研究開発コラム
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短鎖脂肪酸のメリットとは デメリットや体内で増やす方法も紹介

「短鎖脂肪酸のメリットとデメリットが知りたい」と考える方は多いでしょう。

短鎖脂肪酸は、腸内環境の改善やコレステロールの合成を抑制するなど、多くの健康効果が認められています。

一方、過剰摂取によるマイナスの影響も少なからず報告されているのも事実です。

本記事では、短鎖脂肪酸を摂取するメリットとデメリットについて、研究データを元にして解説します。

最後の章では、短鎖脂肪酸を増やす食べ物やポイントを紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。

腸内細菌と関連深い短鎖脂肪酸とは

短鎖脂肪酸とは、炭素が2〜4個程度の短い鎖となって連結した脂肪酸のことです。

  • ※脂肪酸とは、我々の体を構成する脂質の一種
  • ※定義によっては、炭素数6個までを短鎖脂肪酸とする場合もある

代表的な物質としては酢酸、酪酸、プロピオン酸が挙げられます。

短鎖脂肪酸は主に腸内に生息している腸内細菌の活動によって作られ、ビフィズス菌や酢酸菌は酢酸を、酪酸菌は酪酸を生成します。

酪酸は大腸のエネルギー源となるだけでなく、大腸を構成する細胞(大腸上皮細胞)の必須栄養素でもある重要な物質です。

近年、短鎖脂肪酸が健康維持や増進に効果的であることが続々報告され、さまざまな研究が進められてきました。

短鎖脂肪酸のメリット5選

この章では、短鎖脂肪酸のメリットを5つ紹介します。

1. 腸内環境の改善(排便の促進など)

短鎖脂肪酸のメリットの1つは、排便の促進を含めた腸内環境の改善です。短鎖脂肪酸は大腸内部を弱い酸性状態に保つ働きがあります。

大腸菌やウェルシュ菌などのいわゆる悪玉菌は酸性環境への耐性が低く、過剰な増殖の抑制に有効です。

腸内の悪玉菌が減少し善玉菌優位の腸内環境が維持できると、腐敗物の減少により発癌リスクが低下し、免疫機能も改善されます。

また、短鎖脂肪酸には腸の運動を活発にする働きがある点もポイントです。

回腸に短鎖脂肪酸を入れた実験では、回腸の蠕動運動が亢進され内容物の通過速度が向上したという報告があります。

その働きは、酢酸>プロピオン酸>酪酸の順で強かったことがわかりました。

短鎖脂肪酸が腸の働きを活発にすることで排便を促し、便秘の改善などに役立ちます。

参考:坂田隆ら、日本油化学会誌 第46巻 第10号 (1997) 1205-1212

2. 大腸のバリア機能向上

外部からの異物を腸管組織に侵入させない仕組みとして、大腸が備えている防御機構がバリア機能です。

腸管バリアの維持には腸内細菌や、腸内細菌が生み出す短鎖脂肪酸が密接に関わっているとされています。

短鎖脂肪酸の中でも酪酸は腸管を構成する細胞同士の連結に関与しており、免疫細胞の分化に関わるのが特徴です。

細胞同士の密着度合いを向上させることで物理的バリアを強化し、免疫細胞の誘導を通して異物排除の機能向上に貢献しているとされています。

また、未解明な部分も多いものの、酪酸以外の短鎖脂肪酸も同様に細胞間の連結を強化することでバリア機能の向上に役立っていると考えられています。

さらに、腸管の化学的バリアに関与している点も重要です。

短鎖脂肪酸は、腸管の最下部の組織である粘膜固有層において、lgA形質細胞の分化を促進することで間接的に腸管の免疫系に関与しています。

3. 大腸や肝臓などのエネルギー源として活用

短鎖脂肪酸のメリットの1つは、大腸や肝臓のエネルギー源として活用される点です。

代表的な短鎖脂肪酸の代謝について、下記にまとめたので確認してください。

酢酸酪酸プロピオン酸
・約15%が上皮細胞で消費される・残りは肝臓でエネルギー基質や脂肪の合成に利用される・しかし、大腸管腔にプロピオン酸が共存していると脂肪合成が阻害される・大部分は大腸上皮細胞のエネルギーとして消費される・残りは肝臓で脂肪合成に利用される・結腸上皮においては、他の短鎖脂肪酸よりも優先的に利用される・約50%が大腸上皮細胞のエネルギー基質として利用される・残りは肝臓で脂肪合成や糖新生の基質として消費される

