研究開発コラム
機能性食品原料

麹と酒粕の違いとは 栄養素や効果、ブレンド甘酒について詳しく解説

「麹と酒粕の違いは何か」「麹と酒粕のそれぞれの栄養や効果が知りたい」と考える方は多いでしょう。

麹と酒粕は古くから健康食品として知られていますが、その製造方法や期待できる効果は異なります。

本記事では、麹と酒粕の違いについて、栄養素や効果の観点から詳しく解説しています。

最後の章では、麹と酒粕をブレンドした甘酒の効果についても紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

麹と酒粕の違い

この章では、麹と酒粕の違いについて解説します。

麹とは

麹とは、米や麦、大豆などを蒸してから麹菌を付着させ発酵させたものです。下記に種類をまとめたので確認してください。

項目用途
米麹・米味噌・甘酒・日本酒・塩麹
麦麹・麦味噌・麦焼酎
豆麹・豆味噌・八丁味噌

また、代表的な麹菌と特徴は下記の通りです。

項目特徴
Aspergillus oryzae・多様な発酵食品に使用される・黄麹菌とも呼ばれる
Aspergillus sojae・醤油の製造に使用される・タンパク質分解酵素の生産力が高い
Aspergillus luchuensis・焼酎や泡盛の製造に使用される

麹菌の胞子を商品化したものを種麹といい、種麹メーカーから購入できます。

参考:Yutaka K., Bull. Soc. Sea Water Sci., Jpn., 74, 92 - 98(2020)

酒粕とは

酒粕とは、清酒の製造過程で得られる副産物です。蒸した米と米麹、水に酵母を加え発酵させたもろみの固形部分を酒粕といい、さまざまな健康効果が期待されています。

酒粕には米由来のデンプンなどの栄養素や麹菌、酵母菌のほか、これらの菌が生産した代謝産物が含まれており、非常に栄養価の高い食品です。

酒粕は古くから健康食品として知られてきましたが、近年になってその具体的な機能や有効成分について明らかになってきました。美容効果も高いため、多くの人々の注目を集めています。

参考:藤井力ら 生物工学 第97巻 第10号(2019)

麹と酒粕の栄養素の違い

この章では、麹と酒粕の栄養素の違いについて解説します。

麹に含まれる栄養素

麹に含まれる代表的な栄養素は、下記の通りです。

  • ・葉酸
  • ・ビタミンB群
  • ・パントテン酸
  • ・ビオチン
  • ・ナイアシン

これらの他に麹には麹菌が作り出す多様な酵素が含まれており、下記のような効果が期待されています。

  • ・消化吸収の促進
  • ・代謝の促進
  • ・脂質や糖質の分解によるデトックス効果

麹の種類によって、含まれる成分や含有量が異なります。これは、大本となる原料に含まれている成分などが要因であると考えられています。例えば、麦麹にはポリフェノールの一種であるフェルラ酸や、抗腫瘍活性が注目されるβ-グルカンが米麹よりも多く含まれています。

そのため食品の最終的な栄養成分は、使用する原料などの影響を受ける可能性があります。

参考:
Yutaka K., Bull. Soc. Sea Water Sci., Jpn., 74, 92 - 98(2020)
大塚彰ら 栄養生理研究会報 第57巻 第2号 66-77(2013)
松田茂樹ら 日本食品保蔵科学会誌 第26巻 第5号 257-261(2000)

酒粕に含まれる栄養素

酒粕に含まれる代表的な栄養素は下記の通りです。

  • ・炭水化物
  • ・脂質
  • ・タンパク質
  • ・アミノ酸
  • ・葉酸
  • ・ビタミンB1
  • ・ビタミンB2
  • ・ビタミンB6
  • ・ナイアシン
  • ・パントテン酸
  • ・食物繊維

酒粕には、妊娠初期や授乳中に必須の栄養素とされる葉酸が豊富に含まれています。また、体内で合成されない必須アミノ酸の含有量を評価したアミノ酸スコアが100である点も特徴です。

さらに、栄養素の中でも難消化性分であるレジスタントプロテインは、多様な生理機能を発揮するため多くの注目を集めています。

参考:Toshitaka M.,  Journal of the Brewing Society of Japan, 109.1, p11-20(2014)

麹の健康効果3選

この章では麹を摂取することで得られる健康効果について、研究成果をもとに解説します。

1.コレステロールの上昇抑制

麹に含まれる麹グリコシルセラミドが、肥満マウスにどのような効果を発揮するかを調査した研究について、下記に概説します。

肥満マウスに麹グリコシルセラミドを与える実験を行ったところ、下記の結果が得られました。

  • ・肝臓コレステロールが有意に減少した
  • ・盲腸および糞便中における胆汁酸が増加した
  • ・コレステロール代謝に重要なCYP7A1ABCG8の遺伝子発現が有意に増加した

