ダイエットに取り組んでいるのに効果が感じられない…。体に良いとされる麹菌がどうしてダイエットに役立つのか、具体的な理由を知りたい。そう思う方もいるかもしれません。
実は、麹菌が生み出すプロテアーゼなどの消化酵素が、体内でのたんぱく質分解を助け、プロテインとの併用により機能性ペプチドが生成されることで、代謝や脂肪分解の促進につながると考えられています。さらに、これらの酵素は腸内環境の改善にも寄与し、善玉菌を増やすプレバイオティクスとしての役割も期待されています。この記事では、麹菌が持つダイエットへの効果について、消化酵素の働き、プロテインとの相乗効果、腸内環境への影響という3つの視点から詳しく解説します。さらに、麹菌を効果的に活用するためのヒントも紹介していきます。
※研究開発コラムは微生物を活用した研究開発において参考になるトピックを集めたもので、全てのテーマについて当社が研究開発を実施しているわけではございません。
目次
麹菌(Aspergillus oryzae)は、日本の伝統的な発酵食品文化を支える重要な微生物であり、その歴史的・科学的価値から日本の「国菌」とも呼ばれています。麹菌の特性と健康効果について、最新の研究成果を交えて解説します。
麹菌は糸状菌(カビ)の一種で、約1000年以上前から日本の醸造産業において利用されてきました。桜が「国花」、雉が「国鳥」なら、麹菌は「国菌」と称されるほど日本の食文化において重要な存在です(北本, 2000)。麹菌のゲノム構造は2005年に解読され、その全ゲノムは約37メガベースで12,074の遺伝子を含むことが明らかになりました(Machida et al., 2005)。この発見により、麹菌の分子レベルでの理解が大きく進展しました。
米国食品医薬品局(FDA)は麹菌を「Generally Recognized As Safe(GRAS)」として認定しており、世界保健機関(WHO)もその安全性を承認しています(He et al., 2019)。麹菌は様々な発酵食品の製造に使用され、味噌、醤油、甘酒、日本酒など、日本の伝統的な食品に広く活用されています。
参考)
北本勝ひこ (2000). 麹菌研究の最近の進展. 醸協, 95(6), 404-406.
Machida et al. (2005). Genome sequencing and analysis of Aspergillus oryzae. Nature, 438, 1157-1161.
Bin He., et al. (2019). Functional Genomics of Aspergillus oryzae: Strategies and Progress. Microorganisms. Apr 10;7(4):103
麹菌の最も重要な特徴は、300種類以上の様々な酵素を生成する能力にあります。特に重要な酵素には以下のものがあります:
これらの酵素は、食物の消化を助け、栄養素の吸収を促進します。特にビタミンB群が豊富に含まれており、代謝を促進してエネルギー産生をサポートする効果があります。多くの研究によれば、麹菌由来の酵素は腸内環境を整え、健康維持に寄与することが示唆されています。
参考:
広島大学2016年6月10日プレスリリース「【研究成果】米麹菌の酸性プロテアーゼを食べると腸内善玉菌が増加!」
Yongshou Yang., et al. (2025). Potential Roles of Exogenous Proteases and Lipases as Prebiotics. Nutrients. Mar 6;17(5):924.
最新の研究によれば、麹に含まれるグリコシルセラミド(糖脂質の一種)が腸内環境の改善に貢献することが明らかになっています。Hamajima et al. (2016)の研究では、麹菌由来のグリコシルセラミドが腸内のBlautia coccoides(ブラウティア・コッコイデス)という有益菌の増殖を促進することが示されました。
この菌の増加は、以下のような健康効果と関連しています:
日本人の腸内細菌叢の特徴として、Blautia属の細菌が他国の人々に比べて多く見られることが報告されており、これが日本人の長寿に寄与している可能性も示唆されています(Nishigima et al. 2016)。
参考)
Hamajima et al. (2016). Japanese traditional dietary fungus koji Aspergillus oryzae functions as a prebiotic for Blautia coccoides through glycosylceramide. SpringerPlus, 5, 1321.
