「食品のアップサイクルについて知りたい」「食品のアップサイクルで何ができるのか」と悩む方は少なくないでしょう。
食品アップサイクル事業は資源を有効利用できるうえ、ビジネスチャンスの拡大にもつながります。
この記事では、食品のアップサイクルの基本から、海外の動向、具体的なアップサイクル事例までを徹底解説します。挑戦してみる価値は十分あるため、ぜひ本記事を参考にしてください。
目次
食品のアップサイクルとは、本来廃棄されるはずのものに新たな付加価値を与えることで、別の新しい製品を生み出す取り組みです。リサイクルとは異なり、元の素材の特性を生かしてより良いものを作りだす点が特徴です。
現在は環境負荷の小さい循環型社会を実現するために、廃棄物を資源として捉え有効利用するアップサイクルが活用されています。
廃棄物を減らし無駄をなくすことで、環境にやさしい社会を実現できます。
この章では、食品アップサイクルのメリットを3つ紹介します。
食品をアップサイクルするメリットの1つは、資源を有効活用できる点です。
使わなくなったものや廃棄物をただ捨てればゴミですが、新たな価値を与え別の製品を作り出すことで、資源を無駄なく活用できます。
また、無駄のない製品作りは、環境だけでなく企業にとっても益があります。
アップサイクルで材料を循環させれば、廃材や食品残渣などの処分にかかる経費節約に繋がります。
そのため食品のアップサイクルは、資源を有効活用したい、廃棄物の処理コストを抑えたい事業者に適しているといえます。
食品のアップサイクルでは、本来廃棄されるはずの端材などを利用して、新しい製品を生み出します。そのため、これまで視野に入らなかった商品や業界に関わる可能性が高まり、異業種におけるビジネスチャンスが開けるのがポイントです。
対消費者(B to C)だけでなく、対企業(B to B)向けの製品やサービスの展開が期待され、取引の幅が広がります。
食品アップサイクルで廃棄されるはずの食品から新しいものを生み出すことで、フードロスの削減や環境負荷を低減する企業であることをアピールできます。
消費者の多くは環境に配慮した商品を購入したいと考えているため、”環境に優しい”、”サステナブルである”というイメージは、収益アップに効果的です。
廃棄物として扱われる食品をアップサイクルし、イメージを向上させることは企業にとって大きなメリットです。
この章では、食品をアップサイクルする際のデメリットや課題を3つ取り上げます。
アップサイクルの課題の1つは、材料の安定供給が難しいという点です。大量生産される商品とは異なり、廃棄物が排出されることではじめてアップサイクルの材料が得られるため、場合によっては材料の供給が不安定になる可能性があります。
考えられる課題には、次のようなものがあります。
安定供給の課題は、価格や製造に影響を及ぼすため無視できません。
課題として、アップサイクル製品を製造する際に、循環型のデザインを考えなければならない点があります。
アップサイクルは持続可能な社会を実現するための1つの手段です。再利用する過程で汚染物質が出たり、環境に負荷をかけるような製造方法では意味がありません。
環境に負荷を与えず、製品を循環させ続けられるような循環型のデザインを考える必要があります。
製品の循環性を考慮していない製品はアップサイクルとして認められず、環境に配慮した製品のアイデアがなければアップサイクルの実現は困難です。
余剰や端材を完全に消費できない可能性がある点も、アップサイクル事業の課題の1つとして挙げられます。
アップサイクルのアイデアを実現しようと取り組みを始めたものの、アップサイクル製品の製造にはそれほど多くの材料が必要ではない場合があります。
実際、ウエハースの端材をクラフトビールにアップサイクルするある取組みでは、すべての端材を使用できなかった例があります。排出される廃棄物の量と、アップサイクル製品で必要な量をマッチさせることが重要です。
この章では、食品のアップサイクルに関する海外の動向を紹介します。
アメリカでは1年間に供給される食料のうち、3割〜4割が廃棄されていると言われており、量にして約6,000万トン(2023年)と深刻な問題となっています。
そして社会的なフードロス問題を背景に、2019年にアメリカアップサイクル食品協会(Upcycle Food Association)が設立され、アップサイクル食品の定義も明確化されました。
また同協会において、アップサイクル食品認証制度を設け、多くの認定商品が製造販売されています。
