バイオスティミュラント資材に興味はあるけれど、そもそもどうやって使えばいいのか分からない…光合成細菌や米ぬかを使った培養方法も気になるけど難しそう。そう思う方もいるかもしれません。実は、バイオスティミュラント資材は初心者でも手軽に取り入れられ、光合成細菌と米ぬかを活用することで土壌環境の改善や作物の健全な成長をサポートできる有効な方法です。この記事では、バイオスティミュラント資材の基本的な仕組みと効果、光合成細菌を米ぬかで培養する具体的な手順、そして実際の活用方法について分かりやすく解説していきます。
※研究開発コラムは微生物を活用した研究開発において参考になるトピックを集めたもので、全てのテーマについて当社が研究開発を実施しているわけではございません。
目次
バイオスティミュラント資材は、持続可能な農業の実現に向けた新たなアプローチとして世界中で注目を集めています。化学肥料や農薬に依存しない環境配慮型農業を目指す中で、植物本来の能力を引き出すこの革新的な資材について、その定義から最新動向まで詳しく解説します。
バイオスティミュラント資材(Plant Biostimulants: PBs)とは、植物の成長やストレス耐性を高める目的で使用される自然由来の物質や微生物のことを指します。EU規則2019/1009では、「植物バイオスティミュラントとは、製品の栄養素含有量とは無関係に植物栄養プロセスを刺激し、栄養利用効率、非生物的ストレス耐性、品質特性、または土壌や根圏内の養分の利用可能性の少なくとも一つを改善することのみを目的としたEU肥料製品」と定義されています。
バイオスティミュラント資材の主な特徴は以下の通りです:
1. 作用機序: 直接的な栄養供給ではなく、植物の生理的プロセスを刺激して自然な機能を活性化させる
2. 使用量: 通常の肥料や農薬と異なり、「微量」の使用で効果を発揮する
3. 成分: 腐植酸、海藻抽出物、アミノ酸、有益微生物など多様な自然由来の成分から構成される
4. 効果: 栄養吸収効率の向上、非生物的ストレス(高温・乾燥・塩害など)への耐性向上、土壌微生物叢の活性化など
「バイオスティミュラントは、植物が本来もつ力を引き出し、安定した生育と収穫に導くもの」であり、「肥料のように植物に栄養分を与えるものとも、農薬のように病害虫や雑草を駆除するものとも異なる」新たな農業資材として位置づけられています。
参考:
Y. Rouphael. Et al., Editorial: Biostimulants in Agriculture. Front. Plant Sci., 04 February 2020
ナガセヴィータ株式会社サステナブル・ストーリー2022年3月30日記事『持続可能な農業の実現へ、課題解決の活路を開く「バイオスティミュラント」』
バイオスティミュラント資材と化学肥料の最も顕著な違いは、その作用メカニズムにあります。
化学肥料の特徴:
– 窒素・リン・カリウムなどの栄養成分を植物に直接供給する
– 即効性があり、効果が見えやすい
– 使用量に比例して効果が現れる傾向がある
– 過剰使用により土壌環境の悪化や水質汚染のリスクがある
バイオスティミュラント資材の特徴:
– 植物の栄養吸収・利用効率を高める
– 植物本来の生理機能を活性化して間接的に成長を促進
– 土壌微生物の働きを活性化させ、土壌環境を改善
– 非生物的ストレスへの耐性を高める
「PBsは”栄養成分とは無関係に”植物生理プロセスを調節し、植物の栄養利用効率やストレス耐性等を改善する」ものであり、「従来の肥料や農薬とは位置づけが異なる」点が重要です。
バイオスティミュラント資材が注目される背景には、以下のような世界的・国内的な課題があります:
1. 持続可能な農業への移行
世界的な環境意識の高まりと持続可能な開発目標(SDGs)の推進により、環境への負荷が少ない農業生産方法が求められています。バイオスティミュラント資材は、化学肥料や農薬の使用量削減につながる代替手段として期待されています。
日本においても、2021年に農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」では、「2050年までに化学農薬使用量のリスク換算での50%低減、化学肥料の使用量の30%低減などの目標」が掲げられており、その達成のための重要な技術としてバイオスティミュラントが位置づけられています。
2. 気候変動への対応
気候変動による栽培課題の対策として期待されており、特に欧米では、気候変動対策による普及が拡大しています。異常気象の頻発により、作物は高温、乾燥、塩害などの様々なストレスにさらされるようになっています。バイオスティミュラント資材は、これらの非生物的ストレスに対する耐性を高める効果が期待されています。
3. 食料安全保障と生産効率の向上