大腸上皮細胞のエネルギーは、血液からの栄養供給よりも腸から吸収される酪酸などの短鎖脂肪酸に依存しています。

そのため腸内細菌の活性や短鎖脂肪酸の供給が低下すると、エネルギー不足を引き起こします。

参考:坂田隆ら、日本油化学会誌 第46巻 第10号 (1997) 1205-1212

4. ミネラルの吸収促進

ここでは短鎖脂肪酸のメリットの1つであるミネラル吸収促進について、胃切除が骨減少症を誘発することを利用した研究の概要を紹介します。

【実験】

下記条件で、腸管カルシウム吸収および骨石灰化に対する効果を調べました。

  • A:可溶性食物繊維(グアーガム加水分解物、GGH )を含むエサを与えた胃全摘出ラット
  • B:開腹ラット
  • C:バイパス*ラット
  • *胃切除を行わずに糜粥が十二指腸および上部空腸をバイパス
  • ※B、Cは対照条件

【結果】

  • ・不溶性塩として供給されたカルシウム(Ca)の見かけの吸収について、AのラットがBまたはCよりも 50%以上低かった
  • ・AのラットのCa吸収は、GGH を含まないエサを与えたラットよりも高かった
  • ・カルシウム吸収は盲腸プロピオン酸濃度と最も密接に相関していた

したがって上記研究により、短鎖脂肪酸がミネラル(Ca)の吸収を促進することがわかりました。

参考:Hara H, Suzuki T, Kasai T, Aoyama Y, Ohta A. 1999. Ingestion of guar gum hydrolysate, a soluble fiber, increases calcium absorption in totally gastrecto- mized rats. J Nutr 129: 39-45.

5. コレステロールの合成抑制(肥満防止)

短鎖脂肪酸(SCFA)は、コレステロールの合成を抑制し、肥満を防止すると期待されています。

下記に実験の概略を紹介します。

<実験1>

ラットを下記のグループに分けて飼育し、3、7、14日後の血漿コレステロール濃度を測定し、発酵産物の解析も行った。

  • A:繊維を含まないエサ(基本食)を与える群
  • B:繊維を含むエサを与える群
  • C:繊維を発酵させた発酵産物を含むエサを与える群

<実験2>

繊維を含まないエサ、3 種類のSCFAを含むエサ、3 種類のSCFAの内の1種類または2種類を含む餌を与えて、血漿コレステロール濃度を測定した。

<結果>

  • ・C群では、A群のラットよりも3、7、14日後の血漿コレステロール濃度が低かった
  • ・C群に与えた発酵産物は、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩であった
  • ・酢酸を含むエサを与えられたラットは、繊維を含まないエサを与えられたラットよりも血漿コレステロール濃度が低かった

結論として、短鎖脂肪酸は血漿中のコレステロール濃度を低下させ、その要因は酢酸の寄与が大きいことが分かりました。

参考:Hara H, Haga S, Kasai T, Kiriyama S. 1998. Fermenta- tion products of sugar-beet fiber by cecal bacteria lower plasma cholesterol concentration in rats. J Nutr 128: 688-693.

短鎖脂肪酸のデメリット

短鎖脂肪酸のデメリットについてはあまり研究されていませんが、酪酸菌の過剰摂取によるデメリットはいくつか報告されています。

ここでは酪酸菌の過剰摂取で起こる可能性があるデメリットを紹介します。

酪酸は大腸癌を促進させる可能性がある

大阪大学が行った研究では、酪酸が大腸癌を促進させる可能性があることを示しました。

下記に概要を記載します。

【概要】

2つの独立したコホート研究において、CRC患者に多くに共通して見られる12の糞便細菌分類群を見出しました。

【腸管上皮細胞への投与実験と結果】

各細菌をヒト線維芽細胞および腸管上皮細胞に投与したところ、酪酸を分泌する2種類の細菌が細胞老化を引き起こすことが発見されました。

また、実際のヒト大腸がん組織を解析したところ、

  • ・2種の菌は大腸癌組織に付着、浸潤していた
  • ・その周辺には細胞老化に関わる細胞が存在していた
  • ・大腸癌組織では、非癌組織よりも酪酸濃度が高かった

などの知見も見出されました。

【大腸癌モデルマウスによる実験と結果】

酪酸を分泌する2種類の菌を大腸癌モデルマウスに投与したところ、1種の菌において大腸の腫瘍数が有意に増加しました。

※酪酸を産生しない変異株では、大腸がんに発症促進作用は見られなかった

一般的に酪酸は腸管保護の作用が知られていますが、本研究では大腸癌を促進することが示されました。

参考:Shintaro O., et al, Gut bacteria identified in colorectal cancer patients promote tumourigenesis via butyrate secretion NATURE COMMUNICATIONS, (2021)12:5674

酪酸菌は腸のバリア機能を低下させる可能性がある

酪酸菌の過剰摂取は、腸のバリア機能を低下させる可能性があります。

【概要】

腸管バリアのCaco-2細胞単層モデルを、低濃度(2mM)と高濃度(8 mM)の酪酸で刺激したときの効果について、下記の項目を調べました。

  • ・経上皮電気抵抗(TER)
  • ・イヌリン透過性
  • ・酪酸誘発性細胞毒性
  • ・アポトーシスの発生
  • ・DNAの断片化

【結果】

  • ・低濃度の酪酸は、TERが有意に増加し、イヌリン透過性が有意に低下した
  • ・一方で高濃度の酪酸は、TERを低下させ、イヌリン透過性を大幅に増加させた
  • ・酪酸の濃度が高まるほどアポトーシスが誘発され、生存Caco-2細胞の数が減少した

