研究開発コラム

ブルーカーボンとは?仕組みや取り組みについて詳しく解説

ブルーカーボンは、ひとことで表すと海洋生態系に取り込まれた炭素のことです。

近年ブルーカーボンは地球の環境保全と気候変動対策において重要な役割を果たしていることがわかってきており、注目度は高まっています。

そこで本記事ではブルーカーボンの基本的な概念から、その仕組みや種類、さらには日本における取り組みに至るまでを詳しく解説します。

また海洋生態系におけるブルーカーボンの重要性や、Jブルークレジット制度の活用例など具体的な視点からも探っていくため、ぜひ参考にしてください。

ブルーカーボンとは?

まずは、ブルーカーボンの概要について解説します。

ブルーカーボンの仕組み

ブルーカーボンとは、海洋や湿地などの生態系において、生物が吸収・貯蔵する炭素のことです。炭素が吸収・貯蔵されるプロセスは、次のとおりです。

  1. 海洋の吸収:大気中のCO2が水中に取り込まれ、溶解CO2・重炭酸イオン・炭酸イオンとなる
  2. 生物の吸収: 海草、海藻、マングローブなどの海洋植物が、光合成を通じてCO2を吸収する
  3. 炭素の貯蔵: 植物が吸収したCO2の炭素が、その植物の生体組織に蓄積される
  4. 堆積: 植物の枯れた部分や死んだ生物が海底や湿地に沈み、炭素が堆積する
  5. 長期的な貯蔵: 堆積した炭素が、地下や海底で何百年もの間、貯蔵され続ける

上記のプロセスによってブルーカーボンは大気中のCO2の削減に寄与し、気候変動を緩和する役割を果たしています。

ブルーカーボンの特徴

ブルーカーボンの大きな特徴は、CO2の吸収力が高いことにあります。

地上の植物によるCO2の吸収率は年間12.5%ですが、海洋生態系のCO2の吸収率は年間30.5%にもなります。

つまりブルーカーボン生態系に関わる海洋生物を増やすことで、CO2の吸収量を効率よく高められるのです。

しかし人間活動によるCO2の排出量は年間約94億tと多く、カーボンニュートラルの実現には、差し引き48億tのCO2を削減しなくてはなりません。

参考:国土交通省|海の森ブルーカーボ

ブルーカーボンとグリーンカーボンの違い

陸上生物の作用により貯蔵される炭素のことをグリーンカーボン、海洋生物の作用により貯蔵される炭素のことをブルーカーボンと呼びます。

以前はどちらもグリーンカーボンと呼ばれていましたが、海洋におけるCO2吸収力が脚光を浴びるにつれ、2009年の国連環境計画(UNEP)において、「ブルーカーボン」という言葉が提唱されました。

参考:国連環境計画|Blue carbon: the role of healthy oceans in binding carbon

ブルーカーボンとグリーンカーボンの最大の違いは、炭素貯蔵期間の長さです。

陸上にあるグリーンカーボンは大気中の酸素にさらされてしまうため、酸化・分解され、長期間貯蔵されずにCO2として大気中に放出されていまいます。

一方、ブルーカーボンは水中に貯蔵されているため、酸化しにくく長期間炭素を貯蔵できます。

ブルーカーボン生態系の種類

ここからは、ブルーカーボン生態系の種類について4つ紹介します。

海草藻場

海草とは種ができる種子植物で、葉・茎・根が明確に区別できるものです。しっかりとした根があるため海藻類が繁殖できない砂や泥の海底でも繁殖が可能ですが、海底深くに生育することはありません。

アマモ・スガモ等があり、主に温帯~熱帯の静穏な砂浜、干潟の沖合の潮下帯に分布しています。

藻場は水中の有機物を分解し、栄養塩類や炭酸ガスを吸収し、酸素を供給するなど海水の浄化に大きな役割を果たしています。

また海草藻場の海底には枯れた海草が堆積し、ブルーカーボンの巨大な集積所となります。

海藻藻場

海藻とはその名の通り藻の仲間で、葉・茎・根がはっきりとわかれておらず、キノコなどと同じように胞子で増えるものです。ノリ・ワカメ・コンブ・ヒジキなどは海藻にあたります。