S Nishijima., et al. (2016). The gut microbiome of healthy Japanese and its microbial and functional uniqueness. DNA Research, Volume 23, Issue 2, April 125–133
ヤクルト中央研究所 菌の図鑑「ブラウティア コッコイデス」
麹菌を含む発酵食品の摂取には、様々な健康効果が期待できます:
1. 代謝促進効果:麹菌に含まれるビタミンB群は、エネルギー代謝を促進し、疲労回復をサポートします。
2.消化吸収の向上:麹菌の生成する酵素が食物の消化を助け、栄養素の吸収を促進します。特にプロテアーゼによるタンパク質の分解は、アミノ酸の効率的な吸収につながります。
3.腸内環境の改善:佐賀大学の北島らの研究によれば、麹菌由来の成分が腸内の有益菌の増殖を促進し、腸内環境を整えることが示されています。
4. 免疫機能の調整:麹菌由来の成分には、免疫系を調整する作用があり、体の抵抗力を高める可能性があります。
5. ストレス軽減効果:新潟大学(2023)の研究によれば、米麹にはストレスが引き起こす不安や痛みを軽減する効果が示唆されています。
参考)
Hamajima et al. (2016). Japanese traditional dietary fungus koji Aspergillus oryzae functions as a prebiotic for Blautia coccoides through glycosylceramide. SpringerPlus, 5, 1321.
新潟大学2023年10月17日プレスリリース「米麹によるストレス軽減効果の可能性」
麹菌は日本の伝統的な発酵食品文化の中核を担う微生物であり、その酵素生産能力や代謝産物は多様な健康効果をもたらします。特に消化促進効果、代謝サポート機能、腸内細菌叢への好影響などが科学的に解明されつつあります。
日本の伝統的な食文化と長寿の関連については、麹菌を含む発酵食品が重要な役割を果たしていると考えられています。麹菌による発酵プロセスは、食品の栄養価を高め、消化吸収を促進するだけでなく、腸内環境の改善を通じて全身の健康維持に貢献していると言えるでしょう。
今後の研究によって、麹菌のさらなる健康機能が解明され、伝統的な発酵食品と現代の健康科学の橋渡しがさらに進むことが期待されます。
麹菌(Aspergillus oryzae)は日本の伝統的な発酵食品に欠かせない微生物であり、多様な消化酵素を生み出す能力を持っています。本稿では、麹菌由来の消化酵素の特性と作用機序、そしてダイエット効果について詳細に解説します。
麹菌は糸状菌(カビ)の一種で、2006年に日本醸造学会によって「国菌」として認定されました。味噌、醤油、酒などの伝統的な日本の発酵食品製造において中心的な役割を果たしています。
麹菌は300種類以上もの酵素を生産する能力を持ち、その中でも特に重要な消化酵素として以下の3種類が挙げられます:
特にプロテアーゼは、麹菌が生み出す重要な消化酵素の一つで、タンパク質をアミノ酸やペプチドに分解する役割を担っています。麹菌由来のプロテアーゼには、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼなど様々な種類があります
プロテアーゼの消化促進効果
麹菌由来のプロテアーゼは、消化器官内でタンパク質を分解し、消化・吸収を促進します。特に酸性プロテアーゼは胃の酸性環境でも安定して活性を保ち、タンパク質の消化を助けます。楊らの研究(2017)によると、麹菌の酸性プロテアーゼは胃を通過した後も一部が活性を保持したまま小腸や大腸に到達し、未消化のタンパク質を分解して遊離アミノ酸を増加させる可能性が示唆されています。
腸内環境への影響
麹菌由来のプロテアーゼには、腸内の善玉菌、特にビフィズス菌の増加を促進する効果があることが動物実験で確認されています。広島大学の研究チームは、ある種の麹菌由来プロテアーゼの摂取がラットの腸内ビフィズス菌を著しく増加させることを発見しました。