一連の実験から、肝臓中のコレステロールの減少は、コレステロールが胆汁酸に変換され糞便によって体外に排出されたためと考えられます。

さらに、CYP7A1ABCG8遺伝子の発現が増加したことから、麹グリコシルセラミドの摂取は肥満マウスのコレステロール代謝に影響を及ぼす可能性が示唆されました。

参考:Hiroshi H., et al, Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, Volume 83, Issue 8, 1514–1522(2019)

2.皮膚バリア機能の改善

麹の成分であるグリコシルセラミドは数々の効果が知られており、ここでは食事性グリコシルセラミド(GluCer)が皮膚バリア機能の改善に有効であるとする研究を概説します。

【方法】

◇慢性皮膚障害の実験

  1. 無毛マウスに4週間HR-AD食を与え、慢性的な皮膚障害を誘発
  2. その後、4週間、米ぬかと胚芽由来のGluCerを混合した通常の食事を提供
  3. 2での回復期間中に、経表皮水分蒸散量(TEWL)および角質の柔軟性を測定

◇急性皮膚障害の実験

5週間、グルコシルセラミドサプリメントを含む食事と含まない食事を与えます。その後、テープストリッピング法で皮膚を急性障害させTEWLを測定しました。

【結果】

GluCerを摂取したHR-AD食投与マウスは、対照群と比較して、

  • ・2週間でTEWLが大幅に減少した
  • ・3週間で角質層の柔軟性が増加した

GluCerの摂取は、HR-AD食誘発性表皮バリア機能低下の改善に有効であると示唆されました。GluCer摂取はまた急性皮膚障害への回復促進効果も期待されました。

参考:
Kiyomi T.,et al, Journal of Dermatological Science, Volume 44, Issue 2, 101-107, (2006)
山本裕貴ら 生物工学 第97巻 第4号(2019)

3.抗酸化作用

抗酸化作用は、食品の機能性を評価するうえで重要な観点です。ここでは、麹に特定の処理を行うことで抗酸化機能を付与できるとする研究を下記に概説します。

【方法】

麹菌の種類を変えて製麹し、下記条件における抗酸化能について評価、検討を実施

  • ・麹抽出液
  • ・麹を自己消化させた糖化液
  • ・麹糖化液の清酒酵母発酵液
  • ・麹糖化液の乳酸発酵液

使用した麹菌は、下記の通りです。

  • ・Aspergillus oryzae
  • ・Aspergillus sojae
  • ・Aspergillus awamori
  • ・Aspergillus kawachii

【結果】

  • 麹糖化液の清酒酵母による発酵では、Aspergillus oryzaeの中でも清酒麹菌株を用いた麹糖化液を用いた清酒酵母発酵液が、最も抗酸化能力が高くなった
  • 麹糖化液の乳酸発酵では、乳酸菌と焼酎麹菌の組み合わせが最も抗酸化能が高まった

また、清酒麹菌ではアミラーゼ活性が高いほど、焼酎麹菌では糖化力が高いほど抗酸化能がよい傾向にありました。この研究では麹糖化液(甘酒)を乳酸菌で発酵させる事で、新しい抗酸化飲料の開発ができる可能性が示されています。

参考:尾関健二ら, 食品・臨床栄養 , 4, 19-26, (2008)

酒粕の健康効果3選

この章では、酒粕を摂取することで得られる健康効果について研究成果をもとに解説します。

1.コレステロールの上昇抑制

高コレステロール血症のラットに酒粕粉末を与えると、総コレステロール濃度の上昇が抑制されたとする研究を紹介します。

【方法】

ラットを下記の条件で飼育し、各種値を測定

飼料条件:

  • ・高コレステロールおよび高コール酸の半精製飼料を含む酒粕粉末を、0%、10%、20%与える3群に分類
  • ・9日間、実験飼料を自由に摂取して飼育

測定条件:

  • ・8日目に尾部静脈における総コレステロール濃度を測定
  • ・飼育最終日から24時間絶食後に、心臓血液の総コレステロール濃度を測定

【結果および考察】

  • ・酒粕粉末を添加したラットでは、尾部静脈、心臓血液ともに総コレステロール濃度は低下傾向にあった。
  • ・20%酒粕含有ラットでは、対照群と比較して有意な低下が見られた。

酒粕粉末による血清コレステロールの上昇抑制は、糞中への中性ステロールと酸性ステロールの排出促進効果によるものと考えられます。

参考:Kazumi M., et al, Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi Vol. 47, No. 2, 78~84(2000)

