「乳酸菌飲料の製造について知りたい」「乳酸菌飲料を製造するときのポイントは何か」と悩む方は多いでしょう。
コロナ禍により健康志向の高まる現在、乳酸菌市場は好調であるため事業参入のチャンスととらえる企業は少なくありません。
しかし乳酸菌飲料の製造には知識が必要であり、事前にポイントを身につけておかなければいけません。
そこでこの記事では、乳酸菌飲料の製造の基本について徹底解説します。
乳酸菌飲料の規格や製造許可、衛生管理のポイントまで幅広く扱っているため、ぜひ最後までご覧ください。
目次
乳酸菌飲料の製造には、「乳処理業」「乳製品製造業」「清涼飲料水製造業」いずれかの許可が必要です。
また、乳酸菌飲料は「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和 26 年厚生省令第 52 号)」(乳等省令)により、成分規格や製造方法の基準が定められており、規則を遵守しなければなりません。
さらに一般衛生管理システムのほか、国際食品規格であるHACCPに沿った管理の実施も義務付けられており、徹底した安全管理が必要です。
この章では、乳酸菌飲料の製造と規格について解説します。
乳酸菌飲料と発酵乳は、厚生労働省が定めた「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」において、次のように定義されています。
【乳酸菌飲料】
乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させたものを加工し、又は主要原料とした飲料(発酵乳を除く。)をいう。
【発酵乳】
乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ、糊状又は液状にしたもの又はこれらを凍結したものをいう。
乳等省令では乳などの製品以外でも、容器包装についての規定があります。
下記の表に、乳酸菌飲料と発酵乳の成分規格についてまとめました。
種類別 | 無脂乳固形分 | 乳酸菌または酵母の数 | 大腸菌群 |
乳酸菌飲料 | 3.0%未満 | 1,000万/ml以上 | 陰性 |
乳製品乳酸菌飲料 | 3.0%以上 | 1,000万/ml以上 | 陰性 |
乳製品乳酸菌飲料(殺菌) | 3.0%以上 | – | 陰性 |
発酵乳 | 8.0%以上 | 1,000万/ml以上 | 陰性 |
発酵乳(殺菌) | 8.0%以上 | – | 陰性 |
ここで、乳酸菌飲料は「乳等を主要原料とする食品」、発酵乳および乳製品乳酸菌飲料は「乳製品」に分類されます。乳製品となる乳酸菌飲料は、無脂乳固形分が3.0%以上含む点がポイントです。
無脂乳固形分とは、牛乳から水分を除いた全栄養成分から、さらに乳脂肪分を除去した成分のことです。主にタンパク質や乳糖、ミネラルが挙げられます。
参考:
厚生労働省|乳等省令における規定(抜粋)
(一社)日本乳業協会 「乳と乳製品のQ&A」ホームページ
下記に、乳酸菌飲料などの製造方法の基準を示します。
乳酸菌飲料(※無脂乳固形分3.0%未満のもの)および乳製品乳酸菌飲料(殺菌含む、※無脂乳固形分3.0%以上のもの) | 発酵乳(殺菌含む) |
・原液の製造に使用する原水は、食品製造用水であること ・原液の製造に使用する原料*は63℃で30分間加熱殺菌するか、同等以上の殺菌効果を有する方法で殺菌すること*乳酸菌及び酵母を除く ・原液を薄めるのに使用する水等は、使用直前に五分間以上煮沸するか、同等以上の効力を有する殺菌操作を施すこと | ・発酵乳の原水は、食品製造用水であること ・発酵乳の原料*は、保持式により 63℃で30分間加熱殺菌するか、同等以上の殺菌効果を有する方法で殺菌すること*乳酸菌、酵母、発酵乳および乳酸菌飲料を除く |
乳酸菌飲料、乳製品乳酸菌飲料、乳製品乳酸菌飲料(殺菌)の製造方法の基準は同一として扱います。
また、製造方法のほかに、保存に関する規定もあるので確認してください。
乳酸菌飲料や発酵乳の表示基準は、「発酵乳・乳酸菌飲料の表示に関する公正競争規約」で定められています。
ここでは「必要な表示事項」について概要を記載します。
表示事項 | 内容 |
種類別 | 乳等省令で定められた成分規格のうち、下記のいずれかを表示。・乳酸菌飲料・乳製品乳酸菌飲料・乳製品乳酸菌飲料(殺菌)・発酵乳・発酵乳(殺菌) |
無脂乳固形分 | ・無脂乳固形分と乳脂肪分の重量%は、小数第1位まで表示・乳脂肪分以外の脂肪分を含むものは、油脂の個々の名称と各重量%を表示 |
原材料名および添加物 | 重量割合が高い順に記載。 |
原料原産地名 | 重量割合が高い原産地名を記載。 |
内容量 | mgまたはgを使用。 |
賞味期限又は消費期限 | ・原則として年月日を表示・凍結した発酵乳(フローズンヨーグルト)、殺菌した発酵乳、乳製品乳酸菌飲料において、賞味期限が3か月を超える場合は年月で表示可能 |
保存の方法 | ・「10℃以下で保存してください」等と具体に表示・フローズンヨーグルトや殺菌した発酵乳、乳製品乳酸菌飲料は、品質保証のできる具体的な方法で表示 |
事業者の氏名又は名称及び住所 | 事業者の氏名(法人の場合はその名称)と住所を記載。 |
栄養成分の量及び熱量 | 食品表示基準に従って記載。 |
この他にも、特別事項の表示やその他の事項の表示があります。
参考:公正取引委員会|発酵乳・乳酸菌飲料の表示に関する公正競争規約及び同施行規則
この章では乳酸菌飲料の製造工程について解説します。
