「ブルーカーボン事業の補助金について知りたい」「ブルーカーボン事業に補助金はあるのか」という悩みを持つ方は多いでしょう。
現時点ではブルーカーボンに特化した補助金は設置されていませんが、利用できる事業や交付金をうまく活用することがポイントです。
そこでこの記事では、ブルーカーボン事業で利用できる補助金や事業概要について解説します。
またクレジット制度についても紹介しているため、ぜひ参考にしてみてください。
目次
日本では、ブルーカーボンに特化した補助金やプロジェクト等は行われていないのが現状です。
しかし、ブルーカーボンは世界的に注目されている事業であり、二酸化炭素の新しい吸収源として期待されています。
また、日本政府はブルーカーボンの生態系を活用する取り組みの検討会などを行っているため、今後はメインとなる補助金や事業等が設定される可能性があります。
現時点では環境保護などの既存事業と上手く関連づけて申請することで、支援を獲得する方法が現実的です。
参考:国土交通省|令和4年度「第1回 地球温暖化防止に貢献するブルーカーボンの役割に関する検討会」の開催 ~ブルーカーボン生態系の活用に向けて~
この章では、実際の制度をもとにしてブルーカーボン事業で補助金を得る方法を紹介します。
「令和の里海づくり」モデル事業は、環境省 水・大気環境局 海洋環境課 海域環境管理室が担当している事業です。
「藻場・干潟の保全・再生等と地域資源の利活用による好循環モデルの構築等業務」(令和6年度「令和の里海づくり」モデル事業公募要領より)の一環として実施されています。
モデル事業実施の背景としてブルーカーボンへの期待が高まる旨の言及が見られるため、ブルーカーボン事業を主題とした補助金を得るのに効果的であるといえます。
ブルーカーボン事業は、環境省が公募している脱炭素支援事業の1つとして申請する方法もあります。
「令和の里海づくり」とは異なり、脱炭素推進を目的としているため再エネやEV、技術革新などさまざまな分野が公募されています。
ただし申請の際には、既存事業と上手く連関させることが必要です。
ここからは、環境省が主催している「令和の里海づくり」モデル事業について解説します。
「令和の里海づくり」モデル事業の主な目的は、下記のとおりです。
・地域の多様な主体が参加・連携する藻場・干潟等の保全・再生等
・地域資源の利活用による好循環形成や連携体制づくり等を推進する
上記の目的のために、優れた取組をサポートするよう、必要な経費の支援や事業実施の伴走支援等が行われています。
なお「令和の里海づくり」モデル事業では補助金や交付金の類ではなく、環境省における調査事業の一環として行うとされており、「事業の内容を申請内容から変更することがある」旨にも注意が必要です。
下記の表に契約形態や対象地域などをまとめました。
項目 | 内容 |
契約形態 | 請負契約 |
対象地域 | ・全国の閉鎖性海域等の沿岸域 |
応募主体 | ・地方公共団体、協議会、NPO 法人・企業・漁業協同組合・学校法人・観光協会等の民間団体 |
参考:環境省|令和6年度「令和の里海づくり」モデル事業公募要領
「令和の里海づくり」モデル事業の対象となる事業は「藻場・干潟等の保全・再生・創出と地域資源の利活用による好循環を生み出す事業」です。
ただし、下記のような地域や有料事業は優先的に選定されます。
・瀬戸内海環境保全特別措置法に基づく自然海浜保全地区の新規指定・活性化、森里川海の連環
・地域循環共生圏、地域脱炭素(ブルーカーボン)を目指す
・上記と関連している事業
取組例は下記の通りです。
・藻場・干潟等の保全・再生・創出に資する活動(保全・再生等活動)
・保全・再生等活動を体験できるエコツアーの造成
・保全・再生等活動にかかる資金調達を念頭においた海藻等の産品の販売
・保全・再生等活動に関する教育プログラムの開発、地域の学校等への提供
・情報発信ツールの製作、シンポジウムやワークショップの開催等、保全・再生等活動の啓発のための地域活性化プロモーション
・上記を実施するための協議会等の設置や他団体等との連携事業
