「微生物分解って本当にプラスチック問題の解決策になり得るの?通常のプラスチックと植物由来プラスチックはどう違うの?」と疑問を持つ方も多いはずです。結論として、微生物分解はプラスチック問題に対する革新的なアプローチであり、植物由来プラスチックのうちの生分解性プラスチックと、バイオマスプラスチックおよび石油由来プラスチックとの分解メカニズムの違いを理解することで、環境対策の新たな可能性が見えてきます。この記事では、微生物がプラスチックと生分解性プラスチックをどのように分解するのか、その仕組みや両者の違い、さらに実用化に向けた最新の研究動向について詳しく解説していきます。
※研究開発コラムは微生物を活用した研究開発において参考になるトピックを集めたもので、全てのテーマについて当社が研究開発を実施しているわけではございません。
目次
ここでは微生物分解の基本的な定義やメカニズムについて大まかに概説いたします。
微生物分解とは、微生物が有機物や一部の無機物を分解する現象であり、自然界に存在する多くの細菌や真菌がその役割を担っております。化学物質や廃棄物が微生物によって分解される過程において、微生物は酵素を利用して物質をより単純な成分へと変換(バイオコンバージョン)いたします。この過程は自然界のリサイクルの一環として機能し、環境における浄化作用と廃棄物の減少に貢献します。分解の反応は微生物の種類や周囲の環境条件に左右されるため、具体的な反応速度や分解能力は多様な要因によって変動します。近年の研究では、微生物の分解能力が新たな廃棄物処理技術として注目され、持続可能な環境保全策の一環として利用される可能性が高まっています。
分解過程に関与する生物は主として細菌と真菌に分類されます。微生物分解における細菌と真菌の役割は、種類や環境条件によって異なりますが、一般的には以下のように区別できます。
細菌の役割
❶多様な分解能力:細菌は、さまざまな種類の有機物を分解する能力を持っています。特に、糖類、タンパク質、アミノ酸などの比較的単純な有機物の分解に優れています。
❷迅速な分解:細菌は、増殖速度が速いため、有機物を迅速に分解することができます。そのため、初期の分解過程において重要な役割を果たします。
❸特定の環境への適応:細菌は、好気性、嫌気性、高温、低温など、さまざまな環境に適応する種類が存在します。そのため、多様な環境下で分解活動を行うことができます。
❹窒素循環への関与:土壌中の窒素固定菌は、大気中の窒素を植物が利用できる形に変換し、土壌の肥沃化に貢献します。
真菌(カビ)の役割
❶難分解性有機物の分解:真菌は、セルロース、リグニン、キチンなどの複雑な構造を持つ有機物を分解する能力に優れています。これらの物質は、植物の細胞壁や昆虫の殻などに含まれており、細菌による分解が難しいものです。
❷糸状菌による分解:糸状菌は、菌糸を伸ばして有機物に侵入し、酵素を分泌して分解します。そのため、大型の有機物や、土壌中の有機物を効率的に分解することができます。
❸土壌構造の改善:真菌の菌糸は、土壌粒子を結合させ、団粒構造を形成します。これにより、土壌の通気性や保水性が向上し、植物の生育に適した環境が作られます。
❹菌根形成:菌根菌は、植物の根と共生し、植物の栄養吸収を助けます。
このように、細菌と真菌は、それぞれ異なる役割を担いながら、微生物分解において相補的に作用しています。現在、多くの研究機関においてはこれらの微生物を組み合わせ、分解効率を向上させる取り組みが進められています。各微生物の特性を正確に理解することは、最適な分解プロセスの設計において不可欠であり、将来的な廃棄物処理技術の発展に寄与することが期待されています。
参考:
(独)製品評価技術基盤機構(NITE)「バイオテクノロジー>分解者としての微生物」
この章では、現在までに研究されているプラスチック分解細菌やプラスチックを分解する酵素、また分解可能なプラスチックの種類などの紹介を行います。実用化まではまだまだ課題がある領域のため、その課題点や解決のために必要な研究についても概説します。
プラスチックの分解には、特定の能力を持つ微生物が関与することが確認されています。従来、微生物は主に有機物の分解に関与しておりましたが、最新の研究により一部の細菌や真菌がプラスチックの成分に対して分解反応を引き起こす能力を持つことが明らかとなっております。これらの微生物はプラスチックの分子構造に働きかけ、劣化および分解を促進する酵素を生成します。実験室レベルの研究成果から実際の廃棄物処理現場での応用に向けた取り組みへと技術が発展しつつあり、新たな分解技術の開発はプラスチック汚染の解決策として革新的な可能性を秘めています。