さらに、2023年には、米国農務省(USDA)や米国食品医薬品局(FDA)などの国家機関が、食品ロスと食品廃棄物を2030年までに50%削減するという目標にむけた国家戦略を発表しました。
公開された戦略の中には、有機廃棄物のリサイクル率の向上やリサイクルの奨励が掲げられており、国家規模で食品ロスなどに関する問題に取組む姿勢が伺えます。
参考:
U.S. FOOD &DRUG ADMINISTRATION|Food Loss and Waste
アメリカアップサイクル食品協会(Upcycled Food Association)公式ホームページ
フランスでは毎年およそ900万トンの食料廃棄が行われており、フランス政府は、2025年までに食品ロスを50%削減する目標を掲げています。実際の施策としては、2016年に賞味期限切れの食品を廃棄することを禁止する「食品廃棄禁止法」が成立しました。
さらに、国家主導で食品ロス削減の認証マークである「アンチフードロス(anti-gaspillage)」を設けるなどの取組も実施されています。
また国だけでなく、民間でも環境への配慮やサステナブルの取組みが行われています。
売れ残ったパンをビール醸造に利用したり、ビールの製造工程で出される残渣をインスタント麺に作り変えるなど、食品ロス削減にむけ、多くの取組が行われています。
参考:
(日本語訳)ベランジェール・クイヤールが「全国的な反食品廃棄物ラベル」を発表
(原文)Bérangère Couillard dévoile le « label national anti-gaspillage alimentaire
日本では、年間523万トンの食品ロスが発生していると言われており、事業系で279万トン、家庭系で244万トンが廃棄されているのが現状です。
そうした深刻な食品ロス問題に対して国が主導で対策を行っており、解決手段の1つとしてアップサイクルが推進されています。
具体的には、農林水産省が主催する「食品産業もったいない大賞」の開催があげられます。
また、コロナ禍の影響で日本国内の事業者や企業が、積極的にアップサイクル事業を行う動きが活発化している点も重要です。
新型コロナウイルスの感染拡大防止策による影響で、外食産業向けの食品の大量廃棄が大きく報道されたことにより、国民のフードロスへの関心が高まったことが背景にあります。
参考:
消費者庁|食品ロスって何?
農林水産省|「食品産業もったいない大賞」について
この章では、食品アップサイクルの具体的な事例を紹介します。
オイシックス・ラ・大地株式会社では、本来捨てられるはずの野菜の皮や茎を利用し、「ここも食べられるチップス」として新製品を開発しました。
代表的なチップスの材料は、次のとおりです。
同社は上記の他にも「バナナの皮ごとジャム」や、CHOYA梅酒との共同開発で誕生した「梅酒から生まれた しっとりドライフルーツ」などさまざまな製品を手掛けており、フードロス削減に意欲的です。
チップスなどのアップサイクル商品は、子どもがいるファミリーや保育園などでの「食育」にも利用しやすいという意見があり、今後も商品の拡大が予想されます。
参考:
Oisix ra daichi|食べるだけで食品ロス削減に繋がるブランド「Upcycle by Oisix」の取り組み
Upcycle by Oisix公式ホームページ
株式会社アイルでは、野菜をペースト状にして海苔のように乾燥させた食材「VEGHEET」を開発しました。商品の特徴は、次のとおりです。
上記のような特徴から、食品ロスの削減や防災用品、高齢者や子どもの栄養摂取など、さまざまな場面で役立ちます。
また野菜と寒天だけで作られるため、グルテンフリーかつアレルゲンフリーで幅広い人が楽しめるのも特徴です。
現在では大手コンビニや回転寿司チェーン店などでも利用、販売されているうえ、海外でも環境に配慮した製品として高く評価されています。
参考:
vegheet公式ホームページ
独立行政法人農畜産業振興機構|野菜をペーストにして乾燥させたシート食材「VEGHEET(ベジート)」
神奈川県に本社を置くベーカリー「Boulanferme」は日本全国のビール醸造所と協力し、パンの耳からクラフトビールを作り販売しています。
以前からサンドイッチの製造で出されるパンの耳を農業飼料として農家へ無償提供していましたが、別の可能性を模索する中でビール作りに出会いました。
事業に取組む中で、全国の醸造家とビール醸造で発生する発酵残渣をリサイクルし飼料化する事業者を繋げるなど、新しいネットワークの構築にも役立っています。
参考:Boulanferme |Better life with upcycle