世界人口の増加に伴い、限られた農地での食料生産効率の向上が急務となっています。バイオスティミュラント資材は、作物の収量や品質を向上させる可能性を持つため、食料安全保障に貢献する技術として注目されています。
4. 農業労働力の減少への対応
特に日本においては、農業従事者の高齢化と減少が深刻な問題となっています。バイオスティミュラント資材の活用により、作物の成長が安定し、農作業の効率化につながる可能性があります。
参考:
矢野経済研究所プレスリリース2024年4月11日『みどりの食料システムなどで注目を集めるバイオスティミュラント市場~2030年度の市場規模は136億1,000万円までの拡大を予測~』
アグリジャーナル2025年4月25日記事『日本初、バイオスティミュラント適正利用への自主規格を公表。正しい効果の測定方法の確立に期待』
ナガセヴィータ株式会社サステナブル・ストーリー2022年3月30日記事『持続可能な農業の実現へ、課題解決の活路を開く「バイオスティミュラント」』
バイオスティミュラント資材の市場は、世界的に拡大傾向にあります。矢野経済研究所の調査によると、「バイオスティミュラント製品の2022年度の国内市場規模(5分類合計)は、メーカー出荷金額ベース(国内流通分)で92億2,000万円」と推計されており、「2030年度には136億1,000万円に達すると予測」されています。
市場拡大の背景には、「肥料価格の高騰による肥料代替や『みどりの食料システム戦略』において化学農薬や化学肥料の使用量削減が掲げられていること、さらに、バイオスティミュラント製品を現在使用している生産者はそれほど多くなく、今後の生産者の需要拡大の余地が大きいこと」などがあります。
しかし、国内でのバイオスティミュラント資材の普及にはまだ課題があります。アグリジャーナルの記事によると、「日本国内では、バイオスティミュラントの効果の測定方法や資材の評価基準に関する認識が曖昧であることから、生産者が目的にあう適切な資材を選択しづらく、安心して使用できないという課題が生じている」とされています。
この課題を解決するため、2025年4月には「Eco-LAB」が日本初となるバイオスティミュラント資材の適正利用に関する自主規格を公表しました。この自主規格は「農林水産省が発表した『バイオスティミュラントの表示に係るガイドライン(案)』に準拠」しており、農業現場が求めるバイオスティミュラント資材の基準として、資材の要件と、その試験方法および判定基準を定めたものとの事です。
2025年以降、この自主規格の普及によって「資材の製造販売事業者様は農林水産省のガイドラインに準拠した商品表示ができるようになり、資材を使用する農業生産者様は科学的根拠をもとに目的にあった商品を安心して選択できるようになる」ことが期待されています。
参考:
矢野経済研究所プレスリリース2024年4月11日『みどりの食料システムなどで注目を集めるバイオスティミュラント市場~2030年度の市場規模は136億1,000万円までの拡大を予測~』
アグリジャーナル2025年4月25日記事『日本初、バイオスティミュラント適正利用への自主規格を公表。正しい効果の測定方法の確立に期待』
バイオスティミュラント資材は、持続可能な農業を実現するための革新的なアプローチとして世界中で注目を集めています。従来の化学肥料や農薬に頼らず、植物本来の能力を引き出し、環境ストレスへの耐性を高めるこの資材の種類や選び方について解説します。
バイオスティミュラント資材は、その起源や組成、作用機序によって様々な種類に分類されます。それぞれの特徴と効果について見ていきましょう。
微生物系バイオスティミュラントは、様々な有益微生物を利用した資材です。主に以下のようなものがあります:
1. 植物生長促進根圏細菌(PGPR)
土壌中に生息し、植物の根と相互作用して成長を促進する細菌です。主にAzotobacter、Azospirillum、Bacillus、Pseudomonas属などの細菌が利用されます。窒素固定や植物ホルモンの生成を通じて植物の成長を促進します。
2. 菌根菌
植物の根に共生し、根との間に相互に有益な関係を構築する菌類です。菌根菌が配合されたバイオスティミュラントを使うと、土壌の中に広く菌糸が張り巡らされ、根では吸収できない養分や水分を吸収できるため、作物の成長の助けになります。
3. 光合成細菌
微生物資材の一種で、植物の光合成を促進し、根圏環境の改善や植物の成長を助けます。また日照りや曇天など、地域やその年によって刻々と変化する外部ストレス環境にも耐えられる強い作物を作ることができます。
参考:
O I. Yakhin. Et al., Biostimulants in Plant Science: A Global Perspective. Front. Plant Sci., 26 January 2017.
