酵母菌は発酵食品に欠かせない微生物の一種であり、私達にとって身近な存在です。
酵母菌には人間にとって有益な効果を持つため、多彩な活用方法が模索されてきました。
昨今はパンやビールだけでなく、サプリメントや化粧品の開発などにも酵母菌が使われるようになっています。
そこで本記事では、酵母菌の効果や代表的な種類など、酵母菌の活用事例について解説します。ぜひ参考にしてみてください。
目次
酵母菌はパン・ビール・味噌など、身近な食材に使用されており、私達の生活にも大きな関わりを持つ微生物です。
ここでは、酵母菌の特徴や、人間にもたらす効果について解説します。
酵母菌は真核生物に分類される微生物の一種であり、キノコやカビと同じ仲間です。
土壌中・空気中・水中など、酵母菌は自然界のさまざまな場所に生息しており、皮膚の表面や消化管などにも住んでいます。
酵母菌の種類は1000を超えており、なかでもサッカロミセス・セレビシエは世界中で利用されています。
古来より、酵母菌はパン製造・酒造・発酵食品の製造など、主に食品作りで活用されてきました。日本では日本酒作りに清酒酵母を、味噌・醤油作りに耐塩性酵母を使用しています。
参考:
みんなの発酵BLEND|酵母とは
農林水産省|にっぽんの発酵食品
酵母菌は糖を炭酸ガスとアルコールに分解し、食品の発酵を促進する効果があります。発酵食品の製造において、この働きは欠かせません。
また、酵母菌は人体にも良い影響を与えるものとして注目されています。感染症抑制・肥満防止・コレステロール低下・発がん抑制など、酵母にはさまざまな効果が期待できます。
そのため健康食品や美容製品の分野でも、酵母は積極的に利用されるようになりました。
酵母菌にはさまざまな種類があり、用途に合わせて活用されます。ここでは、代表的な酵母菌の種類をそれぞれ解説します。
パンの製造に用いられる酵母菌はイーストとも呼ばれており、パン生地を膨らませるうえで不可欠です。
パン酵母はサッカロミセス属であり、ホップス種・パネトーネ種・サワー種などがあります。用いる酵母によってパンの風味や保存性が変わるなど、株ごとの個性が強い点が特徴です。
パン酵母はパンだけでなくクッキーのようなお菓子の調理にも利用されるほか、バイオテクノロジー・飼料・医薬品・健康食品などでも活用されています。
ビール酵母はパン酵母と同様に、サッカロミセス属の酵母です。発酵の過程で麦汁の栄養素を吸収する性質があり、ミネラル・ビタミン・食物繊維など、豊富な栄養素を含んでいます。腸内環境を整える作用もあり、便秘の解消にも効果が期待できます。
高い栄養素を摂取できるため、ビールの製造だけでなく料理やサプリメントにも用いられるなど、注目度が高い酵母です。
清酒酵母とは、主に日本酒の製造に用いられる酵母でサッカロミセス属の酵母が多く用いられています。
日本酒に用いられる清酒酵母には大きく分けて2種類あり、蔵つき酵母ときょうかい酵母があります。
蔵つき酵母とは代々酒蔵に自生してきた酵母であり、かつて日本酒の味は酒造が所有する蔵つき酵母によって決まるものでした。しかし、木樽などに自生する蔵つき酵母は品質管理が難しく、日本酒の質が安定しないため、現在ではあまり使われていません。
対して、きょうかい酵母は蔵つき酵母に代わり、日本の酒造を支えている酵母です。日本醸造協会が日本各地の酒蔵に配布している酵母であり、さまざまな酒蔵に生育する酵母を研究して生み出されました。
耐塩性酵母とは、塩分濃度が高い環境でも発酵ができるサッカロミセス属や、その類縁種の酵母です。日本では主に醤油や味噌作りに用いられており、海外ではチーズやソーセージ作りなどに活用されています。,
耐塩性酵母は醤油や味噌の複雑な風味を作るうえで欠かせないものであり、メーカーによっては日本酒のように蔵つき酵母を用いる場合もあります。
トルラ酵母は第一次世界大戦中のドイツで開発された酵母です。タンパク質が確保できる食料資源として開発され、調味料・サプリメント・家畜用飼料・食品用添加物として活用されてきました。
トルラ酵母は核酸の含有量が高く、安全性も高いことから、世界中で活用されている点が特徴です。
古来より、酵母菌は発酵食品や調味料の製造に用いられてきました。現在では酵母菌のさまざまな活用方法が発見されたことにより、より広いジャンルで活用されています。
本章では、酵母菌の代表的な活用方法について解説します。
