酒粕や乳酸菌が肌に良いと聞くけれど、実際に食品で摂取した場合や化粧品として用いた場合はどう働いているの?アトピー性皮膚炎にも効果があるのか知りたい。そう思う方もいるかもしれません。実は、酒粕と乳酸菌はそれぞれ摂取したり肌に塗布する、または組み合わせて取り入れることで、肌のバリア機能や腸内環境を整えるサポートとなり、アトピー性皮膚炎のケアにもつながる可能性があります。この記事では、酒粕と乳酸菌の基本的な効果から、美容や肌の健康にどう活かせるのか、さらにアトピー性皮膚炎のケアに役立つ4つのポイントについて詳しく紹介します。
※研究開発コラムは微生物を活用した研究開発において参考になるトピックを集めたもので、全てのテーマについて当社が研究開発を実施しているわけではございません。
目次
酒粕(さけかす)は、日本酒製造の過程で米、麹、水を発酵させた後に残る固形物質です。日本酒製造において、発酵後に液体部分(日本酒)と固形部分(酒粕)に分離されます。この酒粕は単なる副産物ではなく、栄養価の高い食材として認識されています。
酒粕の主な栄養成分は、タンパク質(約25%)、食物繊維(約7%)、炭水化物(約20%)、脂質(約3%)、ビタミンB群(特にビタミンB1、B2、B6)、葉酸などです。また、ミネラル類(カリウム、マグネシウム、カルシウムなど)も含まれています。さらに、日本酒の発酵過程で生成されるアミノ酸、ペプチド、有機酸なども豊富です(渡辺, 2012)。
酒粕の健康効果は多岐にわたります。峰時(2014)の研究では、酒粕に含まれる成分が脂質代謝改善効果を持つことが示されています。また、生理機能からみた健康面と調理効果、呈味性を含む栄養面においても優れた機能特性を持つことが報告されています。
最近の研究では、酒粕が2型糖尿病モデルマウスの耐糖能異常発症を抑制することも明らかになっています。川内ら(2023)の研究では、KK-Ayマウスを用いた実験で、酒粕摂取によって耐糖能が改善されることが示されました。
また、肌の健康への効果も注目されています。本野(2023)の研究では、酒粕の機能性に関する研究が行われ、脂肪蓄積抑制効果が確認されています。この研究では酒粕難消化成分の抽出物が健康効果をもたらすことが示唆されています。
特筆すべき成分として、酒粕には「α-エチルグルコシド(α-EG)」が含まれています。α-EGは日本酒特有の成分であり、酒粕にも豊富に含まれています。伊豆らの研究(2008)によると、α-EGには肝保護作用があることが明らかになっています。マウスの慢性アルコール性肝障害モデルを用いた実験では、α-EGがアルコール摂取で誘導される血漿GPT活性および血漿・肝臓TG値の上昇を抑制することが示されました。
また、大渡ら(2023)の研究では、α-EGの美肌効果に注目し、α-EG高含有パウダーの開発とその活用について報告されています。この研究では、α-EGを含む日本酒や酒粕の経口摂取により、肌のコラーゲンの産生が促進することが報告されています。
さらに、伊豆ら(2015)は、日本酒および醸造副産物の機能性に関する研究を行っています。消費者の健康意識の高まりとともに、日本酒の機能性や健康効果について多くの報告がなされており、酒粕についても皮膚の保湿および角質除去効果が確認され、入浴剤としての効果も示されています。
このように、酒粕とα-EGには多様な健康効果があり、特に肝機能保護、皮膚の健康維持、脂質代謝改善などの面で科学的な裏付けが得られています。近年の研究により、これらの効果が次々と解明されており、日本の伝統的な発酵食品である酒粕の価値が再認識されています。
参考)
渡辺敏郎 「健康と美容に貢献する「酒粕」の成分」日本醸造協会誌107巻5号2012年
峰時俊貴「酒粕の機能特性とそれを活かした商品開発」日本醸造協会誌109巻1号2014年
川内ら「酒粕は2型糖尿病モデルマウスKK-Ayの耐糖能異常発症を抑制する」日本栄養・食糧学会誌76巻4号2023年
本野由季「酒粕の機能性に関する研究」ヒューマンサイエンスNo.26 2023年
伊豆ら「マウスの慢性アルコール性肝障害モデルにおける清酒濃縮物, α-エチルグルコシド投与の影響」日本醸造協会誌103巻8号2008年
大渡ら「日本酒に含まれる美肌成分「α-EG」高含有パウダーの開発とその活用」島根県産業技術センター研究報告 第59号 2023年
伊豆ら「清酒及び醸造副産物の機能性」日本醸造協会誌110巻4号2015年
