研究開発コラム

発酵技術が応用されているシーンとは?バイオ分野の活用例を確認

発酵技術は古くから人類が利用してきた技術ですが、近年の発酵技術のさらなる発展により、新たな領域での応用が開拓されています。

本記事では発酵技術の基礎から応用分野、そしてバイオマスとの関係まで、さまざまな観点から探求していきます

発酵の基本原理や微生物の活動、そしてその幅広い応用分野に焦点を当てながら、持続可能な社会の実現に向けた発酵技術の重要性を探りましょう。

発酵技術の基礎

まずは、発酵の基礎について解説します。

微生物の活動

発酵の基礎は、微生物の生命活動です

微生物は栄養源を利用して、エネルギーを生成するための代謝活動を行います。

代謝の過程で微生物は栄養源である有機物を分解し、そのエネルギーを利用して生命活動を維持します。

微生物が分解された有機物を利用して、新しい化合物を生成する反応が発酵反応です。

微生物が代謝経路を経て生成する化合物には、アルコール、二酸化炭素、有機酸などがあります。

発酵によって生成されたこれらの化合物が、様々な用途に応用されています。

発酵の条件

微生物による発酵プロセスが進むためには、いくつか特定の条件が必要です。

特に微生物の発酵に必須の条件となる温度とpHについて解説します。

温度は、微生物の生命活動に重要な要素です。基本的には高温では殺菌作用、低温では静菌作用があります。微生物の増殖に最も適した温度は微生物の種類によって異なりますが、一般的には25~40℃を適温とする微生物がほとんどです。

なお、発酵に多く使われる乳酸菌は25~45℃の範囲で使用される場合がありますが、至適温度は菌種により異なります。

またpHは環境の酸性・アルカリ性の度合いを示す数値であり、発酵プロセス中のpHは微生物の生育や増殖に大きな影響を与えます。これも微生物によって好まれるpHは異なりますが、一般的にはpH5~8の弱酸性から弱アルカリ性の条件が適しています。

発酵による生成物の多様性

発酵によって、多様な化合物が生成されることが知られています。

糖類やでんぷんなどの炭水化物を発酵させることで、エタノール・メタノール・プロパノールなどのアルコール類が生成されます。

また、同じく炭水化物を発酵の基質として生成されるのが乳酸・酢酸・酪酸などの有機酸です。

有機酸を生成する微生物は、まずは炭水化物を代謝してピルビン酸という中間生成物をつくります。このピルビン酸からさらに代謝が進むと、乳酸やクエン酸、酢酸などの有機酸が生成されます。

また、放線菌や真菌などの一部の微生物は、発酵によって抗生物質を生成します。

他にも、発酵プロセスによって酵素やバイオマスなども得られ、このような微生物の発酵で得られる様々な生成物が抽出・精製されて各産業で使われてきました。

発酵技術の幅広い応用分野

発酵によって得られた多様な化合物は、幅広い産業分野に応用されています

アルコール発酵によって得られたアルコールは、飲料・燃料・化学製品などの用途で利用されます。

また、発酵プロセスによって生成された乳酸・酢酸・クエン酸などの有機酸は、食品の酸味の添加や保存剤としての添加、pH調整、医薬品の製造にも利用されてきました。

そして発酵によって、アミラーゼやプロテアーゼなどの消化酵素も産生されます。このような酵素は、食品加工や洗剤の製造に使われます。

また、近年では「発酵コスメ」と呼ばれる化粧品が商品化されており、酵母や乳酸菌などの発酵で得られた生成物を配合した基礎化粧品が人気です。

他にも、化石燃料に代わるバイオ燃料の生産、バイオテクノロジーとの融合による医薬品の生産など、発酵技術は応用範囲を拡大しています。

発酵技術の応用分野

ここからは、発酵技術の応用分野について2つ、詳しく解説します。

バイオ燃料の生産

発酵技術を応用したバイオ燃料の生産は、持続可能なエネルギー供給の一環として注目されています

微生物の発酵によって有機物がエタノールなどに変換される過程を利用し、主にバイオマスと呼ばれる有機資源から、バイオエタノールやバイオガスなどの燃料を生産します。

バイオエタノールの原料は主にトウモロコシやサツマイモ、サトウキビやテンサイなどで、これらを微生物によってアルコール発酵させ、蒸留して高い濃度のエタノールを作ります。

バイオエタノールの性状は、石油などから作られる合成エタノールと何ら変わりありません。

また、生ごみや紙ごみ、家畜のふん尿といった有機廃棄物を微生物によってメタン発酵させて得られるのがバイオガスです。

バイオガスにはメタンが多量に含まれており、主に発電に利用されています。

バイオプラスチックの生産

バイオプラスチックは、発酵技術を応用して作られているものの1つです。

バイオプラスチックとは、植物などのバイオマスを原料とするバイオマスプラスチックと、微生物の働きで最終的にCO₂と水にまで分解処理できる生分解性プラスチックの総称です。

バイオプラスチックは、従来の科学合成されたプラスチックに比べて環境への負荷が低く、持続可能な社会の構築に貢献できる素材として注目を集めています。

バイオマスプラスチックにはバイオポリエチレン・バイオポリプロピレンなどがあり、サトウキビやトウモロコシなどの植物原料を発酵させて得られるエタノール等の中間原料から合成されます。

一方、生分解性プラスチックには化石資源を原料とするものとバイオマスを原料とするものがありますが、日本で普及しているものの7割はバイオマス由来です。バイオマス由来のものとしては、トウモロコシなどを発酵させて生産するPLA樹脂(ポリ乳酸)や、日本企業で主に開発されている、パーム油などを発酵させたPHA樹脂(ポリヒドロキシアルカン酸)などがあります。

参考:環境省|バイオプラスチックとは?

