研究開発コラム

発酵食品とは?開発の歴史やメリット・デメリットを解説

発酵食品は古くから人々の食生活に深く関わっており、世界中でその土地に根差した様々な発酵食品があることが知られています。

本記事では、発酵の定義やその恩恵、そして近年の開発事例に焦点を当て、発酵食品の今後の展望についても考察します。

発酵とは?

近年、発酵食品が健康増進に関与していることが、次々と明らかになってきています。

そこでまずは、そもそも発酵とは何なのかに焦点をあてて解説します。

発酵の定義

発酵とは、 微生物の代謝プロセスにおいて、ヒトにとって有用な有機物質を作る代謝活動をさします。

また狭義には、酸素のない状態で微生物が炭水化物からエネルギーを取り出すことと定義されています。

発酵の種類

発酵にはいくつか種類があることが知られています

酵母によって糖からアルコールと炭酸ガスを生成する「アルコール発酵」が発酵のひとつです。

アルコール発酵の代表的なものは、ワインやビールなどのアルコール飲料、パン酵母によるパン生地の発酵などです。

他にも、乳酸菌によって糖から乳酸が生成される「乳酸発酵」、酢酸菌によってエタノールから酢酸が生成される「酢酸発酵」、コリネバクテリウム属などの菌が糖とアンモニアからグルタミン酸などを生成する「アミノ酸発酵」などの種類があります。

