乳酸菌と酵母は発酵食品に含まれる代表的な微生物であり、私たちの健康にさまざまな恩恵をもたらします。
本記事では、乳酸菌と酵母それぞれの基本的な特徴について詳しく解説し、続いて乳酸菌と酵母が含まれる食品やその効果、種類や形の違いについて紹介します。
また乳酸菌と他の健康に良い菌との違いにも触れ、両者が共通して持つ特性や共生の役割についても考察します。
発酵食品が持つ力と乳酸菌や酵母が私たちの体にどう働きかけるのかを知り、事業に役立つヒントを得ましょう。
目次
乳酸菌は、ブドウ糖や乳糖などの糖を分解し、乳酸を生成する細菌の総称です。
乳酸はヒトが補助的なエネルギー源とする事ができるので、乳酸菌は有益な存在とされています。
乳酸菌は、形状によって棒状や円筒状の「乳酸桿菌(にゅうさんかんきん)」と、球形の「乳酸球菌」に分類されます。
乳酸菌がもっとも活発に活動・増殖するのは、種類にはよるものの、およそ25~43℃の範囲です。
25~43℃より低い環境では発酵のスピードが遅くなるため、もしヨーグルトなどを作る場合は、25~43℃ぐらいの温度が適しています。
乳酸菌は、生成する乳酸の量・生育に適した温度・栄養条件などにもとづいて分類されています。
具体例を挙げるなら、以下の通りです。
ブルガリア菌はヨーグルトなどによく含まれています。
ラクトコッカス菌・ロイコノストック菌が含まれているのはバター、チーズ、ヨーグルトや発酵食品です。
カゼイ菌は、チーズ、発酵乳、乳酸菌飲料や乳酸菌製剤によく入っている乳酸菌になります。
乳酸菌は今までに約400種類が確認されていますが、約400種類が自然界にあるすべてではありません。
さまざまな場所に存在しているため、今後も新しい種類が発見される可能性があります。
乳酸菌は、細長い形状をしている「乳酸桿菌」、丸い形状になっている「乳酸球菌」の2種類に大きくわかれています。
また乳酸桿菌と乳酸球菌が複数連なった形をした菌もあり、それぞれ「連鎖桿菌」「連鎖球菌」と呼ばれています。
参考:乳酸菌なんでもQ&A
○○由来とは、乳酸菌が発見された場所のことです。
乳酸菌は、ヨーグルトなどの発酵食品や人の腸内をはじめ、皮膚・口腔内・植物・土・海など、さまざまな環境に存在しています。
乳酸菌は、発見された場所に応じて「○○由来の乳酸菌」と呼ばれることがあります。
例えば乳由来は、牛などの動物の乳から見つかった乳酸菌です。植物由来は植物、ヒト由来は人間の腸内などから見つかった乳酸菌をいいます。
ただ、○○由来はあくまで生息場所の違いによるものです。どの由来が特に優れている、などは特にありません。
参考:乳酸菌なんでもQ&A
古くから食されてきた発酵食品の多くには、乳酸菌が活用されています。具体例としては、以下の通りです。
また、カルピスも脱脂乳を乳酸菌と酵母で発酵させてつくられています。
ただし、市販の味噌や醤油には、乳酸菌が含まれていないものもあります。
乳酸菌はお腹にいいと聞きますが、理由は菌体成分が腸内フローラやお腹の神経によい影響を与えてくれるからです。
乳酸菌が生成する乳酸には、腸内の有害菌の増殖を抑え、腸内フローラのバランスを整える効果が期待されています。
また乳酸菌の菌体成分が腸内の神経を刺激するため、体が本来持つ機能が活性化し、お腹の調子を整える働きがあるともされています。
さらに、乳酸菌はお腹の調子を整えてくれるだけではありません。
腸には、体の機能を調整する免疫細胞や神経が豊富に存在しています。
乳酸菌の中には、菌体成分が免疫細胞や神経を刺激することで、アレルギー症状の緩和やストレス軽減に役立つと報告されている種類もあります。
参考:乳酸菌なんでもQ&A
酵母は、主には真菌類の一種である子嚢菌(しのうきん)門に属する微生物です。酒酵母・ビール酵母・ぶどう酒酵母・パン酵母など多くの種類があります。
もっとも一般的な酵母はサッカロミセス・セレビジエという種類で、ビール・パン・ワインなどの製造に広く利用されています。
また栄養価も高く、ビタミンB群やタンパク質を豊富に含んでいるため、健康食品としても注目されています。
酵母は自然界に広く分布しており、その働きは食文化に欠かせないものとなっているのです。
パンやお酒の製造に使われる酵母の種類は、主に以下の通りです。
きょうかい酵母とは、日本醸造協会が純粋培養して全国の酒蔵に頒布している清酒酵母です。
