖尿病の予防などの健康効果があり、注目されています。とくに制御性T細胞の活性化などの研究においては、さらなる進展が期待されます。

酪酸菌の健康効果に関しては数多くの研究がなされており、今後もさまざまな研究が展開されると予想されます。

ただし酪酸菌は酸素がある環境では生育できません。そのためサプリメントを利用して、その健康効果を十分に発揮させることが重要です。

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