特に注目すべきは、Aspergillus oryzae由来のプロテアーゼの摂取により、腸内ビフィズス菌が500倍以上増加したという驚くべき結果です。この効果は熱処理によって失活させたプロテアーゼでは見られなかったことから、プロテアーゼの酵素活性そのものが重要であることが示唆されています。
また、プロテアーゼの摂取により、腸内の有益な短鎖脂肪酸(プロピオン酸や酪酸)の増加も確認されています。これらの短鎖脂肪酸は、腸管の炎症抑制や代謝調節に重要な役割を果たします。
参考:
楊 永寿ら(2019)「次世代プレバイオティクス:麹菌プロテアーゼ」生物工学 vol.97 No.4
麹菌由来の消化酵素がダイエットに効果的とされる理由には、以下のような機序が考えられます:
代謝促進効果
麹に含まれる消化酵素(特にプロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ)は食物の消化・吸収を促進し、代謝を活性化します。特にビタミンB1が豊富に含まれる麹は、糖質や脂質の代謝を促進する働きがあり、これがダイエット効果につながると考えられています。
消化酵素による効率的な栄養素の分解と吸収は、食後の血糖値の急激な上昇を抑え、インスリンの分泌を調整することで、脂肪の蓄積を抑制する可能性があります。
腸内環境改善によるダイエット効果
麹菌プロテアーゼによる腸内ビフィズス菌の増加は、以下のようなメカニズムでダイエット効果をもたらすと考えられています:
1. 短鎖脂肪酸の産生増加: ビフィズス菌の増加は、短鎖脂肪酸(特に酪酸)の産生を促進します。これらは腸管のエネルギー源となるだけでなく、満腹感を高めるホルモン(GLP-1、PYYなど)の分泌を促進し、食欲を抑制します。
2. 炎症の抑制: 腸内環境の改善は慢性的な軽度の炎症を抑制し、インスリン抵抗性を改善することで、代謝の正常化に寄与します。
3. エネルギー吸収の調節: 腸内細菌叢の変化は、食物からのエネルギー吸収効率に影響を与え、過剰なエネルギー摂取を抑制する可能性があります。
麹菌由来のプロテアーゼは、従来のプレバイオティクス(オリゴ糖など)とは全く異なるメカニズムで腸内環境を改善することが示唆されています。楊らの研究では、0.1%のAspergillus oryzae由来プロテアーゼ(Amano protease)の摂取効果が、10%フラクトオリゴ糖(FOS)よりもはるかに強力であることが示されました。
従来のプレバイオティクスは善玉菌の栄養源となるのに対し、麹菌プロテアーゼは腸内で未消化タンパク質を分解して遊離アミノ酸を増加させ、これがビフィズス菌の生育を促進すると考えられています。この発見は、プレバイオティクスの概念そのものを拡張する可能性を持っています。
参考:
楊 永寿ら(2019)「次世代プレバイオティクス:麹菌プロテアーゼ」生物工学 vol.97 No.4
麹菌が生み出す消化酵素、特にプロテアーゼは、タンパク質の消化促進や腸内環境の改善を通じて、ダイエット効果をもたらす可能性が科学的に示されています。その効果は単なる消化促進にとどまらず、腸内細菌叢の変化を介した代謝調節や満腹感の増加など、複数のメカニズムによってもたらされると考えられます。
特に注目すべきは、麹菌由来のプロテアーゼが従来のプレバイオティクスとは全く異なるメカニズムで腸内の善玉菌を増やし、腸内環境を改善する点です。これは伝統的な日本の発酵食品の健康効果を科学的に裏付ける重要な発見と言えるでしょう。
日本人の腸内にビフィズス菌が比較的多いという事実は、麹菌発酵食品の摂取と関連している可能性があり、麹菌由来の消化酵素の新たな可能性を示唆しています。今後の研究により、麹菌由来消化酵素の作用機序やダイエット効果についてさらなる解明が進むことが期待されます。
麹菌(Aspergillus oryzae)は日本の伝統的な発酵食品に欠かせない微生物であり、強力なタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)を生産する能力を持っています。近年、麹菌由来のプロテアーゼとプロテインの併用により生成される機能性ペプチドに関する研究が進み、筋肉合成の促進や代謝調節など、多様な生理活性が明らかになってきました。本章では、麹菌とプロテインの相乗効果によって生み出される機能性ペプチドの特性と生理作用について、科学的知見をもとに詳細に解説します。