味の素グループAgriTechnoお役立ち情報2025年5月20日記事『バイオスティミュラントの種類と効果的な活用方法』
セイコーエコロジア2020年12月18日記事『バイオスティミュラントとは?|農作物の生産を向上する資材』
植物から抽出された成分を主成分とするバイオスティミュラントです:
1. 海藻エキス
海藻から抽出される成分は、古くから農業で利用されてきました。海藻は土壌の微生物を活性化させるなどの効果があるといわれています。
2. 植物エキス
様々な植物から抽出したエキスを利用したバイオスティミュラントです。これらは植物ホルモン様の物質や生理活性物質を含み、植物の成長を促進します。
有機物から抽出または生成される成分を主成分とするバイオスティミュラントです:
1. 腐植酸・フルボ酸
枯れた木々や落ちた葉、動物の排泄物や死んだ生き物などが、長い時間をかけて徐々に分解されることで生成される成分です。酸性やアルカリ性の条件によって溶けやすさが異なるため、「フミン酸」「フルボ酸」「ヒューミン」などと呼び分けられています。これらの腐植酸が土壌に存在すると、微生物の活動が活発になり、土の粒が集まりやすくなります。その結果、水や養分を保ちやすい土となり、植物の根の発達を助ける働きがあります。
2. アミノ酸
天候が悪く、日照が不足するような環境では、作物の光合成がうまく進まず、生育が滞ることがあります。しかし、有機由来のアミノ酸が土壌中にあると、光合成に頼らずとも植物の根から直接取り込まれ、成長に必要な成分として利用されます。植物体内では、アミノ酸がそのままタンパク質の材料となり、細胞の構築に役立ちます。そのため、アミノ酸を含む資材を活用することで、天候に左右されにくい安定した生育が期待できると考えられています。
3. キチン・キトサン
甲殻類や昆虫の外骨格から抽出される多糖類で、植物の防御機能を活性化し、病害抵抗性を高める効果があります。
1. ミネラル成分
作物が健やかに育つためには、光合成の働きや細胞の発達を円滑に進めるためのさまざまな成分が必要とされます。中でも、鉄やマンガン、ホウ素、モリブデン、亜鉛、銅、塩素といった微量要素に加え、マグネシウム、カリウム、硫黄といった栄養素が重要な役割を果たしています。これらの成分は、植物体内で代謝の反応をスムーズに進め、生命活動全体を支える基盤となっています。
2. ビタミン類
作物が健康に育つためには、光合成の働きが適切に維持されることが重要です。その調整役として働くのがビタミンであるとされています。特に、成長が活発な部分にはビタミンが集中し、根や葉の発達を支える役割を果たしていると考えられています。
3. グリシンベタイン
環境ストレス耐性を高める成分として注目されています。神戸大学で行われた研究では、高温下でも健全に育ったトマト株において、特定の処理が施されていたことが明らかになりました。この処理が行われた区画では、葉が青々と保たれていた一方で、何の処理もされていない区画では葉枯れが確認されました。こうした結果から、植物が高温や低温といった環境ストレスに対して適応力を高める効果が期待できると考えられています。
参考:
施設園芸コラム2020年5月25日記事『【農業資材】バイオスティミュラントに挑戦!おすすめ資材と効果的な使い方』
バイオスティミュラント資材を選ぶ際には、使用する作物や土壌の状態に応じたものを選ぶことが重要です。効果的な選び方について解説します。
作物の健全な育成を目指してバイオスティミュラント資材を取り入れる際には、単に評判や流行に左右されず、自作物の置かれている状況を正確に見極める姿勢が求められます。まず重要なのは、現在の生育を妨げている原因、つまり「制限要因」を明らかにすることです。根の張りが悪いのか、乾燥に弱いのか、あるいは栄養の吸収がうまくいっていないのか、問題の本質を特定することで、対処すべき方向が見えてきます。さらに、使用する資材についても「なぜその効果が出るのか」という仕組みを理解したうえで選定することが不可欠です。効果の持続性を引き出すためには、このような根拠に基づいた判断が大きな差を生みます。
