「食品廃棄物を肥料化するときの問題点が知りたい」「肥料化で発生する問題の解決策はあるのか」と悩む方は多いでしょう。食品廃棄物の肥料化は資源を有効利用できる一方、複数の課題も存在します。
そこでこの記事では、食品廃棄物を肥料化する際の問題点について徹底解説します。課題を的確に把握するため、排出された廃棄物がどのようにリサイクルされるかを理解しておきましょう。
また肥料化に伴う問題の解決方法についても紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
目次
食品廃棄物とは、食品の調理くずや売れ残り、食べ残し、野菜のヘタなどの非食用部のことです。
食品の製造、流通、消費の各段階で排出されるのが特徴で、近年はまだ食べられるものを廃棄する食品ロスが問題視されています。
各過程で排出された食品廃棄物は堆肥化や肥料化することで有効活用できるうえ、ゴミの削減や循環型社会の形成に有効です。
しかしリサイクル時に発生するコストや需給問題などが課題として指摘されており、有効な解決方法が望まれます。
食品廃棄物は、廃棄物の発生源により産業廃棄物と一般廃棄物に分類されます。
それぞれどのような特徴があるか、順番に確認しましょう。
産業廃棄物とは、「事業活動で発生したもののうち、法令で定める20種類」と定義されています。その中で、食品廃棄物に当たるものを下記の表にまとめました。
項目 | 内容 | 具体例 |
汚泥 | あらゆる事業活動で排出される物で、泥状の不要物 | ・味噌など・食品工場からの排水処理汚泥 |
廃油 | あらゆる事業活動で排出される物で、油状の不要物 | 魚油、菜種油、牛脂など |
廃酸 | あらゆる事業活動で排出される物で、液体状の酸性物質を含む不要物 | ・調味料・炭酸飲料水やビールなどの飲料 |
廃アルカリ | あらゆる事業活動で排出される物で、液体状のアルカリ性物質を含む不要物 | 調味料や飲料など |
動植物性残さ | 食品製造業や医薬品製造業などで、原料として使用した動植物に関わる固形状の不用物 | ・動物性残さ魚の骨や皮、ボイルかす、乳製品精製残渣など・植物性残さソースかす、酒かす、茶かす、果実の皮など |
事業活動に伴って生じた廃棄物は、廃棄した事業者が責任をもって適正に処理するよう義務付けられています。
参考:
東京都環境局|産業廃棄物の具体例
愛知県|食品廃棄物の排出事業者のみなさまへ ~食品廃棄物の不適正処理の防止に向けて~
産業廃棄物以外の廃棄物が、一般廃棄物として分類されます。食品の流通過程、調理過程、消費過程で発生する固形状のごみが一般廃棄物です。
下記に概要をまとめました。
項目 | 内容 |
流通過程 | 小売業者(スーパーやコンビニなど) |
調理過程 | 飲食店(食堂やレストランなど) |
消費過程 | ・食事の提供を伴うホテル・一般家庭 |
食品廃棄物のうち、一般家庭から出される家庭系廃棄物は年間およそ748万トンと推定されています。
参考:
東京都環境局|産業廃棄物の種類
愛知県|食品廃棄物の排出事業者のみなさまへ ~食品廃棄物の不適正処理の防止に向けて~
農林水産省|食品廃棄物等の利用状況等(令和2年度推計)<概念図>
この章では、食品廃棄物を再利用することの意義について解説します。
食品廃棄物を再利用することの意義の1つは、ゴミの削減に役立つことです。
下記にゴミを減らすことで得られる効果は、次のとおりです。
ゴミの量を減らすことで、ゴミの焼却時に発生する二酸化炭素(CO2)の排出を抑制できるのがポイントです。
またゴミ処理にかかるコストには収集、運搬、焼却、埋立などがあり、ゴミの排出を抑えれば税金やエネルギーを節約できます。