麹菌は300種類以上もの酵素を生産する能力を持ち、特にタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の生産能力が非常に高いことが知られています。山形(2016)によると、麹菌のゲノム解析の結果、タンパク質分解酵素をコードする遺伝子が多数見つかっており、他の糸状菌と比較しても特異的に多いことが明らかになっています。
麹菌の生産するプロテアーゼには、以下の特徴があります:
1. 多様なプロテアーゼの生産: 酸性、中性、アルカリ性など様々な環境で働くプロテアーゼを生産します。
2. エンド型とエキソ型プロテアーゼの両方を保有: 中谷ら(1972)によると、麹菌は他の微生物と異なり、タンパク質の内部結合を切断するエンド型プロテアーゼと、末端からアミノ酸を遊離させるエキソ型プロテアーゼの両方を豊富に持っています。
3. 効率的なペプチド生成能: 鄭ら(2022)の研究では、麹菌のタンパク質分解システムは、大型タンパク質を小型ペプチドやアミノ酸に効率よく分解できることが示されています。
これらの特性により、麹菌は摂取したプロテインを機能性ペプチドへと効率的に変換することができます。
参考:
山形 洋平(2016)「黄麹菌A. oryzaeのタンパク質分解酵素」(科学と生物 vol.54 No.2)
T Nakadai., et al. (1971). The Action of Peptidases from Aspergillus oryzae in Digestion of Soybean Proteins. Agricultural and Biological Chemistry. vol.37 No.2
鄭 屹峰ら(2022)「麹発酵により生じたペプチドおよびアミノ酸代謝物の機能」(日本醸造協会誌 vol.117 No.1)
プロテインが麹菌のプロテアーゼによって分解されると、様々な長さのペプチド断片が生成されます。これらのペプチドの中には、特定の生理活性を持つ「機能性ペプチド」が含まれています。機能性ペプチドの生成について、堤(2017)は以下のように説明しています:
「・・・清酒醸造では、米を原料として麹菌や清酒酵母が代謝することで、米の主成分であるデンプンやタンパク質を、一次機能、二次機能、三次機能を有する代謝物へと変換する」。
機能性ペプチドの生成には、主に以下のプロセスが関与しています:
特に注目すべきは、麹菌発酵過程で生成される「ピログルタミルペプチド」です。鄭ら(2022)によると、タンパク質中のグルタミン残基がアミノ末端に位置するペプチドは、発酵や熟成の過程でピログルタミル残基に変換され、特殊な生理活性を持つペプチドとなります。
参考:
堤浩子(2017)「清酒醸造から機能性素材の開発」(生物工学 vol.95 No.10)
鄭 屹峰ら(2022)「麹発酵により生じたペプチドおよびアミノ酸代謝物の機能」(日本醸造協会誌 vol.117 No.1)
麹菌由来プロテアーゼによって生成された機能性ペプチドは、通常のプロテインと比較して吸収性が大幅に向上します。その理由は以下の通りです:
1. 低分子化: 大きなタンパク質分子が小さなペプチドに分解されることで、消化管からの吸収が容易になります。
2. ペプチドトランスポーターの活用: 小型ペプチド(2-3個のアミノ酸からなるペプチド)は、腸管上皮細胞に存在する特殊なトランスポーター(PEPT1など)によって効率的に吸収されます。
3. 消化酵素負担の軽減: 既に適度に分解された状態であるため、体内での消化酵素の負担が軽減され、即時的な栄養供給が可能になります。
これらの特性により、麹菌由来プロテアーゼで処理されたプロテインは、通常のプロテイン摂取と比較して、より効率的に吸収され、筋肉組織への栄養供給が促進されます。
麹菌由来の機能性ペプチドは、単なるアミノ酸供給源としてだけでなく、筋肉合成を積極的に促進する生理活性を持つことが明らかになっています。
筋肉合成促進のメカニズムとしては、以下の経路が考えられています:
1. mTORシグナル経路の活性化: 特定のペプチドがmTOR(mammalian Target Of Rapamycin)シグナル経路を活性化し、筋タンパク質合成を促進します。
