バイオテクノロジーは、我々の生活の中の様々な分野で利用されています。私たち人類は昔から、動植物の持つ性質や特徴を上手く活用しながら生活してきました。例えば、納豆や味噌は「発酵」というバイオテクノロジーを利用しています。
本記事では、バイオテクノロジーとはどのようなものなのか、バイオテクノロジーの歴史、さらには各分野の製造例を解説します。バイオテクノロジーに興味をお持ちの方は、ぜひ最後までお読みください。
バイオテクノロジーとは生物のもつ能力や特徴を利用して、人間の住む社会や環境をより良くする技術のことです。遺伝子や細胞などを研究したうえで、その結果を医療や薬品、農業、食品など多くの分野で応用していく技術といえます。
参考:経済産業省 バイオテクノロジーが拓く『第五次産業革命』 (P7)
図のとおり、バイオテクノロジーは幅広い分野で発展の可能性を秘めていることから、さらなる研究が待たれます。
バイオテクノロジーとは、「バイオロジー(生物学)」と「テクノロジー(技術)」を合わせた言葉です。この言葉は1980年ごろに生まれましたがバイオテクノロジーの概念自体は新しくなく、古くから納豆の発酵などを代表として、人間にとって身近な技術として使われていました。
バイオテクノロジーは日本語でいうと「生物工学」や「生命工学」と呼ばれることもあります。
ここからは、テクノロジーを知るうえで大事なキーワードを2つお伝えします。
【DNAとゲノムと遺伝子】
参考:厚生労働省『新しいバイオテクノロジーで作られた食品について』p.3
全ての生物の細胞の中には、DNA(デオキシリボ核酸)という物質が存在します。DNAはACGTで表現される4つの物質が複数繋がることで作られており、このDNAの全ての情報をゲノムといいます。そして、ゲノムの中でも生物の特徴を決める部分を「遺伝子」と呼んでいます。
生物の特徴を決めるのは遺伝子ですが、実際に働くのはタンパク質と、タンパク質から構成される酵素です。DNAの配列によってタンパク質の性質が決まるため、DNAの配列が変わるとタンパク質の性質が変化します。
あらゆる動植物の遺伝子はその動植物の形や特徴を決めているとされており、親から子に受け継がれています。
ゲノム編集は2000年代から発展してきた技術です。ゲノム編集では生命の遺伝子情報を人工的に書き換え、新しく目的に沿った性質をもつ生物を作り出しています。
ゲノム編集技術を上手く使えばすでに利用されている動植物に直接改良ができるので、目的の変異が起こるまで長い時間待つ必要がなく、大幅な時間短縮を行えます。
ゲノム編集は、現代のバイオテクノロジーの中でも注目を集めている技術であり、医学や農業、さらには工業まで幅広い分野への応用が期待されています。
参考:首相官邸『遺伝子治療とゲノム編集治療の研究開発の現状と課題』
この章では、バイオテクノロジーの歴史を古代・近代・現在の3つの時代に分けて説明します。
古代の人々は経験や知恵を利用し、生きていくために微生物の力を借りて発酵食品や保存食を作るようになりました。これがバイオテクノロジーの原点とされています。
例をあげるとすると、酒やチーズなどは、古くから発酵技術を用いて作られてきました。微生物が糖分を分解して、アルコールや乳酸を作り出すことでこれらは作られています。
古代の人々は収穫量が多くなったり、味が良くなったり、保存期間が長くなる発酵技術を発見して、その技術を利用するようになりました。
バイオテクノロジーは、1970年代に遺伝子工学技術が発明されたことで急速に発展しました。遺伝子工学技術は生物の遺伝子を操作する技術であり、この技術を利用することで、病気の治療や、環境問題の解決などが期待されるようになりました。
近代に発展したバイオテクノロジーの例は、次のとおりです。
近代におけるバイオテクノロジー技術の多くは、現代においても引き続き研究されています。
DNAなどの生体分子を研究する技術が進歩したことで、現代のバイオテクノロジーは近代よりさらに発展しました。
ここでは、現在主流となっているバイオテクノロジー技術、注目のキーワードについてそれぞれ解説します。
ゲノム編集は、2012年にアメリカのジェニファー・ダウドナ博士達によって発見された遺伝子編集技術です。
ゲノム編集の技術によって、DNAの遺伝子情報を狙った個所で切り取ったり、書き換えたりすることができるようになりました。
人工肉は、植物や細胞培養の技術を利用して作られる食べ物です。人工肉には、大豆などの植物ベースの成分から作られる代替肉と、動物のクローン細胞を培養して作られる培養肉があります。
