「乳酸菌の培養について知りたい」「乳酸菌の市場動向が気になる」と考える方は多いでしょう。
近年、乳酸菌市場は拡大傾向にあり、今後も需要が高まると予想されています。
乳酸菌の培養は、使用目的を明確にして検討することが重要です。
この記事では、乳酸菌培養の基本と、乳酸菌の市場動向について解説します。
さらに乳酸菌が農業でどのように活用されているかを紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
この章では、乳酸菌の培養の基本について解説します。
乳酸菌を培養する際に用いられる培地は主に2種類です。下記に用途と特徴をまとめました。
種類 | 用途 | 特徴 |
MRS培地 | ・乳酸菌の分離、培養 | ・一般的な乳酸菌の培養に利用される汎用的な培地である・ほとんどの乳酸菌が生育、増殖が可能・クエン酸アンモニウムや酢酸ナトリウムなどを添加することで、一定の細菌選択性を持つ |
PCB培地 | ・乳酸菌数の算出等 | ・「乳および乳製品の成分規格等に関する厚生省令」で定められた、乳酸菌数の測定に用いられる培地・細菌の選択性は低い・肉などの一般製品には利用不可・乳酸菌のコロニーができると黄色くなる |
MRS培地とPCB培地は、乳酸菌培養の目的に応じた使い分けが必要です。
乳酸菌の培養方法は、大きく2種類に分けられます。下記に用途および特徴をまとめました。
種類 | 用途 | 特徴 |
固体培養 | ・乳酸菌の分離、培養・乳酸菌数の測定・コンタミネーション(汚染)の確認・乳酸菌の純化 | ・培養液に寒天などを混合し固めたもの・単一の乳酸菌のみの培養が可能・乳酸菌が増殖すると培地に円形のコロニーが観察できる |
液体培養 | ・乳酸菌を増やす増菌培養・乳酸菌飲料などの製造 | ・乳酸菌が増殖すると液体が変色する・乳酸菌の回収が容易・環境(条件)の制御が容易 |
微生物学や感染症検査などでは、固体培養で単一の細菌を分離、培養し液体培養で増菌するという流れが一般的です。
乳酸菌を培養する際の条件を下記に記載します。紹介するのは乳酸菌の一般的な培養条件であり、菌株や目的によって最適な条件が異なることに注意してください。
項目 | 条件 |
温度 | 30~37℃ の範囲 |
pH | 5.0〜8.0の範囲 |
添加剤 | ・アジ化ナトリウム(好気性微生物増殖抑制)・シクロヘキシミド(真菌増殖抑制)・炭酸カルシウム(乳酸菌識別用)・酢酸ナトリウム(有機酸による細菌増殖抑制)・クエン酸アンモニウム(有機酸による細菌増殖抑制)など |
添加剤は、主に乳酸菌以外の微生物の増殖を抑制する目的で利用されます。
アジ化ナトリウムは嫌気性菌である乳酸菌には無害ですが、好気性の細菌(雑菌)の増殖を防ぎます。
シクロヘキシミドはカビなどの真菌の増殖を防ぎ、乳酸菌等の細菌の増殖には影響を与えません。
乳酸菌は有機酸による細菌増殖抑制に対し比較的耐性を持つので、雑菌の増殖抑制のため酢酸ナトリウムやクエン酸アンモニウムなどの有機酸を培地に添加します。
炭酸カルシウムを添加すると培地が白濁しますが乳酸菌が生産する乳酸により中和されるため、コロニー周辺がクリアになり区別しやすくなります。
参考:田中尚人 Japanese Journal of Lactic Acid Bacteria Vol.30, No.1, (2019)
この章では乳酸菌を培養する際の注意について解説します。
コンタミネーションは、培養する際に最も注意すべきことの1つです。
コンタミネーションとは、日本語で「混入」や「汚染」と訳され、意図しない細菌などの微生物が混入、増殖してしまうことです。コンタミネーションが発生すると、目的の細菌が増殖できなかったり、死滅したりしてしまいます。
コンタミネーション防止には、下記項目の徹底が重要です。
もしコンタミネーションが発生した場合、培地を速やかに廃棄し、ほかの培地に汚染が広がるのを防ぐ必要があります。
