「微生物と食品に関する研究が知りたい」「どのようなテーマがあるのか」と気になる方は多いでしょう。微生物と食品に関する研究は非常に種類が多く、概要を掴みきれないこともあります。
そこで本記事では微生物と食品の研究について研究の目的別に分類したうえで、主たるテーマを紹介します。取り組まれている分野や研究機関を知ることで、微生物と食品の研究領域の理解に役立ちます。
また、微生物と食品を研究する際のポイントも解説しているので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
微生物と食品に関わる研究は国内外で盛んに取り組まれており、扱う領域の広さが特徴です。
そのため、本記事では研究目的を大きく5つに分類しました。
代表的な研究テーマとしては発酵食品の分野がよく知られていますが、ほかにも下記の目的でテーマが設定されます。
食品の品質向上や新製品の開発は主に発酵食品を想定していますが、食中毒予防や健康被害への対策においては食品全般が対象です。
微生物の観点からは、前者は人間に有益な微生物が、後者は人間に有害な微生物が研究テーマであるといえます。
この章では、微生物と食品の研究が行われる目的を5つ紹介します。
微生物と食品の研究目的の1つは、食品の品質向上です。代表的なテーマと実施機関について、下記にまとめました。
主な研究テーマ | 実施機関 |
・発酵食品中の微生物動態の解明・醸造プロセスの解明・関連微生物の研究・新たな発酵技術の開発 など | ・東京農業大学・東京農業大学・農研機構 など |
微生物の活動によって生み出される発酵食品では、詳細なプロセスが解明されていない部分が多いのが現状です。
そのため中小規模の製造現場では発酵の安定性や品質の向上が課題とされ、問題解決に向け発酵食品の動態の解明や、微生物の研究が行われています。
また大手企業でも、自社研究所での発酵用微生物の選抜や維持管理、実践的な微生物管理が必要です。
このほか、既存製品の品質向上や効率的な生産などにも活用されています。
参考:
東京農業大学 醸造技術分野 発酵食品化学研究室
東京農業大学 醸造微生物学分野 醸造微生物学研究室
新製品の開発も微生物と食品の研究目的の1つです。代表的なテーマと実施機関について、下記にまとめました。
主な研究テーマ | 実施機関 |
・発酵微生物や有用微生物の創製・新たな有用微生物の探索・新しい日本酒の開発 など | ・大阪大学、神戸大学・神戸大学・東京農業大学など |
当該分野ではこれまでにない新しい発酵食品の開発や発酵技術の革新などを目的として、有用微生物の創製や、新たな微生物の探索が行われています。
新製品の開発では、企業とのコラボレーションや地域への還元などを意識して取り組まれることもあります。
参考:
大阪大学プレスリリース 微生物によるバイオものづくりで 温室効果ガス削減やエネルギーの安定供給に貢献(2023年10月4日)
神戸大学バイオ生産工学研究室
神戸大学プレスリリース 有用微生物の高効率な探索に向けエマルションスクリーニング技術基盤を構築(2022年2月14日)
清酒製造用酵母の分離および実用化(日本醸造協会誌 2015 年 110 巻 5 号)
微生物による健康効果については、さまざまな観点から研究がなされています。代表的なテーマと実施機関について、下記にまとめました。
主な研究テーマ | 実施機関 |
・発酵食品と健康・乳酸菌や酪酸菌が腸内環境に与える影響・食生活と腸内フローラ・食品微生物の摂取と疾病・有用微生物の解析 など | ・乳酸菌飲料メーカー・整腸剤メーカー・東京海洋大学 食品微生物学研究室・農研機構 など |
微生物による健康効果、特にヨーグルトや納豆などの発酵食品と健康との関連は古くから研究されてきました。
しかし、どのような微生物が人間の体にどう作用し健康をもたらすのかについて、まだ詳細不明な部分も多いため、作用機序の解明が望まれます。
また、微生物の摂取や産生物質による疾病予防なども重要なテーマの1つです。
微生物と食品の研究の1つに、食中毒や感染症の予防を目的とするものがあります。
代表的なテーマと実施機関について、下記にまとめました。
主な研究テーマ | 実施機関 |