2. 筋肉合成関連因子の増加: 筋肉合成に関わる転写因子や成長因子の発現を増加させる作用があります。
3. 筋肉萎縮関連因子の抑制: 筋肉分解を促進する因子(例:ミオスタチン)の発現を抑制することが示唆されています。
参考:
渡辺 敏郎ら(2019)「麹菌を用いた発酵食品の機能性」(生物工学 vol.97 No.4)
麹菌由来の機能性ペプチドは、代謝調節に重要な役割を果たします。鄭ら(2022)の研究によると、特定のピログルタミルペプチド(例:pyroGlu-Leu)は、体重増加の抑制や脂肪蓄積の防止に効果があることが示されています。
代謝調節作用の主なメカニズムには以下が含まれます:
1. 脂肪分解の促進: 特定のペプチドが脂肪細胞のリパーゼ活性を高め、脂肪分解を促進します。
2. 腸内細菌叢の改善: 鄭らの研究では、pyroGlu-Leuなどのペプチドが腸内細菌叢の組成を改善し、代謝異常を防ぐことが示されています。
3. 炎症反応の抑制: 慢性的な軽度の炎症は代謝障害と関連しており、特定のペプチドはこの炎症を抑制する作用があります。
堤(2017)の研究では、酒粕由来のペプチドが血管内皮細胞における一酸化窒素(NO)の産生を促進し、血流を改善する効果が報告されています。これは以下のようなメカニズムによるものです:
「・・・酒粕分解ペプチド無添加の細胞に比べて、添加10分後に、酒粕分解ペプチド250 ppmの区分で19%、500 ppmで22%、1000 ppmで31%、一酸化窒素産生量が有意に増加した。これにより酒粕分解ペプチドが、血管内皮の一酸化窒素の産生を活発化させ血管を拡張、指血流を改善する可能性が示唆された」。
血流改善は筋肉への栄養供給や老廃物の除去を促進し、筋肉の回復と成長を助けます。
麹菌発酵で生成される機能性ペプチドには、強力な抗酸化作用を持つものが含まれています。堤(2017)によると、酒粕分解ペプチドはグルタチオンと同等の抗酸化活性を示すことが報告されています。
また、麹菌が産生する環状ペプチド「デフェリフェリクリシン(Dfcy)」は、フェルラ酸と同程度のスーパーオキシド消去能を持ち、DPPHラジカル消去活性も有することが確認されています。
これらの抗酸化作用は、運動によって増加する酸化ストレスから筋肉を保護し、筋損傷からの回復を促進する効果があります。
機能性ペプチドの中には、ホルモン様活性を持つものや、ホルモン分泌を調節する作用を持つものが存在します。例えば、特定のペプチドは以下のような作用を持ちます:
1. 成長ホルモン分泌促進: 特定の配列を持つペプチドが成長ホルモンの分泌を促進することが知られています。
2. インスリン様作用: 一部のペプチドはインスリン様作用を持ち、グルコースの取り込みを促進します。
3. アディポネクチン産生調節: 脂肪細胞からのアディポネクチンの産生を調節し、代謝を改善します。
このようなホルモン調節作用は、筋肉の成長と修復、全身のエネルギー代謝の最適化に寄与します。
参考:
鄭 屹峰ら(2022)「麹発酵により生じたペプチドおよびアミノ酸代謝物の機能」(日本醸造協会誌 vol.117 No.1)
堤浩子(2017)「清酒醸造から機能性素材の開発」(生物工学 vol.95 No.10)
麹菌由来プロテアーゼとプロテインを効果的に組み合わせるためには、以下のアプローチが考えられます:
1. 発酵プロテインの利用: 麹菌で発酵させたプロテイン製品を摂取する方法。これにより既に機能性ペプチドが生成された状態で摂取できます。
2. 麹菌製品とプロテインの併用: 麹菌製品(味噌、醤油、甘酒など)とプロテインサプリメントを食事で併用する方法。
3. 発酵大豆製品との組み合わせ: 納豆や味噌などの発酵大豆製品と動物性プロテインを組み合わせることで、相補的なアミノ酸プロファイルと機能性ペプチドの両方を摂取できます。
最適な効果を得るためのタイミングと摂取量については、以下のポイントが重要です:
1. 運動前後の摂取: 機能性ペプチドを含むプロテインは、運動前後30分以内に摂取することで筋肉合成を最大化できます。時間栄養学の観点によると「朝のプロテインが筋肉の合成スイッチを入れる」とされています。
