近年、地球温暖化が進み、再生可能エネルギーの普及やカーボンニュートラルな社会の形成が強く求められるようになりました。そしてバイオマスは、新たな二酸化炭素を放出しないカーボンニュートラルな資源として注目されています。
本記事では、バイオマスの種類や使用用途、エネルギー変換技術について解説します。バイオマス産業の規模や課題についても紹介するので、ぜひ内容を確認してみてください。
目次
バイオマスとは、再生可能な、化石資源を除く生物由来の有機性資源のことです。植物の光合成によって生成される有機物は生命と水、二酸化炭素、太陽エネルギーがある限り持続的に再生可能資源として生成されます。有機物を生成する植物だけでなく、それを食べる動物由来の資源もバイオマスです。
バイオマスはカーボンニュートラルな資源として注目されています。バイオマスが燃焼する時に放出される二酸化炭素は、生物の生育過程で取り込んだ二酸化炭素であるため、大気中に新たな二酸化炭素が放出されません。
参考:
バイオマスとは?:九州農政局
バイオマスの活用をめぐる状況
【インタビュー】「カーボンニュートラルなバイオマスのエネルギー利用」—牛久保 明邦氏(前編)|エネこれ
資源として利用できるバイオマスは、「廃棄物系バイオマス」、「未利用バイオマス」、「資源作物」の3カテゴリーに分けられます。
「廃棄物系バイオマス」とは、廃棄物を資源として活用するカテゴリーです。家畜排せつ物や食品廃棄物、製材工場などの残材がこれにあたります。廃棄系バイオマスの活用は、温室効果ガスの削減による地球温暖化対策にも効果が期待されています。
「未利用系バイオマス」は今まで活用されてこなかったものを活用するカテゴリーです。稲などの非食部分や林地残材などがこれにあたります。
「資源作物」は、バイオマス利用を目的とした栽培や培養をおこなうカテゴリーです。ミドリムシのような微細藻類や、トウモロコシやサトウキビからつくられるバイオエタノールが代表的です。
参考:
バイオマスとは?:九州農政局
バイオマスの活用をめぐる状況
【インタビュー】「カーボンニュートラルなバイオマスのエネルギー利用」—牛久保 明邦氏(前編)|エネこれ
バイオマスはマテリアル利用、エネルギー利用の2つに分類できます。
マテリアル利用は、バイオマスを原材料として利用することです。実際にバイオマス由来のバイオプラスチックや樹脂は石油由来品の代替素材として、またバイオマスを利用して生産されたアミノ酸や有用化学物質などは化成品原料として利用されています。
エネルギー利用とは、バイオマスが生み出すエネルギーを利用することです。バイオマスが生み出す熱や電気エネルギーを活用するほか、エタノールやガスなどの燃料に変換して利用されています。近年では、てんぷら油などの廃油が加工され、軽油の代替品としてバスの燃料に使用されている事例もあります。
バイオマスの活用は農林水産業の活性化や地球温暖化の防止、循環型社会の形成など社会課題の解決に関係しており、活用推進の加速化が求められています。
参考:
バイオマスの活用をめぐる状況
【インタビュー】「カーボンニュートラルなバイオマスのエネルギー利用」—牛久保 明邦氏(前編)|エネこれ
バイオマスをエネルギーとして利用するためには、バイオマスエネルギーへの変換が必要です。変換プロセスは直接燃焼、生物化学的変換、熱化学的変換の3つに大別されています。
それぞれ以下で詳細を解説します。
直接燃焼は、焼却炉を用いて乾燥状態のバイオマスを燃焼させる技術です。ストーカー炉やキルン炉、流動床炉など廃棄物の燃焼に用いられる焼却技術が用いられています。
廃木材や汚泥などを燃焼させ得られる熱は熱源として利用されるほか、コージェネレーション(資源を燃焼させ電気エネルギーに変換する際に発生する熱も回収する省エネシステム)や発電に利用できます。
生物化学的変換には、嫌気性微生物のメタン発酵による方法と、糖化・アルコール発酵によって生成されるエタノールを利用する方法があります。