参考:田中尚人 Japanese Journal of Lactic Acid Bacteria Vol.30, No.1, (2019)
乳酸菌を培養する際には、pHの低下に注意が必要です。
乳酸菌は、ブドウ糖や乳糖などを分解する乳酸発酵の過程で、乳酸をはじめとした有機酸を生成します。
そのため乳酸菌を培養すると産生された酸により、培地のpHが低くなり酸性に傾きます。
培地の酸性化は、乳酸菌以外の雑菌が増殖するのを抑制できるのが大きな利点です。
しかし酸を作り出した乳酸菌自体も増殖率が低下したり、菌が死滅したりするためpHの管理には気を配る必要があります。
参考:田中尚人 Japanese Journal of Lactic Acid Bacteria Vol.30, No.1, (2019)
ストレス因子も、乳酸菌の培養に注意すべきポイントです。
乳酸菌にとっての代表的なストレス因子は、次のとおりです。
ストレス因子は乳酸菌の生育の抑制や死滅を招く恐れがありますが、ストレス因子を上手く利用することで乳酸菌の分離が可能です。
例えば、エタノールを含む培地で乳酸菌を培養するとアルコール耐性のない細菌の繁殖が抑制され、エタノールに強い細菌が生育するため、エタノール耐性をもつ乳酸菌が分離できます。
菌株によってストレスとなる要素が異なるため、培養したい乳酸菌の特性を見極めることが大切です。
参考:田中尚人 Japanese Journal of Lactic Acid Bacteria Vol.30, No.1, (2019)
この章では、世界の乳酸菌の市場動向について解説します。
世界の乳酸菌及び乳酸市場規模は、2022年の評価額で60億9000万米ドルであり、2030年には227億5000万米ドルに到達すると予想されています。
乳酸菌が作り出す乳酸は食品や化粧品業界だけでなく、医療、医薬品、さらには農業などさまざまな分野で活用されていきました。
特に次の特徴を持つポリ乳酸(Poly Lactic Acid, PLA)は、生鮮食品の包装や有機廃棄物袋、耐久消費者製品などのさまざまな市場において採用の拡大が見られます。
また、化粧品業界などの成長も乳酸菌市場の拡大要因の1つです。
化粧品業界では古くから乳酸が使用されており、昨今は化粧品やパーソナルケア商品、ヘアケア製品が好調です。今後も乳酸菌の市場拡大に貢献すると考えられます。
参考:FORTUNE BUSINESS INSIGHT|スペシャリティ&ファインケミカル/乳酸菌市場
乳酸菌の市場が拡大している背景には、新型コロナウイルスの感染拡大が大きな要因として挙げられます。パンデミックによる影響の例は、次のとおりです。
また、化粧品業界などの売り上げ増加の背景として考えられる要因を、下記に記載しました。
SNSの拡大やデジタル技術の急速な発展、オンライン売買へのハードルの低下により、化粧品などのパーソナル製品の成長は今後も継続することが見込まれます。
参考:FORTUNE BUSINESS INSIGHT|スペシャリティ&ファインケミカル/乳酸菌市場
この章では、日本における乳酸菌の市場動向について解説します。
民間の調査会社によると2021年の乳酸菌関連商品の市場はおよそ7,784億円と市場が急伸しており、今後も需要が拡大すると予想されています。
商品動向としては、「免疫力向上」や「ストレス緩和」「睡眠サポート」などの機能性をアピールした製品が好調です。
具体的には、下記の製品が挙げられます。
製品 | 効果 |
iMUSE プラズマ乳酸菌サプリメント (キリンホールディングス) | ・健康な人の免疫機能の維持に役立つ |
届く強さの乳酸菌W (アサヒホールディングス) | ・睡眠の質を高める・腸内環境の改善に役立つ |
Yakult 1000(Yakult) | ・ストレス緩和・睡眠の質向上・腸内環境改善 |
現在では各社が保有するそれぞれの菌株の特性を利用し、新しい効果を狙った商品を販売することで、新規顧客の拡大に寄与していると考えられます。