乳酸菌は、糖を代謝して主に乳酸を産生する細菌群の総称です。主な乳酸菌属としては、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)などが挙げられます。
森地(2008)の研究によれば、食品における乳酸菌の利用は多岐にわたり、乳酸発酵食品がヒトの健康に様々な効果をもたらすことが示されています。また、食品の種類によって乳酸菌の発酵生産物に対する評価が大きく異なることも指摘されています。
立垣(2019)は、乳酸菌の健康機能について詳細に解説しています。近年の遺伝子分析技術の進化により、乳酸菌や腸内細菌の種類や働きがより詳細に解明されています。例えば、Lactobacillus delbrueckii LAB4(LAB4乳酸菌)は血糖値の上昇抑制効果があり、R30乳酸菌は他の健康効果を持つことが報告されています。
乳酸菌の健康効果については、山本(2019)も乳酸菌発酵と食品の関係について述べています。発酵乳の製造に使用する乳酸菌の種類や乳の種類によって特性が異なり、様々な保健効果があることが動物試験での成績から明らかになっています。
辨野(2011)の研究では、プロバイオティクスとして用いられる乳酸菌の分類と効能について詳細に解説されています。ヒトの健康維持・増進や家畜・家禽の生産性向上に用いられる乳酸菌の効果が報告されており、特に腫瘍を持つ患者への乳酸菌製剤投与による再発防止効果も認められています。
牧野ら(2015)は、乳酸菌が産生する多糖体の免疫調節作用に注目し、機能性ヨーグルトの開発に関する研究を行っています。多糖体の種類は構成糖や分子量、電荷チャージおよび枝分かれ構造の有無などによって異なり、それぞれが異なる免疫調節機能を持つことが明らかになっています。
さらに、神山ら(2023)は、くず餅由来の乳酸菌20種類の免疫調節作用を解析した結果、乳酸菌株の違いによって免疫賦活作用が異なることを明らかにしています。発酵食品を介して摂取した乳酸菌が生体に与える様々な健康効果があることが示されています。
松岡(2017)は、漬物の健康有益性について研究し、漬物に含まれる乳酸菌の効果を明らかにしています。この研究では、乳酸菌の生菌だけでなく死菌の菌体成分も免疫機能に影響を与えることが報告されています。
冠木(2016)は、健康機能を有する乳酸菌の可能性について研究し、特にLG205株の脂肪蓄積抑制効果やLH2171株の免疫賦活活性など、乳酸菌の健康機能発現に関する知見を報告しています。
これらの研究から、乳酸菌は種類によって異なる健康効果を持ち、腸内環境の改善、免疫調節作用、抗炎症作用、脂肪蓄積抑制効果など様々な生体調節機能を有することが科学的に証明されています。
参考:
森地 敏樹「食品における乳酸菌の利用とその働き」日本調理科学会誌41巻1号2008年
立垣 愛郎「乳酸菌の保健機能」全人的医療17巻1号2018年
山本 直之「乳酸菌発酵と食品」化学と教育67巻12号2019年
辨野 義己「プロバイオティクスとして用いられる乳酸菌の分類と効能」モダンメディア57巻10号2011年
牧野ら「免疫調節多糖体を産生する乳酸菌を活用した機能性ヨーグルトの開発」化学と生物53巻10号2015年
神山ら「くず餅由来乳酸菌の免疫調節機能によるスクリーニングと免疫賦活作用」診療と新薬60巻2023年
松岡 寛樹「漬物の健康有益性」/日本海水学会誌71巻4号2017年
冠木 敏秀「健康機能を有する乳酸菌の可能性」65巻3号2016年
酒粕と乳酸菌には、いくつかの重要な共通点と相互作用があります。鈴木ら(2023)の「新潟大学発 日本酒学(Sakeology)」に関する研究では、乳酸菌バクテリオシンや乳酸菌発酵酒粕「さかすけ」が紹介されています。この研究では、日本酒を共通の軸として、文理の学生が学ぶ「日本酒学固有科目」が設定されており、酒粕と乳酸菌の関係性についても触れられています。
川崎(1953)の研究では、清酒酵母や酒粕中に豊富に存在するエルゴステリンの効果について言及されています。複数の微生物による共通の作用機序が示唆されており、これは酒粕と乳酸菌の相互作用を理解する上で重要な知見です。
これらの研究を総合すると、酒粕と乳酸菌は以下のような共通点と相互作用を持っていることが分かります:
今後も酒粕と乳酸菌の相互作用に関する研究が進むことで、より効果的な機能性食品の開発や健康増進効果の解明が期待されています。
参考)
鈴木ら「新潟大学発「日本酒学(Sakeology)」」日本醸造協会誌118巻2号2023年
川崎 恒「清酒釀造とビタミン」日本釀造協會雜誌48巻3号1953年