2. 適切な摂取量: 体重1kgあたり1.2〜2.0gのタンパク質を1日の目標とし、それを複数回に分けて摂取することが推奨されています。
3. 継続的な摂取: 機能性ペプチドの効果を最大化するためには、単発的ではなく継続的な摂取が重要です。
参考:
早稲田大学2021年7月7日トピック「タンパク質摂取時間と筋量増加の関係:体内時計に合わせた朝のタンパク質摂取タイミングが筋量増加に効果的」
麹菌とプロテインの併用による機能性ペプチド研究は、まだ発展途上にあります。今後期待される展開としては以下のポイントがあります:
1. 特定ペプチド配列の同定と合成: 筋肉合成を特に促進する特定のペプチド配列を同定し、それらを合成・配合した製品の開発。
2. 個別化アプローチ: 個人の遺伝的背景や腸内細菌叢の状態に応じた、最適な機能性ペプチドの提案。
3. 高齢者の筋肉減少(サルコペニア)への応用: 高齢者の筋肉量維持のための特殊な機能性ペプチド製品の開発。
麹菌とプロテインの併用は、単なる栄養素の供給を超えた相乗効果を生み出します。麹菌由来のプロテアーゼによって生成される機能性ペプチドは、効率的な吸収、筋肉合成の促進、代謝調節、血流改善、抗酸化作用、ホルモンバランスの調整など、多面的な生理活性を示します。
これらの効果は、日本の伝統的な発酵食品の知恵と現代のプロテイン栄養学を融合させた、新しい健康アプローチを提供しています。適切な組み合わせとタイミングで摂取することで、筋肉の成長と修復を最大化し、全身の健康と運動パフォーマンスの向上に貢献することが期待できます。
今後の研究によって、より特異的な機能性ペプチドの同定と効果的な利用法が解明されることで、さらに進化した健康・栄養アプローチへと発展していくでしょう。麹菌とプロテインの組み合わせは、体づくりをサポートする上で非常に理想的な関係であるという主張は、科学的な根拠に基づいた有望なアプローチと言えます。
麹菌(Aspergillus oryzae)は日本の伝統的な発酵食品製造において中心的な役割を果たしてきた微生物です。近年の研究により、麹菌が生成する酵素や成分が腸内環境に良い影響を与え、プレバイオティクスとして機能することが科学的に明らかになってきました。本稿では、麹菌が腸内環境に与える影響とプレバイオティクスとしての役割について、最新の科学的知見をもとに詳細に解説します。
麹菌は多様な酵素を産生する能力を持ち、特にタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)、デンプン分解酵素(アミラーゼ)、脂質分解酵素(リパーゼ)などの消化酵素を豊富に生産します。楊らの研究(2019)によると、麹菌由来のプロテアーゼには、その活性自体が腸内環境に良い影響を与える能力があることが明らかになっています。麹菌が生産するプロテアーゼは、タンパク質を小さなペプチドやアミノ酸に分解する能力が高く、これにより消化を助けるだけでなく、腸内で特定の善玉菌の増殖を促進する効果があります。特に注目すべきは、広島大学の加藤らの研究(2016)で明らかにされた米麹菌の酸性プロテアーゼが腸内のビフィズス菌を著しく増加させる効果です。
参考:
楊 永寿ら(2019)「次世代プレバイオティクス:麹菌プロテアーゼ」生物工学 vol.97 No.4
広島大学2016年6月10日プレスリリース「【研究成果】米麹菌の酸性プロテアーゼを食べると腸内善玉菌が増加!」
広島大学の加藤らの研究グループは、麹菌由来の酸性プロテアーゼがラットの腸内ビフィズス菌を著しく増加させることを発見しました。具体的には、麹菌由来のプロテアーゼ剤を餌に0.2%添加してラットに与えたところ、盲腸内のビフィズス菌が500倍以上増加するという劇的な効果が確認されました。 この効果は従来のプレバイオティクスであるフラクトオリゴ糖(FOS)と比較しても、少なくとも100倍以上の効果があることが示されています。従来のオリゴ糖やイヌリンなどのプレバイオティクスは「善玉菌の餌」となって善玉菌の生育を促進するのに対し、麹菌のプロテアーゼは全く異なる機構で善玉菌を増加させると考えられています。
麹菌由来のプロテアーゼは、腸内の短鎖脂肪酸、特にプロピオン酸や酪酸の生成も促進することが報告されています。楊ら(2019)によると、プロテアーゼの摂取により、腸内の短鎖脂肪酸が顕著に増加しました。
