添加物は食品の保存期間をのばしたり、香りをつけたりできる一方、使い方を誤ると健康に有害な影響を与えるリスクがあります。
しかし、添加物製造に関連するルールは複雑であり、理解することが難しいと感じる方もいるでしょう。
そこで本記事では添加物製造について解説します。製造加工業の定義や製造基準などについても説明するので、ぜひ参考にしてください。
目次
本章では、食品添加物に関する基礎的な知識を解説します。
食品添加物の定義やリスクについて、チェックしておきましょう。
食品衛生法における食品添加物の定義は、以下のとおりです。
“食品の製造の過程において又は食品の加工もしくは保存の目的で、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によって使用するものをいう。”
引用:食品衛生法第四条二項
食品添加物は食品の栄養価を高めたり、色や風味を良くしたりする効果がある一方、摂取量を誤ると人体に悪影響を及ぼすものがあります。
そのため、厚生労働省は食品添加物の利用や製造に対し、さまざまな基準を設けています。
以前は「食品添加物は危険」といったイメージがありました。
しかし、現在は食品衛生法に基づいたリスク管理・リスク評価を徹底することにより、食品添加物の危険性は低減されるようになりました。
さらに、厚生労働省は定期的に添加物の安全性を見直し、危険性が高いと判断されたものを添加物名簿から削除しています。
食品添加物の安全性はこれらの施策によって担保されているものです。
今後も新たな施策の実施や、基準の変更が起こる可能性もあるため、添加物製造業は常に法制度や省令を確認しなければなりません。
参照:食品添加物のリスク管理 食品の安全を目的とした行政の対応について|厚生労働省
食品添加物は、大きく分けて4つに分類されます。本章では、それぞれの特徴について解説します。
指定添加物とは、食品衛生法第十二条に基づき、厚生労働大臣によって認定された添加物です。
“人の健康を損なうおそれのない場合として内閣総理大臣が食品衛生基準審議会の意見を聴いて定める場合を除いては、添加物(天然香料及び一般に食品として飲食に供されている物であつて添加物として使用されるものを除く。)並びにこれを含む製剤及び食品は、これを販売し、又は販売の用に供するために、製造し、輸入し、加工し、使用し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。”
引用:食品衛生法第十二条
指定添加物の種類は食品衛生法施行規則別表第1にある「指定添加物リスト」に記載されています。なお、化学的合成品・天然添加物の種別はありません。
既存添加物は平成7年の食品衛生法改正時に新設された分類であり、長年使用された実績から、安全性があると判断された添加物です。
ただし、使用実態がないものや、危険性があると判断されたものは名簿から削除されています。
天然香料とは動植物由来の原料を利用しており、既存添加物と同様に長年使用された実績から健康被害がないと判断された添加物です。
食品衛生法において、天然香料は以下のように定義されています。
“この法律で天然香料とは、動植物から得られた物又はその混合物で、食品の着香の目的で使用される添加物をいう。”
引用:食品衛生法第四条の三
天然香料の基原物質(原材料)の種類は「天然香料基原物質リスト」に記載されています。
一般飲食物添加物とは、添加物としても利用できる食品を指します。食品衛生法における一般飲食物添加物の定義は以下のとおりです。
”一般に食品として飲食に供されているものであって添加物として使用されているもの”
引用:食品衛生法第十二条
一般飲食添加物の種類は「一般飲食添加物品目リスト」に記載されています。
食品に用いられる添加物を製造する業種が、添加物製造加工業です。本章では、添加物製造加工業の定義などについて解説します。
添加物製造加工業は食品衛生法第十一条に則って規格が定められている添加物の製造・加工を行う事業です。
添加物製造加工業を開業するには、厚生労働省から営業許可を得なければなりません。
なお、添加物の輸入・貯蔵や運搬・販売のみを行う場合であれば、営業許可は必要ありません。
添加物製造加工業の営業許可が求められる範囲は、以下のとおりです。
添加物製造加工業を開業するため、実際に営業許可が必要な作業が含まれるかどうか事前に確認しておきましょう。
添加物製造加工業においては、営業を行う施設について、細かく施設基準が設けられている点に注意しなければなりません。
施設基準は自治体ごとに異なっているため、開業する際はあらかじめ確認しましょう。
食品添加物に関しては、種類別に製造基準が定められています。
自社で製造する添加物の製造基準は、必ずチェックしましょう。
参照:製造基準|厚生労働省
添加物一般の製造基準は以下のとおりです。
“1.添加物を製造し、又は加工する場合は、その製造又は加工に必要不可欠な場合以外には、酸性白土、カオリン、ベントナイト、タルク、砂、ケイソウ土、二酸化ケイ素若しくは炭酸マグネシウム又はこれらに類似する不溶性の鉱物性物質を使用してはならない。
2.別に規定するもののほか、添加物の製剤は、添加物(法第10条に基づき指定されたもの、天然香料、一般に食品として飲食に供されている物であって添加物として使用されるもの及び既存添加物名簿に記載されているものに限る)及び食品(いずれも法第11条第1項に基づき規格が定められているものにあっては、その規格に合うもの、水にあっては食品製造用水に限る。)以外のものを用いて製造してはならない。
3.組換えDNA技術によって得られた微生物を利用して添加物を製造する場合には、厚生労働大臣が定める基準に適合する旨の確認を得た方法で行わなければならない。