私たちの肌は、外部環境からの刺激や有害物質から体を守るバリア機能を持っています。このバリア機能は、肌の最外層である角質層の健全性に大きく依存しています。近年の研究では、肌の状態と腸内環境が密接に関連していることが明らかになってきました。
大矢らの研究によれば、「便秘になると肌が荒れる」という昔からの言い伝えには科学的な根拠があり、特に女性において便秘による身体への影響として「にきびや肌荒れ」を挙げる割合が男性の約2倍であることが報告されています。
腸内環境と肌の状態を結ぶ科学的メカニズムとして、以下のような経路が考えられています:
1. 腸内細菌叢の影響: 大腸に存在する腸内細菌叢が作り出すフェノール類が血中へ移行し、角層細胞の小型化を誘発することが報告されています。
2. バリア機能の連動性: 宮本らの研究では、腸管バリア機能の障害と皮膚のバリア機能低下に関連性があることが明らかにされています。腸内環境の変化(Dysbiosis)が腸管バリア機能の障害を引き起こし、それが皮膚バリア機能にも影響を及ぼすという連動性が存在します。
3. セロトニンを介したメカニズム: 体内のセロトニンの約90%が腸に存在しており、腸内環境の改善によってセロトニン産生が正常化することで、自律神経に作用し肌の保湿機能が向上するという経路も報告されています。
実際に、大矢らの研究ではパイナップル長期摂取による腸内環境の改善が肌質の向上に結びついたことも報告されています。この研究では、パイナップルを8週間摂取することで肌の乾燥やシミの改善が認められただけでなく、腸内環境の改善も同時に確認されました。
腸内環境を整える食品成分として注目されているのが、発酵食品に含まれる乳酸菌や食物繊維です。特に、乳酸菌の摂取によって血中のフェノール量が減少することも報告されており、便通による体外への不要物の排出機能が肌状態の改善に重要であることが示唆されています。
参考)
大矢ら「パイナップル長期摂取によるヒトの肌質および腸内環境の改善効果に関するランダム化単盲検並行群間比較試験」日本食品科学工学会誌70巻2号2023年
齊藤ら「玄米由来の乳酸菌加熱殺菌体の健康機能 整腸作用と肌の保湿作用」化学と生物58巻10号 2020年
宮本ら「腸内細菌脂質代謝産物に見いだされた腸管バリア保護機能 腸内環境から健康増進」化学と生物55巻4号2017年
酒粕は、日本酒の製造過程で生まれる副産物であり、古くから美肌効果があるとして知られてきました。近年の研究では、酒粕に含まれる様々な成分が肌に良い影響を与えることが科学的にも証明されつつあります。
酒粕の美容効果の主要な成分として注目されているのが、以下の物質です:
1. グルコシルセラミド(GlcCer): 榎本らの研究によれば、米麹を使用した甘酒に含まれるグルコシルセラミドには、肌の水分保持機能を高める効果があります。この研究では、米麹の甘酒を8週間摂取することによって、プラセボ群と比較して頬の水分含有量が維持されることが確認されました。麹甘酒に含まれるGlcCerの量は約1.35mg/118gであり、これは皮膚の水分量とTEWL(経表皮水分蒸散量)を改善するのに十分な量であることが示されています。
2. エチル-α-D-グルコシド(α-EG): 清酒や酒粕に含まれるこの成分は、UVBによる表皮のバリア機能障害を改善する効果があります。さらに、培養ヒト真皮線維芽細胞におけるコラーゲンIや線維芽細胞成長因子Iおよび VII の発現を上昇させる効果も報告されています。
3. フェルラ酸: 酒粕に含まれるフェルラ酸には、高脂血症の改善、網膜変性に対する保護効果、アルツハイマー病の原因となるβアミロイドペプチドの毒性に対する保護作用があることが示されています。
4. エルゴチオネイン: 強い抗酸化作用を持つエルゴチオネインも麹に含まれており、皮膚細胞や組織に吸収されて蓄積されることで、皮膚の抗酸化活性に貢献すると考えられています。
5. レジスタントプロテイン(難消化性タンパク質): 酒粕に含まれる難消化性タンパク質は、腸内で脂質の吸収を抑制し、腸内細菌叢を改善する効果があることが報告されています。
酒粕の美容効果は、その多様な成分が肌の水分保持機能を高め、バリア機能を改善することに由来します。また、酒粕に含まれる成分が腸内環境を整えることも、間接的に肌の健康に寄与していると考えられます。
山下らの研究では、清酒製造過程において、米麹から清酒や酒粕へのスフィンゴ脂質の変化が解析され、セラミドの増加やスフィンゴイドベースの遊離が確認されています。これらのセラミド類は皮膚バリア機能の改善に寄与すると考えられています。