参考:環境省|令和6年度「令和の里海づくり」モデル事業 公募要領
2022年度に採用された事業の一例は、次のとおりです。
活動地域 | 活動団体 | 内容 |
兵庫県 / 赤穂市坂越地区 | (一社)あこう魅力発信基地 | 地域主体でまち歩きガイド・海のガイドを育て赤穂の里海・里山の魅力を活かすエコツアーづくり |
東京都 / 東京湾・荒川河口部 | NPO法人荒川クリーンエイド・フォーラム | トビハゼをシンボルに企業や学生を巻き込みながら河川ごみを除去し東京湾奥部の荒川下流の泥干潟を保全 |
岡山県 / 岡山県海域 | 岡山水産物流通促進協議会 | 学び・体験・食を通じた岡山の里海づくりで瀬戸内の季節の「地魚」食文化を引きつぐ |
応募事業の審査では、目指すべき姿や目標に対して現実的な手段が検討されているかどうか、事業実施計画の妥当性などが総合的に評価されます。
より多くの評価項目でポイントを押さえた内容が高く評価されるため、審査項目を踏まえて申請事業を検討してください。
この章では、環境省が進める代表的な脱炭素事業についても解説します。
取り上げる事業は、ブルーカーボン事業と親和性の高い下記の2つです。
1. 地域脱炭素の推進のための交付金(地域脱炭素移行・再エネ推進交付金、特定地域脱炭素移行加速化交付金)
2. ゼロカーボンシティ実現に向けた地域の気候変動対策基盤整備事業
どのような特徴があるか、順番に見ていきましょう。
この事業は、脱炭素に意欲的に取り組む地方公共団体等に対して、「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」等により支援するものです。
事業概要を下記にまとめました。
【地域脱炭素移行・再エネ推進交付金】
事業 | 概要 |
脱炭素先行地域づくり事業への支援 | ・再エネ設備などの導入、基盤インフラ設備、省CO₂等の設備の導入および関連するサービスなどのソフト事業を支援する・脱炭素先行地域に選定された地方公共団体を対象とする |
重点対策加速化事業への支援 | ・地域共生再エネ等の導入、住宅の省エネ性能の向上等の重点対策の複合実施等を支援する・地方公共団体を対象とするが、再エネ発電設備を一定以上導入することが条件 |
【特定地域脱炭素移行加速化交付金(自営線マイクログリッド事業交付金)】
事業概要 | 対象 |
官民連携により民間事業者が裨益する自営線マイクログリッドを構築する地域(特定地域)において、自営線に接続する温室効果ガス排出削減効果の高い主要な脱炭素製品・技術(再エネ・省エネ・ 蓄エネ)等の導入を支援する | ・脱炭素先行地域に選定された地方公共団体 |
交付金の要件である脱炭素先行地域は、これまでに62件の提案(32道府県83市町村)が選定されています。
参考:
環境省|地域脱炭素の推進のための交付金 事業概要
環境省|脱炭素先行地域(第3回)選定結果について
環境省|脱炭素先行地域選定結果(第3回)について
この事業は、地方公共団体が脱炭素化に向けた取り組みを行うための基礎情報を整備・提供することを目的としています。
下記の表に事業概要をまとめました。
事業 | 概要 |
地方公共団体の気候変動対策や温室効果ガス排出量等の現状把握(見える化)支援【現状把握】 | ・地方公共団体の気候変動対策などの現状把握を支援する・環境省側で地方公共団体の施策の実施状況を把握する |
地方公共団体実行計画策定や計画の具体的対策・施策の検討支援【計画策定】 | ・地方公共団体実行計画策定・実施マニュアルの改定等を行う・説明会などで地方公共団体へフィードバックを実施する |
再エネの最大限の導入のための地域の合意形成に活用可能なツールの整備【合意形成】 | ・再エネの最大限の導入等を促進するために、地域との合意形成に活用できる地域経済循環分析や環境アセスメントデータベースを更新・運用する |
本事業は令和3年度から開始された新しい事業であり、現時点で成果は発表されていません。