短鎖脂肪酸は腸内環境の維持に重要な役割を果たしており、以下のような効果があります:
– 大腸上皮細胞のエネルギー源となる
– 腸管のバリア機能を強化する
– 炎症を抑制する
– 免疫調節機能を持つ
日本の伝統的な発酵食品に含まれる麹菌由来のグリコシルセラミドもまた、腸内細菌叢に影響を与えることがHamajimaら(2016)によって報告されています。特に、Blautia coccoides(ブラウティア・コッコイデス)という善玉菌の成長を特異的に促進することが明らかになりました。
この研究では、麹由来のグリコシルセラミドを含む食事をマウスに与えたところ、腸内のB. coccoidsの割合が有意に増加しました。さらに、in vitroの実験においても、B. coccoidsの成長が麹グリコシルセラミドによって特異的に促進されることが確認されています。
B. coccoidsの増加は、以下のような健康効果と関連していることが報告されています:
– 炎症性腸疾患の抑制
– 抗肥満効果
– 抗がん作用
– メンタルヘルスの改善
麹菌由来プロテアーゼがどのようにしてビフィズス菌を増加させるのかというメカニズムについて、楊ら(2019)は以下のような仮説を提案しています:
酸性プロテアーゼは酸性条件下でも比較的安定であるため、胃(酸性条件)を通過しても一部が失活せずに小腸や大腸にまで到達します。大腸内では、未消化のタンパク質を加水分解することによって遊離のアミノ酸が増え、ビフィズス菌の生育に有利な環境が形成されると考えられています。
実際に、実験ではプロテアーゼ摂取により盲腸内の遊離アミノ酸が著しく増加していることが確認されており、タンパク質摂取の不足条件下では効果が消失したことから、このメカニズムが支持されています。
麹菌プロテアーゼは腸管免疫にも良い影響を与えることが報告されています。楊ら(2019)の研究では、麹菌由来のプロテアーゼ剤の摂取により、糞中のIgA(immunoglobulin A)やムチンが増加することが示されました。
IgAは腸管免疫において重要な役割を果たす抗体で、病原体の侵入を防ぐ最前線の防御機構です。ムチンは腸管バリアー機能に関与する成分で、これらの増加は免疫機能の改善を示唆しています。
麹菌由来の酵素による消化の改善は、食物からの栄養吸収を効率化するだけでなく、代謝にも良い影響を与えます。麹に含まれる消化酵素は以下の効果をもたらすことが報告されています:
– 食物の消化・吸収の促進
– 代謝の活性化
– 体内の有害物質や老廃物の排出(デトックス効果)
– 満腹感の持続による過食の抑制
これらの効果により、麹菌の摂取はダイエット効果をもたらすとされています。
腸内環境が改善されることで、「腸脳相関」を通じて精神面にも良い影響をもたらす可能性があります。ビフィズス菌やB. coccoidsの増加は、以下のような効果をもたらすことが報告されています:
– セロトニンなどの神経伝達物質の産生調節
– 脳へのストレス信号の軽減
– 精神的な安定の促進
– うつや不安の軽減
ビフィズス菌は精神疾患に対してもポジティブな影響を及ぼすことが最近の研究で報告されており、腸内環境の改善は「第二の脳」とも呼ばれる腸を通じて心身のバランスに深く関わると考えられます。
最近の研究では、日本人の腸内細菌叢には特徴的なパターンがあることが報告されています。Nishijimaら(2016)によると、日本人の腸内には他の国の人々と比較してBlautia属の細菌が多く含まれていることが分かっています。また、世界各国のヒトの糞便のメタゲノム解析により、日本人にはビフィズス菌が比較的多いことも報告されています。これらの特徴は、日本人が長年にわたって麹菌発酵食品を摂取してきたことと関連している可能性があります。
参考:
S Nishijima., et al. (2016). The gut microbiome of healthy Japanese and its microbial and functional uniqueness. DNA Research, Volume 23, Issue 2, April 125–133
楊 永寿ら(2019)「次世代プレバイオティクス:麹菌プロテアーゼ」生物工学 vol.97 No.4