例えば、以下のような状況に応じた資材選びが考えられます:
1. 排水性の悪い土壌の場合:微生物の働きを促進する資材(菌根菌や光合成細菌など)が効果的です。これらの微生物は土壌の通気性を改善し、根の健全な発育を促します。
2. 根の発育を重視したい場合:アミノ酸を含んだタイプの資材を取り入れる方法が効果的とされています。アミノ酸は、光合成によるエネルギー生成に依存することなく、作物の体内に吸収されてそのままタンパク質の構成要素となるため、天候に左右されにくく、安定して根の形成を促します。特に発根が遅れている場面や初期成育を確実に進めたいときに、有機由来のアミノ酸資材が活躍します。
3. 高温環境での栽培の場合:高温が続く環境で作物を育てる際には、暑さによる生育障害を軽減できるような特性を持った資材の導入が重要になります。特に、グリシンベタインを成分として含んでいる製品は、植物の細胞が熱ストレスに耐える力を高めるとされており、過酷な気象条件下でも安定した生育を支える手段として注目されています。また、すでに高温条件での栽培実績があるバイオスティミュラント資材を選ぶことも、信頼性のある成果を得るための判断材料となります。
4. 養分不足の土壌(N・P欠乏)、塩害、乾燥などの問題がある場合:微生物系バイオスティミュラント(PGPRやAMF)は特に低投入条件で有効であり、土壌の養分可給性や作物のストレス耐性を高めるのに寄与します。
参考:
スマートアグリ2023年7月27日記事『開発者に聞く、本当に効果が上がる「バイオスティミュラント」の選び方とは?』
Y. Rouphael. Et al., Editorial: Biostimulants in Agriculture. Front. Plant Sci., 04 February 2020
事前に土壌の診断を行い、その結果に基づいて最適な資材を選定することが成果を上げるポイントです。土壌診断を行うことで、不足している栄養素や微生物の状態を確認し、それに合ったバイオスティミュラント資材を選定できます。土壌に含まれる成分を調べ、不足しているミネラルが明らかになった場合には、その欠乏を補う手段としてバイオスティミュラント資材の活用が有効です。栄養バランスの整った環境を整えることで、作物の健やかな発育を後押しすることが期待されます。特に栄養素の偏りが原因で成長が鈍化している場合には、適切な資材の導入が生育改善の鍵を握ります。
バイオスティミュラントに初めて取り組む農業者にとって、どのような資材から始めるべきか、そのポイントを解説します。
バイオスティミュラントの導入を検討する際、初めて扱う場合には操作が容易で効果を感じやすい製品を選ぶことがポイントです。特に、普段から見聞きすることの多い素材を含む製品であれば、安心して始めやすくなります。さらに、長年使用されている信頼性の高い製品を選ぶことも失敗を避けるうえで大切です。
使用時には、安全性を念頭に置きつつ、現在行っている栽培管理に無理なく取り入れられる製品を選ぶことが理想的です。また、製品ごとに推奨されている用法・用量をきちんと守ることが、期待する効果を得るための基本となります。
なかでも液体タイプのバイオスティミュラントは扱いやすいことで知られており、初心者にも向いています。一般的には高濃度の原液として販売されているため、水で適切に薄めて使用します。施用の方法としては、葉の表面に吹きかけたり、噴霧機を用いた散布のほか、潅水チューブなどを使って根元から吸収させる方法もあります。使用目的や環境に合わせて柔軟に取り入れることが可能です。
初心者には、効果が比較的早く実感できる製品から始めるのがおすすめです。例えば、以下のような製品が考えられます:
1. 液体タイプの光合成細菌資材:液体タイプの光合成細菌を含む資材は、市販品として広く出回っており、水に薄めて使えるため施用が簡単です。霧吹きや潅水チューブなど、普段の管理に取り入れやすい方法で利用できる点が大きな利点です。
さらに、光合成細菌には以下のようなメリットがあります。まず、光合成細菌は植物の光合成を間接的に助ける働きがあります。土壌中で有機物を分解しながら栄養分を供給し、根圏の環境を整えることで、根の健全な成長を促進します。また、窒素固定能力により、作物が吸収しやすい形で栄養素を供給できるため、肥料効率が向上します。
そのうえ、光合成細菌が作り出す生理活性物質は、病原菌に対する自然な抵抗力の向上にも寄与するとされています。これにより、農薬の使用頻度を抑えつつ、作物の健全な育成を後押しする可能性があります。
このように、光合成細菌は単なる栄養補助だけでなく、土壌改善や病害抵抗性の強化、環境への負荷軽減にもつながる多機能な存在です。初心者が導入する際には、取り扱いやすい製品から始めつつ、こうしたメリットを理解することで、より効果的にバイオスティミュラントの利点を享受できるでしょう。
2. 希釈してそのまま散布できる海藻エキス:海藻由来のエキスは、バイオスティミュラントとして利用される素材の中でも、特に栄養素を多く含んでいる点が注目されています。植物の健全な生長を助けるミネラルや成長活性物質が自然な形で含まれており、作物の活力向上に役立ちます。この海藻エキスは、施用のしやすさという点でも優れています。潅水や潅注、さらには葉への散布にも適しており、さまざまな方法で簡単に使用できるのが魅力です。さらに、他の農業資材との相性もよく、農薬との混合使用が可能なケースも多いため、別途散布の手間がかからず、作業効率の向上にもつながります。時間や手間を省きながら、作物の健全な育成をサポートする手段として有効です。
バイオスティミュラント資材は、すぐに効果が現れるものではなく、長期間にわたって継続して使うことでその真価を発揮します。多くのメリットが期待できる一方で、即効性に欠けるため、作物の成長を助ける目的で使う場合は、肥料や農薬といった従来の管理方法と組み合わせることが不可欠です。
生育を活発にし、植物が受けるストレスを和らげるためには、バイオスティミュラント資材だけに頼るのではなく、基本的な栽培技術をしっかりと維持しながら活用することが成功の鍵となります。これにより、より効果的に作物の健全な成長をサポートできます。
また、バイオスティミュラントは種類や製品ごとに効果や使用方法が異なるため、説明書をよく読み、専門家のアドバイスを受けながら正しく使うことが非常に重要です。こうした配慮が、期待する成果を確実に得るためのポイントとなります。
参考:
施設園芸コラム2020年5月25日記事『【農業資材】バイオスティミュラントに挑戦!おすすめ資材と効果的な使い方』
光合成細菌は、太陽光を利用して有機物を分解しながら増殖する微生物です。土壌や水の浄化、植物の成長促進、病原菌の抑制といった多様な効果を持ち、農業においては有用な微生物資材の一つとされています。自然界にも存在し、安全性が高い点も利点です。
光合成細菌は35億年前から地球に存在する微生物で、田んぼなど様々な場所に生息しています。この細菌は「酸素を発生する光合成」と「酸素を発生しない光合成」の二つのタイプがあり、特に農業分野で利用されているのは紫色非硫黄細菌(PNSB)と呼ばれる種類です。
これらの細菌の特徴として、アンモニアや硫化水素などのいわゆる「どぶ臭い物質」を分解する能力があります。また、アミノ酸やビタミンを多く含んでおり、植物に施用することで、植物が本来光合成から生成するアミノ酸の過程をスキップし、余ったエネルギーを生長や味の向上に回すことができるとされています。
参考:
チバニアン兼業農学校2022年11月6日記事『米ぬかで光合成細菌を効率的に育てる方法』