参考:
T. Enomoto et al., Koji amazake Maintains Water Content in the Left Cheek Skin of Healthy Adults: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Parallel-Group, Comparative Trial.
Clinical, Cosmetic and Investigational Dermatology Volume 15, 2022
H. Kitagaki. Medical Application of Substances Derived from Non-Pathogenic Fungi Aspergillus oryzae and A. luchuensis-Containing Koji. J. Fungi 2021, 7(4)
S. Yamashita, et al., Sake (Rice Wine) Brewing Hydrolyzes Highly Polar Sphingolipids to Ceramides and Increases Free Sphingoid Bases. Journal of Oleo Science 2021, 70 (8)
乳酸菌は発酵食品に広く存在し、腸内環境の改善を通じて間接的に肌の状態に良い影響を与えることが知られていますが、最近の研究では乳酸菌自体が直接肌に働きかける効果も明らかになってきました。
特に注目されるのは、植物由来の乳酸菌です。齊藤らの研究によれば、玄米から分離した乳酸菌「Lactobacillus plantarum 327」の加熱殺菌体には、肌の水分蒸散を抑制する保湿効果があることが確認されています。この研究では、肌が乾燥気味の若年女性を対象に、L. plantarum 327の加熱殺菌体を6週間摂取させたところ、プラセボ群と比較して経表皮水分蒸散量(TEWL)が低く、特にTEWLが高い被験者において顕著な改善効果が認められました。
乳酸菌が肌に与える好影響のメカニズムとしては、以下の経路が考えられています:
1. 腸内環境の改善を通じた間接効果:
– 乳酸菌の摂取により腸内の有益菌(ビフィズス菌やラクトバチルス属)が増加
– 腸内細菌叢の改善による腸管バリア機能の向上
– 有害物質の吸収抑制により、血中に移行するフェノール類などの肌荒れ物質の減少
2. セロトニンを介した作用:
– 乳酸菌の摂取により大腸粘膜内のセロトニン産生が増加
– セロトニンを介した自律神経への作用による肌の保湿機能の向上
3. 免疫調節作用:
– 乳酸菌による免疫系の調節作用
– 抗炎症効果によるアレルギーや肌荒れの抑制
安達らの研究では、味噌由来の乳酸菌が腸管や皮膚のバリア機能に関わるIL-22産生を誘導するなど、免疫系における新規の機能が見出されています。IL-22は腸管や皮膚のバリア機能の維持に重要な役割を果たすサイトカインであり、乳酸菌によるその産生促進は両組織のバリア機能向上に寄与すると考えられます。
森藤らは、特定の乳酸菌株(SC-2乳酸菌)が紫外線照射後の皮膚のTh-1タイプの炎症反応を抑制し、さらに皮膚バリア機能において重要な役割を果たす成分の産生を保護する効果があることを報告しています。
乳酸菌の中でも、植物由来の乳酸菌はタンニン酸やアルカロイド類など植物の生育阻害物質が存在する過酷な環境で生き抜く能力を持っており、その多様な生育環境からくるさまざまな生理機能が期待されています。また、植物由来の乳酸菌は、動物性乳酸菌と比較して特有の脂肪酸代謝産物を生成し、それらが腸管バリア機能制御や抗炎症作用を示すことが報告されています。
総合すると、酒粕に含まれる様々な有効成分と乳酸菌が相乗的に作用することで、腸内環境の改善と肌のバリア機能強化がもたらされ、結果として肌の保湿力向上や肌トラブルの改善につながると考えられます。特に日本の伝統的な発酵食品である酒粕は、その特有の成分構成により、優れた美容効果を発揮する可能性が科学的に示されつつあります。
適切な腸内環境の維持と肌のバリア機能向上のためには、日本の伝統的発酵食品である酒粕や乳酸菌含有食品を日々の食生活に取り入れることが、美肌維持のための有効な戦略の一つであると言えるでしょう。
参考:
齊藤ら「玄米由来の乳酸菌加熱殺菌体の健康機能 整腸作用と肌の保湿作用」化学と生物58巻10号 2020年