・有害細菌の抑制技術の開発・殺菌に関する技術開発・関連する基礎研究 など | ・東京海洋大学 食品微生物学研究室・国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部・東京都健康安全センター 食品微生物研究科 など |
東京海洋大学ではボツリヌス毒素の効率的な殺菌法や、ノロウイルス、サルモネラなどの有害細菌の生肉での殺菌法が研究されています。
食品の製造現場で役立つような技術開発を主とし、食品を介した健康被害の防止に役立てられるのが当該分野の特徴です。
健康被害の防止拡大を目的とした研究について紹介します。主たる研究テーマと実施している研究機関について、下記にまとめました。
主な研究テーマ | 実施機関 |
・有害細菌などの検出技術の開発・病原微生物のリスク評価・関連する基礎研究 など | ・東京海洋大学 食品微生物学研究室・国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部・東京都健康安全センター 食品微生物研究科 など |
微生物や産生毒素に対する迅速かつ正確な検出法やタイピング技術の開発、基礎研究を通して、効率的な健康被害の拡大防止を目指します。
この章では微生物と食品に関する研究を行っている組織や大学について、詳しく紹介します。
農研機構に関する事業や研究内容を下記にまとめました。
名称 | 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 |
事業内容 | ・持続的な農業の実現や地方創生、SDGsの達成への貢献を目指すために、下記の3つを掲げている食料の自給力向上と安全保障農業・食品産業の競争力強化と輸出の拡大生産性の向上と環境保全の両立 |
微生物と食品に関わる部門 | 食品研究部門 微生物機能ユニット主な研究テーマ:・微生物の代謝機能制御および環境応答に関する基礎研究・メタボローム解析による食品成分や微生物代謝物の一斉分析・微生物叢の解析・発酵工程の指標となる食品成分やその動態に関与する微生物を明らかにすること |
その他 | 共同研究や受託研究、有償技術相談、スタートアップ支援などの連携活動も積極的に実施している。 |
農研機構は農業および食品産業の発展を目的として、基礎から応用までの幅広い領域で研究を行っています。同分野においては、国内最大級の研究機関です。
東京都健康安全センターに関する事業や研究内容を下記にまとめました。
名称 | 東京都健康安全センター |
事業内容 | 都民の生命と健康を守ることを主題として下記を実施。・食品、医薬品、飲料水や生活環境などの安全と安心確保・感染症などの健康危機への備えとして、試験検査調査研究研修公衆衛生情報の解析・提供監視指導を行う。 |
微生物と食品に関わる分野 | 食品微生物研究科概要:下記を目的として、微生物学的試験検査や関連する調査研究を行う。・食品における健康被害の未然防止・食中毒や感染症発生時の原因究明・被害の拡大及び再発防止など |
その他 | 環境中の放射線量を測定、公開も行っている。 |
食品微生物研究科は6つの研究室から成り、それぞれで微生物学的試験検査や関連する調査研究が行われています。
東京農業大学に関する情報を下記にまとめました。
大学名 | 東京農業大学 |
大学概要 | 農学に基礎を置き、「生命」「食料」「健康」「エネルギー」「地域創成」をテーマとして農学の進化に貢献する |
微生物と食品に関わる研究室や学科 | 応用生物学部・醸造科学科発酵微生物学研究室微生物工学研究室発酵食品化学研究室酒類生産科学研究室調味食品科学研究室醸造科学研究室・食品安全健康科学科食品安全解析学研究室食品利用安全学研究室 |
その他 | 産学官・地域連携のほか、共同研究や受託研究なども受け付けている。 |
東京農業大学は農を礎とし、農学はもちろん、生命科学や栄養科学、地域創成など非常に幅広い分野の研究に取り組んでいます。また研究者や発酵関連企業のために、乳酸菌を中心とした微生物菌株の登録バンクである微生物リソースセンターを保有しています。
学部や学科などの名称の最新情報は、下記の公式ホームページで確認してください。
参考:東京農業大学ホームページ
国立大学法人 東京海洋大学に関する情報を下記にまとめました。
学部・研究室名 | 海洋生命科学部 食品生産科学科 食品微生物学研究室 |
