研究開発コラム
環境(SDGs、アップサイクル)

バイオマスのメリットと課題!木質・穀物・藻類の活用がもたらす未来とは?

「バイオマスの活用にはどんなメリットがあるの?」「未利用バイオマスって具体的に何があるの?」「木質や穀物、藻類などの資源はどう活かせるの?」 そう思う方もいるかもしれません。 バイオマスは再生可能なエネルギー資源として注目されており、CO₂排出の削減や資源の有効活用につながるメリットがあります。しかし、実際の活用にはコストや技術的な課題も存在します。 この記事では、バイオマスのメリットとともに、木質・穀物・藻類などの未利用バイオマスの活用可能性や課題について詳しく解説します。

バイオマスとは何か?

バイオマスとは、動植物などの生物由来の有機性資源のうち持続可能な再生産できるものを指し、これをエネルギー資源として利用したり、様々な形で役立てることができるものです。ただし化石燃料など燃料となるまでに気の遠くなるような年月を必要とするものは除外しています。「バイオ」は生物を、「マス」は量を表し、従って「生物資源の量」という意味合いになります。バイオマスエネルギーは、再生可能なエネルギー源の一つと位置づけられ、化石燃料とは異なり、使用しても新たな生物資源が再生されるため、持続可能な資源として注目されています。

バイオマスの基本的な概念

バイオマスは、一般的に「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」と定義されます。その具体例には、木材、農作物の残渣、家畜の排泄物、食品廃棄物や食品加工の際に用いられずに残された副産物(バイプロダクト)などが含まれます。バイオマスをエネルギー資源として扱う場合、主に以下の3つの方法でエネルギーに変換されます。

直接燃焼:木材や植物残渣を燃焼させて熱を得る方法です。

ガス化:バイオマスを高温で処理し、合成ガスを生成する技術です。この合成ガスは発電や燃料として利用されます。

発酵:生物由来の物質を微生物の働きによって分解し、エタノールやメタンガスを生産する方法です。

これらの技術はそれぞれ特有の利点を持ち、異なる形でバイオマスをエネルギーとして有効に活用することができます。

参考:
九州農政局ホームページ「バイオマスとは?」

バイオマスの持続可能性

バイオマス資源は概念上、持続可能な形で利用されるものです。そのためには、以下のようなポイントが挙げられます:

資源の再生:バイオマスは農業や森林経営において循環的な利用を実現できるため、資源の枯渇を防ぐことができます。

カーボンニュートラル:バイオマスのうち木材や植物資源を燃焼することで放出されるCO2は、植物の成長過程でそれらに吸収されたものとほぼ同等であるため、地球温暖化への影響が少ないとされています。

廃棄物の削減:食品廃棄物や農業の残渣などをバイオマスとして再利用することで、廃棄物の量を減らすことができます。

地方経済の活性化:バイオマス資源の利用は、地域での生産と消費を促進し、地域経済に貢献します。地域の農業や林業と連携することで、地元の雇用を生み出し、地域の活性化を助けることができます。

これらの特性から、バイオマスは持続可能な資源としての重要性が高まっています。

参考:
国立研究開発法人 国立環境研究所 環境展望台ホームページ環境技術解説「バイオマス発電」

バイオマスの具体的な事例

1. バイオマス発電

バイオマス発電は、バイオマスを利用したエネルギー生成の一形態です。木質バイオマスを燃料として使用し、発電所で電気を生成します。日本各地で様々な自治体がバイオマス発電を導入しており、その一例が会津若松市の取り組みです。この市は「バイオマス活用推進計画」を策定し、2023年を目標に生ごみや廃食用油、間伐材などの利用率を高める取り組みを行っています。

2. コーヒーかすの利用

コーヒーの生産過程で生じる廃棄物(コーヒーかす)は、バイオマスとして利用可能です。コーヒーかすを原料にしたバイオマス燃料が開発され、発電だけでなく、汚泥と組み合わせた嫌気性発酵によるメタンガス化技術を利用したエネルギー供給にも貢献しています。これにより、廃棄物を有効活用することができ、環境保護とエネルギーの両立を実現しています。また最近ではコーヒーかすを用いた自宅でできるキノコ栽培なども人気を集めている。

3. 家畜ふん尿のエネルギー化

家畜から生じるふん尿も重要なバイオマス資源です。これを発酵させてメタンガスを生成することで、再生可能なエネルギーが得られます。これにより、環境負荷を軽減しつつ、新たなエネルギー資源としての活用が期待されています。