食品廃棄物の再利用を促進すると、地球温暖化の防止に貢献できます。
廃棄された物を焼却炉で燃やすと地球温暖化の原因とされる二酸化炭素が発生し、地球温暖化を進行させてしまいます。
その結果、洪水や台風などの異常気象、地球全体の気温の上昇などが起こり、農作物や日々の暮らしに大きなダメージを与えます。
食品廃棄物のリサイクルを促進することでゴミを減らせば、地球温暖化の抑止に貢献できます。
循環型社会とは、環境省によると、「天然資源の消費が抑制され、環境への負荷ができる限り低減された社会」と定義されています。
循環型社会実現のポイントは、次のとおりです。
脱炭素化社会や持続可能な社会の実現には、循環型社会の仕組みが不可欠です。
食品廃棄物をできる限り再利用し、資源を有効活用することで循環型社会の実現に貢献できます。
この章では、食品廃棄物をリサイクルする3つの方法について解説します。
食品廃棄物のリサイクル方法に、堆肥化・肥料化して農場で利用するというものがあります。一般的に、コンポスト化とも呼ばれる方法です。コンポストの製造過程には、前処理、一次発酵、二次発酵のプロセスがあります。
概要を下記の表にまとめました。
項目 | 内容 | 特徴 |
前処理 | ・水分量のpHの調整・原料の混合 | ・コンポスト化を成功させるための重要なステップ |
一次発酵 | ・炭水化物などが分解される・温度が最大65度まで上昇する | ・病原菌の死滅・雑草の種子が不活化 |
二次発酵 | ・セルロースなどの繊維質が分解され始める・温度が外気温程度まで低下する | ・熟成期間として1ヶ月以上ねかせる |
コンポストを活用すると。下記の効果が期待できます。
食品廃棄物は、微生物による発酵で堆肥や肥料として有効活用できます。
参考:環境省|食品リサイクル肥料の製造とその効果 -食品リサイクルコンポストを中心に-
食品廃棄物を飼料化し、家畜に与えるのも効果的な方法です。
下記の表に、食品廃棄物の排出先と特徴などについてまとめました。
排出先 | 廃棄物の内容 | 特徴 |
食品製造業など | 米ぬか、酒粕、ビール粕、おからなど | ・成分が均一で安定的に供給されるため、飼料化に最適 |
外食産業など | 調理くずや回収弁当、おにぎりなど | ・異物の混入が多く、品質が劣化しやすい・限定的な利用に留まる |
一般家庭など | 調理くずや食べ残し、腐敗物などの生ゴミ | ・腐敗物や異物が多い・品質や内容、供給量が不安定・飼料としての利用は困難 |
ただし食品製造業などから出る廃棄物以外は、飼料化に不向きといえます。
参考:環境省|食品リサイクル肥料の製造とその効果 -食品リサイクルコンポストを中心に-
堆肥や飼料に再利用できない食品廃棄物は、メタン発酵させてエネルギーとして利用します。
メタン発酵とは、酸素を好まない嫌気性の微生物による発酵により、メタンガスを発生させることです。発生したガスは燃えやすい性質を持つため、電気や熱などにエネルギーとして使用できます。
下記に、メタンガス化し再利用することの効果をまとめました。
堆肥化や飼料化に不向きな廃棄物でも発酵させメタンガスを得ることで無駄なく活用できます。但し生じたメタンガスはエネルギー源として再利用できないと、温暖化の原因となるため注意が必要です。
メタンは二酸化炭素に次ぐ地球温暖化に及ぼす影響が大きい温室効果ガスであり、IPCCの第5次評価報告書によると、その地球温暖化への寄与は同じ量の二酸化炭素の28倍になります。
参考:
環境省|メタンガス化に関する基本的事項
環境省|食品廃棄物のメタン化に取り組んでみませんか?