主な研究テーマ | 分子生物学的手法による食中毒菌、腐敗原因菌の検出、汚染源追跡法の開発食品由来成分を用いた微生物の増殖制御法の開発水系感染症原因ウイルスの挙動解析と不活化法に関する研究乳酸菌、酵母による高付加価値化食品(機能性)成分と腸内常在 |
これまでの研究例(抜粋) | 核酸結合試薬(PMA)を用いた生菌、死菌、損傷菌の判別法の開発米ぬか由来成分による食中毒菌、腐敗原因菌の増殖抑制法の開発高静水圧処理によるノロウイルスの不活化能を食品への応用微細藻類の食品機能性に及ぼす乳酸発酵の影響タンパクごとに特異的なSIB |
食の安全技術から発酵まで、大学の研究室としては幅広い研究に取り組んでいる点が特徴です。
神戸大学に関する情報を下記にまとめました。
学部・研究室名 | 神戸大学先端バイオ工学研究センター |
研究概要 | ・先端融合領域における新たな学術分野の開拓推進を行うとともに、イノベーションの創出を目指す国内唯一の研究センターとして、2018年7月1日に設立・合成バイオ基盤部門、スマート育種・バイオ生産部門、先端分析評価・プロセス部門、バイオエコノミーの各部門を持ち、それぞれ部門ごとに次世代バイオ産業創出のための研究開発を行う |
研究テーマへのアプローチ | ・4つの研究部門間の連携研究を積極的に推進 |
その他 | 大型の研究プロジェクトだけでも30を超えるプロジェクトを実施しており、創薬から環境、エネルギー、食品まで幅広いバイオイノベーションを創出しています |
国内唯一の公的研究機関のバイオファウンドリ(ロボティクスやAI を用いて、微生物開発から実用化までを高速におこなう技術基盤を備えた研究開発機関)として知られています。日本の最先端バイオものづくりを牽引する産学官連携コミュニティを形成し、今後の我が国におけるバイオ産業の主要研究拠点となります。
この章では、微生物と食品に関する研究を行う際の3つのポイントについて、詳しく解説します。
微生物と食品に関する研究では、本記事で紹介した研究目的のほかにも、ニッチな研究領域や細分化されたテーマが数多く存在します。
非常に種類が多いため、効率よく研究成果を出すためには目的を明確にすることが不可欠です。
最終的に達成したいゴールから必要な研究を逆算すると、より効率的に研究が進められます。
研究機関のサポートを活用することで、効率のよい研究が可能です。サポートを行っている専門機関とサービスについて、下記の表にまとめました。
組織名 | サービス名 |
農研機構 | 共同研究、受託研究、スタートアップ支援、研究試料などの提供、分析や鑑定 など |
ヤヱガキ発酵技研株式会社 | ・発酵製品開発の相談(機能性成分の同定から定量、製品の規格化など)・適した微生物シーズの選択、培養法の確立、機能性の検討・未利用資源の活用 など |
北海道立総合研究機構(食品加工研究センター) | 技術相談や指導、依頼試験や分析、設備使用 など |
農研機構では、共同研究だけでなくスタートアップの支援も実施している点が特徴です。
また、ヤヱガキ発酵技研は発酵に特化した研究開発を行う企業であり、発酵食品の製品開発サポートに最適といえます。
実現したい研究内容や目的にあったサポートを依頼することで、効率的かつ的確なアプローチが実現可能です。
大学の研究室や関連施設と連携する産学官連携も、研究を進める良い手段です。
本記事で紹介した東京農業大学や東京海洋大学では研究の公開、研究者と直接やりとりができる仕組みの導入など、産学官連携を積極的に実施しています。
目的に適う研究内容があり連携制度を活用できれば、コスト面で利点が得られます。
また産学官連携は地域社会への貢献にも繋がるため、自社のPRやイメージアップにも有効です。
微生物と食品の研究は扱う分野が広く、全貌の把握が難しい点とされています。主たる研究目的は、下記の5つです。
また、微生物と食品の研究を行う機関としては、農学を中心とした組織や食品の安全に特化した施設、大学の研究室までさまざまです。
内容が多岐に渡るため、まずは研究の目的を明確にしたうえで専門機関のサポートを活用してみてください。
専門家に依頼、相談することで効率的かつ的確な研究開発が実現できます。
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