4. 微生物を用いて酵素を製造する場合には、微生物の菌株として、非病原性の培養株以外のものを用いてはならない。また、微生物の菌株として毒素を産生する可能性のある培養株を用いる場合には、精製の過程で毒素を除去しなければならない。
5.添加物を製造し、又は加工する場合には、特定牛の脊柱を原材料として使用してはならない。ただし、次のいずれかに該当するものを原材料として使用する場合には、この限りではない。
(1)特定牛の脊柱に由来する油脂を、高温かつ高圧の条件の下で、加水分解、けん化又はエステル交換したもの
(2)月齢が30月以下の特定牛の脊柱を、脱脂、酸による脱灰、酸若しくはアルカリ処理、ろ過及び138℃以上で4秒間以上の加熱殺菌を行ったもの又はこれらと同等以上の感染性を低下させる処理をして製造したもの”
添加物一般に関する製造基準には、製造工程はもちろん、原料に関連するルールも含まれています。かなり細かく記載されているため、見落とさないように注意しましょう。
引用:製造基準|厚生労働省
亜塩素酸水とは、食品を殺菌するために用いられる添加物です。
亜塩素酸水は塩化ナトリウムを用いて製造されます。
その際、日本薬局方塩化ナトリウムか、日本薬局方で定める基準に適合しているものを用いる必要があります。
過酢酸は酢に似た強い刺激臭が特徴であり、殺菌に用いられる添加物です。
過酢酸を製造する際、原料は成分規格と適合している氷酢酸・水で稀釈した氷酢酸の水溶液・過酸化水素でなければなりません。
過酢酸製剤とは、過酢酸・酢酸・過酸化水素・1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)を含む混合水溶液であり、殺菌に利用されます。過酢酸製剤の製造基準は、以下のように定められています。
“過酢酸製剤を製造する場合には、過酢酸又はそれぞれの成分規格に適合する氷酢酸、氷酢酸を水で希釈した液、過酸化水素、1-ヒドロキシエチリデン-1・1-ジホスホン酸若しくはオクタン酸を原料とし、過酢酸又は氷酢酸若しくは氷酢酸を水で希釈した液及び過酸化水素に1-ヒドロキシエチリデン-1・1-ジホスホン酸を混合したもの又はこれにオクタン酸を混合したものでなければならない。”
引用:製造基準|厚生労働省
過酢酸製剤が添加物に指定されたのは2016年と、比較的最近です。
過去には流通が禁止されていましたが、添加物指定されて以降、製造基準等を順守すれば製造できるようになりました。
参照:過酢酸及び過酢酸製剤の規格基準の改正に係る経緯について|厚生労働省
かんすいとは、主に中華麺の製造で利用されるアルカリ性水溶液であり、麺の風味や食感を作るために不可欠な添加物です。
かんすいは化学的合成品の場合のみ、以下の製造基準が適用されます。
”かんすいを製造し、又は加工する場合には、それぞれの成分規格に適合する炭酸カリウム(無水)、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸類のカリウム塩又はナトリウム塩を原料とし、その1種若しくは2種以上を混合したもの又はこれらの水溶液若しくは小麦粉で希釈したものでなければならない”
引用:製造基準|厚生労働省
なお、かんすいは過去に自家使用を目的とした製造に別途で注意が告示されるなど、比較的厳しく管理されている傾向があります。
参照:製めん業者が自家使用を目的として調製・製造するかんすいの取扱いについて|厚生労働省
タルクは無機鉱石の一種である滑石を利用した添加物です。
タルクを製造する際は、アスベストを含まない不溶性の鉱物性物質を原料にしなければなりません。
本章では、以下の表に該当する添加物の製造基準について解説します。
出典: 食品添加物製造基準|公益財団法人日本食品化学研究振興財団
これらの添加物は、添加物別に製造基準が設定されています。
上記に該当する添加物の製造基準は、以下のとおりです。
出典: 食品添加物製造基準|公益財団法人日本食品化学研究振興財団
先述した表に記載されている添加物に関しては、上記以外の溶媒を利用した抽出が認められていません。
天然香料等の製造基準は、かなり細かく決められており、種類別に異なります。自社で製造する添加物と照らし合わせて、見落としがないように注意しましょう。
本章では、添加物製造に着手する際の注意点について解説します。
添加物製造において、安全性と有効性はもっとも注意しなければならないポイントです。
厚生労働省は添加物を「人の健康を損なう恐れがなく、かつその使用が消費者に何らかの
利点を与えるものでなければならない」と捉えています。
そのため、厚生労働省が安全性・有効性がないと判断すると、当該添加物が製造できなくなる可能性があります。
参照:食品添加物の指定及び使用基準改正に関する指針(別添)|厚生労働省
添加物製造は常に食品衛生法の影響を受けるものです。
そのため、法改正が行われると、特定の添加物の製造が中止されたり、製造基準が変更されたりする場合があります。
万が一法制度に違反すると、営業許可を取り消されるうえに、懲役・罰金のような実刑が科せられる恐れがあります。
事業を継続するためにも、法改正があった際は内容を正確に把握しましょう。
場合によっては、新規の法令に合わせて製造ラインや原料の見直しなどをしなければなりません。
参照:違反事例|厚生労働省
添加物は食品衛生法など、さまざまなルールを理解したうえで製造しなければなりません。
いずれの添加物も製造基準などが細かく定められているため、必ずチェックしましょう。
万が一法制度に違反すると、営業許可が取り消されるリスクがあります。
リスクを避けるためにも、添加物に関する最新の情報は逐一確認してください。