安達 貴弘「味噌由来乳酸菌が有する新規の免疫制御機能」日本醸造協会誌116巻1号2021年
森藤ら「皮膚機能を高める食品素材の研究とその実用化」日本栄養・食糧学会誌75巻1号2022年
株式会社明治 明治Wのスキンケアヨーグルト(機能性表示食品)ブランドサイト
岸野ら「乳酸菌に特異な脂肪酸代謝と代謝産物の生理機能について」日本乳酸菌学会誌28 巻2号2017年
アトピー性皮膚炎は、かゆみと湿疹を特徴とする慢性炎症性皮膚疾患です。近年、食品成分による症状改善アプローチが注目されていますが、その中でも日本の伝統食品である酒粕と、発酵食品に含まれる乳酸菌の組み合わせには科学的根拠に基づく効果が認められています。この記事では、酒粕と乳酸菌がアトピー性皮膚炎ケアに効果的である理由とそのメカニズムについて詳しく解説します。
アトピー性皮膚炎は、慢性的な皮膚の炎症を特徴とする疾患です。フィンランドの国家データベースによると、0〜14歳の年齢層では約47.46%、15〜60歳では約43.74%の有病率が報告されています。中国では3ヶ月の乳児における発症率は40.81%に達するという報告もあります。疾患の主な病態生理学的メカニズムには、以下の要素が含まれます:
1. 皮膚バリア機能の障害: 皮膚の最外層である角質層のバリア機能が低下し、アレルゲンや刺激物質が容易に侵入できる状態になります。
2. 免疫系の異常反応: アトピー性皮膚炎患者では、Th2細胞優位の免疫反応が生じ、IL-4、IL-13、IL-5などのサイトカインが産生され、炎症を引き起こします。
3. 腸内細菌叢の乱れ: AD患者では腸内細菌の多様性が有意に低下していることが報告されています[Abrahamsson et al., 2014; Penders et al., 2013]。特に有益な細菌である乳酸菌(Lactobacillus属)の減少とClostridium difficileなどの有害菌の増加が認められています[Melli et al., 2020]。
4. 黄色ブドウ球菌の定着: アトピー性皮膚炎患者の約90%の皮膚に黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusが検出され、症状の悪化に関連しています[Powers et al., 2015]。
このようにアトピー性皮膚炎は、遺伝的要因、環境要因、皮膚バリア機能の障害、免疫系の異常、微生物バランスの乱れなど、複数の要素が複雑に絡み合って発症します。特に「腸-皮膚軸」と呼ばれる腸内環境と皮膚の密接な関係が重要で、健全な腸内フローラが健康な皮膚状態の維持に不可欠とされています[Mahmud et al., 2022; Varela-Trinidad et al., 2022]。
参考:
Cosmi L, et al. (2011) Th17 cells: new players in asthma pathogenesis. AllergyVolume 66, Issue 8Aug 2011
Renert-Yuval Y, Guttman-Yassky E. (2020) New treatments for atopic dermatitis targeting beyond IL-4/IL-13 cytokines. Ann Allergy Asthma Immunol. 2020 Jan;124(1)
PY Ong. (2014) New insights into the pathogenesis of atopic dermatitis. Pediatr Res. 2014 Jan;75(1-2)
Abrahamsson TR, et al. (2014) Low gut microbiota diversity in early infancy precedes asthma at school age. Clin Exp Allergy. 2014 Jun;44(6)
Penders J, et al. (2013) Establishment of the intestinal microbiota and its role for atopic dermatitis in early childhood. J Allergy Clin Immunol. 2013 Sep;132(3)
