研究開発コラム
発酵技術 環境(SDGs、アップサイクル)

【自然の力で水を浄化】微生物を活用した排水処理について

排水処理とは、汚水を定められた水質に処理することです。生活や事業に利用された水や工業用水は、下水管に入り下水場できれいな水に処理されます。処理された水は河川や海に放流されて、自然の中へと戻される仕組みです。

このとき汚水の処理が適切に行われなければ、川や海が汚染されてしまい、農作物も充分に育たなくなります。そのため汚水を処理することは、環境にもビジネスにも重要です。

本記事では微生物を活用した排水処理の方法について、詳しく解説します。代表的な微生物も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

排水の生物処理とは

下水や汚染水から有害な物質を分解・浄化するために微生物を活用することを、排水の生物学的処理法といいます

近年、環境問題への関心が高まり微生物を活用した排水処理の重要性が高まっています。

その中で排水の生物処理は、地域社会や地球環境に貢献する重要な技術として位置付けられてきました。

生物処理を使えば有機物や窒素、リンなどの汚染物質を分解・除去し、安全な水質に戻せます。

このような排水処理の基本的なプロセスは、次のとおりです。

  1. スクリーンによって、異物をろ過する
  2. 沈殿池に移り沈砂、汚泥の異物が沈殿する
  3. 曝気槽(ばっきそう:圧縮空気を送り込む水槽で、排水中の有機物を好気性微生物が代謝する事を促進する)に排水が送られ、フロック(好気性微生物の塊)と接触させる。ここで微生物が有機物を摂取・分解する
  4. 最終沈殿池で汚水にあるフロックを沈殿させる
  5. 沈殿したフロックの一部を取り除き、残りを曝気槽に戻す

上記の処理により、曝気槽始点でのBOD(微生物が分解するときに使う酸素の量)が曝気槽終点では95%以上減る事(BODが減る=好気性細菌による有機物分解が進み、残存する排水中の有機物が減った事を示します)が理想とされています。

参考:
排水処理における生物学の基礎
水の汚れのものさしとなるBOD – 上下水道 – 高崎市公式ホームページ
微生物図鑑|東京都下水道局

排水における生物処理のメリット

従来、生物処理とは異なるメカニズムで排水処理が行われてきたものの、人的コストや環境面での問題がありました。しかし生物処理ではそれらの問題が改善され、従来よりも運用しやすくなっています。

ここでは、生物処理の大きなメリットをより詳しく解説します。

環境への負荷が少ない

排水の生物処理では化学物質を使わずに自然の生物学的プロセスを利用して水を浄化するため、環境への負担が少なくなります。

生物処理によって浄化された水が環境中に放出されても、化学物質の放出がないことから自然への影響を抑えられます。

再生可能なリソースの回収が可能

排水の生物処理によって浄化された水は、再利用やリサイクルのために活用できます。特に農業用水や工業用水として再利用されることで、水資源の節約に繋がります。

操作や維持が比較的容易

生物処理では自然にある生物学的プロセスを利用しているため、構造自体も単純で維持しやすいです。

物理処理や化学処理では、高度な科学技術や多くの処理エネルギーが必要でした。

対して微生物を利用する処理では、人為的・機械的な操作を加える必要もありません。

地域経済の活性化

生物学的排水処理法を維持していくためには適切な施設や運営が必要であり、新たな雇用を生み出すきっかけとなります。

規模の大きいプロジェクトであれば、地域の活性化や経済の発展などにも期待ができるでしょう。

また必要な科学薬品や機械の導入も少なく、導入の金額的なコストも圧倒的に低い点も魅力です。

排水の生物処理の方法

排水の生物処理は目的や状況に応じて選択され、組み合わせて利用されることもあります。

ここでは、5種類の生物処理法について説明します。

活性汚泥法

活性汚泥法は、曝気槽内で汚水に含まれる好気性生物(酸素を生育のために必要とする菌)と有機物を接触させることによって分解を促す方法です。排水中にある汚染物質を効率よく分解・除去するために広く使われます。