参考:
自治体通信ONLINE 2020年7月15日「バイオマス発電事業の実施事例【自治体事例の教科書】」
アサヒグループホールディング2017年9月記事「コーヒー粕や茶粕をバイオマス発電用燃料に再利用~化石燃料使用量を大幅に削減~」
FOOVO 2024年9月14日記事「捨てるはずのコーヒーかすでキノコ栽培|ヘルシンキノコが提案する気軽なサステナブルへの第一歩」
浅井真康「家畜排せつ物のメタン発酵によるバイオガスエネルギー利用」(2020年9月28日 畜産環境シンポジウム)

科学文献に見るバイオマスの将来性

最近の研究では、バイオマスの持続可能性や環境への影響に関する多くの論文が発表されています。特に、再生可能エネルギーとしての可能性に焦点を当てた研究が増えており、バイオマスの利用が環境政策においても重要な位置を占めるとされています。

これらの研究によって、新たな技術の開発や利用方法の確立が進むことで、バイオマスの活用範囲はますます広がっていくでしょう。最終的には、バイオマスエネルギーは化石燃料に代わる重要なエネルギー源として役割を果たすことが期待されています。持続可能な社会を築くために、バイオマスの利活用は非常に重要なテーマとなるでしょう。

参考:
泊みゆきら「輸入バイオマスの持続可能性に関する現状と課題」(木材利用システム研究 vol.10 No.9 2024)

バイオマスのメリットとは?環境・経済・社会への影響

バイオマスは、植物や動物由来の有機物質を利用した再生可能資源です。近年、環境問題やエネルギー問題が深刻化する中で、バイオマスの重要性が再認識されています。本稿では、バイオマスのメリットとして、環境への影響、経済面での利点、社会的な影響について具体的な事例や科学文献を引用しながら詳述します。

環境への影響

二酸化炭素の排出削減

バイオマス燃料は、カーボンニュートラルな特性を持ち、大気中の二酸化炭素を増加させずにエネルギーを生産できる点が大きなメリットです。植物は成長過程で二酸化炭素を吸収し、燃焼時に排出される二酸化炭素は、再び植物によって吸収されるため、全体として環境への負荷が少なく済みます。また、原料として使用される農業や林業の副産物を有効活用することで、廃棄物の削減にも寄与します。

廃棄物の有効活用

さらに、バイオマスは、いわゆる「廃棄物」の有効活用にもつながります。農業から発生する未利用バイオマスのほか、食品廃棄物や木材の端材などもバイオマス燃料として利用できるため、廃棄物の発生を抑える役割を果たします。例えば、ある地方では、食用油の廃棄物をバイオディーゼルとして精製する技術が確立され、廃棄物削減と再生可能エネルギーの生産が同時に実現されています。

参考:
油藤商事株式会社「バイオディーゼル燃料とは」

経済面での利点

新たな産業の創出

バイオマスの活用は、経済活動の活性化にも寄与します。具体的には、木質バイオマスを用いた発電やバイオ燃料の生産が進展することで、新たな産業が生まれています。これにより、地域経済の発展や新規雇用の創出が期待されています。一例として、滋賀県ではバイオマス発電所の建設が進み、地域の森林資源を活用したエネルギー供給が行われています。このプロジェクトは、地域内の雇用創出や経済循環への寄与が評価されています。

エネルギーの安定供給

加えて、バイオマスは国内資源での活用が推進されており、エネルギーの安定供給やエネルギー自給率の向上に貢献します。特に、日本のエネルギー政策において、再生可能エネルギーの一翼を担う存在として位置づけられています。バイオマスによるエネルギー供給は、地域の特性や資源に応じた柔軟なエネルギー戦略を実現する手段ともなります。

参考:
(一社)日本森林技術協会(株)森のエネルギー研究所「令和3年3月滋賀県日野町「地域内エコシステム」モデル構築事業報告書」

未利用バイオマスの可能性

未利用バイオマスは、持続可能なエネルギー資源として注目されており、木質、穀物、藻類など多岐にわたる利用方法が模索されています。それぞれのバイオマス資源は特定の性質を活かした活用法があり、多様な分野でのアプローチが進められています。以下では、これらのバイオマスの具体的な活用事例と関連する科学文献を紹介します。

木質バイオマスの活用

木質バイオマスは、主に森林の間伐材や廃材を利用したエネルギー生産に寄与しています。特に、木質燃料の利用は、発電や熱供給における重要な資源です。例えば、日本では「木質バイオマス発電」が盛んに行われており、再生可能エネルギーの一環として注目されています。木質バイオマスは、化石燃料に比べてCO2排出量が少なく、カーボンニュートラルに貢献することが期待されています。さらに、木質バイオマスを利用したトリジェネレーションシステムの研究が進んでいます。これは、発電、熱供給、冷却を同時に行う技術であり、エネルギー効率の向上に寄与します。このシステムを通じて、地域経済の活性化も狙っています。