海藻類は世界で約2万種類もあるといわれていますが、食用にされるのはコンブに代表される褐藻に多く、全約50種程度です。

そして海藻の根は栄養吸収のためではなく、岩に固着するために使われます。

強い潮の流れによって根がちぎれると流れ藻になりますが、海藻は流れ藻になっても成長を続け、やがて寿命を終えると深海に沈み、ブルーカーボンとして堆積します。

湿地・干潟

湿地や干潟は、沿岸部の浅い水域や塩分を含む土地に形成されます。潮の満ち引きによって塩分濃度が変化し、様々な生物が生息できる環境が形成されます。

海草や潮草、貝類、甲殻類、魚類などが典型的な生物相です。

これらの地域は、有機物の分解が遅いことで大量のブルーカーボンが長期間蓄積されます。

マングローブ林

マングローブは、塩分の高い海水に耐えられる特殊な樹木の総称で、熱帯や亜熱帯の入り江・河口付近など、真水と海水が混じりあう地域に生育しています。

マングローブ林もまた多くの生態系を育んでおり、人間にとっては森林資源とともに漁業資源も供給してくれる貴重なエリアです。

マングローブは他の植物と同様、光合成で根や幹に炭素を固定化します。しかし陸上の植物と違って根が海底の泥の中に張っているため、枯れても微生物によって分解されにくいという特徴があります。

実際、マングローブ林では枯れた根や幹が海中に沈むことで、数千年単位で炭素の貯蔵ができるとされています。

参考:国土交通省|ブルーカーボンとは

ブルーカーボンの現状

ここからは、ブルーカーボンに関するメリットとデメリットを解説します。

ブルーカーボンのメリット

ブルーカーボンの大きなメリットは、大気中のCO2削減による気候変動の緩和です。

海洋や湿地などの生態系におけるCO2の吸収率はグリーンカーボンを大きく上回ることがわかっているため、今後の活用が期待されます。

またブルーカーボンの保護や再生に関わる活動は海洋や湿地の生態系を健全に保ち、生物の多様性を守るうえでも重要です。

特にマングローブ林や湿地の保護は、生物だけではなく洪水やハリケーンから地域を守ったり、海岸を保護し海岸線の浸食を防止する役割も果たします。

ブルーカーボンの課題とデメリット

現在、ブルーカーボン生態系である「藻場」の破壊により、ブルーカーボンの炭素貯蔵量が減少しています。

高度成長期の沿岸域の開発などによって日本の藻場は大幅に減少し、瀬戸内海では30年間で7割ものアマモ場が失われています。

また藻場やマングローブ林が減少することでCO2の吸収量が減るだけでなく、伐採されたマングローブ樹木などから貯蔵されていたCO2が逆に大気中に放出されてしまうことがわかってきました。

そのため現在では、2030年までに世界の海の30%を保護区に指定するという目標が掲げられています。

参考:国連環境計画|Out of the Blue

ブルーカーボンに対する日本の取り組み

ここからは、日本でブルーカーボンに対して実際どのような取り組みが行われているのかを解説します。

政府の取り組み

日本政府は、ブルーカーボンに対してすでに様々な取り組みを始めています。環境省においては、地球温暖化対策として2013年に作成されたIPCC湿地ガイドラインを踏まえつつ、ブルーカーボン生態系のCO2排出・吸収量の算定・計上に向けた検討を進めています。

そして2023年4月には、マングローブ林によるCO2の吸収量を初めて国連へ報告しています。

また国土交通省では「カーボンフリーポート」の実現を目指して、令和元年度に「地球温暖化防止に貢献するブルーカーボンの役割に関する検討会」を設置しました。

水産庁でもブルーカーボン生態系に被害を及ぼす磯焼けを防止するため「磯焼け対策ガイドライン」を策定するなど、ブルーカーボンの保全に努めています。

参考:
環境省地球環境局|ブルーカーボンについて
水産庁|指針・ガイドライン等

自治体の取り組み

横浜市では、2011年度に「横浜ブルーカーボン事業」を立ち上げました。これまでの具体的な取り組み内容は、市民や企業による海岸清掃や藻場の造成・再生活動です。

再生されたアマモ場を対象に、ブルーカーボンのCO2吸収・削減量の定量化にも取り組んでいます。

また八景島シーパラダイスと連携し、子どもを対象に生き物観察ツアーやワカメの種付け・収穫の体験なども行っています。

参考:横浜市|横浜ブルーカーボン事業 YOKOHAMA BLUE CARBON

大阪府阪南市にもブルーカーボン生態系の一種であるアマモ場があります。

2018年にはこの地で「全国アマモサミット2018 in 阪南」が開催されました。全国アマモサミットは「アマモ」と「アマモ場」をキーワードに、海の自然再生・保全を目指して毎年開催されている会議です。