メタン発酵では有機物を様々な種類の嫌気性微生物の働きによって分解し、バイオガスを生成させます。発生したバイオガスを回収しエネルギーとして利用するのが、メタン発酵を利用した生物化学的変換技術です。
メタンガス化施設では、まず有機性ごみからメタン発酵に適さない異物の除去を行い、メタン発酵層に入れ嫌気発酵させます。発酵にかかる時間は温度によって異なり、中温の35℃であれば20〜25日ほど、高温の55℃では10〜15日程度です。
回収されたバイオガスはガスエンジンなどによる発電のほか、バイオガス中のメタンを濃縮精製することで天然ガス自動車の燃料として利用可能です。バイオガスに含まれる不純物を処理することで、燃料としてガス会社に供給することもできます。
メタン発酵による生物化学的変換技術では、除去された異物、硫化水素を含むバイオガス、有機系脱水ろ液、脱水残渣が生成されます。メタン発酵による方法を導入する場合は、環境対策と安全対策が必要です。
参考:メタン発酵(メタンガス化) とは、有機物を種々の嫌気性微生物の働きによって分解し
アルコール発酵は資源作物(バイオマス)中の糖分やデンプンを糖化・発酵させることで、バイオエタノールを製造できます。バイオエタノールを燃料として使用するのが、酵素や微生物を用いたアルコール発酵を利用した生物化学的変換技術です。
アルコール発酵では、コメやトウモロコシなどのでんぷん質原料を糖化酵素によって糖化させます。糖化したでんぷん質原料は、サトウキビなどの糖質原料と混ぜられ、酵母菌による発酵工程に移ります。発酵過程で生成されたエタノールを蒸留・脱水させてできたのがバイオエタノールです。
アルコール発酵に使用されるトウモロコシやサトウキビは食料でもあるため、食品価格の高騰を招く問題があります。そのため、セルロース系原料を利用する第2世代バイオエタノールや、藻類などを原料とする第3世代バイオエタノールの研究開発が行われています。
熱化学的変換技術は、急速熱分解反応、ガス化反応、水熱液化/水熱ガス化の3手法が主流です。それぞれ詳細を確認しましょう。
急速熱分解反応は、バイオマス原料を急速に加熱することで熱分解を進行させ、油状生成物を得る技術です。油状生成物は、液体燃料や化学品原料として利用可能です。
木質バイオマスを熱砂や赤外線、マイクロ波などで500〜600℃まで加熱すると、急速に熱分解が進みます。その後急速冷却すると、ガスやチャーと呼ばれる副産物が生成され、液体留分はバイオオイルの元となる油状生成物となります。
急速熱分解反応を用いた液体収率は、最大で70%におよびます。ガスはプロセス内で再利用されるうえ、チャーも燃料や資材として利用されるので、ほぼ全ての生成物を利用することができます。
参考:
熱利用エコ燃料の普及拡大について 参考資料
バイオマス利用技術の現状とロードマップについて (令和4年8月)
新たな熱分解システムによる小型・高効率な バイオ燃料製造・利用技術の開発
ガス化反応は、バイオマス原料をガス化剤によってガス化し利用する技術です。ガスによる発電や熱利用が行われているほか、触媒を使うことで液体燃料としても利用可能です。
木質バイオマスは、450℃のガス化炉で水蒸気や酸素によってガスに変換されます。ガスはサイクロン冷却器、フィルターを通り、貯蔵されます。触媒を用いることで、メタノール、ジメチルエーテル、ガソリン代替燃料、ジェット燃料を生成することも可能です。
ガス化反応では、バイオマスがガスに変換される際に、タールが生成されます。タールは持続的な安全運転を阻害するため、発生抑制、吸着・分解が大きな課題となっています。
参考:
主要技術の概要
熱利用エコ燃料の普及拡大について 参考資料
バイオマス利用技術の現状とロードマップについて (令和4年8月)
水熱液化も水熱ガス化も、高温高圧の水液中で加水分解反応が急速に進行し、有機物が効率的に分解されることを利用した変換技術です。木質バイオマス以外にも、下水汚泥、家畜排せつ物など様々なバイオマスを資源として利用できます。