しかし、ゼロカーボン北海道タスクフォース(地域脱炭素の率先地域としての役割を担う北海道を支援する体制)が設置されたこともあり、補助を活用する自治体は増加すると予想されます。
参考:
環境省|ゼロカーボンシティ実現に向けた地域の気候変動対策基盤整備事業 事業概要
環境省|環境省における再エネ導入施策の実施状況について
この章では、環境省の脱炭素事業に関わる補助金の申請フローについて間接補助事業および直接補助事業、委託事業の2つに分けて解説します。
はじめに対象となる事業を確認します。キーワード検索だけでなく、対象事業者や実施方法などでも絞り込み検索が可能です。
【間接補助事業と直接補助事業】
間接補助事業の公募は執行団体のWebページで、直接補助事業の公募は環境省のホームページで確認してください。事業の検索や募集は4月以降に随時行われます。
【委託事業】
委託事業は、環境省のホームページで入札情報を確認でき、1月〜随時行われます。
事業の確認後は、応募と申請のフェーズです。大きな流れを下記に記載します。
【間接補助事業と直接補助事業】
1. 応募
2. 審査
3. 採択
4. 交付申請
5. 交付手続き
6.交付決定
上記のうち、応募と交付申請以外は環境省が行います。審査と交付手続きには約1ヶ月〜1.5ヶ月程度の時間が必要です。
【委託事業】
1. 入札公告(最低落札方式、総合評価落札方式、企画競争)
2. 委託事業者決定
3. 契約
入札方式によってフローが異なるため、注意が必要です。
補助金の交付の決定後は、実施・報告フェーズです。
【間接補助事業と直接補助事業】
事業を実施し終了後に成果物などを元に実績報告を行います。
【委託事業】
委託事業の場合は、事業実施後に事業が完了したことを報告する際、委託業務完了報告書および精算報告書を提出する必要があります。
報告が完了した後、最後に補助金が支払われます。
【間接補助事業と直接補助事業】
補助金の交付は翌年の4月までに行われます。交付までには約1〜1.5ヶ月の時間が必要です。
【委託事業】
検収フェーズで環境省の確定検査が行われた後、委託費の清算が実施されます。
この章では、環境省の脱炭素事業に申請する際の留意点について解説します。
環境省が公募する事業形態について、下記の表にまとめました。
項目 | 内容 |
間接補助事業 | 環境省が執行団体を通じて支援を行う事業 |
直接補助事業 | 環境省が直接支援を行う事業 |
委託事業 | 実証・支援・技術開発等の事業 |
それぞれの事業で特徴や申請フローなどが異なるため、要項を確認する必要があります。また申請書作成時には、審査評価項目の全てに何らかの記載がされていることが重要です。
事業形態は、事業概要のPDF資料の「事業スキーム」で確認してください。
委託事業では参画する事業を決定した後、環境省のホームページにある入札公告一覧から入札情報を確認し応募する必要があります。
公募や入札の際は、申請の条件をよく確認することが重要です。
例えば「地域脱炭素の推進のための交付金」では、下記のような条件が設定されています。
事業名 | 交付要件 |
脱炭素先行地域づくり事業 | ・脱炭素行地域に選定されていること (一定の地域で民生部門の電力消費に伴うCO₂排出実質ゼロ達成等) |
重点対策加速化事業 | ・再エネ発電設備を一定以上導入すること (都道府県・指定都市・中核市・施行時特例市:1MW以上、その他の市町村:0.5MW以上) |
特定地域脱炭素移行加速化交付金 | ・脱炭素先行地域に選定されていること |
交付の条件は、事業ごとにまとめられている事業概要で確認できます。
脱炭素先行地域の選定では、脱炭素化の達成と同時に地域課題の解決などの手段として活用するなど、規模の大きさや考え方を意識することが大切です。
現時点ではブルーカーボンに特化した補助金や支援が実施されていないため、政府の援助を得るには既存の事業と関連づけて申請する必要があります。
「令和の里海づくり」事業は、ブルーカーボンに関する取り組みと合致した内容であるため比較的申請しやすいでしょう。