環境省報道発表資料|『メタンの全大気平均濃度の2021年の年増加量が2011年以降で最大になりました~温室効果ガス観測技術衛星GOSAT(「いぶき」)の観測データより~』(2022年3月10日)
この章では、排出された食品廃棄物を堆肥化・肥料化してリサイクルする際の問題点を解説します。
堆肥化・肥料化には時間や手間のほか、廃棄物の回収コストなどもかかります。下記の表に、堆肥化・肥料化する際のコストをまとめました。
項目 | 内容 |
時間的コスト | ・堆肥や肥料を作成するさいの発酵に時間がかかる【一次発酵期間】10〜14日(機械発酵方式)【二次発酵期間】28〜60日(野積み式 / 通気あり) |
エネルギーコスト | ・廃棄物に混入している異物を除去する手間がかかる・パンくずのみなど均質な廃棄物は限られ、残飯などは分別が困難なものが多い |
収集コスト | ・廃棄物を収集する際のコストがかかる・収集する場所が多いとコストが大きくなる |
運搬コスト | ・廃棄物を処理場や農地などに運搬するためのコストがかかる |
食品廃棄物の多くにはさまざまな内容物が混在しており、成分による発酵時間の違いや異物除去などのコストがかかる傾向にあります。
食品廃棄物由来の堆肥や肥料は基本的に毎日製造されるのに対して、堆肥の需要ピークは春と秋であり季節によって変動します。
一方、冬と夏の非需要期は需要に対して供給過多になる傾向です。
また、需要が低くなる時期には、下記の点が懸念されています。
したがって需要と供給のバランスを考慮したシステムや、長期保管に耐えうる製品製造を考える必要があります。
生ゴミなどの食品廃棄物は季節や地域によって内容や成分の割合が異なり、品質のばらつきが生まれやすいとされています。
堆肥を製造する際の原料は、下記の点を考慮する必要があります。
しかし食品廃棄物はスーパーやレストラン、工場、家庭など、排出される場所や廃棄物の内容がさまざまであり、上記の要件を満たしていないことが多々あります。
農家の立場から考えると、利用する堆肥が農作物にどのような影響や効果を及ぼすか、データなどで客観的に検証されていることが重要です。
そのため効果があり、かつ安定した品質を維持し製造できるかどうかが課題といえます。
この章では、食品廃棄物を堆肥化および肥料化する際に発生する課題に対し、現状考えられる適切な解決案を紹介します。
堆肥化や肥料化に伴う問題を解決するためには、効率的なシステムを構築することが重要です。
下記にシステム構築のポイントをまとめました。
ポイント | 内容 |
地域内で循環できる仕組みにする | ・廃棄物の収集場所、処理場、利用場所を近距離にすることで、収集コストや運搬コストを削減できる |
供給先を確保しておく | ・堆肥や肥料を利用する農家など、製品の供給先をあらかじめ確保しておく |
完全に発酵処理がなされた堆肥を製造する | ・需要の低い時期にも、品質を保持して長期間保管できる・施肥後の発酵を防止できる・需要のピーク時に速やかに供給できる |
食品廃棄物の再利用には、地域に根差した循環の仕組みを意識したシステム内で行うことが有効です。
製造製品の品質がばらつきやすいという課題に対しては、あらかじめ品質基準を定めておくのが有効です。
しかし食品廃棄物は地域や季節によって内容や成分の割合が異なるため、地方自治体ごとに品質基準を設定することが望まれます。
「農作物栽培指導指針」や「営農指導指針」に堆肥などへの再利用に関する資料を盛り込み、農家が使いやすいよう配慮するなどの工夫が必要です。
また、品質の安定化のために、下記のような取り組みが行われています。
品質基準や原料のブレンド比率などを事前に設定することで、クオリティの維持に役立ちます。
参考:環境省|食品リサイクル肥料の製造とその効果 -食品リサイクルコンポストを中心に-
堆肥化や肥料化できない食品廃棄物は、メタン発酵などによりエネルギー利用できます。
レストランや食堂などで出される食品廃棄物は、内容物の分別や異物除去が困難であるため、飼料化や肥料化には適していません。
しかし、メタン発酵によるエネルギー利用であれば分別の程度が低くても対応可能であるうえ、メタンガスの発生量が非常に多くエネルギー利用に最適です。
下記に、メタン化によって得られる効果をまとめました。
堆肥や肥料として利用できないものは、エネルギーとして活用することで無駄がなくなります。
本記事では、食品廃棄物を堆肥化、肥料化する際の問題点について解説しました。
廃棄物の堆肥化および肥料化には、「コスト」「需要と供給」「品質保持」の3つが課題として指摘されています。
課題の解決方法としては、「効率的なシステムの構築」や「品質基準を設定」することが挙げられます。
特に地域に根差した効率的なシステムの構築は、コスト削減や需給の問題の解決に役立つため重要です。
さらに堆肥化および肥料化に不向きな廃棄物は、メタン発酵でエネルギーとして利用することで、資源を最大限に活用できます。
食品廃棄物のリサイクル問題を解消し、無駄のない効率的な社会を実現できるよう、努力することが大切です。
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