発酵と腐敗の違い

発酵と腐敗は、実は生物学的に見れば大きな違いはありません

どちらも微生物が生きていく代謝の過程で、有機物を分解して元の物質とは異なる物質を生成する現象です。

これは微生物が栄養を取り込んで生きていく上で必要な生理現象であり、特に良い悪いなどということではありません。

しかし呼び方としては明確に決められており、人の生活に有用な場合は発酵、有害な場合を腐敗と呼びます。

発酵と腐敗は、微生物の生命活動を人間の価値基準に当てはめて名前を付けただけに過ぎないといえます。

発酵食品のメリット5つ

ここからは、発酵食品のメリットを5つ解説します。

保存性を高める

発酵食品のメリットのひとつは、保存性を高めることです。

食品を保存する際には、雑菌の増殖、つまり腐敗に気をつけなくてはなりません。

一般に食品中には多量の水分が存在し、雑菌などの微生物が増殖に利用できる自由水と利用できない結合水に分けられます。

発酵食品中に多量に含まれる塩分は自由水と結合して結合水へと変化し、微生物が水分を利用できないようにして増殖を妨げ、腐敗を防止するのです。

また、塩分には浸透圧により微生物の体内からも水分を奪い、直接的に生育を阻害する働きもあります。

一方で、発酵の過程で微生物が生成する乳酸や酪酸などの有機酸は、食品のpHを下げ酸性環境を作り出します。

酸性環境は多くの腐敗菌の増殖を阻害するため、食品が腐敗するのを遅らせることが可能です。

栄養の吸収をスムーズにする

発酵食品の場合、発酵の過程で微生物により食品の成分が分解されるため、もとの食品よりも栄養の吸収がスムーズです

例えば、乳酸菌はヨーグルトやキムチなどの発酵食品中で乳糖や炭水化物などを分解します。

人が消化管で消化をするのは、栄養となる物質を小さく分解して体内に吸収しやすくするためであり、発酵は消化と同じことをしていると捉えられます。

このため、発酵食品は元になった食材よりも身体に負担をかけることなく、栄養を体内に取り入れられるのです。

栄養価を高める

発酵により微生物が食品中の成分を分解・変化させることで新しい栄養素が生成され、元の食品に添加されることで栄養価が高まるケースもあります

例えば発酵食品のひとつである納豆には、もとの食品である大豆よりもビタミンK2が豊富に含まれていることは有名です。

大豆100gあたりのビタミンK2含有量は18µgですが、納豆では870µgに増加します。

また、発酵によって食品中の抗栄養素(栄養の吸収を阻害する物質)が減少し、結果的に体内への栄養素の取り込みが促進される場合もあります。

例えば、発酵によって食品中の抗栄養素のフィチン酸が減少することで、亜鉛などのミネラルの吸収が改善されます。

参考:
文部科学省|食品成分データベース
味噌などの大豆発酵食品による亜鉛栄養改善の可能性

うま味成分を増す

発酵の過程で、微生物がタンパク質を分解してアミノ酸を生成することで、うまみ成分が増します。

味噌や醤油などの発酵調味料やチーズなどの発酵食品には、特にグルタミン酸が多く含まれており、幅広い地域で好まれています。

タンパク質が分解され、つながっていたアミノ酸がばらばらの状態になることで、うま味が感じられるようになります。

発酵は、人が食品を美味しく食べるための方法でもあるといえます。

免疫細胞を活性化させる

発酵食品には、プロバイオティクスと呼ばれる微生物が豊富に含まれています。

プロバイオティクスの有名な効果は、腸内細菌叢のバランスを整え、免疫系を活性化させる働きです。

特に乳酸菌やビフィズス菌、酪酸菌などのプロバイオティクスは、免疫細胞を刺激して免疫応答を強化することが知られています。

プロバイオティクスによってマクロファージやNK細胞などの免疫細胞が活性化され、病原体やがん細胞などの異物に対する免疫応答が促進されます。

その結果、身体の免疫力が向上し、がんや感染症を抑制する効果が期待できます。

参考:2007,Japan Society for Lactis Acid Bacteria|乳酸菌の免疫調節機能

発酵食品のデメリット

ここからは、発酵食品のデメリットについて2つ解説します。

塩分が多い

発酵食品は、一般的に塩分が高い傾向にあります

発酵食品には保存食としての一面があり、塩分の添加は微生物の育成を妨げ食品の保存性を上げる効果が高いからです。(醤油や味噌など塩分の高い発酵食品に用いられる微生物は、耐塩性と言って塩分が多くても増殖可能な菌が用いられます)

過剰な塩分摂取は高血圧や心臓病などの疾患を引き起こす可能性があるため、発酵食品の摂り過ぎによる塩分の過剰摂取には注意が必要です。

また、塩分の摂り過ぎは浮腫にもつながります。

これは、塩分中のナトリウムが水との結びつきが強く、血中のナトリウム濃度が上がることによって血中の水分が増えることが原因です。

健康に良いとされる発酵食品であっても、過剰摂取には気をつけましょう。

糖分が多い

発酵食品には、糖分が多い場合があります

一番顕著な例は加工食品として販売されている発酵食品、例えば加糖タイプのヨーグルトなどです。

これらの製品には保存期間を延長するため、または食べやすくするために砂糖や甘味料が添加されることがあります。

また、酵母を使用してパンやビールを製造する際には糖分が必要です。

特に一般的なパンの場合は、酵母を発酵させてパンを膨らませるために必ず砂糖を加えます。ビールの場合は、麦から製造される麦芽の段階で、酵母が発酵できる糖分(二糖類など)が生成されます。糖分は微生物の発酵に使われるため減少はしますが、一部の糖分は分解されずに残り、発酵食品中には糖分が含まれることになります。

このような発酵食品の食べ過ぎはカロリーの過剰摂取につながるため、適量を食べる事を心がけると良いでしょう。

発酵食品の歴史

ここからは、発酵食品の歴史について解説します。

日本における発酵食品の歴史

日本では、縄文時代から発酵を利用した食品を製造していたとされています

出土した土器からは、酒をつくり儀式などに利用していたことがわかりました。その他にも、魚醤などをつくっていたとされています。

発酵食品の記録として残っている最古のものは、奈良時代の木簡に記された瓜の塩漬けに関するものです。

また、奈良時代には中国からの仏教の伝来とともに大豆も伝わったとされ、醤油や味噌などの発酵食品の元となった「醤(ひしお)」が作られていたようです。

江戸時代には、醤油や味噌、納豆などの発酵食品が一般的な食材として広く使われるようになりました。醤油や味噌、清酒等には主に黄麹菌が使われますが、麹の使用は日本の発酵食品の特徴ともなっています。

