研究開発コラム

新領域

海藻アカモクと日本の環境保護

目次

1.未利用海藻資源アカモク
 1-1. スーパーフードアカモク
 1-2. アカモクの機能性成分
 1-3. アカモクは循環型資源
2. アカモクと日本の海洋環境
 2-1. 海藻は海洋の環境維持装置
 2-2. アカモクを用いた水質改善事業例
 2-3. 「磯焼け」と呼ばれる藻場の全国的な消失
3. 海藻と二酸化炭素(ブルーカーボン)
 3-1. アカモクと二酸化炭素
 3-2. 日本とブルーカーボン
 3-3. ブルーカーボン・オフセット制度とアカモク
4. アカモク抽出物「アカモリジン」とその除菌効果
 4-1. 中部国際空港と常滑市、中部大学の未利用資源活用
 4-2. 海藻アカモクの抽出物が持つ新たな機能性
 4-3. 環境保護・循環型社会を目指して

1.未利用資源アカモク

  • 1-1. スーパーフードアカモク
スーパーフード アカモクは成長期前に茹でると紅褐色から鮮やかな緑色に変わります

アカモクは学術名称をSargassum horneri (Turner) C. Agardhと呼び、ホンダワラ科に属する褐藻類の一種です。日本各地の近海に生息する有用な海洋資源として、近年注目が集まっています。一部地域では昔から食用として用いられてきましたが、近年その栄養価の高さと美味しさからスーパーフードの一つとして知られるようになりつつあります。スーパーフードとは一般の食品に比べ栄養価が高い、バランスが良い、健康に役立つ成分が含まれているものを指します。海藻というとなじみのあるワカメや昆布などが思いつきますが、それらに比べてアカモクはどのような栄養を持っているのでしょうか?産地や摂れる季節により違いがありますが、同じ褐藻類でよく知られているワカメと比べると下記のようになります。

食品成分(100g中)水分(g)タンパク質(g)脂質(g)炭水化物(g)灰分(g)Na(mg)K(mg)Ca(mg)Mg(mg)Fe(mg)Zn(mg)Cu(mg)Mn(mg)
乾燥ワカメ12.713.61.641.330.86,6005,2007801,1002.60.90.080.32
乾燥アカモク12.113.83.26320.04,5859,71089375713.55.690.472.34
乾燥ワカメ栄養成分:文部科学省食品成分データベース「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」より、乾燥アカモク成分:荒木ら、日本調理科学会誌38巻1号、2005年より

野菜などの摂取量減少で不足しがちなカリウムが多く、またミネラルとして不足しがちな微量元素(マンガン、銅、亜鉛など)も豊富に含まれている事が分かります。また安全性の面では日本海側では伝統的に食品として利用してきた歴史があるため問題ないと考えられます。

  • 1-2. アカモクの機能性成分

アカモクはさらに栄養素以外にも健康に役立つ成分として、以下の成分が知られています。

 フコイダン:フコイダンは抗腫瘍活性などが報告されている硫酸基を含む多糖類の一種で、褐藻類に多く存在すると言われています。アカモクの食物繊維はこのフコイダンとアルギン酸、細胞壁成分のセルロースやエネルギー貯蔵用多糖類のラミナランが主となり、フコイダンはアカモク乾燥重量100g中1.02~8.31gと採取時期により大きく幅があります1)。これは成長期に比べ成熟し生殖可能になると急増する事が報告されているためで、アカモクの生殖に関わっていると言われています。

 アルギン酸:褐藻類に特有の多糖類、食物繊維の一種で、保水成分として知られています。アカモク乾燥重量100gあたり26.7~34.1g1)と多量に含まれている成分で、アルギン酸ナトリウムはトクホの「おなかの調子を整える」「コレステロールが高めの方に」といった機能性があり、アルギン酸カルシウムは保水力など有りませんが、「血糖値の上昇を抑える」機能性表示食品の成分として用いられます。

 フコキサンチン:褐藻類が持つ色素は緑色のクロロフィルと褐色のフコキサンチンが知られています。外観が褐色のアカモクを煮ると、このフコキサンチンが溶け出すので鮮やかなクロロフィルの緑色に変わります。フコキサンチンは抗酸化作用、抗腫瘍効果をはじめ抗肥満など様々な健康効果を持つ事が知られており、アカモク100g中に16.5mg含まれていると報告されています2)

