研究開発コラム
発酵技術 一般食品原料

麹甘酒と酒粕甘酒の違いとは?原料や栄養素などの違いを解説

近年、甘酒が健康的な食品として注目を集めています。甘酒にはさまざまな栄養素が豊富に含まれているため、多くの企業でも甘酒を利用した商品を販売するようになりました。

一方、甘酒は麴甘酒と酒粕甘酒の2種類があり、それぞれ特徴や含まれている栄養素が異なります。

本記事では、麴甘酒と酒粕甘酒について、原料や栄養素などの観点から解説します。それぞれの違いを把握する際の参考にしてください。

麹・酒粕とは

最初に甘酒の原料となる酒粕・麹について説明します。原料の違いは栄養素の違いにもつながるため、正確に把握しましょう。

麹とは

麹とは、米・大豆・麦などを麹菌で発酵させたものです。麹は日本酒(清酒)・醤油・味噌など、和食に必要な調味料や飲料を製造するために利用されます。

和食において麹は不可欠なものであり、大きく分けて以下の5種類があります。

  • ・清酒用
  • ・味噌用
  • ・醤油用
  • ・焼酎用
  • ・その他

甘酒に使用されるのは「その他」に分類される麹です。

近年は甘酒が健康食品として流行していることもあり、麹はより身近な存在になりました。

後述するように、麹にはさまざまな栄養素が含まれているため、今後の健康増進に欠かせないものとして注目されるでしょう。

参照:種麹、麹菌について|和久豊

酒粕とは

酒粕とは、日本酒を製造する際に生成されるものです。

日本酒(清酒)は、蒸した米に酵母・麹菌・水を加えて生成したもろみを絞ることで製造されますが、その際に残った固形物が酒粕と呼ばれます。

酒粕は日本酒を製造した際の搾りかすのようなものであり、甘酒や粕漬けなどに利用されてきました。

しかし飼料としての有用性が認められたり、甘酒がブームになったりしたことで、酒粕への注目度は高まっています。

酒粕のさらなる利用方法については、さまざまな機関で現在も研究が進められています。

酒粕はうま味成分のグルタミン酸に加え、さまざまなアミノ酸や有機酸を含んでいる食材です。近年は調味料として利用できる商品が販売されるなど、以前より酒粕の用途は多様化しました。

参照:
酒粕の機能特性とそれを活かした商品開発|峰時俊貴
日本酒粕の保存性および肥育豚に対する嗜好性の検討|鈴木雅大・金山裕里・小菅佳菜・島田日奈子・ 高橋慶・丹羽美次・佐伯真魚

甘酒の種類

甘酒には大きく分けて酒粕甘酒と麹甘酒の2種類があります。

本章では、それぞれの特徴について解説します。

麹甘酒

麹甘酒とは、麹を原料に生成した甘酒です。麹甘酒は平安時代から製造されているといわれている、伝統的な甘味飲料です。

麹甘酒には大きく分けて以下の3種類があります。

  • ・かた作り:麹に対して水の量を少なくした濃縮タイプ
  • ・うす作り:水の量が多く、そのまま飲料にするタイプ
  • ・早作り:米麹のみを利用したタイプ

酒粕甘酒と異なり麹甘酒にはアルコールが含まれておらず、主成分がブドウ糖やオリゴ糖であるため、自然な甘さを感じられます。

参照:
消費者の部屋通信|農林水産省
麹甘酒に含まれる成分について|倉橋敦・小黒芳文

酒粕甘酒

酒粕甘酒は、酒粕を主原料とした甘酒です。湯に酒粕を溶き、砂糖などの甘味料を加えることで製造されます。

酒造メーカーの多い地域では酒粕甘酒が飲用される傾向があり、レモンやショウガなどを加えたタイプもあります。麴甘酒と異なり、酒粕を利用しているため、酒粕甘酒には少量のアルコールが含まれています。そのため、消費者によっては飲めない場合があります。

参照:
消費者の部屋通信|農林水産省
マウス試験による甘酒の機能性評価|大浦 新・鈴木佐知子・秦 洋二・川戸章嗣・安部康久
甘酒業界の動向|渡部耕平

栄養面での麹甘酒・酒粕甘酒の違い

原料が違えば、含まれる栄養素も異なります。本章では、それぞれの甘酒に含まれる栄養素について解説します。

麴甘酒の栄養

麴甘酒はブドウ糖を豊富に含んでいるため、ブドウ糖を主成分とする点滴になぞらえて、「飲む点滴」と呼ばれます。「飲む点滴」と呼ばれるだけあって、麴甘酒は非常に栄養価の高い飲料です。

麹甘酒には麹菌の代謝物であるビタミンB1群に加え、食物繊維・ミネラル・各種ビタミン・クエン酸が含まれています。そのため、麴甘酒には高い疲労回復効果が期待できます。

麹甘酒の疲労回復効果は各方面から注目されており、近年では機能性スポーツフードとして、アスリートの疲労軽減に活用する方法も研究されるようになりました。

また、麴甘酒は便通改善の効果もあります。研究では、1カ月摂取を続けることで、便通改善された結果も報告されています。

参照:
麹甘酒に含まれる成分について|倉橋敦・小黒芳文
甘酒業界の動向|渡部耕平
にっぽん伝統食図鑑|農林水産省
麴甘酒の成分・機能性・安全性|倉橋敦

酒粕甘酒の栄養

酒粕甘酒も、栄養面では麴甘酒に劣りません。

酒粕にも食物繊維・ビタミン・ミネラルなどが含まれており、加えて血圧の降下作用・肝機能障害やうつ病への効果なども期待できます。マウスを使った実験では健忘症への効果も認められるなど、酒粕は非常に有用な食材です。