参考:
TPCビブリオテック|2022年 乳酸菌関連商品の市場分析調査
TPCビブリオテック|2021年 食系企業の乳酸菌事業戦略調査
KIRIN|免疫ケアで体を内側から守ろう
Asahi|届く強さの乳酸菌W
yakult|Yakult 1000
日本で乳酸菌市場が拡大している背景と要因は、次のとおりです。
新型コロナウイルスのパンデミックにより健康への意識が向上したことから、免疫力や睡眠の質などのキーワードへの関心が高まり、売り上げが伸びていると考えられます。
また、各メーカーが乳酸菌の新しい健康効果に関する研究を推進し、健康に関心の高い消費者のニーズに応えられるよう成長している点も重要です。
さらに新商品の開発にもとづく、新たなトクホや機能性表示食品を取得することで、消費者がより自分にあった商品選択ができるようになっている点も、要因の1つと予想されます。
参考:
TPCビブリオテック|2022年 乳酸菌関連商品の市場分析調査
TPCビブリオテック|2021年 食系企業の乳酸菌事業戦略調査
この章では、乳酸菌を農業で活用する方法について解説します。
農業分野においては、乳酸菌を利用した「農業用乳酸菌資材」の利用が進められています。
乳酸菌資材の活用で得られる効果を、下記の表にまとめました。
効果 | 概要 |
作物の成長促進 | ・土壌中の有機物分解による、作物の栄養吸収の易化・収穫量の改善など |
作物の品質向上 | ・米などの食味の改善・栄養価の向上・小松菜などの野菜の旨みの増加・ブドウなどの糖度の増加など |
土壌の改良 | ・土壌微生物の活性化・土壌中の栄養バランスの調整など |
病害虫対策 | ・有機物分解による、カビや病原菌の発生を抑制・イモチ病の発生抑制・カボチャやキュウリなどのウドンコ病の抑制など |
堆肥の発酵促進 | ・速やかな有機物の分解による、堆肥の発酵促進 |
乳酸菌資材は天然由来の素材から製造されるため、環境や人体への影響が少なく安全に利用できるのが特徴です。
参考:
松井三郎ら、日本水処理生物学会誌 第48巻 第3号 117 – 123 (2012)
丸本卓哉、山口大学農学部 35号 53-85 (1988)
稲WCS(イネWhole Crop Silage)とは、完熟前の稲の穂および茎葉を刈り取り、ロール状に成形、乳酸発酵させたものです。多くはフィルムでラッピングされ、乳牛や肉牛の飼料として利用されます。
しかし、稲WCSの製造には下記の点が課題であるとされてきました。
稲に自然に付着している乳酸菌のみでは十分な発酵が行われないうえ、有害な細菌が繁殖し栄養素の低下や腐敗のリスクが発生します。
しかし乳酸発酵可能な乳酸菌を十分添加して発酵を促せば、良質なサイレージの調製が可能です。
これまでには効率的な稲WCSの製造や米ぬかを用いた乳酸菌培養液の調製などの研究が行われており、農業で活用される乳酸菌の好例といえます。
参考:
山本るみ子、尾張農林水産事務所農業改良普及課 (2012)
蔡 義民、MAFF Microorganism Genetic Resources Manual No.15
斉藤健一ら、千葉県畜産総合研究センター研究報告 第14号45-49,(2014)
乳酸菌の培養では、どのような性質を持つ乳酸菌を分離したいかという目的に応じた培養方法を選択することが大切です。最適な培地の種類や培養方法、培養条件などは、どの種類の乳酸菌を何の目的で培養するかによって大きく変化します。
菌株の特性を知り、利用目的を明確にしてください。
現在では、日本を含む世界において乳酸菌市場が拡大しています。ポリ乳酸などの採用拡大や、デジタル化の急速な発展などにより、今後も市場は増大すると考えられます。
さらに、農業分野でも乳酸菌が活発に活用されている点も見逃せません。人や環境に優しい乳酸菌資材などにより、ますます乳酸菌の需要が増大すると予測されます。
一覧へ戻る