「きのこの菌糸の培養方法について知りたい」「菌糸の最適な培養条件とは」と悩む方は多いでしょう。
菌糸の培養ではきのこの種類に応じて最適な条件が異なるため、それぞれに適した環境を整え維持することが大切です。
本記事では、きのこ菌糸の培養方法や種類別の培養条件について、きのこの栽培工程とともに徹底解説します。
きのこ菌糸の培養時のポイントも紹介しているので、最後までご覧ください。
目次
この章では、きのこ栽培の種類と栽培に適したきのこについて解説します。
参考:国立国会図書館|デジタルコレクション きのこの栽培方法(標準技術集) 調査対象技術の技術概要
原木栽培は、天然の状態できのこが発生する樹木を用いて栽培する方法です。
下記に、原木栽培の特徴と適合するきのこについてまとめました。
特徴 | 栽培基質 | 適したきのこ |
・自然の樹木に種菌を接種して栽培する・原木の利用形態によって5種類に分類される長木栽培伐根栽培普通原木栽培短木断面栽培殺菌原木栽培 | ・自然にきのこが発生する樹木 | ・シイタケ・ナメコ・ヒラタケ・マイタケ・エノキタケ・ブナハリタケなど |
一般的に、原木栽培は自然の林地などで行われます。
しかしシイタケ原木栽培の収穫量向上のため、ハウス型栽培、多植型栽培、集中ホダ化型栽培なども取り入れられています。
菌床栽培は、現在のきのこ栽培の主流技術です。本記事では菌床栽培を前提として解説します。
下記に、菌床栽培の特徴と適合するきのこについてまとめました。
特徴 | 培地の材料など | 適したきのこ |
・発生室や栽培舎などの屋内で行う・促成栽培で生産性を高められる | ・オガコやチップ(きのこの種類によってはコーンコブや綿実カスなども使用される)・栄養剤・添加剤・水 | ・シイタケ・ナメコ・マイタケ・タモギタケ・ヤナギマツタケ・ホンシメジなど |
菌床栽培はオガコやチップ等の培地基材や栄養剤、添加剤、水等を混合したものを培地とし、瓶や袋等の容器に詰めて行います。
栄養剤には窒素源や培養初期に必要な栄養素を補給する役割があり、菌糸の伸長促進や培地の安定化を目的として炭酸カルシウムなどが添加されます。
堆肥栽培は、稲わらを主体とした堆肥(コンポスト)を使用してきのこを栽培する方法です。
下記に、堆肥栽培の特徴と適合するきのこについてまとめました。
特徴 | 培地の材料など | 適したきのこ |
・温度などの環境条件が品質や収穫量に影響する | ・稲わら・敷きわら・窒素源・水など | ・マッシュルーム・フクロタケ・ヒメマツタケなど |
コンポストを使用するため、栽培工程の前半では稲ワラ等の原材料を発酵させる作業(予備加湿、一次発酵、二次発酵)が必要です。
その後、完成した堆肥に種菌を接種・培養し、きのこ(子実体)を育成、収穫するという流れで進みます。
この章では、きのこ菌糸の培養方法について解説します。
培地の調製は、大まかに下記の手順で進められます。
オガコや栄養剤の配合比率は菌糸の伸長スピードやきのこの発生量に大きな影響を与えるため、きのこの種類や目的に応じて工夫します。
また栽培手法によっては、配合比率だけでなくオガコの粒の粗さも考慮する必要があります。
作成した培地は瓶や袋などの容器に詰めますが、きのこによって適した容器が異なる点には注意しましょう。
例えば、シイタケは耐熱性のある透明または半透明の袋に詰めるのが理想とされる一方、マイタケやブナシメジは瓶での栽培が適しています。
参考:国立国会図書館|デジタルコレクション きのこの栽培方法(標準技術集) 1-2-2 培地調製工程
殺菌工程の目的は、有害な細菌やカビを除去し、きのこの種菌が容易に繁殖できるようにすることです。
殺菌手法には「高圧殺菌」と「常圧殺菌」の2種類があります。
高圧殺菌は、密閉型の殺菌釜を使用する方法です。蒸気飽和状態で釜の内部の気圧を高めることで、発生した高温の蒸気によって殺菌処理します。
殺菌釜内と培地の間では温度上昇のタイミングにズレがあるため、培地の滅菌ムラが起きやすい点に注意しましょう。殺菌釜ごとに温度上昇パターンに特徴があるため、釜の雰囲気温度と品温の経時変化を確認しておくことが重要です。