この方法では、汚水が曝気槽と呼ばれる設備に送られます。この曝気槽の底から空気が送り込まれ、微生物が活性化し有機物を分解しながら増殖します。

沈殿槽で浄化された上澄水とフロックが分離され、有害な成分を減少させた残り水が放流されるという仕組みです。

好気性脱窒法

好気性脱窒法は、酸素を利用した代謝機構を備えた生物が水中の酸素を使用し、有機物を水と二酸化炭素に分解します。

窒素除去が必要な下水処理プラントや廃水処理プラントで広く使用されます。

この工程で窒素化合物から窒素が除かれ、窒素ガスとして排出されます。排出された窒素ガスは大気中に放出され、環境への負担を減らします。

参考:好気槽における脱窒に関する調査

微生物膜法(バイオフィルム法)

微生物膜法(バイオフィルム法)とは、接触材の表面に付着して形成された微生物膜によって分解され汚水の浄化を行う方法です。

この膜は0.1um~0.4µmと小さいため良好な浄水結果を得ることができます。

バイオフィルムとは微生物の集団が形成する構造体の総称です。

バイオフィルムには、複数の微生物やその微生物を食べることで育つ微生物種などが存在しています。

排水による負荷が適切で充分な酸素供給があれば、有機酸類は炭酸ガスと水に、アンモニア、硫化水素は亜硝酸、硝酸、硫酸などに酸化されます。

通常は、急速ろ過法の前処理として利用します。

参考:生物膜法による水処理

生物膜反応器(MBR)

生物膜反応器(MBR)は、生物学的処理と膜分離プロセスを組み合わせて汚水を浄化する装置です。バイオフィルム法や活性汚泥法などの生物学的な処理プロセスを利用して、汚水を浄化します。

生物膜反応器(MBR)を用いた方法では、はじめに微生物が多く待機しているMBRタンクに汚水が流し込まれます。この微生物が有機物を分解し、汚染物質を除去します。このプロセスでは、酸素供給が必要となります。

処理が行われた後、処理された水は膜によって遮断され、微生物や浮遊物などが膜の表面に付着します。一方、浄化された水は膜を通過して取り出されます。

生物膜反応器(MBR)を用いると膜によって微生物や浮遊物が効率的に除かれるため、処理された水は高品質の浄水となります。

参考:
MBR(膜分離活性汚泥法)システム
沈殿槽を省いた生物膜式活性汚泥法 – 水処理教室

植物による浄化

植物による浄化は、植物による吸収・分解の作用によって清潔な水を生み出す方法です。

浄化施設で作られた河川敷の植物や、湿地や土壌に植えられた植物が窒素やリン除去の機能を果たします。

植物の根は地下の土壌に埋まっているため、水を吸収する際に土壌中の不純物や汚染物質も一緒に吸い込みます。また水中に溶けている有害な物質や栄養塩などを吸収し、植物の体内に取り込みます。

植物は、根や茎、葉などの部分で、水を浄化するための生物学的な特性を持っています。特定の植物は、水中の有害物質を分解する酵素を生成したり、有害物質を吸着したりすることができます。

また植物の根は微生物の生息地として機能し、土壌中の微生物が有害物質を分解するのを助けます。

参考:自然の浄化力を活用した新たな水質改善手法 に関する資料集(案)