光合成細菌は、家庭でも比較的簡単に培養することができます。準備する材料は、米ぬか、水、砂糖、そして光合成細菌の種菌です。これらを混ぜ合わせた培養液を、透明な容器に入れて日当たりの良い場所に置きます。おおよそ1週間から10日間程度で、赤紫色の液体に変わり、特有の発酵臭がしてきたら培養完了のサインです。
光合成細菌の培養は、その環境条件を整えることが非常に重要です。研究によると、光合成細菌の培養温度は10~38度の範囲が目安で、22~35度程度が最適温度となり、効率的に増殖することが示されています。
培養の基本的な手順は以下の通りです:
1. 清潔なペットボトルにきれいな水を半分入れる(水道水でも可)
2. 米ぬかを小さじ半分~1杯程度(1リットルボトルの場合)入れる
3. 光合成細菌の種菌を入れて残りの水で満たし、キャップを閉めて混ぜる
4. 太陽光の当たる場所に置き、1日1回ガス抜きと撹拌を行う
5. 2週間~1ヶ月で液体が赤紫色になれば完成
参考:
光合成細菌専門店 秀玄『光合成細菌(PSB)の増やし方。ご家庭での培養方法』
WildLifeGarden2023年4月6日記事『家庭で簡単!私流光合成細菌の増やし方』
用意するのは、米ぬか100g、水1L、砂糖50g、そして光合成細菌の元種です。これをよく混ぜ、清潔なペットボトルなどの容器に入れます。発酵が進むため、キャップは完全には締めず、ガスが抜けるようにしておくことが大切です。
米ぬかは光合成細菌の培養基として非常に適しています。これは米ぬかに含まれている豊富な栄養素が、光合成細菌の成長に必要な条件を満たしているためです。また、日本では比較的入手しやすく、コスト面でも効率が良いため、広く使われています。米ぬかにはビタミンやミネラル、有機物質など、細菌の生長に欠かせない成分がバランス良く含まれており、これらが光合成細菌の繁殖と活性化を促進します。
農家では1tタンクに雨水を溜め、米ぬかを1kg程度入れ、種菌を加えることで大量培養を行っています。熊本県の田上和彦さんは、液肥として使い、タンクの中身が5分の1ほどに減ったら再び雨水を溜め、米ぬかを加える(種菌は最初だけ)方法で、注ぎ足し注ぎ足しで無制限に培養しているそうです。
参考:
チバニアン兼業農学校2022年11月6日記事『米ぬかで光合成細菌を効率的に育てる方法』
現代農業WEB2023年9月1日記事『光合成細菌の「米ヌカだけ培養」 雨水+米ヌカの注ぎ足しでいくらでも殖やせる』
培養は、毎日軽く振って酸素を供給することが必要です。日光が当たることで光合成が促進されるため、直射日光が当たる場所が適しています。ただし、夏場の高温で容器内が極端に熱くなると菌が死んでしまうため、温度管理には注意が必要です。異常な腐敗臭やカビが発生した場合は、再度やり直すことが望ましいです。
培養には光と温度の条件が非常に重要です。実験結果から、光の強さは温度よりも重要であることが示されています。同じ培地と光合成細菌で場所だけを変えて1週間培養した結果、「エアコン直下ライトなし(28度)」「室外南側(5度)」「室内窓辺南側(22度)」の3つの条件では、光>温度の順で培養成果に影響することがわかりました。
また、ペットボトルを立てるよりも寝かせたほうが、光が当たる面積が広くなり、培養成功率が高まります。天候不良などで光の確保が難しい場合は、室内で植物育成ライトを当てる方法も効果的です。
光合成細菌は嫌気性細菌のため、キャップを閉めて培養します。培養開始1週間ほどはガスが発生してペットボトルがパンパンになるので、1日1回はガス抜きを行う必要があります。また、光合成細菌やエサが底に沈殿するため、撹拌も忘れずに行いましょう。
参考:
WildLifeGarden2023年4月6日記事『家庭で簡単!私流光合成細菌の増やし方』