常圧殺菌は、蒸気を吐き出す無圧の釜を使用する方法です。殺菌時間はおよそ2〜4時間必要ですが、殺菌時間が長すぎると培地の養分が変質する可能性があります。消火の目安は、培地内部の温度が98度に達してから4〜6時間程度としてください。
殺菌処理のあとは、清潔な環境下で培地温度を20度以下まで冷却します。このとき、空気中の微生物が混入しないよう注意が必要です。
参考:国立国会図書館|デジタルコレクション きのこの栽培方法(標準技術集) 1-2-3 殺菌工程
種菌の接種工程では、きのこの元になる種菌を培地に植え付け菌床をつくります。
種菌の接種時には培養容器を開封するため、空気中に浮遊している微生物や、器具などの消毒不足による害菌汚染への警戒が必要です。
いわゆるコンタミネーションを防ぐため、下記の項目を徹底してください。
種菌の接種量はきのこの種類や容器の大きさで異なることから、それぞれで適切な量を守ることが重要です。
接種量の過多は収量増加に繋がるものの、通気不良が発生するリスクもあります。
一方、接種量が不足すると菌がない培地部分において、有害な菌の発生を誘発する危険性が高まります。
接種時の菌床の温度は、およそ15〜20度が目安です。接種後は接種室を清掃し、殺菌剤や紫外線殺菌などで消毒し次回の接種に備えます。
参考:国立国会図書館|デジタルコレクション きのこの栽培方法(標準技術集) 1-2-5 接種工程
菌糸の培養は、培養初期の「菌回り」と培養後期の「熟成」に分けられます。
菌回りとはきのこ菌糸が培地に活着、伸長していくことで、菌床全体が菌糸に覆われる現象です。菌回りによる、代表的なトラブルと主な要因を下記に示しました。
トラブル例 | 主な原因 |
種菌が活着しない | 培養管理温度が低い種菌の接種量が少ない種菌の老化など光照射環境での培養 |
菌糸の蔓延スピードが遅い | 培地の固詰め水分量が多いおがこの粒度など |
菌床の仕上がりが薄い | 栄養不足害菌類の混入など |
菌糸の蔓延にムラがある | 殺菌不十分によるバクテリア類などの汚染高温障害など |
菌回りの影響要因は多岐にわたるため、一つひとつの工程を慎重に行うことが大切です。
菌床へ菌糸が蔓延したあとの培養期間を、熟成と呼びます。熟成期間はきのこの種類によって大きく異なるため、それぞれで確認が必要です。
参考:国立国会図書館|デジタルコレクション きのこの栽培方法(標準技術集) 1-2-6 培養工程
主な工程とその概要を下記にまとめました。
工程 | 目的 | 内容・特徴 |
菌かき、注水 | ・きのこの元となる原基の形成促進・芽出しを揃える | ・瓶での栽培で行う・瓶の上部に接種した種菌を除去、新たに成長した菌床表面を露出させる |
覆土 | ・きのこの重量を増やす・良い形を形成する | ・空調環境における瓶容器でのハタケシメジ、ホンシメジ栽培で行う・培地によっては省略可能 |
芽出し | きのこ(子実体)を発生させる | ・子実体を発生させる環境を整える・培養袋のカットや浸水 |
抑制 | エノキタケの栽培で、生育を揃え、生産性を向上させる | 生育時期の前半に、温度を3〜5度の低温かつ光照射する |
育成 | きのこを発生させ、育成する | きのこの種類や品種、栽培手法によって大きく条件が異なる |
育成段階におけるきのこの栽培では、きのこの種類と栽培手法に応じて、温度・湿度、酸素・二酸化炭素、光条件を確認、整えることが大切です。
参考:国立国会図書館|デジタルコレクション きのこの栽培方法(標準技術集) 1-2-7発生・育成工程
この章では、きのこの菌糸を培養するときのポイントを解説します。
温度と湿度を一定に保つことは、菌糸の培養で非常に重要なポイントです。条件が不安定な環境では、収量や品質に悪影響を及ぼします。
下記の表に目安としての条件を示しているので、ぜひ参考にしてください。
きのこの種類 | 培養条件(温度、湿度) |
シイタケ | 18〜22度(培養初期は低温)、70〜80% |
ナメコ | 15〜20度、60〜65% |
マイタケ | 25度前後(培養初期は20〜22度)、65〜70% |
ヒラタケ | 18〜22度、60〜70% |
ブナシメジ | 20〜23度、70% |
エノキタケ | 14〜15度、75%前後 |
エリンギ | 23度、65〜70% |