 食物繊維:人間が消化できない多糖類の事を食物繊維と呼び、主に腸内細菌の餌になる他、便のかさとして排出されます。トクホなどで知られる難消化性デキストリンなども食物繊維の一種で、おなかの調子を整えるほか血糖値やコレステロールのバランスを整える事が知られています。アカモクにはフコイダン、アルギン酸、セルロース、ラミナランなどの食物繊維が含まれており、アカモク100g中38.3g含まれていると報告されています3)

 ポリフェノール:ポリフェノールは主に植物が生成する抗酸化物質として知られており、様々な種類の物質があり植物が自身の細胞を紫外線などから守るため等に使われ、ヒトが摂取しても様々な健康効果がある事が知られています。アカモクと同じ褐藻類のワカメはポリフェノールが多い事で知られています(ワカメ100gあたり31.02mg)が、アカモクはその3倍量ものポリフェノールが含まれることが報告されています3)。

 各種ミネラル:マンガン、銅、亜鉛、

(参考文献)
1) 木村ら、日本水産学会誌73巻4号2007年
2) 金沢和樹、日本食品科学工学会誌59巻2号2012年
3) 谷口ら、日本家政学会誌70巻3号2019年

  • 1-3. アカモクは循環型資源
アカモクをうまく循環活用する事で海洋環境の維持に繋がります

アカモクは主に岩礁などを住み場にする一年生のホンダワラ科の藻類です。アカモクは海洋の富栄養化の原因となるリンや窒素を吸収してくれますが、一年草のため収穫しないと死滅し、微生物に分解されリンや窒素も海洋に戻ってしまいます。そのためリンや窒素の吸収率が最大化する、アカモクの成長期である初春から初夏にかけて生殖に必要な部分を残して収穫、産業利用を増やすことでアカモクと水質浄化の好循環を生み出せることが想定されます。つまりアカモクの産業利用量を増やすことで水揚げ量を増やし、また新しいアカモクが成長し増えるほど海がきれいになるという事です。現在全国でアカモクの有効利用のための様々なプロジェクトが進行しています。

2.アカモクと日本の海洋環境

  • 2-1. 海藻は海洋の環境維持装置

上述したようにアカモクは他のホンダワラ科が多年生なのに比べわずか一年で5メートルもの大きさに成長し、生殖後流れ藻として流出するため、非常に生命力の強い海藻であるといえます。従って他の海藻に比べ、海水の富栄養化のもとになるリンや窒素を吸収しやすく、赤潮などの原因であるプランクトンの異常発生を抑え海に酸素を供給する可能性が高く、近年では海洋の環境維持装置としてアカモクの藻場を造成する自治体も増えています。また造成したアカモクは上記のようにスーパーフードとしても活用できるほか、本コラム4章で示すような除菌効果も新しく報告され、海洋国家日本が持つ未利用循環型海洋資源としての役割が期待されています。

  • 2-2. アカモクを用いた水質改善事業例

アカモクの水質改善効果は実験室では確認されていましたが、実際に海洋での水質改善に役立つかを調査し、確認した報告があります。日本三景の一つ、松島で知られる宮城県松島湾での研究報告です。松島湾は260もの島々から形成され、外洋の流れを遮るため工業排水などが滞留し、赤潮などの公害が頻発していました。そこで宮城県や東北大学の取組みとして、平成14年から平成20年にかけてアカモク藻場造成による水質改善の実証試験が実施され、実際に水質の改善に効果があった事が実証されています(参考サイト参照)。

またアカモクの作るある種のポリフェノールが、赤潮の原因となる植物プランクトンの一種skeletonema costatum(スケレトネマ コスタータム)の増殖を抑制する事も報告されており1)、水質の改善と赤潮原因微生物の増殖抑制という二つの効果で海洋の酸素消費を減らし、魚や貝などの多くの生き物が住みやすい環境を作ってくれます。

宮城県松島湾の美しい絶景。工業排水などによる赤潮被害対策としてアカモクの藻場形成実証実験が行われ効果が確認されました

(参考文献)
1) 武田ら、日本水処理生物学会誌. 別巻 (24), 49, 2004-10-15
(参考サイト)
宮城県保健環境センター 課題評価結果報告書2010年2月
https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/10297.pdf