参考:
三菱総合研究所(MRI)2019年4月9日コラム「生分解性プラスチックの課題と将来展望」
慶應義塾大学2025年2月26日プレスリリース「生分解性プラスチック Green Planet をわずか数日で完全分解する微生物を発見!」
株式会社伊藤園2024年11月25日プレスリリース「プラスチックに生分解性を付与する添加剤P-Lifeを添加したポリプロピレンの分解菌を発見。11月28日(木)に日本分子生物学会で発表」
分解が可能なプラスチックには、研究により特定の種類が確認されています。一般的なプラスチックであるpolyethylene(ポリエチレン:PE)やpolypropylene(ポリプロピレン:PP)は分解が困難と考えられてきましたが、近年ではアメリカのレンセラー工科大学で緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を用いたPEの分解や、高知大学の研究で「アルカニボラックス(Alcanivorax)」と言う菌がPPを分解できる事が発表されています。しかしこれらの菌の分解速度は遅く、社会実装にはまだ更なる精力的な研究が必要と考えられます。一方で微生物分解しやすいプラスチックとして、様々な植物由来プラスチックの研究開発も進んでいます。特に環境中の微生物で容易に分解されるプラスチックを「生分解性プラスチック」と呼び、PLA(ポリ乳酸)やPHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)などが知られています。各プラスチックの分子構造により分解のしやすさは異なり、すべてのプラスチックが均一に分解されるわけではありません。分解可能なプラスチックの特性を正確に把握することは、効果的な分解プロセスの設計において極めて重要です。科学者はプラスチックの分解速度向上のため、酵素の改良や環境条件の最適化に向けた研究を進め、さらにゲノム編集などの技術を応用しプラスチックからシルクタンパク質を作るように微生物に変換させる等の研究も進められており、従来のプラスチックにも新たな技術で対応できる可能性を模索しています。
参考:
WIRED NEWS 2024年4月5日記事「プラスチックからシルクのようなタンパク質素材をつくる研究が進んでいる」
高知大学農林海洋学部研究紹介「世界初! プラスチックを分解する微生物から石油を生み出す微生物まで」
慶応義塾大学2025年2月28日プレスリリース「難分解性ポリプロピレンの分解菌を鎌倉の土壌から発見 1種類の微生物が構造の異なる複数のプラスチックを分解することを解明!」
日本バイオプラスチック協会「国内で展開されている生分解性プラスチック」
実際の研究事例において、微生物によるプラスチック分解の効果が明確に確認されています。多くの大学や研究機関では実験室での検証を通して微生物の分解能力が詳細に調査され、その結果、特定の細菌が酵素を介してプラスチックの分子構造を破壊する成功例が報告されています。これらの事例は理論的な知見だけでなく、実用的な応用の可能性を示しており、研究者は分解プロセスの効率化および新たな微生物の発見に向けた研究を継続しています。
特定の細菌はプラスチック分解において顕著な成果を上げる技術として注目されています。実験室で得られたデータは、細菌が生成する酵素がプラスチックの分子鎖を切断する過程を明確に示しています。分解効率や反応速度は環境条件やプラスチックの種類に依存するものの、現状は研究段階にある技術でありながら、実用化に向けた期待が高まっています。技術の応用が進展すれば、プラスチック廃棄物処理方法に革新をもたらすことが可能であると考えられています。
プラスチックを分解する微生物の種類
❶イデオネラ・サカイエンシス(Ideonella sakaiensis):
PET(ポリエチレンテレフタレート)を分解する能力を持つ細菌として、日本の研究チームによって発見されました。PETを、テレフタル酸とエチレングリコールという物質に分解します。
❷ビブリオ・ナトリエゲンス(Vibrio natriegens):
海水など塩分濃度が高い環境で生育できる微生物ですが、この菌が直接プラスチックを分解できるのではなく、❶のイデオネラ・サカイエンシスのプラスチック分解酵素遺伝子を組み込む事で、海洋中のプラスチックの分解に役立てるように開発された遺伝子組み換えの微生物を指します。
❸シュードモナス属(Pseudomonas spp.):
ポリエチレンやポリウレタンなど、さまざまな種類のプラスチックを分解する能力を持つ細菌です。自然界に広く分布しており、土壌や水、堆肥などから分離されています。