培養した光合成細菌は、水で10倍から100倍に薄めて散布します。葉面散布や土壌への潅水など、用途に応じて使用方法を調整できます。保存は冷暗所で行い、1か月以内に使い切ることが望ましいです。長期間保存すると活性が低下するため、必要な分だけ定期的に培養するのが理想的です。
実際の使用方法としては、250倍~1000倍に希釈して潅水・葉面散布するのが一般的です。少量でも効果があるため、希釈濃度には注意が必要です。濃すぎる場合(例:50倍希釈)、虫を呼び寄せる可能性もあります。
「From Lab to Farm: Elucidating the Beneficial Roles of Photosynthetic Bacteria in Sustainable Agriculture」という研究論文によると、光合成細菌は次のような多様な効果を持っています:
1. 葉菜(チンゲン菜、からし菜、レタスなど)の生育向上
2. カロテノイド含量やビタミン含量の増加
3. 硝酸態窒素含量の低減(20-50%)
4. 果実の収量・品質向上、リコピン含量増加
5. 塩ストレスや重金属汚染などの非生物的ストレス耐性の強化
6. 病害虫への抵抗性向上
また、光合成細菌とえひめAI(酵母菌・乳酸菌・納豆菌を培養した菌液)を併用して潅水すると効果が倍増するという報告もあります。
以上のように、光合成細菌の米ぬか培養法は、家庭でも手軽に取り組める持続可能な農業技術の一つです。適切な条件下で培養し、正しく活用することで、化学肥料や農薬の使用量を減らし、より健全で環境に優しい農業・園芸を実践することができるでしょう。
参考:
Sook-Kuan Lee. Et al., From Lab to Farm: Elucidating the Beneficial Roles of Photosynthetic Bacteria in Sustainable Agriculture. Microorganisms 2021, 9(12), 2453
WildLifeGarden2023年4月6日記事『家庭で簡単!私流光合成細菌の増やし方』
近年、環境に配慮した持続可能な農業への関心が高まる中、バイオスティミュラント資材が注目を集めています。バイオスティミュラントは、肥料でも農薬でもない「第三の農業資材」として、植物の生理機能を活性化し、ストレス耐性の向上や収量・品質の向上に貢献します。本稿では、バイオスティミュラント資材の具体的な使用方法や導入事例について解説します。
バイオスティミュラント資材は、種まき前の土壌処理、栽培期間中の潅水、収穫前の葉面散布など、さまざまな場面で活用できます。作物の成長段階に応じた使用が効果を高めるため、使用時期や方法については製品の説明をよく確認しながら進めることが重要です。
土壌処理は主に土壌環境を改善し、根の発達を促進する目的で行います。フルボ酸や腐植酸などの資材は、土壌の物理性を改善し、微生物の活性を高める効果があります。栃木県小山市のいちご農家・添野常知さんは、OATアグリオ株式会社のバイオスティミュラント資材『フルボディ』を使用した結果、「苗が良ければ、その年は7割から9割成功です。フルボディを使ったところ、苗がしっかり育った。それは根が長く強く伸びたから。つまり、土壌環境が良くなったからなんです」と効果を実感しています。
土壌処理の基本的な方法は以下の通りです:
1. 定植前または育苗期に土壌に混和または潅水に混ぜる
2. 製品指定の希釈率で定期的に施用する(通常2週間に1回程度)
3. 特に根の発達が重要な時期(育苗期や定植後の活着期)に重点的に使用する
灌水時にバイオスティミュラント資材を混ぜる方法は、手間をかけずに定期的に資材を施用できる便利な方法です。根からの吸収を促進し、植物全体の健康状態を向上させる効果があります。
1. 指定の希釈率でかん水用の水に混和する
2. 定期的(通常1〜2週間に1回)に施用する
3. 特に高温期や低温期など、植物がストレスを受けやすい時期に重点的に使用する