Melli LCFL, et al. (2020) Gut microbiota of children with atopic dermatitis: Controlled study in the metropolitan region of São Paulo, Brazil. Allergol Immunopathol (Madr). 2020 Mar-Apr;48(2)
Powers CE, et al. (2015) Microbiome and pediatric atopic dermatitis. J Dermatol. 2015 Dec;42(12)
Mahmud MR, et al. (2022) Impact of gut microbiome on skin health: gut-skin axis observed through the lenses of therapeutics and skin diseases. Gut Microbes. 2022 Jan-Dec;14(1)
Varela-Trinidad J, et al. (2022) Probiotics: Protecting Our Health from the Gut. Microorganisms 2022, 10(7)
酒粕は日本酒製造過程で生じる副産物ですが、栄養豊富な食材として古くから日本食で活用されてきました。近年の研究によって、酒粕には様々な機能性成分が含まれ、それらがアトピー性皮膚炎のケアに有効であることが明らかになってきています。
1. 酒粕に含まれる機能性成分
酒粕には多くの栄養素や機能性成分が含まれています。特に注目すべきは以下の成分です:
2. 抗炎症作用のメカニズム
酒粕には抗炎症作用があり、これがアトピー性皮膚炎のかゆみや赤みを和らげる可能性があります。例えば、接触性皮膚炎を誘発させたモデル動物(アトピー性皮膚炎のモデル)を用いた実験にて、市販のステロイド剤(0.05% 酪酸クロベタゾン)と酒粕とを比較したところ、酒粕の方がアトピー性皮膚炎症に対する改善効果が高いことを見出した研究があります。また腸内環境の改善効果が挙げられます。酒粕に含まれる食物繊維は腸内の善玉菌を増やし、腸内環境を整える助けになります。腸内環境が改善されると免疫機能が高まり、アトピー性皮膚炎の症状が軽減することが期待できます。これに関する研究は多く、広島大学の研究では酒粕には植物性乳酸菌を増殖させる効果がある事も報告されており、酒粕と植物性乳酸菌を用いたシンバイオティクス食品の摂取が有望視されています。また酒粕の成分は次のような機序でアトピー性皮膚炎に効果を発揮すると考えられています:
研究では、酒粕の抽出物がIgE生成を抑制し、アレルギー反応を緩和することが示されており、これはアトピー性皮膚炎の症状改善に直結します。
参考:
広島大学2015年12月14日資料「酒粕及び植物乳酸菌のヘルスケア機能に関する研究成果」
乳酸菌、特にLactobacillus属は、腸内環境の改善を通じてアトピー性皮膚炎の症状緩和に大きく貢献します。その作用メカニズムは多岐にわたります。
1. 腸内細菌叢の改善
乳酸菌は腸内環境を整える主要なプロバイオティクスとして知られています:
2. 免疫調節作用
乳酸菌は腸管関連リンパ組織(GALT)と相互作用して宿主の免疫系に影響を与えます:
①制御性T細胞(Treg)の誘導: Lactobacillus属の菌は制御性T細胞の誘導を促進し、過剰な免疫反応を抑制します[Yamamoto et al., 2016]。
②サイトカイン産生の調節: 乳酸菌はIL-12などの産生を促進し、Th1/Th2バランスをTh1優位に傾けることで、IgE産生を抑制しアレルギー反応を緩和します[Fujiwara et al., 2004]。
③IgA産生の増加: 腸管粘膜で分泌型IgAの産生を促進し、腸管バリアを強化します。実際、L. paracasei K71株の摂取により唾液中のSIgA産生速度の上昇が報告されています[Moroi et al., 2011]。
3. 腸管バリア機能の強化
乳酸菌は腸管バリアの強化にも寄与します:
これらの作用により、腸内から血中への有害物質の漏出が減少し、全身性の炎症反応やアレルギー反応が緩和されます。
参考:
Watanabe S, et al. (2003) Differences in fecal microflora between patients with atopic dermatitis and healthy control subjects. Journal of Allergy and Clinical ImmunologyVolume 111, Issue 3, March 2003