しかし、酒粕を直接摂取することは簡単ではありません。そのため、甘酒のような形にすれば、効率的に栄養素を摂取できるとされています。

参照:
甘酒業界の動向|渡部耕平
にっぽん伝統食図鑑|農林水産省
マウス試験による甘酒の機能性評価|大浦 新・鈴木佐知子・秦 洋二・川戸章嗣・安部康久
酒粕の機能特性とそれを活かした商品開発|峰時俊貴

麴甘酒・酒粕甘酒の注意点

麹甘酒・酒粕甘酒はいずれも健康増進に役立ちますが、摂取する際にはいくつかの注意点があります。

麹甘酒の注意点

麹甘酒は麹を使用しますが、人によっては麹アレルギーを持っている場合があります。

その場合は、麴甘酒の摂取は避けなければなりません。

麹アレルギーは麹菌によって起こされるものであり、麴甘酒を摂取した際にも発症するリスクがあります。実際、日本酒の醸造家が麹アレルギーによる気管支喘息を発症した症例も報告されています。

麹アレルギーは症例としては少なく、発症リスクが高いわけではありません。

ただしアレルギーは後天的に発症する場合もあるため、麴甘酒の摂取によって体調に変化が生じた際には注意が必要です。

参照:日本酒醸造の従事者に生じた麹菌(Aspergillus oryzae)が原因と考えられる気管支喘息の1例|久米裕昭・ 冨田ひかる・ 福原敦朗

酒粕甘酒の注意点

酒粕甘酒は微量とはいえアルコールを含んでいるため、年齢や体調によっては摂取できません。

例えば妊婦のようにアルコールの摂取ができない状態の場合、酒粕甘酒は避ける必要があります。またアルコールが合わない体質の人や、子どもが飲む際にも注意しなければなりません。

加えて酒粕甘酒は日本酒の風味が残っているため、人によっては飲みづらいと感じる場合があります。

なお、酒粕は製造面でも注意が必要です。酒粕は入手方法が限られており、大手の酒造メーカーでない限り、安定した供給はできません。

さらに品質が劣化しやすく、醸造区分の違いによって含有成分も異なるため、品質の維持や保存にも気を配らなければなりません。

参照:酒粕の機能特性とそれを活かした商品開発|峰時俊貴

目的に合わせた甘酒の選び方

甘酒は目的に応じて飲み分けると、より高い効果を発揮します。本章では、目的別の甘酒の選び方について解説するので、ぜひ参考にしてください。

美容なら麹甘酒

美容効果を期待するなら、麹甘酒が適しています。

酒粕甘酒にも美容効果は期待できますが、麴甘酒には肌のバリア機能や保湿の改善に効果が期待できると報告されています。

さらに継続的に摂取することで、肌のキメを整える効果があると報告された事例もありました。

なお、麴甘酒に使われる麹には抗酸化作用があるコウジ酸が含まれており、化粧品にも利用されています。

参照:
甘酒業界の動向|渡部耕平
麹甘酒に含まれる成分について|倉橋敦・小黒芳文
麴甘酒の成分・機能性・安全性|倉橋敦

ダイエットなら酒粕甘酒

酒粕甘酒は麴甘酒と同様にさまざまな栄養素を含んでいるうえに、肥満改善効果があるため、ダイエットに有効です。

酒粕に含まれる難消化性成分であるレジスタントプロテインには、代謝吸収を穏やかにし、脂肪酸合成酵素の活性を抑制するアディボネクチンの産生を向上させる効果があります。

酒粕のレジスタントプロテインの利用は健康食品業界でも進められており、近年ではサプリメントなども開発されるようになりました。

なお、酒粕のレジスタントプロテインには便通や腸内環境の改善にも効果が期待できます。そのため、腸活の一環としても酒粕甘酒の摂取は効果的です。

参照:酒粕の機能特性とそれを活かした商品開発|峰時俊貴

より飲みやすくするならミックスする

より甘酒を飲みやすくしたいなら、麴甘酒と酒粕甘酒をミックスする方法も効果的です。

先述したように、酒粕甘酒は日本酒の風味があるため、苦手な人も少なくありません。

しかし麴甘酒をミックスすれば、風味を和らげられます。

加えて、麴甘酒と酒粕甘酒をミックスすれば、それぞれの栄養素を同時に摂取できます。

味の好みはもちろん、より栄養を効率的に吸収するうえでも、2種類の甘酒のミックスは有効な手段です。

まとめ:酒粕甘酒と麹甘酒の違いを理解して活用しよう

酒粕甘酒と麹甘酒は、原料だけでなく、含まれる栄養素も異なります。健康増進に役立てるなら、それぞれの違いを把握しましょう。

飲む目的や注意点を意識して提供すれば、より甘酒の効果を活用できます。麴甘酒・酒粕甘酒それぞれの特徴を理解し、適切に利用しましょう。


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