日本醸造協会は酒質の安定と更なる向上を目的に、発酵力や特徴的な香りなど優れた特徴を持つ酵母を培養しています。
日本で作られている多くの日本酒はきょうかい酵母を使っており、6号~11号・1501~1901号・赤色酵母(桃色濁り酒用)など、日本酒の酒質に応じて数多くの種類があるのが特徴です。
酵母の栄養細胞は単細胞で構成され、形状は球形や楕円形・卵円形・長円形・円筒形といったシンプルなものが多いです。
酵母は増殖の際、母細胞から一部が突出して新たな細胞を形成し、成長して母細胞と同じ大きさに達すると「娘細胞」として独立した細胞となります。
母細胞からは複数の娘細胞が生成され、娘細胞は母細胞から離れるか、付着したまま新たな母細胞になります。
この増殖方法が「出芽(budding)」です。酵母は分裂や出芽といった方法で増殖しますが、特に出芽は酵母の特徴的な増殖方法です。
なお、出芽酵母と分裂酵母でタイプが異なり、サッカロミセス・セレビジエは、出芽酵母に属します。
参考:真菌の分類と同定
酵母はさまざまな食品に含まれていますが、特に発酵食品に多く見られます。
パンやピザの生地に使われる酵母は、発酵によってふんわりとした食感を生み出します。
また、アルコールや風味を生み出す酵母は、ビールやワインの製造にも欠かせません。
さらに、味噌や醤油、サワークラウトなどの発酵調味料にも酵母が含まれています。
独特の風味を加え、料理や飲み物に深みを与えるのが酵母の特徴です。
酵母には、ビタミンB群やミネラルが豊富に含まれており、特にビタミンB1・B2・B6・B12が多いです。
ビタミンB群は、エネルギー代謝において重要な役割を担い、炭水化物・脂肪・タンパク質から効率的にエネルギーを作り出す手助けをしてくれます。
エネルギーの生成が効率よくおこなわれるため、体も疲れにくくなります。
さらに、酵母には亜鉛やマグネシウム、鉄といったミネラルも含まれています。免疫を高めたり、骨の健康を保ったりなど、全身の健康に貢献する点も大きなメリットです。
参考:
酵母が支える健康とおいしさ Asashi
微量ミネラルと酵母
本章では、乳酸菌と以下の菌との違いについて解説します。
乳酸菌とは、発酵によって糖から乳酸をつくる微生物であり、細菌(真正細菌)に分類されます。単細胞で細胞壁を持っており、グラム陽性菌に属します。
一方、酵母菌は真菌に分類される微生物で、真核生物です。
カンジダ属やサッカロミセス属などがよく知られています。
単細胞の真菌ですが、細胞核や細胞小器官を備えているため、構造がより複雑です。
酵母菌の細胞小器官には、液胞やミトコンドリアなどがあります。
液胞とは一重の膜で囲まれた構造で、高分子の分解や代謝産物や不要物の貯蔵、浸透圧の調節などの働きを担っています。
参考:
真菌 | 公益社団法人 日本薬学会
酵母細胞内のふるまいを観る
また、発酵によって生成されるものも異なります。
乳酸菌は、糖を分解して乳酸を生成します。乳酸は酸味のもととなり、乳製品や漬物などの発酵食品に利用されます。
酵母菌は糖を分解して、エタノール(アルコール)と二酸化炭素を生成します。生成されたものは、パンの発酵や酒類の醸造に使われるのが特徴です。
麴菌と乳酸菌はどちらも菌ですが、性質や特徴が大きく違います。
腸内には善玉菌と悪玉菌が存在していますが、善玉菌のひとつが乳酸菌です。
例えば日本酒をつくるときは米、味噌や醤油をつくるときは大豆を発酵させていますが、発酵させるときに入れるのが麹菌です。
なお、味噌をつくる際は大豆と麹菌の他に水も混ぜ合わせます。
麹菌は大豆のたんぱく質を分解するだけでなく、旨味のもとになるアミノ酸を遊離します。
そして、こうした麹菌からさらに生まれるのが、酵素です。
納豆菌と乳酸菌はどちらも「善玉菌」として腸内で悪玉菌の増殖を抑える役割を持っていますが、働き方に違いがあります。
納豆菌は細菌の一種である枯草菌(こそうきん)の一種で、納豆をつくるのに欠かせません。
納豆菌は熱や胃酸に強く、生きたまま腸まで届くのが特徴です。
そして腸内で、他の善玉菌の増殖をサポートをしたり、腸内の悪玉菌を減らしたりといった働きもします。
乳酸菌は熱や胃酸に弱いです。生きて腸まで届かないものもありますが、たとえ死んでしまった菌でも善玉菌のエサとなり、腸内にいる善玉菌の増殖を助けてくれます。