2010年代以降、人口増加と食料不足がとくに問題視されるようになり、動物の細胞を培養して肉を作り出す研究が多く行われてきました。2013年にはマーク・ポステンとピーター・ヴェルスターが、最初の人工肉バーガーを開発し、発表しました。
この章では、今まで説明してきたバイオテクノロジーの技術が、各分野でどのように利用されているかを説明していきます。
食品分野では、多くのバイオテクノロジーの技術が利用されています。ここではいくつかの製造例をお伝えします。
人工肉とは、動物性の肉と似た食感や味がする植物性または微生物や動物細胞を培養して製造された食品です。人工肉はこれら天然の動物以外のタンパク質や脂質を原料として作られていて、環境だけでなく健康にもよいと言われています。
インポッシブル・フーズ社は、遺伝子改変した酵母を使って大豆由来の肉の味に近い食品を開発しました。そして、その食品を使用してファストフードチェーンであるバーガーキングが「Impossible Whopper」という商品を販売しました。
現在、アメリカでは多くのバイオ関連の企業が人工肉に関する事業に関わっていて、人工肉はアメリカやヨーロッパにおいては一般的な食材となっています。
遺伝子組み換え食品とは、ある生物の遺伝子に別種の生物の遺伝子を組み込ませて製造した穀物や食品を指し、栄養価を高めたり、害虫に対して強い(遺伝子を持たせる)などの特徴を持たせた食品のことをいいます。
遺伝子組み換え食品は、トウモロコシや大豆など幅広い穀物や食品で利用されています。
現在、日本では遺伝子組み換え穀物などの商業栽培は行っていませんが、アメリカから加工用や飼育用で輸入しています。日本では食品表示をする際に原料に遺伝子組み換え食品を用いた場合は、その旨を記載しなければなりません。
ヨーグルトや味噌などの発酵食品は昔からある微生物の力によって作られた食品ですが、これらもバイオテクノロジーといえます。
ビタミンやミネラル、アミノ酸などの栄養価を多く含むことから、古くから世界中で愛されています。
バイオテクノロジーは、農業のさまざまな課題を解決し、これからも持続可能な農業を実現していくために重要な役割を担っています。
実際に、バイオテクノロジーに分類される遺伝子組み換え技術は、農作物の品種改良でよく利用されています。遺伝子組み換え技術があれば、特定の外来遺伝子を組み込むことで病気や害虫に強く、収穫量が安定し、栄養価が高い農作物を作れます。
また、農薬や肥料を減らす技術も開発されており、農作物の成長に必要な栄養素を効率的に供給できます。
そして近年では環境に優しい農業が開発され、持続可能な農業への移行が進められています。
バイオテクノロジーは、医療分野で多く利用されています。ここでは、医療分野に絞りバイオテクノロジーの応用方法を解説します。
バイオ医薬品は、遺伝子組換え技術や細胞培養技術を用いて製造した高分子のタンパク質由来の有効成分を持つ医薬品です。現在では、抗がん剤や抗生物質など多くの医薬品開発に活かされています。
例として抗体やホルモン、サイトカイン、酵素などがありますが、これらは複雑な三次構造を持つ高分子のタンパク質です。化学合成される医薬品の殆どは低分子の化合物に限定される事から高分子タンパク質を製造する手法として微生物や培養細胞の持つタンパク質合成システムを利用しています。
実際に、糖尿病治療に欠かせないインスリンの生成には、バイオテクノロジーの技術が利用されています。
またバイオテクノロジーを活かして作られた薬やワクチンは、品質が安定し、副作用のリスクが低いとされています。
遺伝子医療は、異常な遺伝子を修正したり欠損した遺伝子を補ったりすることで病気の治療を試みる技術です。
バイオテクノロジーを用いることで、今までは治療することが難しかった遺伝子疾患にも対応できるのではないかと期待されています。
参考:首相官邸『遺伝子治療とゲノム編集治療の研究開発の現状と課題』
今後、バイオテクノロジーの分野ではさらなる技術発展への期待が大きくなっています。世界的な人口増加によって食物不足の危険性が大きくなってきている中、バイオテクノロジーにより収穫量が多く、過酷な環境でも育っていく食物が開発されています。
また再生医療や遺伝子医療により、今まで治すことが難しかった病気に関しても予防や治療法の確立が進んでいます。また病気の早期発見に繋がる技術の研究も進んでおり、バイオテクノロジーの活用はさらに広がるでしょう。
これからも多様な分野において、バイオテクノロジーにはさらなる注目が集まると考えられています。バイオテクノロジーの発展について最新の情報を入手し、新しい発見に繋げていきましょう。