兵庫県にある老舗醤油メーカー「日本丸天醤油」は、甘酒と規格外フルーツを組み合わせた「YASASHIKU Gelata」を開発しました。
淡口醤油の製造に必要不可欠な「甘酒」と、不揃いや傷があるなどで出荷できない「規格外フルーツ」を掛け合わせることで、農家の食品ロスを削減することに成功しています。
季節限定の果物や野菜の味が体験できるうえ着色料不使用であるため、果物そのものの色合いが楽しめるのも特徴です。
アサヒユウアス株式会社は、ビール製造のろ過工程で発生するビール粕を活用し『アップサイクルグラノーラ』を開発しました。
ビール粕の食物繊維の豊富さと、高タンパク質かつ低糖質である特性が生かされています。
さらに食品添加物不使用で動物性原料も使用していないため、ヴィーガンでも楽しめるのがポイントです。
またアサヒユウアス株式会社は、コーヒーのオリジナル商品を製造する際に発生するコーヒーエキスを活用してクラフトビールを製造するなど、さまざまな企業と共創しています。
参考:
アサヒユウアス株式会社|2022年8月10日プレスリリース
アサヒユウアス株式会社|2022年6月30日プレスリリース
この章では、食品以外のアップサイクル事例について紹介します。
北海道コカ・コーラボトリング株式会社は、自社製品の製造で排出されるコーヒー豆のかすを利用したバスグッズブランド「BathCafé」を企画しました。
コーヒーかすが持つ消臭効果や汚れを吸着させる特性を利用しており、代表的な商品を下記に記載します。
コーヒー粕の特性を利用して、香りや雰囲気を楽しめるのが特徴です。
株式会社伊藤園では、自社製品の製造過程で排出される茶殻を、ベンチやダンボールにアップサイクルする取り組みを行っています。同社の茶殻を利用したアップサイクル製品は100種類以上にのぼります。製品の代表例は、次のとおりです。
茶殻のリサイクルが認められエコマーク認証を取得するなど、環境配慮に意欲的です。また、製品の製造には外部企業との共同開発が行われています。
参考:伊藤園|茶殻リサイクル
株式会社ペーパルは、加工、流通過程などで出される食用に適さない米や、期限切れの防災備蓄用のアルファ米を利用した紙素材「kome-kami」を開発しました。
紙の製造に米を混ぜる技法は江戸時代に実践されており、kome-kamiでは当時の文化を現代に合わせて再構築しています。
紙の製造時に使用される化学薬品を、米から作った米糊などに置き換えることでCO2の削減や発色の良さを実現しているのが大きな特徴です。
この他にも、ニンジンの皮を使用した「vegi-kamiにんじん」やもみがらを再利用した「momi-kami」などの製品も手掛けています。
さらに同社はフードロス削減に貢献する団体である「フードバンク」に、売り上げの1%を寄付しており、貧困や資源の有効利用に積極的です。
kadalysは熟しすぎたり、皮に傷がついたりした規格外バナナを化粧品にアップサイクルしています。
バナナの産地である、マルティニーク島(フランス領)では、毎年多量のバナナが廃棄され問題となっていました。しかしアップサイクルを導入することで、環境が循環するようになっただけでなく、島の経済にも貢献しています。
バナナに含まれる抗酸化作用などの美容に役立つ成分の研究が行われ、商品の開発、販売が実現しました。
下記に主な商品を記載します。
またオーガニック認証も取得しており、トレーサビリティが保証されているのも特徴です。
参考:
kadalys公式ホームページ
kadalys公式ホームページ(フランス版)
appcycle株式会社は、廃棄されるリンゴの搾りかすから合成皮を作る「RINGO-TEX」を開発しました。リンゴの搾りかすを乾燥、粉末状にし他の原料と混ぜ合わせることで、軽くて丈夫な合成皮を作っています。
下記に、製造に関する特徴を記載します。
動物性原料を使用しないため、ヴィーガンでも使用できる点も特徴です。
食品のアップサイクルは、新たなビジネスチャンスや企業のイメージアップにつながるなどのメリットがあります。しかしアップサイクルはあくまで循環型社会を実現するための手段であり、製品の製造過程で環境に負荷をかけないような配慮が必要です。
食品廃棄物のアップサイクルは、食品以外の製品にも利活用できます。もとの製品からは想像できないものに再構築できる点は、アップサイクルの大きな特徴です。
食品ロスを少しでも減らしたい、循環型社会の形成に貢献したいと考えている場合は、アップサイクル事業に挑戦してみてください。
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