❹アルカニボラックス属(Alcanivorax spp.):
ポリプロピレンを分解する能力を持つ細菌です。海洋環境でプラスチックを分解する能力を持つことから、海洋プラスチック問題の解決に役立つと期待されています。
❺糸状菌(カビ):
特定の種類の糸状菌は、ポリウレタンなどのプラスチックを分解する能力を持つことが報告されています。土壌中で有機物を分解する役割を担っており、プラスチック分解にも貢献する可能性があります。
分解技術においては、微生物以外にも動物や植物の分解(消化)酵素そのものを利用するアプローチも積極的に検討されています。特定の酵素はプラスチックの分子構造を効率的に分解する能力を有しており、人工的に微生物などに動物や植物由来の分解酵素の遺伝子を組み替えて、大量生産された分解酵素を精製し利用して現場での分解プロセスを促進する試みが進行中です。酵素利用のメリットは、細菌自体を管理するよりも条件の制御が容易である点で、反応の安定性が高まるとともに、副産物の発生を最小限に抑制する効果が期待されます。これにより、環境保全におけるプラスチック問題への対応策が一層充実する見込みですが、汎用的に使われる酵素でなければ微生物分解よりもさらにコストがかかるデメリットなどがあります。産業実装例としては、フランスのカルビオス社が挙げられます。
カルビオス(Carbios)社
PET分解酵素を用いた革新的なリサイクル技術の開発。従来の熱処理よりも低温でPETを分解し、エネルギー消費量を削減。産業レベルでの実証プラントを建設し、実用化に向けた取り組みを推進。PETボトルのリサイクルや、ポリエステル繊維のリサイクルなど、幅広い分野での応用を目指す。
参考:
Ecotopia編集部2019年8月20日記事「プラスチックを分解する微生物!サカイエンシスが発見される」
Futurearth2023年9月21日記事「海水中でプラスチックを分解する海洋バクテリアを世界で初めて開発」
ESGジャーナル2023年11月15日号「カルビオス、フランスで世界初のPETバイオリサイクルプラント建設の承認を取得」
プラスチック分解技術の実用化に際しては、多くの課題が存在します。まず、分解速度の向上が最重要課題の一つであり、現状では微生物や酵素の分解能力が十分なレベルに達しておらず、大量の廃棄物処理に対してはさらなる技術改良が必要です。次に、分解プロセスにおける環境条件の最適化が求められています。温度、湿度、pHなどの環境パラメータが分解効率に大きな影響を与えるため、これらの条件管理が極めて重要な課題となります。多くの研究者は新たな触媒の開発や反応装置の改良を通じ、各地域の環境条件に合わせた最適な分解プロセスの構築を目指しています。これらの技術向上と環境条件の最適化が実現されれば、プラスチック分解技術の実用化は確実に前進することが期待されます。
この章では主に植物由来プラスチック(生分解性プラスチックとバイオマスプラスチック)と石油由来プラスチックの分解の違いについて概説します。石油由来プラスチックやバイオマスプラスチックが分解に非常に長い年月を必要とするのに対し、生分解性プラスチックが分解しやすい理由やプラスチックの種類の違いについて紹介します。
プラスチックは植物由来プラスチック(生分解性プラスチックとバイオマスプラスチック)と石油由来で分子構造において根本的に異なる特性を有しています。生分解性プラスチックは前章で述べたように、環境中の微生物が分解しやすいプラスチックを指しますが、同じ植物由来プラスチックでもバイオマスプラスチックは植物油脂から石油由来と同じ様なプラスチックを合成しているため、簡単には分解されないプラスチックを指します。植物は自然界において光合成や呼吸作用を通じエネルギーを生産する有機物であり、細胞壁や繊維質など複雑な構造を持っていますが、微生物は植物と同じく長年の進化の中でこれらの構造に働きかけ、酵素の助けを借りながら植物成分を段階的に分解し自らの栄養にできるメカニズムがあるため、生分解性プラスチックのような数多くの環境中の微生物が元から持つ分解酵素で分解しやすいプラスチックを作る事が可能なのです。一方、石油由来プラスチックやバイオマスプラスチックは人工的に合成された材料であり、分子構造が非常に安定しているため、分解を促進するためには特定の条件や新規の酵素の介在が不可欠です。各物質の分解プロセスを比較することにより、微生物の反応特性や環境条件がどのように作用するかが明確に理解され、適切な廃棄物処理技術の設計に役立てられると考えられています。
生分解性プラスチックの微生物分解メカニズム
主成分:
生分解性プラスチックは、ポリ乳酸(PLA)、ヒドロキシアルカノエート(PHA)など、植物由来の糖や油脂を原料としています。
分解メカニズム:
生分解性プラスチックは、一般的に環境中に存在する微生物が生産する酵素によってまず低分子化され、さらに微生物の働きで最終的に二酸化炭素と水にまで分解されます。植物由来プラスチックは、自然界に存在する微生物によって比較的容易に分解されるため、環境負荷が低いとされています。
石油由来プラスチック、バイオマスプラスチックの微生物分解メカニズム
主成分:
石油由来プラスチックは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)などを原料とする高分子化合物です。石油や植物油脂などから化学的に合成されます。
分解メカニズム:
石油由来プラスチックは、非常に安定した化学構造を持つため、自然界の微生物による分解は非常に困難です。一部の微生物は、特定の石油由来プラスチックを分解する能力を持つことが報告されていますが、分解速度は非常に遅く、特定の環境条件下でのみ起こります。石油由来プラスチックは、自然界に長期間(数百年単位で)残留し、マイクロプラスチックとして環境汚染を引き起こす原因となっています。
両者の違い
分解の容易さ:
生分解性プラスチックは、微生物による分解が比較的容易であるのに対し、石油由来プラスチックやバイオマスプラスチックは非常に困難です。
分解速度:
生分解性プラスチックの分解速度は、種類や環境条件によって異なりますが、一般的に石油由来プラスチックやバイオマスプラスチックよりも速いです。
環境負荷:
植物由来プラスチックは、分解によって水と二酸化炭素になるため、環境負荷が低いとされています。石油由来プラスチックやバイオマスプラスチックは、分解されにくく、マイクロプラスチックとして環境汚染を引き起こすため、環境負荷が高いとされています。
参考:
環境省プラスチック資源循環普及啓発ページ「バイオプラスチックとは?」
CHUKOH JOURNAL2024年10月15日号「生分解性プラスチックとバイオマスプラスチックの違いは?それぞれの特徴や製品を紹介」
植物の分解は、微生物が順次作用する過程を経て進行いたします。植物由来の有機物は微生物の働きによって徐々に分解され、土壌中の栄養素として再利用されるサイクルが確立されております。対してプラスチックは、その安定した分子構造により分解に必要な反応が極めて遅く、特定の環境条件が整わなければ分解がほとんど進行しません。分解速度の差は、使用される微生物の種類や環境パラメータの違いに起因し、これらの違いを正確に把握することが最適な分解プロセスの設計において不可欠であると考えられています。両者の分解条件の違いは、環境保全対策としての技術選定においても重要な指標となります。
自然界においては、植物もプラスチックも微生物による分解が生じていますが、植物の場合は自然のサイクルの中で分解され、土壌の栄養分として再利用される過程が確立されています。プラスチックは一方で、分解速度が非常に遅く、長期間にわたって環境中に残留する傾向があるため、自然環境での分解プロセスは限定的であります。研究者は自然界での分解事例を詳細に観察することで、より効率的な分解方法の開発に向けた知見を積み重ね、持続可能な廃棄物管理技術の確立を目指しています。自然界における分解事例は、微生物の多様性と環境条件の複雑な相互作用を示し、将来的な環境対策の基盤としての価値が高いと評価されています。
微生物を用いたプロセスは他の物理的、化学的にプロセスに比べてエネルギー効率が高く、環境負荷を減らし持続可能な社会の形成に欠かせないと一般的に考えられていますが、プラスチック分解についても同様の事が将来的には言えるでしょう。ただしコストの面や事業規模、必要な設備の問題など課題も多い領域ですので、その点を念頭に事業を考える事も必要です。この章では微生物分解による環境負荷の低減の可能性などを紹介します。
微生物分解は環境保全において極めて重要な技術です。従来の廃棄物処理手法では、高温処理や化学反応を用いることにより多大なエネルギー消費と有害物質の排出が問題となっていました。対して微生物分解は常温常圧などの自然界で起こる現象をそのまま利用するため、エネルギー消費が少なく、環境負荷が極めて低いと評価されています。分解過程において微生物が生成する酵素は、特定の条件下でのみ作用し、不要な副産物の発生を抑制するため、環境への悪影響が最小限に抑えられます。このため、微生物分解技術は持続可能な環境対策として、プラスチック処理の有効な手法として精力的な研究開発が続けられています。
