近年は科学の発展により、さまざまな物質を生成できる技術が開発されました。
バイオコンバージョンもその一種であり、企業で活用されるケースも増加しています。
しかしバイオコンバージョンは専門的な用語であり、類似の技術もあるため、概要がよくわからないと感じる方もいるのではないでしょうか。
本記事では、バイオコンバージョンの意味や活用するメリットなどについて解説します。
実際の活用事例や進められている研究についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
まずは、バイオコンバージョンの定義について解説します。
バイオコンバージョンとは、「生物が持つ代謝機能を活用することで、安価な物質から付加価値の高い物質を生成するプロセス」です。
化粧品や薬品に使用される化合物には、生成が難しいものも少なくありません。しかし、バイオコンバージョンを活用すれば、微生物や動物組織ホモジネートのような生物触媒から効率的に化合物を生成できます。
バイオコンバージョンは安全性が高い状態で生成できるため、医薬品や食品など、人体に関わる製品を製造する現場で活用されています。
現在もバイオコンバージョンの研究は進められており、より多彩な分野で応用される可能性が高い技術です。
ビジネスにおいても、バイオコンバージョンを活用するケースは今後も増加していくでしょう。
バイオコンバージョンと混同しやすい技術に、バイオプリザベーションがあります。
バイオプリザベーションは微生物に由来する抗菌物質を利用し、食品を保存する技術です。
バイオプリザベーションに利用される物質にはバクテリオシンなどがあり、カビや細菌のような有害な微生物の増殖を防ぐ効果があります。
適切に活用すれば、食品の腐敗を防止し、長期的な保存を実現できます。
バイオプリザベーションに利用される物質は特定の対象にのみ作用するため、人体に影響を及ぼしません。そのため、安全に食品を保存する技術として注目を集めています。
バイオレメディエーションもバイオコンバージョンのように微生物を使いますが、こちらは環境保全のために用いられます。
バイオレメディエーションは、微生物や植物などの生物が持つ分解能力や蓄積能力などを活用し、地下水や土壌などの汚染を浄化するための技術です。
バイオレメディエーションは低コストで実施できるうえ、生物由来の作用を活用するため、環境負荷を抑制できます。さらに広範囲の汚染浄化ができる点も、バイオレメディエーションのメリットです。
多くの企業が実用しているのは、バイオコンバージョンにはさまざまなメリットがあるためです。
本章では、バイオコンバージョンのメリットについてそれぞれ解説します。
先述したように、バイオコンバージョンは生物由来の触媒を利用しており、安全性が高く、穏やかな環境で利用できる技術です。
そのため、人体への影響を配慮しなければならない健康食品や化粧品などに応用できます。
さらに、通常の手段では生成が難しい物質や、供給量が少ない高価な物質でも、バイオコンバージョンなら安価に生成できる可能性があります。
より高品質な製品を開発するうえでも、バイオコンバージョンは効果的な技術です。
生物由来の触媒を利用するバイオコンバージョンは環境負荷を削減する効果も期待できます。
バイオコンバージョンは一般的には化学合成に比べて有害な廃棄物を排出しないうえ、再生可能な原料を利用する事もあるため、持続可能性が高いプロセスです。
副生成物も抑えられるため、環境に最大限配慮しなければならない事業でも利用できます。
実際、生分解性の環境に優しいバイオプラスチックの生成に微生物が利用される例があるなど、バイオコンバージョンは環境事業にも活用されている技術です。
ただし、バイオコンバージョンで遺伝子組み換えの微生物を利用する場合があるため、組換え微生物の環境への流出のリスクには注意し、環境省などの遺伝子組み換えに関する法規制にも対応する必要があります。
また副生成物が発生するリスクがゼロではないので、生産プロセスへの配慮も欠かせません。
バイオコンバージョンは効率的な有機合成を実現できます。従来の手法では合成に時間がかかる物質でも、バイオコンバージョンなら効率的かつ安価に製造できる可能性があります。
例えば、近畿大学では高価で供給量が少ないローヤルゼリーに含まれる10HDA(希少脂肪酸10-ヒドロキシ-2(E)-デセン酸)をバイオコンバージョンで生成するプロセスを確立しました。
近畿大学が確立した方法は酵母を利用しており、よりスムーズな有機合成が期待できます。
本章では、バイオコンバージョンの応用事例について解説します。ビジネスで取り入れる際の参考にしてください。
化粧品メーカーであるアモーレパシフィックでは、バイオコンバージョンで朝鮮人参に含まれる美容成分の合成に成功しています。
アモーレパシフィックでは、肌に優れた効果を発揮するジンセノサイドと呼ばれる成分に着目していました。
しかしジンセノサイドは朝鮮人参にごく微量しか含まれていないため、大量生産には不向きでした。
そこでアモーレパシフィックは、朝鮮人参に含まれる酵素の朝鮮人参ヒドロラーゼを活用し、バイオコンバージョンによってジンセノサイドを生成する方法を確立しました。
その結果、希少な美容成分の大量生産に成功し、さらなる展開が期待されています。
参考:朝鮮人参のバイオコンバージョン(Bio-conversion)技術|AMORE PACFIC
バイオコンバージョンは、不要な物質の変換にも用いられています。
かつて、用途がない不活性リン化合物は海洋に投棄されるのが一般的でした。
しかし海洋への投棄は環境への影響が大きいうえに、リン資源を無駄にする行為です。
そのため、広島大学ではバイオコンバージョンによる不活性リン化合物の資源化技術が確立されました。
この研究では、不活性リン化合物をほとんど生物が利用できるリン酸化合物に変換する技術が実践されています。
参考:不活性リン化合物のバイオコンバージョンによる資源化技術の開発|科学研究費助成事業データベース
奈良先端科学技術大学院大学では、生分解性プラスチックの発酵生産をバイオコンバージョンで実現しました。
これにより特定の細菌を使うことでプラスチックを構成するポリエチレンテレフタレートを、環境負荷の少ない生分解性プラスチックに変換できます。
奈良先端科学技術大学院大学の技術は、石油由来の物質であるプラスチックを生分解性プラスチックに変換する画期的なものです。現在ではプラスチック汚染の解決につながる技術として、注目を集めています。
参考:生分解性プラスチックの発酵生産|奈良先端科学技術大学院大学
健康増進に役立つ成分を生成するうえでも、バイオコンバージョンは有効的です。
神戸大学の吉田健一博士と田中耕生博士は、希少な生理活性イノシトールをバイオコンバージョンで生成する研究を進めています。
生理活性イノシトールは、糖尿病やアルツハイマーの治療への効果が期待されている成分です。
両博士は枯草菌を利用し、米ぬかや麦などから生理活性イノシトールを生成するプロセスを開発しました。生理活性イノシトールのような成分は社会的ニーズが高く、大量生産技術の確立は大きなインパクトをもたらすと期待されています。
参考:枯草菌を活用する生理活性イノシトールの開発|吉田健一・田中耕生
バイオコンバージョンは生物由来の触媒を利用し、希少な化合物の生産を可能とする技術です。
大量生産に向かない化合物であっても、バイオコンバージョンなら効率的に生成できます。
さらに環境負荷が少なく、安全性も高いため、食品や医薬品などを製造する現場で多用されるようになりました。
バイオコンバージョンは、多くの企業や研究機関で積極的に実践されており、革新的な成果も残しています。ビジネスにおいても、バイオコンバージョンは有用な技術として今後さらに注目を集めていくでしょう。
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