Goldstein EJ, et al. (2015) Lactobacillus species: taxonomic complexity and controversial susceptibilities. Clinical Infectious Diseases, Volume 60, Issue suppl_2, May 2015
Galazzo G, et al. (2020) Development of the Microbiota and Associations With Birth Mode, Diet, and Atopic Disorders in a Longitudinal Analysis of Stool Samples, Collected From Infancy Through Early Childhood. Gastroenterology Volume 158, Issue 6, May 2020
Yamamoto T, et al. (2016) Anti-allergic Activity of Naringenin Chalcone from a Tomato Skin Extract. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry Volume 68, 2004 – Issue 8
Fujiwara D, et al. (2004) The Anti-Allergic Effects of Lactic Acid Bacteria Are Strain Dependent and Mediated by Effects on both Th1/Th2 Cytokine Expression and Balance. Int Arch Allergy Immunol (2004) 135 (3)
Moroi M, et al. (2011) Beneficial effect of a diet containing heat-killed Lactobacillus paracasei K71 on adult type atopic dermatitis. J Dermatol. 2011 Feb;38(2)
酒粕と乳酸菌の組合せがアトピー性皮膚炎ケアにおいて特に注目される理由は、両者の相乗効果にあります。
1. 複合的な抗炎症作用
酒粕由来の乳酸菌であるLactobacillus paracasei K71は、特に有望な研究結果を示しています:
2. 腸-皮膚軸を介した作用
酒粕と乳酸菌の組み合わせは、腸-皮膚軸を介して以下のような相乗効果を発揮します:
3. エビデンスに基づく具体的効果
酒粕由来乳酸菌の具体的な効果としては:
●皮膚炎症状の改善: 臨床スコアやかゆみの減少
●血清IgEレベルの低下: アレルギー反応の指標の改善
●皮膚バリア機能の強化: 経表皮水分蒸散量(TEWL)の減少
●免疫バランスの正常化: Th1/Th2バランスの調整
●腸内環境の改善: 有益菌の増加と有害菌の減少
複数の研究が示すように、酒粕と乳酸菌の組み合わせは、単一成分よりも広範囲かつ効果的にアトピー性皮膚炎の症状緩和に寄与します。特に、プロバイオティクスはアトピー性皮膚炎の治療より予防で効果が高いという知見から、予防的な摂取も推奨されています。
参考:
Kumagai T, et al. (2013) Lactobacillus paracasei K71 isolated from sakekasu (Sake Lees) suppresses serum IgE levels in ovalbumin-immunized Balb/c Mice. Food Sci. Technol. Res., 19 (1), 127 – 132, 2013
Moroi M, et al. (2011) Beneficial effect of a diet containing heat-killed Lactobacillus paracasei K71 on adult type atopic dermatitis. J Dermatol. 2011 Feb;38(2)
志波 優ら (2018) 肥満モデルマウスにおける Lactobacillus paracasei K71 加熱死菌体摂取による腸内細菌叢および脂質代謝への影響. 日本乳酸菌学会誌8(1)-29(3):2017-2018