乳酸菌飲料と発酵乳では工程が少し異なるため注意してください。
乳酸菌飲料の一般的な製造工程は、次のとおりです。
ビンや樹脂製容器などに充填する
大まかな流れとしては、発酵タンクで発酵→シロップなどを添加→希釈水で濃度を調整→容器充填するという順で進みます。
発酵乳の製造工程は、「前発酵」と「後発酵」の2パターンに分けられます。共通する工程とともに下記にまとめました。
【共通する工程】
【前発酵の場合】
共通する工程に続いて、下記手順で製造します。
前発酵は加熱殺菌した原材料に乳酸菌を添加し、発酵後、果汁・果肉等を加えて最後に容器に充填する方法です。
【後発酵の場合】
共通する工程に続いて、下記手順で製造します。
後発酵は加熱殺菌した原材料に乳酸菌を添加、容器に充填後、保温し容器内で発酵させる方法です。
参考:(一社)全国発酵乳乳酸菌飲料協会「発酵乳・乳酸菌飲料の知識」ホームページ
この章では、乳酸菌飲料の製造許可とHACCPによる衛生管理について解説します。
乳酸菌飲料の製造には、「乳処理業」「乳製品製造業」「清涼飲料水製造業」のいずれかの許可証が必要です。
以前は「乳酸菌飲料製造業」の許可業種がありましたが、業種の見直しにより乳処理業などの許可業種に統合されました。
食品衛生法旧第20号で製造されていた乳酸菌飲料のうち、生乳を使用したものは「乳処理業」「乳製品造業」で製造可能です。
また生乳不使用のものは「乳処理業」「乳製 製造業」および「清涼飲料水製造業」で生産できます。
下記の表に、許可業種と製造可能な食品についてまとめました。
許可業種 | 乳製品飲料(生乳使用) | 乳製品飲料(生乳不使用) | 清涼飲料水(生乳不使用) |
乳処理業 | ◯ | ◯ | ◯ |
乳製品製造業 | ◯ | ◯ | × |
清涼飲料水製造業 | × | ◯ | ◯ |
乳酸菌飲料は、生乳不使用の乳製品飲料に該当します。
参考:厚生労働省|食品衛生法改正に伴う営業規制の変更について
乳酸菌飲料の製造には、HACCPに基づいた衛生管理が必要です。
令和3年6月1日から、すべての食品等事業者はHACCPに沿った衛生管理を義務とすることが、厚生労働省により定められました。
一般衛生管理だけでなく、食品の安全確保のために食品衛生法において、「衛生管理計画」の作成とともに実施しなければなりません。
HACCPの実施は、一部を除き、大規模事業者だけでなく中小規模も含めた、全ての事業者を対象としています。
HACCPに沿った衛生管理による、徹底した安全管理が必要です。
参考:厚生労働省|HACCPに沿った衛生管理の制度化について
一般衛生管理とHACCPの違いや特徴は、次のとおりです。
【一般衛生管理】
【HACCP】
紹介した2つのシステムは、互いに不足を補う相互補完の関係であり、それぞれが効果的に機能するよう構築、運用することが重要です。
参考:厚生労働省|HACCP 衛生管理の手引書 (発酵乳・乳酸菌飲料)
この章では、乳酸菌飲料の製造における、衛生管理のポイントを3つ紹介します。
乳等省令の製造方法の基準によると「発酵乳の原料(乳酸菌、酵母、発酵乳及び乳酸菌飲料を除く)は、保持式により摂氏 63 度で 30 分間加熱殺菌するか、又はこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で殺菌すること」と規定されています。
さらに、乳酸菌飲料の原液の製造に使用する原料(乳酸菌及び酵母を除く)についても同様に規定されており、製造工程で最も注意すべき管理項目としていることが分かります。
乳酸菌飲料の製造には、乳原料をはじめとした原材料を確実に殺菌することが重要です。
参考:厚生労働省|HACCP 衛生管理の手引書 (発酵乳・乳酸菌飲料)
コンタミネーションの防止も、衛生管理では大切なポイントです。
特にスターター植菌時、使用する細菌以外の微生物の混入による汚染は、必ず回避しなければなりません。
有害細菌などの微生物が誤って混入、増殖した場合、健康被害が発生するリスクが高まります。
使用器具や作業者の殺菌、消毒を徹底的に行い、コンタミネーション防止に努めることが大切です。
また、アレルゲンの混入を防ぐ意味でも器具の殺菌消毒は重要です。
アレルゲンのコンタミネーションも消費者に重大な被害をもたらし得るため、機械や器具の洗浄、原材料の保管・管理を徹底する必要があります。
参考:厚生労働省|HACCP 衛生管理の手引書 (発酵乳・乳酸菌飲料)
微生物による発酵が行われた後は、10℃以下に急冷し品質の維持管理を行います。冷蔵状態で保管、流通することで、微生物の汚染や増殖、過剰発酵などのリスクを回避できます。
また、乳等省令には、発酵乳や乳酸菌飲料などの保存や関連事項について、下記のように基準が設定されています。
乳酸菌飲料の製造には、適切な保管および流通も大切です。
参考:厚生労働省|HACCP 衛生管理の手引書 (発酵乳・乳酸菌飲料)
乳酸菌飲料の製造には、「乳処理業」「乳製品製造業」「清涼飲料水製造業」のいずれかまたは複数の許可が必要です。
また乳酸菌飲料には乳等省令で定められた定義や成分規格があり、法令の遵守が必要です。製造および保存基準も規定されているため、規定に沿った生産および流通を実施してください。
さらに乳酸菌飲料の製造時には一般衛生管理のほか、HACCPによるハザードの特定と制御も必要です。
徹底した管理と運用で、適切な製造を行いましょう。
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