参考:
(一社)日本木質バイオマスエネルギー協会「2019年6月木質バイオマス利用の意義を国民に普及する事業成果報告書」
経済産業省資源エネルギー庁「令和2年7月20日 持続可能な木質バイオマス発電について」
宮本真希ら「木質バイオマスを活用したトリジェネレーションシステムの事業性と地域経済への波及効果―ワーケーションを通じた地域活性化に着目してー」(土木学会論文集G(環境) vol.78 No.6 2022)

穀物バイオマスの活用

穀物由来のバイオマスは、特にバイオエタノールの生産で注目されています。トウモロコシや小麦などの穀物がエタノールの原料として利用され、燃料としての利用が進められています。アメリカでは、トウモロコシからのエタノール生産が盛んで、これによりエネルギーの多様化と温室効果ガスの削減が図られています。

また、穀物の副産物としてのバイオマス利用も進展しています。例えば、穀物の製粉過程で生じる殻やおが屑は、バイオマス発電の燃料として活用されるほか、有機肥料としても利用されます。このような循環型利用は、資源の無駄を減らし、持続可能性を高める重要な方法です。

参考:
国際環境経済研究所2022年5月27日記事 小林 茂樹「バイオ燃料の現状分析と将来展望」
アメリカ穀物協会(日本語)「バイオエタノールとは?」

藻類バイオマスの活用

藻類は、バイオ燃料の原料として非常に興味深い存在です。藻類は成長が早く、高い油脂含有量を持つため、バイオディーゼルやその他の燃料製品の生産に適しています。また、藻類による二酸化炭素固定の能力も注目されており、環境負荷の低減にも寄与しています。藻類を用いたバイオ燃料の商業生産が実現すれば、持続可能なエネルギーの重要な供給源になることが期待されます。最近の研究では、藻類からのバイオ燃料生産に特化した技術開発が進行しており、油脂を効率的に抽出する方法が模索されています。これにより、より経済的かつ環境に優しい燃料生産が可能となるでしょう。

参考:
生物系特定産業技術研究支援センター2020年11月2日号「《こぼれ話16》藻類からバイオ燃料や化粧品成分生産」
NEDOプレスリリース2023年4月12日記事「世界初、燃料物質である“油”を細胞外に生産する微細藻類の作製に成功―工業利用時の製造や運用に係るコストなどの軽減に期待―」
東京農工大学 炭素循環型社会実現のためのカーボンネガティブの限界に挑戦する炭素耕作拠点 「微細藻類の屋外大量培養技術」

バイオマス利用の課題

バイオマス利用は、再生可能エネルギー資源としての強い可能性を秘めていますが、それに伴う課題も数多く存在します。これらの課題は、コスト、技術、政策の3つの観点から検討することができます。以下では、それぞれの観点から記述します。

コスト面の課題(生産と輸送コスト)

バイオマスエネルギーの生産には、材料の調達、前処理、輸送にかかるコストが大きな課題です。特に木質バイオマスの場合、伐採や運搬といった初期コストが経済的な障壁となっています。文献によれば、国内の森林からバイオマス燃料を収集する際のコストは、1トンあたり約2万~3万円に達することがあるとされています。これは、その地域の物流インフラや森林の位置によって大きく変動します。さらに、バイオマス燃料の価格の変動性も問題です。農作物の収穫時期や市場の需給バランスに影響されるため、安定した供給が難しいのが現状です。これにより、バイオマス燃料が化石燃料に比べて競争力を持ちにくくなっています。例えば、バイオマス発電のコストは、現時点で1kWhあたり約20円から30円程度であり、これは太陽光発電のコストの約2倍に相当しています。

技術的な課題(燃焼技術と精製技術)

バイオマスの活用において、効率的な燃焼技術や精製技術の向上が求められています。特に、固体燃料として利用される木質バイオマスの場合、燃焼効率を高めるための技術開発が進められています。近年、バイオマスボイラーや、燃焼時の排ガス削減技術の導入が進んでいますが、商業規模での普及にはまだ課題があります。また、藻類を利用したバイオ燃料の生産では、藻類の培養条件や収穫方法に関する技術革新が必要です。藻類は光合成によって急速に成長しますが、その収穫や油分の抽出方法が効率的でないため、コストが高くなってしまいます。特に、商業ベースでの生産には相当な研究開発が必要とされています。例えば、特定の藻類種においては、油含量が20%から30%程度にとどまることが多く、これを商業的に採取するための技術が求められています。