参考:
納豆菌とは|発酵のきほん|みんなの発酵BLEND
「食品衛生学実験」vol.14 細菌の性質を学ぶ① ~芽胞の耐熱性試験の結果~【「食品衛生学実験」vol.14 細菌の性質を学ぶ① ~芽胞の耐熱性試験の結果~】|松本大学/松本大学松商短期大学部
酢酸菌と乳酸菌はどちらも食品の発酵に利用される細菌ですが、それぞれ異なる特徴を持っています。
好気性の酢酸菌は、液体の表面に膜をつくりながら成長するのが特徴です。また、アルコールを酢酸に変える働きがあり、お酢の製造には欠かせません。
一方、乳酸菌は糖を乳酸に変える細菌です。ヨーグルトやチーズなどの乳製品、さらには漬物や味噌などの発酵食品に使われています。
乳酸菌は嫌気性で、液体の中や固形物の表面で活発に増殖します。
本章では、乳酸菌と酵母に共通点はあるのか見ていきます。
酵母の大きさは、直径5~8マイクロメートルのものが多いです。大きいものでは巾10マイクロメートル、長さ70マイクロメートル程度の細長いものもあります。
大きさがまちまちなのは、培養条件によって変化するためです。
酵母は微生物の中では比較的大型に分類されます。多くの微生物は原核生物ですが、酵母は人間と同じ真核生物です。
一方で、乳酸菌や酢酸菌などの細菌は0.5~1マイクロメートルです。
具体例を出すと、乳酸菌飲料のカルピスには、ラクトバチルス・ヘルベティカスという乳酸菌が入っています。
ラクトバチルス・ヘルベティカスの大きさは2マイクロメートルのため、2500個の乳酸菌が1列になることでやっと米1粒の大きさになるのです。
ちなみに髪の毛の太さは、100マイクロメートルです。髪の毛の太さよりも微生物のほうがもっと小さく、肉眼では見れません。
参考:
酵母の増殖
Vol.03 微生物の大きさを教えて先生!! | _SHIP
乳酸菌なんでもQ&A BOOK
乳酸菌も酵母も入っている食品は、清酒・味噌・醤油・漬物などがあります。
味噌、特に生味噌には乳酸菌や酵母菌が多く含まれており、発酵によって独特の風味と栄養が加わります。
漬物には乳酸菌が多いですが、酵母菌も含まれることがあります。例えば、ぬか漬けや発酵野菜などです。
空気中などから付着した酵母が増殖すると匂いが生まれ、漬物特有の風味が生まれます。
乳酸菌も酵母も昔からさまざまな発酵食品に関わってきていますが、生物学的にはまったく異なるものです。酵母はキノコやカビの仲間に含まれます。
乳酸菌と酵母の生態や生育環境は似ている部分も多く、共に協力しながら適応・進化してきたと考えられています。
乳酸菌と酵母は、私たち人類にとってもっとも身近な微生物であり、世界各地で発酵食品に利用されています。
特にビールやヨーグルトのような微生物の管理が行き届いている一部の製品を除けば、多くの発酵食品には乳酸菌と酵母が共存しています。
乳酸菌は、糖やデンプンなどの多糖を分解して乳酸を生成し、エネルギーを得ます。
しかし、乳酸の蓄積は乳酸菌の成長や代謝活動を妨げる要因にもなります。
一方、酵母は多くの場合デンプンなどの多糖を直接分解はできませんが、好気条件のもとでは乳酸を利用してエネルギーを得ます。
乳酸菌にとって酵母は、蓄積した乳酸を取り除いてくれる存在であり、酵母にとって乳酸菌は、自分では分解できない多糖を乳酸に変えてくれる協力者ともいえるのです。
参考:
乳酸菌と酵母の共存と共生
4. 乳酸菌の共生および接着現象の解明と応用 – 生物化学工学研究室
乳酸菌と酵母は、発酵食品に含まれる微生物で、私たちの健康に貢献しています。
乳酸菌は糖を分解して乳酸を生成し、腸内環境を整える働きを持つため、ヨーグルトや漬物などに利用されています。
乳酸菌にはいくつもの種類があり、出どころによって「●●由来の乳酸菌」と表記されることもあります。
一方、酵母はパンや酒の発酵に欠かせない微生物です。アルコールなどを生成し、独自の風味や食感を生み出します。
乳酸菌と酵母は、味噌・キムチ・漬物といった発酵食品に共存することがあり、互いに補完し合うことで発酵食品に独特の風味と健康効果をもたらします。
これらの微生物を含む食品を取り入れると、健康維持や体調管理に効果が期待できます。
人には欠かせない発酵食品に含まれている乳酸菌や酵母を活かし、健康などの関連事業に役立ててください。