S. Katayama, et al., Lacticaseibacillus paracasei K71 Alleviates UVB-Induced Skin Barrier Dysfunction by Attenuating Inflammation via Increased IL-10 Production in Mice. Molecular Nutrition Food Research. Volume67, Issue16. 2023
酒粕と乳酸菌は、どちらも健康や美容に多くの利点をもたらす成分として注目されています。以下では、これらを食品及び化粧品として取り入れる際のポイントを詳しく解説します。
酒粕は、米を原料とした発酵食品であり、ビタミンB群やアミノ酸、食物繊維が豊富です。藤井(2022年)の報告では、酒粕の摂取による皮膚(保湿や角質去美白,皮膚炎改善など)への効果が言及されています。酒粕を食品として有効に取り入れるためには、いくつかの工夫が必要です。まずは、酒粕を使ったレシピを考えることがポイントです。たとえば、酒粕を利用した甘酒や、味噌汁に加えることで、風味だけでなく栄養素を摂取できます。さらに、酒粕を漬け物や和え物に使用することで、普段の食事に簡単に取り入れることができます。これらの料理は、乳酸菌を多く含む発酵食品と組み合わせることで相乗効果を得ることが可能です。
また、乳酸菌が含まれる食品(ヨーグルトや発酵乳など)を合わせて摂取することで、腸内環境が整い、免疫力が向上することが研究から示されています。たとえば、ある研究では、乳酸菌の摂取が腸内フローラの改善に寄与し、全体的な健康状態に好影響を与えることが確認されています。これらの知識を基に、日常的な食生活に酒粕と乳酸菌を取り入れると良いでしょう。
参考:
藤井力「発酵食品「酒粕」の潜在力」日本醸造協会誌117巻2号2022年
月桂冠総合研究所「酒「粕」も百薬の長 酒粕×乳酸菌で4つの効果」
次に、化粧品として酒粕や乳酸菌を使用する際の注意点について考えます。酒粕には保湿効果や美白効果が期待される成分が含まれていますが、化粧品に使用する場合は、アレルギー反応や肌トラブルの可能性を考慮する必要があります。特に酒粕は酒類由来であるため、アルコールに敏感な方は注意が必要です。
また、乳酸菌も化粧品の成分として際立った効果が期待されますが、使用する製品によってその効果は異なるため、選択には慎重な判断が求められます。自らの肌タイプや状態をよく理解し、それに合致した製品を選ぶことが肝心です。たとえば、乾燥肌の人は保湿成分が豊富な製品を選び、敏感肌の人は無添加や低刺激のものを選ぶことを推奨します。
最近では、酒粕と乳酸菌を配合した化粧品が多く登場しています。これらの製品は、自然素材を重視する消費者に支持されており、特に日本の伝統的な素材を使用することで、和のテイストを大切にするブランドも増えています。例えば、米ぬかや酒粕をベースにしたクリームやフェイスマスクなどがあり、これらは肌の水分を保持し、弾力を改善する効果が期待されています。
このようなトレンドは、消費者の健康志向の高まりを反映したもので、化粧品市場においても成分の透明性や効能の科学的根拠が重視されるようになってきています。実際、酒粕や乳酸菌を含む製品は、保湿や抗炎症効果があるとされる成分を豊富に含んでおり、美容業界でも注目され、最近でも新素材として酒粕と乳酸菌を用いた様々な化粧品原料が開発されています。
参考:
ウーマンエキサイトビューティ情報『乳酸菌発酵酒粕エキス使用のスキンケアシリーズ第1弾が登場』(2021年2月25日)
最後に、化粧品を選ぶ際には成分表示を確認することが重要です。特に酒粕や乳酸菌が主要な成分として表示されている場合、それらの濃度や配合されているかどうかを確認するべきです。また、同時に他の成分との相性も大切です。例えば、敏感肌の方が酒粕が含まれた化粧品を使用する場合は、アルコールや香料などの刺激成分が含まれていないものを選ぶべきです。
肌に合った製品を見つけるには、試すことも効果的です。パッチテストを行い、肌に異常が出ないか確認することも忘れてはいけません。これにより、自分に最適なスキンケア方法を見つける手助けとなります。
以上のように、酒粕と乳酸菌は食品と化粧品の両面で非常に魅力的な成分であり、取り入れることで健康や美容を促進することができるでしょう。日々の生活に工夫を加えて、これらの成分を活用したライフスタイルを楽しんでいただきたいです。