政策の面での課題(補助金と制度の充実不足)

バイオマスの普及には、政策的な後押しが不可欠です。再生可能エネルギーの導入を促進するためには、バイオマス利用に対する補助金やインセンティブの充実が求められています。実際、いくつかの国では、バイオマス発電に対するFIT(固定価格買取制度)が導入されており、これがバイオマスの利用を加速させています。例えば、ドイツでは再生可能エネルギー法に基づいて、バイオマス発電に対して高い買取価格が設定され、利用が進んでいます。また、バイオマス資源の持続可能な利用を促進するための政策や目標の設定も重要です。国際的には、持続可能な開発目標(SDGs)が注目を集めており、その中で生産の持続可能性を確保するための様々な指針が示されています。バイオマスの持続可能性を確保するためには、これらの政策と技術の連携が求められます。

バイオマスの未来展望と持続可能なエネルギーとしての可能性

バイオマスエネルギーは再生可能エネルギーの一つとして注目されており、近年、その持続可能性と市場価値が高まっています。多くの国でバイオマスの利用が進められており、特に輸送燃料や発電における応用が期待されています。2035年には、バイオ燃料が輸送用燃料の8%、2050年には27%を占めると予測されています。

バイオマスの種類と特性、技術革新とコスト削減

バイオマスには木質バイオマス、廃棄物、エネルギー作物などがあり、それぞれが特有の利点を持っています。木質バイオマスは、林業や農業から得られる副産物(間伐材や木屑)を利用できるため、地域経済の活性化にも寄与しています。このような資源を利用したバイオマス発電の事例として、福島県会津若松市の木質バイオマス発電があります。このプロジェクトでは、地域の間伐材を燃料として利用し、電力を供給しています。バイオマスエネルギーをさらに普及させるためには、技術革新が重要な要素となります。例えば、バイオ燃料の製造プロセスにおいて、独自の酵素技術を用いることで生産コストを低減し、経済性を向上させる取り組みが進められています。具体的には、バイオ燃料の製造コストが約300円から700円の範囲であるとされ、さらなる技術開発が求められています。

参考:
澤一誠「バイオマスエネルギー産業の将来展望―Asia―Pacific Biomass Community 構想―」(紙パ技協誌 vol.66 No.11 2012)
自治体通信ONLINE 2020年7月15日「バイオマス発電事業の実施事例【自治体事例の教科書】」
経済産業省「我が国のバイオ燃料の導入に向けた技術検討委員会(第6回2022年9月2日)資料3 バイオ燃料を取り巻くエネルギー情勢について」

環境への影響と学術研究の重要性

バイオマスエネルギーの利用は、化石燃料に比べて温室効果ガス(GHG)排出の削減に寄与します。例えば、運輸部門における温暖化対策として、バイオ燃料は特に重要な役割を果たすと考えられています。電動化が難しいセクター(トラック、航空、船舶など)において、バイオ燃料の利用が急速に進むことが期待されています。科学文献においても、バイオマスの持続可能性に関する研究が多く報告されています。例えば、バイオマス燃料の生産に関するエネルギー収支分析や、持続可能な利用に関する提言が行われています。これらの研究は、バイオマスのエネルギー収支や環境影響の評価に役立ち、政策形成に寄与することが期待されています。

参考:
国際環境経済研究所2022年5月27日記事 小林 茂樹「バイオ燃料の現状分析と将来展望」
松田智「環境問題に真に貢献するバイオマス利活用とは?」(環境科学会誌 vol.24 No.5 2011)
一般財団法人新エネルギー財団 新エネルギー産業会議 令和6年3月「バイオマスエネルギーの利活用に関する提言」

国際的な展望および日本における取組みの最新研究

国際的にも、バイオマスエネルギーに対する関心は高まっており、IEA(国際エネルギー機関)によれば、バイオマスは再生可能エネルギーの全体供給の約2.5%を占めているとされています。特に、技術革新と市場需要の増加に伴い、バイオマスの生産と供給は今後増加していくと予想されており、2024年までに市場規模は5000億ドルに達すると見込まれています。日本では、木質バイオマスの利用促進が進められており、各地で様々な実施例が報告されています。特に地方自治体では地域資源を活用したバイオマス発電の導入が進んでおり、地元農業や林業の振興にもつながっています。また、農林水産省は「持続可能なバイオマス利用のあり方」を掲げ、食料生産とエネルギー生産の両立を図る取り組みを進めています。

参考:
QY Research株式会社2024年12月26日プレスリリース「バイオマス燃料市場調査レポート:バイオマス燃料の世界市場規模は5000億ドルに達する」
農林水産省「バイオマスの活用の推進」


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