バイオテクノロジーとの融合

発酵技術とバイオテクノロジーの融合が新たな可能性を切り拓いています

その中でも、近年注目を浴びているのが精密発酵です。

精密発酵とは微生物を特定の条件下で培養し、発酵によって目的の化合物を効率よく生産させるための技術です。

バイオテクノロジーの進歩で生物の遺伝子配列が解析できるようになった昨今、遺伝子組み換え技術によって特定の化合物を生産する微生物が設計できるようになりました。

この遺伝子組み換えの微生物を培養し発酵させることで、目的の化合物を大量に得ることができます。

この技術のおかげで、構造が複雑で化学合成では製造できなかったインスリンや抗がん剤など様々な化合物の生産が可能になりました。

発酵技術がバイオマスに与える未来

バイオマスとは「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」と定義されています。

つまりは有機性のゴミと捉えることもでき、バイオマスをいかに再利用するかが、持続可能な社会に向けたプロセスのひとつといえます。

バイオマスの将来性とは

バイオマスは、持続可能な社会の実現やエネルギー問題の解決に向けた重要な資源として注目されており、将来性はとても高いといえます。

技術の進歩や国の政策の支援によりバイオマスエネルギーの生産効率や利用範囲が拡大し、持続可能なエネルギー社会の実現に貢献すると期待されています。

また、バイオマスエネルギーの生産や利用には、地域の資源や労働力が必要であり、雇用の促進など地域経済を活性化する効果も見込めるでしょう。

日本においても平成24年9月に関係7府省が共同でとりまとめたバイオマス事業化戦略において、バイオマス産業都市の構築を推進することとなりました。

この政策では農村部や都市部の各地域で、原料の収集・運搬から製造・利用までの経済性が確保された一貫システムの構築を目指しています。

参考:農林水産省HP|農村・都市部のバイオマスを活用し地域活性化へ

バイオマスの代替燃料としての位置づけ

バイオマスから生成される燃料をバイオ燃料といい、化石燃料の代替燃料として非常に重要な位置づけにあります。

バイオ燃料は化石燃料にくらべてCO₂排出量が少ないため、輸送用のエコ燃料として期待されています。

これは、バイオ燃料の燃焼によって生成されるCO₂が、原料となった植物が成長する際に吸収したCO₂とほぼ同量であるため、全体としてCO₂は増加しないという考え方です。

日本においては2009年7月に「エネルギー供給構造高度化法」が成立し、この中でバイオエタノールの導入目標量が定められました。

導入目標量は年々徐々に拡大してきたものの、2018〜2022年度の5年間では、バイオエタノール導入目標量が原油換算50万kLとずっと変わらないままであり、さらなる努力が求められています。

参考:国立環境研究所|バイオエタノール

発酵技術の応用と環境保護

発酵技術は、環境保護に関する多くの可能性を持っています。ここでは、その可能性や重要性について詳しく解説します。

廃棄物の分解における微生物の重要性

発酵技術は、有機廃棄物の分解や処理に使用されます

微生物が発酵により有機廃棄物を分解することで、廃棄物の減量や悪臭の対策など、安全な処理が可能となります。

前述のようにバイオマスの処理は重要で、バイオマスの発酵により得られるのがバイオエタノールやバイオガスなどのバイオ燃料です。

バイオマスとは生ごみや木材などの家庭・工場からの有機廃棄物ですので、バイオマス発酵では廃棄物の処理と同時にエネルギーの回収が可能となり、エネルギー効率の改善が期待できます。

また、微生物の中には発酵によって有害物質や汚染物質を分解できるものもいます。

農薬や環境ホルモン、防腐剤など、微生物が分解可能なものは多岐にわたります。

参考:独立行政法人製品評価技術基盤機構|有害物質を分解する微生物たち

環境に優しい製造プロセスとしての発酵技術

発酵技術は環境に優しい製造プロセスとして広く認知されています

化学的に目的の化合物を生産するとき、多くの場合は化学反応を促進するために高温と高圧が必要です。

しかし、バイオテクノロジーと微生物発酵による反応は常温・常圧で進行するため、製造にかかるエネルギーコストが低くなります。

また、バイオマスの利用を通じて再生可能なエネルギー源を生産する発酵プロセスは、持続可能な社会の実現に向けた重要な手段として注目されています。

さらに、エネルギーを取り出した後の廃棄物が肥料や飼料として再利用されることもあり、資源を余すことなく使い切ることができます。

まとめ:発酵技術の多様な応用により持続可能な社会の実現を

本記事では、発酵技術が様々な分野で応用できることを解説しました

発酵技術は、廃棄物の処理から再生可能なエネルギーの生産、環境保護まで、多岐にわたる応用が可能です。

発酵技術のさらなる発展により、地球環境への負荷を軽減し、持続可能な未来を実現するための一助となることが期待されます。

弊社は、微生物の培養や発酵に関する研究開発技術の知見を活かし、新たなモノづくりに挑戦する企業様、研究機関様とのコラボレーションを推進しています。気になる方は、ぜひ下のボタンからお問い合わせください。

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