純水の臨界点は、圧力22MPa、温度374℃です。水熱液化プロセスでは、280℃〜370℃程度、圧力10〜25MPaの亜臨界水条件に2時間程度バイオマスをおくことで、地殻において高温高圧化で生物の有機物が何億年もかかり石油へと生成される条件を、人為的に再現しバイオオイルを生成できます。生成されたオイルは原油に近いエネルギーをもち、これまでの石油精製技術に適応します。
水熱ガス化は、水の臨界点を超えた超臨界状態でみられる反応です。超臨界水中では、有機物が低分子化し、メタンなどの炭化水素、水素、炭酸ガスなどに変換されます。ガスは、ガス燃料として利用されるほか、発熱、発電にも利用されています。
通常であれば、圧力22MPa、温度374℃以上でなければガス化反応はおきません。しかし触媒を利用することによって、温度300℃程度、圧力10MPaでもガス化反応を発生させることができます。
水熱液化も水熱ガス化も、エネルギー変換効率の改善と高温高圧のためのエネルギー回収が課題です。また、使用機器などの価格低下による製造コストの削減が求められています。
参考:
バイオマス利用技術の現状とロードマップについて (令和4年8月)
熱利用エコ燃料の普及拡大について 参考資料
水熱ガス化プロセスによる工場廃水の処理・燃料ガス製造技術の実証試験
藻類培養液の濃縮と水熱液化による燃料生産の試み
バイオマス市場規模は約5300億円といわれており、製品やエネルギーの産業規模の約1%を占めています。持続的に発展する経済社会や循環型社会の構築に向け、政府はバイオマス産業規模の拡大を目指しています。
バイオマス産業の規模は急速に拡大することが想定されており、2030年には産業規模を2%、将来的には10%の市場の獲得が政府の目標です。実際に2030年の目標に向けて、スーパーエンジニアリングプラスチックの製造・利用技術の開発や、ミドリムシ藻類における高効率ゲノム編集技術の開発等がすすめられていますが、これ以外の施策も期待されます。
またバイオマス活用推進基本計画では、2030年の目標達成に向けてバイオマスの活用に必要な基盤の整備や供給事業の創出、バイオマス製品などの利用の促進を推進しています。
参考:
環境展望台
バイオマスの活用をめぐる状況
第 3 章 地域と共生した再生可能エネルギーの最大限の導入
バイオマスの活用には、バイオマス資源の特性による課題と、バイオマス利活用手法による課題があります。バイオマス活用はカーボンニュートラルな社会の実現に不可欠であり、課題の早期解決が必要です。
バイオマス資源の特性による課題とは、収集運搬コストが高いこと、既存用途との競合の可能性があることです。バイオマス資源は一般的に広く薄く存在しているため、効率的な収集運搬・地域活用システムの構築が必要になります。また、食料供給に影響しずらい廃棄物系原料の有効利用が推進されています。
バイオマス利活用手法による課題は、経済性が確保された一貫システムの構築です。システム構築のためには、販路の確保や高付加価値化、製造・利用技術の低コスト化が必要です。また、地域においてバイオマス資源の生産、加工・流通、消費、調達を一貫することも求められています。たとえば岡山県真庭市においては、発電規模1万KWのバイオマス発電が稼働しています。
政府では、バイオマス利活用の課題解決のため、103の市町村をバイオマス産業都市に選定しました。バイオマス産業都市では、経済性が確保された一貫システムの構築と、地域の特色を活かすバイオマス産業を軸とした地域づくりが行われています。
本記事ではバイオマスの特にエネルギー利活用について詳しく解説しました。主要なバイオマスのエネルギー変換技術は、以下の通りです。
バイオマスの利活用技術を取り入れるには、バイオマス活用の課題や産業規模について理解しておくことも大切です。バイオマスの種類や使用用途を確認して、適切なエネルギー変換技術やマテリアル製造技術を利用しましょう。