管理すべき条件を把握したうえで、適切な環境を維持することが大切です。
参考:国立国会図書館|デジタルコレクション きのこの栽培方法(標準技術集) 1-2-6 培養工程
きのこの培養では、二酸化炭素や光条件の管理もポイントです。
【二酸化炭素条件】
きのこは成長や増殖のために、酸素(O₂)を吸収し二酸化炭素(CO₂)を排出する呼吸を行います。
下記に代表的なきのこの培養期間における、酸素、二酸化炭素の目安濃度をまとめました。
きのこの種類 | 酸素、二酸化炭素濃度 |
シイタケ | O₂:できるだけ高く、CO₂:3000ppm以下 |
マイタケ | CO₂:1000ppm以下 |
エノキタケ | CO₂:3000ppm以下 |
エリンギ | CO₂:2000ppm以下 |
タモギタケ | CO₂:3000ppm以下 |
ハタケシメジ | CO2:3000ppm以下 |
【光条件】
きのこの培養は、原則として暗黒状態で管理します。光照射環境でも培養できるものの、種菌の活着や成長を遅らせる原因となるため注意が必要です。
しかし、シイタケやマイタケにおいては、培養後期に弱い光を照射することで成長が促進されるといわれています。
参考:国立国会図書館|デジタルコレクション きのこの栽培方法(標準技術集) 1-2-6 培養工程
きのこ菌糸の培養期間を把握することは、効率的なきのこ栽培には大切なポイントです。
代表的なきのことその培養期間をまとめました。
きのこの種類 | 培養期間 |
シイタケ | ・1.2〜1.5kgの菌床:80〜100日・2.5〜3.5kgの菌床:120〜130日 |
ナメコ | 45〜60日 |
マイタケ | 35〜40日 |
ヒラタケ | 20〜30日 |
ブナシメジ | 80〜100日(この内、菌回りは30〜40日) |
エノキタケ | 23〜28日 |
エリンギ | 瓶栽培:35〜40日、袋栽培:45〜50日 |
培養期間は、きのこによって大きく異なります。対象となるきのこの種類がどの程度の時間を要するのかを把握しておくと、効率的な栽培に役立ちます。
参考:国立国会図書館|デジタルコレクション きのこの栽培方法(標準技術集) 1-2-6 培養工程
きのこの菌糸の培養では、コンタミネーションの回避が必要です。
きのこ菌糸以外のカビや細菌が混入していると、菌糸の生長を阻害したり、品質を低下させたりする原因になります。
コンタミネーション防止のため、下記に留意してださい。
なお、種菌の接種量が少なすぎる場合、有害な菌などを誘発する可能性が高まります。
これまではキノコの固体培養(栽培)により人工的にキノコの菌糸を培養し、子実体を得る方法を紹介してきましたが、キノコの菌糸は液体の培養タンクでも製造する事ができます。キノコの菌糸液体培養のメリットは、子実体栽培に比べ培養日数が約1/10程度と大幅に短縮できる事にあります。
また培地中に基質としてキノコが作る有用な代謝物の元になる原料を加える事で、子実体栽培に比べ均一に基質原料が拡散し目的の代謝産物を効率的に生産、回収できるメリットや有害菌のコンタミネーションのリスクが子実体栽培に比べ大幅に減らす事ができる点があります。
デメリットとしてはキノコ栽培に比べ液体培養方法が確立していないキノコ菌糸も数多くあるので、キノコ菌糸の液体培養実績を持つ専門の製造受託メーカーに相談してみると良いでしょう。
菌糸の培養は、菌床栽培におけるきのこ栽培の工程の1つです。調製した培地に種菌を接種した後、菌糸を伸長、生育させるため、最適な環境を整えます。
温度や湿度、酸素や二酸化炭素濃度、光の適切な値はきのこの種類により大きく異なるため、事前に確認しておく必要があります。
また、菌糸培養の成功にはコンタミネーションを防止することも大切です。
培地の殺菌後に実施する培地の冷却工程において、空気中の微生物が混入しないよう十分注意しましょう。
きのこ菌糸の培養では、1つひとつのステップを確実に実施してください。また子実体の栽培がどうしても難しい場合は、菌糸の液体培養に切り替え液体培養受託メーカーに相談してみる事も一つの方法です。
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