現状、プラスチックのリサイクル手法としては、機械的リサイクルや化学的リサイクルが主流です。機械的リサイクルは物理的にプラスチックを破砕し再利用する方法であり、化学的リサイクルは高温や薬品を用いて分子構造を変化させる手法です。しかしながら、これらの手法はエネルギー消費が大きく、環境に与える影響が懸念される場合が多く存在します。微生物分解は自然のプロセスをそのまま利用するため、エネルギー効率が高く、環境への負荷が極めて低い点が大きな魅力です。各手法の特性を比較検証することにより、最適な廃棄物処理方法が明確になり、環境保全と資源循環の両面で持続可能な技術の実現が期待されます。
参考:
PETボトルリサイクル推進協議会「ボトルtoボトル 2.メカニカルリサイクル」
産総研マガジン「ケミカルリサイクルとは?―何度でも再利用できる理想のリサイクル技術―」
微生物分解技術は、従来のプラスチック廃棄物処理技術が抱える環境負荷の問題を解決し、持続可能な社会の実現に向けた革新的な手段として位置付けられています。従来の方法では、環境に対する負荷が高く、資源の有効利用にも限界が見られました。微生物分解は自然界のサイクルを活用するため、資源循環型社会の実現に貢献する技術として期待されています。現在、多くの研究機関や技術者が、この技術を実用化するための研究および実証実験を進め、環境保全と経済的効率の両立を目指しています。これにより、将来的なプラスチック廃棄物管理の新たなモデルとして社会全体に広く受け入れられる事が期待されています。
最後にこの章では、実用化または実用化に向けた取り組みの事例を紹介します。わが国においても産学官と連携したバイオものづくりの新規事業開発として重要なテーマと位置付けられており、積極的な事業補助金の対象でありかつイノベーションの余地がある領域と考えられていますので、新規バイオビジネスを考える方はぜひ参考にして頂ければと考えます。
近年、実用化に向けた取り組みは世界各国で着実に進展しています。研究機関や企業は、微生物分解技術を実際の廃棄物処理現場に応用するため、実証実験およびプロジェクトを積極的に推進しています。プラスチック分解微生物の開発と並行し、環境中の微生物で分解しやすい生分解性プラスチックも現在様々な新規物質が研究開発されています。一例ではカネカ株式会社では、植物でなく微生物に生分解性プラスチックである2章で述べたPHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を生産させる事に成功し、世界中に輸出を行う事業にまで発展しています。特定の企業においては、プラスチック廃棄物を対象とした実用的な分解システムの開発に成功し、実験室で得られた成果を現場で応用するための試みが進められております。技術の普及が進むにつれて、プラスチック問題への対応が加速し、環境保全に対する意識も向上しています。企業は持続可能な環境技術として微生物分解の可能性を追求し、効率的な分解プロセスの確立に向けた研究開発を積極的に実施しています。
参考:
カネカ株式会社「カネカ生分解性バイオポリマーGreen Planet®でなぜ世界が健康になるの?」
微生物分解技術の実用化はまだ初期段階にあるため、今後もさらなる研究開発の余地が広く存在しています。技術者および科学者は、酵素の改良や複数の微生物の組み合わせによる分解効率の向上を模索し、次々と新たな研究成果を発表しています。実験室での成功例が現場での応用に結びつくためには、技術の安定性や環境条件の最適化といった課題の解決が必要です。これらの課題に取り組むことで、微生物分解技術は確実に実用化に近づき、環境保全と資源循環の両面において新たな展望が広がることが期待されています。
微生物分解技術は、未来の環境対策として非常に高い期待が寄せられています。技術者は分解プロセスのさらなる効率化を目指し、環境条件の最適化および新たな分解手法の開発に注力しています。政策担当者や環境保護団体は、持続可能な廃棄物管理システムの構築において微生物分解技術の重要性を認識し、積極的な支援を行っています。技術の実用化が進むにつれて、プラスチック問題の解決のみならず、資源の有効利用や環境全般の保全に対しても大きな効果が期待されます。各界での協力と技術革新が進む中、微生物分解技術は未来の環境対策の柱として、持続可能な社会の実現に向けた中心的な役割を果たすと確信されています。
参考:
LIGHTSHIP2024年6月9日記事「プラスチック代替製品利用促進に関する補助金を活用するメリット」
環境省2024年2月22日報道発表資料「令和6年度脱炭素型循環経済システム構築促進事業 (うち、プラスチック等資源循環システム構築実証事業)の公募について」