【結論】

  • ・低濃度酪酸は腸管バリア機能の維持促進に貢献する可能性がある
  • ・しかし、過剰な酪酸は腸管上皮細胞の重篤なアポトーシスを誘導し、腸管バリアを破壊する可能性がある

また、高濃度酪酸による腸管バリア機能の低下は、アポトーシスの酪酸誘発性細胞毒性と関連している可能性が高いことも見出されました。

参考:Effects of butyrate on intestinal barrier function in a Caco-2 cell monolayer model of intestinal barrier. Luying Peng,et al; Pediatric research. 2007 Jan;61(1);37-41.

短鎖脂肪酸を増やす食べ物一覧

この章では、短鎖脂肪酸を増やす食べ物について、3種類のアプローチに分けて紹介します。

短鎖脂肪酸を生み出す善玉菌を多く含む食べ物

短鎖脂肪酸を増やすには、短鎖脂肪酸を生み出す善玉菌を摂取するのが効果的です。

善玉菌を多く含む食べ物は、次のとおりです。

ビフィズス菌酢酸菌酪酸菌
・ビフィズス菌入りのヨーグルト・にごり酢・コンブチャ・糠漬け・臭豆腐

ビフィズス菌や酢酸菌は酢酸を産生し、酪酸菌は酪酸を産生するため、関連する発酵食品を摂取することで体内での短鎖脂肪酸を増やせます。

また、健康効果を高めるためには多様な微生物をバランスよく取り入れることが重要です。

下記に多様な微生物を含む代表的な発酵食品を示します。

  • ・乳酸菌飲料
  • ・チーズ
  • ・味噌
  • ・漬物
  • ・キムチ
  • ・納豆

上記を参考に乳酸菌や納豆菌なども取り込むのがおすすめです。

善玉菌のエサを多く含む食べ物

善玉菌のエサを多く含む食べ物を摂取することも、短鎖脂肪酸を増やす有効な手段です。

下記に善玉菌の代表的なエサである水溶性食物繊維を多く含む食べ物を紹介しているので、確認してください。

  • ・穀類
  • ・海藻類
  • ・野菜類
  • ・果物類
  • ・きのこ類

<水溶性食物繊維の含有量の一例>

食べ物含有量(g/100g)
玄米0.7
キャベツ 生1.4
ゴボウ ゆで2.7
リンゴ(皮付き、生)0.5
マイタケ(油炒め)0.3

また、下記の食材に含まれるオリゴ糖も善玉菌のエサとして有用です。

  • ・大豆
  • ・タマネギ
  • ・ニンニク
  • ・バナナ
  • ・リンゴなど

水溶性食物繊維は、水に溶けやすく大腸に届きやすいという性質があります。

そのため、腸に生息している善玉菌のエサとなり増殖を助ける栄養素として有効です。

参考:日本食品標準成分表2020年版(八訂) 炭水化物成分表編 第2章本表別表1(データ)

短鎖脂肪酸を増やすには、サプリメントも手段の1つ

体内で短鎖脂肪酸を増やすには整腸剤などのサプリメントもおすすめです。

酪酸菌やビフィズス菌は、酸素環境下では生存できない、含まれている食品の種類が少ないなどのデメリットがあり、食品から十分な量を摂取するのは現実的ではありません。

しかし、サプリメントであれば手軽かつ確実に善玉菌が摂取できるので、非常に効率的です。

サプリメントにはさまざまな種類があり、乳酸菌のみのもの、乳酸菌と酪酸菌を含むもの、乳酸菌、酪酸菌、納豆菌を含むものなどがあります。

ただし、基本原則は食物繊維を意識したバランスのいい食事であることは間違いありません。

サプリメントはあくまで補助的な役割として、不足分を補う目的で活用するよう呼びかけましょう。

また、酪酸菌の過剰摂取は体に悪影響を与える研究もあるため、規定量を守ることが大切です。

まとめ:短鎖脂肪酸の恩恵を受けるには、腸内細菌を増やすのが効果的

本記事では、短鎖脂肪酸のメリットおよびデメリットについて徹底解説しました。

短鎖脂肪酸は、腸内細菌の代謝産物として生成される脂質の一種です。

腸内の短鎖脂肪酸を増やせば腸内環境の改善、大腸におけるバリア機能の向上などのメリットが得られます。

善玉菌は主に発酵食品やサプリメントを通して摂取可能です。

善玉菌のエサは食物繊維やオリゴ糖を含む野菜類や果物類、きのこ類などであるため、積極的な摂取の呼びかけが重要です。

ただし酪酸菌の過剰摂取には健康へのリスクもあるため、サプリメントなどは規定量を守って飲むよう注意喚起する必要があるでしょう。

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