  • 2-3.「磯焼け」と呼ばれる藻場の全国的な消失
藻場は小型魚の住処にもなり、生物多様性の維持に欠かせない役割も持ちます

日本沿岸は1997年の報告で48%が人工的な埋め立てや施設設置等により浅場が減少し,水産生物の生息場である藻場が1994年の報告(環境庁自然保護局)では、1978年以降に6,400haも消失したと考えられています2)。アカモクが含まれるガラモ場と言われる藻場は1991年では全国で85,682ha、最大規模(27.1%)を持っていますが、1978年からの13年間で消滅ガラモ場は2,315ha、22%ものガラモ場が消失したと報告されています3)。そして現存する浅海域についても,生態系のバランスが崩れる事で長期間にわたって藻場が衰退してしまう「磯焼け」が大きな問題となっています。1990年から2008年までにも全体で約22%もの藻場が消失されたとの報告もあります(海洋生物環境研究所報告2009年)。藻場の消失は魚介類などの水産資源の枯渇や赤潮の発生に繋がっている事から、近年では水産庁が主体となり「磯焼け対策ガイドライン」といった技術資料を公開し各地で藻場造成などを積極的に取り組む動きが増えています。

国立研究開発法人 水産研究・教育機構瀬戸内海区水産研究所 資料より抜粋

(参考文献)
2) 長谷川一幸 海洋生物環境研究所ニュース2009年4月号
3) 環境省第4回自然環境保全基礎調査 海域生物環境調査報告書 第2巻 藻場
(参考サイト)
環境省自然環境局 生物多様性センター 自然環境保全基礎調査
https://www.biodic.go.jp/kiso/34/34_higat.html#mainText

3. 海藻と二酸化炭素

  • 3-1. アカモクと二酸化炭素

アカモクを始め海藻は植物と同じように二酸化炭素を吸収し光合成を行います。地球の温暖化に関わる温室効果ガスのうち、最大のものは二酸化炭素で全体の76%を占めます(下図)。植物と同様に海藻のからだを構成する炭素は、吸収した二酸化炭素を変換して構成するため、海藻の二酸化炭素吸収量は藻体の炭素量を調べると推計できます。一方でからだの構成成分を作るために光合成を行い、二酸化炭素を吸収し酸素を吐き出すのとは別に、エネルギーなどを生み出すために人間や動物と同じく「呼吸」を行い、酸素を吸収し二酸化炭素を吐き出します。従って光合成による二酸化炭素の吸収量から呼吸による二酸化炭素の放出量を引くと、海藻が大気中の二酸化炭素から純粋に吸収できる「吸収ポテンシャル量」が計算できます。実際には複雑な計算モデルになりますが、おおよその推計としてコンブ場で0.8~3.6トンCO2/ha/年、アラメ・カジメ場で2.3~10トンCO2/ha/年、ガラモ場で5.1~15トンCO2/ha/年の範囲と推計されています4)アカモクはガラモに分類され、海藻の中では多い部類である約10トンCO2/ha/年の吸収ポテンシャルがあると報告されています。

「人為起源の温室効果ガスの総排出量に占めるガスの種類別の割合」気象庁ホームページより引用
  • 3-2.日本とブルーカーボン

陸上の植物が光合成により吸収する二酸化炭素を「グリーンカーボン」と呼ぶのに対し、海藻など海洋中の生物により吸収される二酸化炭素を「ブルーカーボン」と呼びます。日本は四方を海に囲まれ、陸上面積としては37万km2で世界62位ですが、海洋面積となると447万km2にも達し世界6位4)の大海洋国家となります。ブルーカーボンを創り出す生態系として有益なものに、海藻や海草の藻場、湿地・干潟、マングローブ林、植物プランクトンなどがありますが、人間が制御可能なブルーカーボン源としては浅海の海藻(海草)、湿地・干潟などがあり、特に海藻などは人為的な造成拡大により、海洋資源の多様化や水質の改善なども合わせて見込める事から、将来的に有望なブルーカーボンとして注目されています。