一方、環境省の脱炭素事業では脱炭素の推進や環境保護などのキーワードを入れ、ブルーカーボン事業を行うことでどのように貢献できるかをアピールすることがポイントです。
例えば、ブルーカーボン事業を行うことで脱炭素や環境保護にどう役立つのか、事業の実施がカーボンニュートラルや再エネなどにどう貢献できるのかをアピールする方法があります。
この章では、クレジット制度を利用した資金調達について解説します。
Jクレジットは、省エネ設備の導入などによる二酸化炭素の排出削減量や、適切な森林管理でCO₂などの吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。
Jブルークレジットは、Jクレジットの仕組みをブルーカーボンなどの海洋分野に活用できるようにしたものです。
それぞれの特徴を理解し、ブルーカーボン事業に活かしましょう。
Jクレジットでは、地球温暖化対策の効果として認証されたクレジットを売却することで、省エネ対策などの資金を調達できます。
下記に、クレジットの創出者と購入者の利益についてまとめました。
【創出者の効果】
項目 | 内容 |
資金を調達できる | ・クレジットを売却した資金で、設備投資の回収やランニングコストの低減が期待できる・新規省エネ事業などに投資するための資金源となる |
イメージアップにつながる | ・地球温暖化対策に自主的に取り組んでいることをアピールでき、企業のイメージアップにつながる |
新しいネットワークを構築できる | ・クレジットの売買を通じて、購入者と交流するきっかけとなる |
【購入者の効果】
項目 | 内容 |
企業のイメージアップにつながる | ・クレジットを購入することで、省エネ事業や森林保全の支援をアピールできる |
企業評価が向上する | ・温対法などの報告でクレジットの購入をアピールすることで、企業評価の向上が期待できる |
Jクレジット制度は、CO₂排出の削減目標の達成が困難な大企業などにおすすめです。Jクレジットを購入することで、自社のCO₂排出削減量として扱えます。
Jブルークレジット制度とは、政府が運営するJクレジット制度を海洋分野で利用できるよう落とし込んだ制度で、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が運営しています。
下記の表に、対象となる事業と活動目的をまとめました。
対象事業 | 活動目的 |
天然 | ・再生された藻場での活動の工夫によるCO₂吸収量の増加、維持および減少抑制 |
人工構造物 | ・別事業後に形成された藻場での活動によるCO₂吸収量の増加、維持および減少抑制 |
養殖 | ・養殖場での活動の工夫によるCO₂吸収量の増加、維持および減少抑制 |
またクレジットを創出するには、下記を示す必要があります。
・”自主的”な活動を行った結果、CO₂の吸収量が増加したことをBefore-After, Control-Impact (BACI)から示されること
・クレジットの取得が、継続的にCO₂を吸収できる、増加可能であること
・クレジット売却による資金が活動維持や発展につながること
特にCO₂量が重要となるため、正確なデータを用意しておきましょう。
参考:
ジャパンブルーエコノミー技術研究組合|ブルーカーボン・クレジット制度の状況
ジャパンブルーエコノミー技術研究組合|Jブルークレジット
本記事では、ブルーカーボン事業で補助金を得るための方法について解説しました。
現時点でブルーカーボンに特化した補助金はありませんが、関連する事業支援に申請することで援助を受けられる可能性があります。
事業に応募する際は、環境保全や再エネなどの既存事業と関連させることがポイントです。
さらに、資金調達面ではクレジット制度もおすすめです。
政府からの補助ではありませんが、地球温暖化対策事業の資金獲得に有効であるうえ、企業のイメージアップにも役立ちます。
利用する際は、ブルーカーボン事業と親和性が高いJブルークレジットを検討してみてください。
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