生物処理で利用される微生物の大区分

排水処理で利用される微生物には、様々な種類があります。ここではまず大きな分類である、好気性細菌と嫌気性細菌について解説します。

好気性細菌

好気性細菌は、酸素が豊富な環境で有機物を分解する微生物の総称です。

有機物と酸素を栄養分とし、分解の中で、水・二酸化炭素といった無害な物質を生成します。

嫌気性細菌

嫌気性細菌は、酸素が不足している環境で生息する微生物の総称です。排水処理では、有機物の分解や窒素の脱窒などを行います。

代表的な例には、脱窒細菌があります。これらの微生物は、硝酸塩や亜硝酸塩を窒素ガスに変換することで窒素を除去します。

参考:嫌気性微生物の基礎

生物処理で利用される微生物の種類

排水処理で活躍している微生物などをまとめると、次のようになります。

区分役割微生物の名称
酸素が豊富な環境で生息し、アンモニアを硝酸塩に変換することで窒素を除去硝化細菌
アンモニア細菌
Candidatus Accumulibacter phosphati
酸素のない環境で生息し、酸素がなくても代謝できる。有機物の分解や窒素の脱窒をする脱窒細菌
硝化細菌
硫酸還元細菌
メタン生成細菌
アンモニア酸化細菌アンモニアを亜硝酸塩に酸化するNitrosomonas spp.(ニトロソモナス属)
アンモニアの酸化をして窒素を除去Nitrosococcus spp.(ニトロソコッカス属)
亜硝酸酸化細菌窒素の硝化プロセスの後段で活動し、亜硝酸塩の除去を促進Nitrobacter spp.(ニトロバクター属)
Nitrospira spp.(ニトロスピラ属)
脱窒細菌窒素除去の最終段階で活動し、窒素ガスへの還元をするPseudomonas spp.(シュードモナス属)
窒素の還元反応を触媒し、窒素ガスへの変換を促進Paracoccus spp.(パラコッカス属)
リン蓄積細菌ポリリン蓄積能力を持ち、排水処理プロセスにおいてリンを効率的に除去Candidatus Accumulibacter phosphatis(アキュミリバクター・フォスファティス候補種)
Candidatus Accumulibacter clade IIA(アキュミリバクター・クレードIIA候補種)
好気性リン除去細菌細胞内でリンを蓄積し、細胞内で有機化合物に変換ポリリン蓄積微生物(PAOs)
アシネトバクター属
鞭毛虫有機物を吸収し、光合成を通じて酸素を排出Euglena(ユーグレナ)
Chlamydomonas(クラミドモナス):
藻類有機物や窒素、リンなどの栄養塩を吸収して浄化チャロフィラ(Chlorella)
水中の有機物を吸収し、光合成によって酸素を生成するスピロジラ(Spirogyra)

ここではそれぞれの代表的な微生物の特徴を、より詳しく解説します。

アンモニア酸化細菌

アンモニア酸化細菌は、アンモニアを酸化して亜硝酸を生成する細菌で、その過程で硝酸を生成します。この菌は、自然界の至るところに生息しており、アンモニアの脱臭装置にも利用されています。

亜硝酸酸化細菌

亜硝酸酸化細菌は、亜硝酸を酸化し硝酸に変えます。

硝化・脱窒のプロセスにおいて汚水に含まれる亜硝酸濃度・アンモニア性窒素を下げる働きをします。

参考:亜硝酸酸化細菌の反応を例とした可逆的および不可逆的阻害現象の理論的考察

脱窒細菌

脱窒細菌は、硝酸、亜硝酸を窒素ガスに還元する工程で活用される微生物です。

脱窒細菌は、最終的に亜酸化窒素還元酵素(N2OR)を介して亜酸化窒素(N2O)の還元を促進し、窒素ガス(N2)へと変換します。亜酸化窒素は二酸化炭素の300倍の温室効果を持つオゾン層破壊ガスであるため、脱窒細菌の代謝中間産物である亜酸化窒素を残さないことが重要です。

リン蓄積細菌

リン蓄積細菌は、硝酸を利用してリンを自身に取り込み蓄積する能力を持ちます。

リン蓄積能力やリン除去能力をもっているため、汚水のリン濃度を下げる働きをします。

参考:脱窒性リン蓄積細菌を利用した下水処理技術およびリン資源回収の可能性

鞭毛虫

鞭毛虫は細胞の後端に鞭毛を持つ単細胞生物で、水中で広く生息しています。

光合成によって酸素を生成し、有機物や栄養塩を吸収することで、水中の有害物質を分解し水質を改善します。

参考:原生動物のなかまたち|東京都下水道局

繊毛虫

繊毛虫は、水中の有機物や細菌を摂食し、分解します。取り込んだ有機物によって自身で分裂を繰り返し成長していきます。

藻類

藻類は、水中の栄養塩(窒素、リン、硝酸塩、硫酸塩など)を吸収し、生物の成長や繁殖に利用します。藻類が栄養塩を吸収する働きにより、水中の栄養塩濃度が調整されます。

また光合成活動によって生成された酸素は、水中での酸素供給源となります。

参考:廃水の生物学的処理について(2)

まとめ:微生物のおかげで自然を活用した排水処理ができる

微生物自体はその多くが目には見えない非常に小さい生き物ですが、とても優れた力を持っています。

今では微生物を利用した排水処理が、パルプ・紙・紙加工品製造業、化学工業、鉄鋼業、農業、飲食業、半導体産業など多くの業界で利用されています

特に半導体産業では純度の高い水を使用した洗浄が3割の工程を占めるため、排水処理は非常に重要です。

今後も製造業、鉄鋼業を中心に排水処理の需要は伸びていくでしょう。排水処理を中心とした微生物の活用を、ぜひ新しい事業に繋げてみてください。

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