近代以降も日本の発酵食品の製造技術は進化し続け、さまざまな種類の発酵食品が注目されています。

参考:考古学から見た日本の醸造食品

世界における発酵食品の歴史

世界各地で発酵食品が製造され、消費されてきた歴史は非常に古く多様です

中東や地中海地域では5000年以上前、アラビアの遊牧民族によってヨーグルトが作られました。

またヨーロッパでも、チーズやワイン、パンなどの発酵食品が発達しました。

特にワインの製造は古代から行われており、潰れたブドウの皮についていた酵母によりブドウが発酵し、偶然できたのがワインとされています。

また古代エジプトでは竈で焼いたパンが主食となっていたうえ、酵母発酵したパンを種とするビールも広く飲用されていました。

すぐに腐敗してしまう水と違ってワインは長持ちするため、「パンとワイン」はヨーロッパの人々の生きる糧として重要な地位を確立したのです。

このように、世界各地で古くから発酵食品が製造され、それぞれの文化や伝統に根付いています。

発酵食品の開発例

現在でも発酵食品はさらに研究され、新しい発酵食品が次々と生み出されています。

以下に発酵食品の開発例を2つ紹介します。

例①石川県工業試験場によるおこめヨーグルト開発

石川県工業試験場では株式会社福光屋と共同し、免疫賦活作用のある乳酸菌を分離し、米を原料としたヨーグルトを開発しています。

工業試験場では蒸した米を米麹によって糖化させ、さらに乳酸菌で発酵させることで独特の酸味と甘みのバランスをもたせることに成功しました。

発酵の条件を検討した結果、1日で1億個以上乳酸菌が増殖し適度な酸味になることがわかっています。

発酵が進みすぎると酸味が強くなってしまうため、発酵を停止するための殺菌処理を施していますが、使用している乳酸菌は死菌であっても健康維持効果があることが示されています。

このヨーグルトは米を原料としているため、乳アレルギーの型にも対応できる機能性食品として注目されている商品です。

参考:石川県工業試験場

例②静岡県による海洋微生物由来の食品の開発

静岡県の水産・海洋技術研究所を中心とした県の各研究所では、海洋微生物を活用した発酵食品の研究を進めています。

静岡県ではシラスやサクラエビなど県の特産品である生物資源や海水・海藻を採集し、そこから海洋由来の微生物を抽出しました。

そして県内の企業と協力して開発をすすめ、シラスから抽出した酵母を用いたサワーエールビールなどを商品化しています。

研究でストックされた微生物のライブラリーは、今後も商品開発につながると期待されています。

参考:
静岡県工業技術研究所 本県オリジナル微生物を活用した静岡サワーエールの開発
静岡県工業技術研究所 海洋資源からのサワービール用乳乳酸菌の分離と評価

まとめ:発酵食品の今後の展望

発酵食品は、健康志向や地域文化の再評価など現代社会のニーズに一致するため、今後も重要性が高まると予想されます

バイオテクノロジーの進展などの技術革新により、新たな発酵食品の開発もなされるでしょう。

また、発酵食品の製造プロセスは通常エネルギー消費量が比較的低いため、環境への負荷が少ないとされています。

現代社会のニーズに応えるため、発酵食品にはさらなる研究やイノベーションが期待されています。

弊社は、微生物の培養や発酵に関する研究開発技術の知見を活かし、新たなモノづくりに挑戦する企業様、研究機関様を募集しています。気になる方は、ぜひ下のボタンからお問い合わせください。

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