2.肝障害の抑制

ここでは、酒粕がD-ガラクトサミン(D-GalN)誘発性肝障害を抑制することを示した研究を紹介します。

【方法】

  1. 雄マウスを下記の2群に分け14日間飼育
    A:10%の酒粕を含む飼料自由摂取群

B:酒粕を含まない飼料自由摂取群

  1. 飼育15日目にD-GalNを腹腔内投与し肝障害を誘発
  2. 24時間後に採血および肝臓の摘出を行い、下記を測定
    ・血漿中のGPTおよびGOT活性(肝障害の指標)、肝臓中のSAM*含有量

*メチオニン代謝に重要な物質で、SAMの投与はD-GalN誘発性肝障害に有効であるとされる

【結果】

酒粕を摂取したマウスには、対照群と比較して下記の変化が起こりました。

  • ・D-GalN誘発性血漿GPTおよびGOTレベルの上昇が有意に抑制された
  • ・肝臓中のSAM含有量が増加した

当該研究により、酒粕の摂取はメチオニン代謝の促進を通してD-GalN誘発性肝障害の抑制に寄与する可能性があるといえます。

参考:Hanae I., et al, J. Brew. Soc. Japan. Vol.101, No.11, p.893-899(2006)

3.健康および美容効果

酒粕摂取による健康と美容効果に関する研究を下記に概説します。

【方法】

酒粕甘酒*を男女12名に3週間摂取し、試験中は便通日誌**を記入

試験前後に血液検査を実施。また、頬同一部位において下記を測定した。

  • ・皮膚水分量
  • ・皮膚油分量
  • ・皮膚キメ面積率

*先行研究より、レジスタントプロテイン(酒粕の有効成分)の含有量が750mgとなるように調製

**終了後にスコア化して解析

【結果および考察】

酒粕甘酒の摂取前後で、下記のような変化が起こりました。

  • ・悪玉コレステロールの値が有意に低下し、善玉コレステロールが有意に増加した
  • ・排便回数と排便量が有意に増加した
  • ・皮膚水分量および皮膚油分量が増加傾向にあった
  • ・肌のキメ面積率が有意に増加した

上記より、酒粕の摂取が動脈硬化の予防につながる可能性があるといえます。

また、酒粕に含まれるレジスタントプロテインは腸内環境の改善に貢献し、さらに肌の美容維持にも効果があると考えられるでしょう。

参考:Toshiro W.,  Journal of the Brewing Society of Japan, 107.5, p282-291(2012)

麹と酒粕をブレンドした甘酒の整腸効果

この章では、麹と酒粕を使用した甘酒の整腸作用について概説します。

下記の実験は、酒粕と米麹を含む甘酒(190g)の摂取は便通改善に効果があるとする先行研究を踏まえ、甘酒摂取前後の腸内細菌叢にフォーカスしたものです。

【方法】

便秘気味の女性25名について対象者を下記の2群に分け、無作為化プラセボ対照クロスオーバー群間比較試験を実施。

Y群:試験飲料125mLを飲用

A群:試験飲料190gを飲用

  1. 試験飲料またはプラセボを30日間摂取
  2. 14日間の休薬
  3. もう片方の飲料摂取

各飲料の摂取前日と最終日に便を採取し、腸内細菌叢の変化を解析

【結果および結論】

試験飲料の摂取後プラセボと比較して、次のような変化がありました。

  • ・Y群では有意な差はなかった
  • ・試験飲料に酒粕と米麹を含むA群では、ビフィズス菌数が有意に増加した

以上より、酒粕と米麹を含む甘酒飲料はヒト腸内細菌叢を改善できる可能性があるといえます。

参考:
森貞夫 薬理と治療 第47巻 第5号 759 – 765(2019)
森貞夫 薬理と治療 第48巻 第7号 1187 – 1193(2020)

まとめ:麹と酒粕の特性の把握が効率良い商品作りに役立つ

麹と酒粕は、製造方法や栄養成分が大きく異なります。

麹が米や麦などを麹菌で発酵させて作られるのに対して、酒粕は米麹に水や酵母を添加して発酵させることで得られます。

栄養成分の観点からは、豊富な葉酸やビタミンB群を含む点が共通ですが、麹と酒粕それぞれに見られる主たる特色には下記が挙げられます。

  • 麹:麹菌と多種多様な酵素を含む
  • 酒粕:さまざまな生理機能を持つレジスタントプロテインを含む

麹と酒粕はコレステロールの上昇抑制をはじめとする健康面のほか、皮膚の質を改善するなど美容面でも役立つ可能性があります。

健康志向が高まっている現在、麹や酒粕を活用した商品の展開はさらに増えていくでしょう。


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