酵母菌の代表的な活用方法は、やはりパンや日本酒など食品への利用です。酵母菌による糖の分解作用はパンを膨らませたり、発酵を促進させたりと、食品を加工するうえで欠かせないものです。
さらに酵母菌には発酵食品の独特な風味や香りを作り、うま味を強める効果もあります。
日本に限らず、世界各国の発酵食品の多くは、酵母菌があるからこそ成り立っているものです。そのため現在でも、安定して高品質な酵母菌を生成・保存する研究が進められています。
また、酵母菌の豊富なうま味を活用した調味料も開発されています。酵母菌から抽出した酵母エキスを利用した調味料は複雑で深いうま味を実現するため、さまざまな料理や加工食品に用いられています。
現在は酵母菌の豊富な栄養素を活用したサプリメントの開発も盛んに行われています。ビール酵母やトルラ酵母を用いたサプリメントは日本のみならず、世界中で販売されるようになりました。
昨今は健康のために積極的に菌類を摂取する菌活がブームになったこともあり、酵母菌を活用した食材だけでなく、サプリメントにも注目が集まっています。
特にビールメーカーや酒造メーカーのように製造過程で酵母菌を使用する企業は、自社特有の酵母菌を活用し、独自のサプリメントを実現しています。
酵母菌は食用だけでなく、土壌改良にも使用されるケースも少なくありません。パン酵母やビール酵母から抽出された酵母エキスは、豊富なビタミンやミネラルを含んでおり、農業で活用すれば農作物の生育促進が期待できます。
さらに酵母菌は土壌中の細菌を活性化することにより、有害物質を分解するだけでなく、土壌の質を向上させる点も魅力です。
ここではさまざまな企業による、酵母菌の活用事例を3つ紹介します。
アサヒバイオサイクル株式会社では、ビール酵母を活用し、スタジアムやゴルフ場などの施設緑化に取り組んでいます。
同社のビール酵母資材は土壌微生物相の健全化や、芝の根の成長促進など、さまざまな効果を発揮しています。
ビール酵母資材は成長促進や土壌の質改善だけでなく、化学肥料や農薬の使用量削減にも貢献しました。芝の質も向上し、色ツヤが増したうえにクッション性が高まったことで、選手の負担削減やイレギュラーバウンドの減少も実現しています。
また同社の取り組みは、温室効果ガスの削減による環境問題の解決にもつながっています。
株式会社秋田今野商店は醸造に必要な種麹や酵母菌などを製造している企業であり、創業110年を超える老舗です。
秋田今野商店は豊富なノウハウと所有する膨大な種菌を活用し、酵母菌を化粧品や医薬部外品素材に応用する事業を展開しています。
元々、同社は醸造メーカーとの取引が主流でした。しかし化粧品に応用できる天然保湿因子の発見や酵母菌を活用したサプリメントの開発に伴い、一般消費者向けの商品製造に乗り出しています。
さらに現在、同社は自社の研究を活用し、生物農薬原体や研究用試薬などさまざまな分野にも注力しています。
参考:中小企業庁 化粧品・医薬部外品素材としての天然保湿因子の探索と生産技術の開発
関西に拠点を置く繊維・化学メーカーの東洋紡株式会社は、植物油脂を酵母菌を用いて発酵することにより、サーフメロウの精製に成功しています。
サーフメロウは天然由来の界面活性剤であり、付着性・拡展性・濡れ性に優れている点が特徴です。農薬と併用して使用すれば農薬の使用量を減らせるうえ、ある種の病原菌の抑制も可能です。
さらに同社ではオリーブオイルを酵母菌で発酵させ、セラメーラと呼ばれる化粧品原料を開発しています。セラメーラは水と接触するだけでラメラを形成するなど、疎水性・親水性が高い糖脂質です。優れた保湿性と肌のバリア機能に近い構造を持つため、化粧品の効果を向上させる効果が期待できます。
参考:
東洋紡株式会社|酵母が生み出すサステナブルな機能性展着剤 サーフメロウ®
東洋紡株式会社|Ceramela®
酵母菌はただ発酵を促進するだけでなく、豊富な栄養素を持つため、古来より世界中で利用されてきました。近年はその効果に注目が集まり、食品だけでなくサプリメントや化粧品の開発・土壌改良など、さまざまな場面で活用されるようになりました。
現在では多くの企業でも酵母菌のさまざまな活用方法が新たに見出されており、多くの実績を上げています。
酵母菌をビジネスに活用する際は、実際の活用事例を参照してください。新たな活用方法のヒントが見つかる可能性が高まります。
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