また阪南市のアマモ場「阪南セブンの海の森」は2023年に環境省「自然共生サイト」に認定されています。

参考:
はんなんのうみHP
環境省|30by30

企業の取り組み

株式会社セブン・イレブン・ジャパンは、東京湾や横浜湾にアマモ場を再生し、海を再生する活動に取り組んでいます。2011年6月に「東京湾再生アマモプロジェクト」を始め、2013年9月からは国土交通省港湾局と協力しながら「東京湾UMIプロジェクト」にてアマモの種子とりや花枝採集、海岸清掃などを行っています。

また大阪府阪南市と協力して「阪南セブンの海の森活動」を行い、アマモの保全活動に努めています。

そしてアメリカのApple社は、2018年にコロンビア共和国で自治体や環境保護団体と協力し、マングローブ林の保護・回復にあたりました。

このプロジェクトはブルーカーボン方法論の初の採用例として、マングローブの全生態を厳密に評価し、気候変動対策におけるマングローブ林の価値を決めたといえます。

参考:
セブン&アイHOLDGS.
Apple社

ブルーカーボン・オフセット・クレジット制度(Jブルークレジット)

ここからは、日本政府のブルーカーボンに対する取り組みのひとつである、ブルーカーボン・オフセット・クレジット制度(Jブルークレジット)について解説します。

カーボンオフセットとは

カーボンオフセットとは、排出されたCO2量に相当する量のCO2を他の手段によって削減または吸収することで、排出量のバランスを取ることです。

カーボンオフセットのプロジェクトは一般的に認証機関によって審査され、そのプロジェクトが本当にCO2排出量を削減または吸収しているか確認されます。

カーボンオフセットのプロジェクトがCO2削減を達成した場合、その削減量に応じたカーボンクレジットが発行されます。

Jブルークレジットとは

Jブルークレジットは、日本におけるブルーカーボンオフセットのための枠組みです。

海洋におけるCO2の吸収や温室効果ガスの削減に関連する企業または個人のプロジェクトに対してクレジットを発行し、CO2排出量の相殺を行います。

JブルークレジットはJBE(ジャパンエコノミー技術研究組合)が発行・販売しており、企業がJブルークレジットを購入すれば、自社では削減不可能なCO2排出量を相殺できます。

Jブルークレジットの活用例

日本の企業では、すでに様々なJブルークレジットの活用が行われています。

例えばキヤノンマーケティングジャパンは、2014年度より再生複合機「Refreshedシリーズ」のカーボンフットプリントを活用したカーボン・オフセットを実施しています。この取り組みは、第4回カーボン・オフセット大賞「経済産業大臣賞」を受賞しました。

また2015年からは、新規に販売する全複写機に対してカーボン・オフセットをオプションとして付加し、複写機ユーザーがカーボン・オフセットを選択できるサービスを実施しています。

そして現在、製品ユーザーはキヤノンの複合機を購入して使用することで、CO2排出実質ゼロを選択できるようになりました。

参考:J-クレジット制度|活用事例

ブルーカーボンとSDGs

SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年に国連加盟国全てが採択した、2030年までに持続可能な世界を実現するための共通のビジョンです。

ここからは世界的な流れとブルーカーボンとの関係を確認するため、ブルーカーボンと関わりのあるSDGs目標を2つ紹介します。

ブルーカーボンと目標13

SDGsの目標13は「気候変動に具体的な対策を」です。

ブルーカーボンは、気候変動への対策の一環として重要な役割を果たす存在です。海洋生態系におけるCO2の吸収や温室効果ガスの削減が進めば、地球温暖化の進行は緩和され気候変動も穏やかになるでしょう。

またマングローブ林の保護による海岸線の浸食防止や、ハリケーンなどの災害の被害抑止の効果も見込まれています。

ブルーカーボンと目標14

SDGsの目標14は「海の豊かさを守ろう」です。

ブルーカーボンの保護や再生は海洋生態系の健全性を維持し、多種多様な海の生態系の保護に貢献します。マングローブ林や藻場などのブルーカーボン生態系は、多くの生物が生息する場所として大切です。

日本各地でも「里海」などの活動を通して、次世代に豊かな海の資源を伝えていく活動が始まっています。

まとめ:ブルーカーボンで次の世代へ地球を繋ごう

本記事では、ブルーカーボンの基本的な概念から、その仕組みや種類、日本における取り組みを解説しました。

藻場やマングローブ林などのブルーカーボン生態系は豊かな生物多様性を守り、地球の気候安定化にも貢献しています。

そして現在、Jブルークレジットなどの活用により、ブルーカーボン生態系を積極的に守れる仕組みも整いつつあります。

企業としても積極的にブルーカーボンの保全に取り組み、次の世代に美しい地球を引き継ぎましょう。

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