(参考文献)
4) 電力中央研究所報告「岩礁性藻場の調査事例を基にしたCO2吸収ポテンシャルの推算」 2021年3月

ジャパンブルーエコノミー(JBE)技術研究組合資料より抜粋
  • 3-3.ブルーカーボン・オフセット制度とアカモク

実際に国内におけるブルーカーボンのへの取組みにアカモクが用いられている例を見てみましょう。日本国内では、2050年までにカーボンニュートラル(二酸化炭素の排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする事)、脱炭素社会の実現を目指す様々な取組が行われています。国土交通省では、港湾におけるカーボンニュートラルを目指し、6つの港湾で検討会を開催しています。そのうちの一つ、横浜港金沢区鳥浜地先では藻場造成事業およびその保全活動により、ブルーカーボン・オフセット制度の試行が行われています。ブルーカーボン・オフセット制度は海洋中の生物により吸収されるCO2(ブルーカーボン)量をクレジットとして認証し、CO2削減を図る企業・団体等とクレジット取引を行う制度です。これにより藻場造成の拡大や海洋環境・生態系にも繋がる事が期待されます。

国土交通省港湾局海洋・環境課プレスリリース資料:令和3年3月より引用

4. アカモク抽出物「アカモリジンTM」とその除菌効果

  • 4-1. 中部国際空港と常滑市、中部大学の未利用資源活用
SDGs AICHI EXPO 2022でのアカモク抽出物配合除菌液見本展示の様子

日本最大の貿易港である名古屋港。そして名古屋港から知多半島を南に下り、常滑市の海上に中部国際空港(セントレア)が浮かびます。セントレアは日本の中央に位置し国内、国外から様々な人々が往来する交通の要衝としての重要な役割を持ちます。ヤヱガキ醗酵技研と中部大学およびセントレアと常滑漁協は、持続可能な社会の形成に繋がる取組みの一環として、海洋の環境保護、生物多様性の維持にも注力する中で「環境保護と海洋未利用資源の活用」を目的に1~3章で述べた様々な可能性を持つ海藻アカモクの研究連携を進めてきました。その結果中部大学にて海藻アカモクの抽出成分が、ヒトに有害な作用を及ぼすウイルスの増殖抑制に効果を持つ事を実証し、共同研究・製造を行ったヤヱガキ醗酵技研により新規抗ウイルス素材「アカモリジンTM」として開発されました。

  • 4-2. 海藻アカモクの抽出物が持つ新たな機能性

以下は中部大学と共同でアカモリジンTM含有除菌液の除菌効果を調べた結果です。

アカモリジンTM含有除菌液の殺ウイルス活性
実験方法
試験群実験群(アカモリジン含有除菌液+)
対照群(PBS:アカモリジン含有除菌液ー)
ウイルスの種類SARS-CoV-2 : 新型コロナウイルス
IFV : A型インフルエンザウイルス
FCV : ネコカリシウイルス
細胞感染手順1) アカモリジンTM含有除菌液またはPBS(Control)0.9 mlと10倍量のウイルス液(最終量 1 x 106 PFU/mL)0.1 mlを混合する(混合比 9:1)
2) 10秒後に混合液の一部を取り出し、10 ~ 103倍希釈し、0.1 mL/dishで宿主細胞に加えて、室温で1時間感染させる
3) プラーク用培地を重層して、CO2インキュベータで培養する
プラーク数カウント FCVは1日後に、IFVとSARS-CoV-2は2日後に、それぞれホルマリン固定後クリスタルバイオレット液で染色し、顕微鏡下でプラーク数を測定する。ウイルス混合直後(0分)のControl (PBS) のプラーク数を100%とした時の残存ウイルス量を%で求める

アカモリジンTM含有除菌液ではエンベロープウイルス2種(SARS-CoV-2、IFV)、ノンエンベロープウイルス1種(FCV)で除菌効果を確認しました。アカモリジンTMにより、アルコールが揮発した後も1カ月抗ウイルス作用が持続していました(データ未掲載)。

  • 4-3. 環境保護・循環型社会を目指して

海藻アカモクの新たな機能性はニューノーマルと呼ばれる社会において、グローバルに人々が交流する中部国際空港(セントレア)の感染予防対策として有益なものであり、また地域社会において身近な環境課題への取組み事例として役立つものであると考えます。ヤヱガキ醗酵技研は植物をベースにした機能性食品素材、天然系着色料なども多く取り揃えており、長年培った自社独自技術により持続可能な社会を形成するため今後とも産学官と連携し研究開発を推進していきます。

子供たちに豊かな自然環境を遺すことが、私たちの責任です
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