栃木県足利市でアスパラガスを栽培する齊藤秀統さんは、「フルボディを使った土はとても軟らかくなります。アスパラの生育に重要なのは水。とにかく大量の水を吸収する。だからしっかりと保水できる土であることが重要なんです。フルボディを使った軟らかい土は、とても保水量が増え、苔が生えるほどです。一方で、水はけも良い。カビや病気がつきにくいんじゃないかと期待しています」と語っています。
葉面散布は、植物が必要とする栄養素や生理活性物質を直接葉から吸収させる方法です。特に海藻由来のバイオスティミュラントは葉面散布で高い効果を発揮します。
1. 製品の指定希釈率(通常5,000〜10,000倍)に希釈する
2. 成長期の葉面に均一に散布する
3. 朝か夕方など、気温の低い時間帯に散布する
4. 特に天候不良や日照不足の時期に補助的に使用する
広島県の水耕栽培トマト農家は、「夏場に根が弱り、栄養吸収がしにくくなったため、収量・品質が落ちていました。ところが、海藻のエキスを葉面散布することでかなりの改善がみられました」と報告しています。
参考:
飯野ら「【ミニレビュー:第9回応用糖質フレッシュシンポジウム】腐植酸バイオスティミュラントの開発」日本応用糖質科学会誌12 巻3号2022年
マイナビ農業2022年7月6日記事『植物本来の力を底上げし、天候不良に負けない野菜を作る 増収と高品質をサポートするバイオスティミュラント』
AGRI JOURNAL2024年10月29日記事『トマトの試験で収穫数、収益がアップ! 海藻由来のバイオスティミュラントの効果は?』
効果を過信して過剰に使用した結果、植物が過剰反応を起こすことがあります。また、土壌や気候の条件によっては期待した効果が得られない場合もあります。そのため、少量から試して様子を見ることや、他の栽培条件と併せて管理することが失敗を防ぐポイントです。
バイオスティミュラント資材は、肥料とは異なりごく微量で効果を発揮します。過剰に使用すると、植物のバランスが崩れ、かえって生育不良を招くことがあります。
日本農薬学会誌に掲載された研究によれば、バイオスティミュラントの過剰使用は生理的な不均衡を招き、場合によっては収量や品質に悪影響を及ぼす可能性があることが指摘されています。
過剰使用を防ぐ対策:
1. 製品の推奨濃度を厳守する
2. 少量から始めて効果を確認しながら調整する
3. 植物の反応を観察しながら施用頻度を決める
参考:
鳴坂ら「バイオスティミュラントはどのように植物保護に貢献できるか?」日本農薬学会誌47 巻 2 号2022年
バイオスティミュラント資材の効果は、土壌条件や気候条件によって大きく左右されます。特に微生物系のバイオスティミュラントは、土壌のpHや温度条件に敏感です。
対策:
1. 土壌分析を行い、自分の圃場に適した製品を選ぶ
2. 季節や気候条件に合わせて使用時期や方法を調整する
3. 複数の圃場で小規模試験を行い、効果を検証してから本格導入する
Frontiers in Plant Science誌に掲載された研究によると、バイオスティミュラントの効果は、実験室や温室で確認された効果と実際の野外条件での効果には違いがあることが報告されています。そのため、実際の栽培条件で効果を確認することが重要です。
バイオスティミュラント単体での効果を過度に期待し、基本的な栽培管理が疎かになると効果が出にくくなります。
対策:
1. 適切な肥培管理を基本としつつ、バイオスティミュラントを補助的に使用する
2. 潅水管理や温度管理など基本的な栽培条件を整える
3. 総合的な栽培管理の一環としてバイオスティミュラントを位置づける
ある家庭菜園では、光合成細菌を用いた資材を定期的に潅水に取り入れた結果、トマトやキュウリの実付きが良くなり、収穫量が約1.5倍に増加したという報告があります。また、病気の発生も減少し、安定した栽培が可能になったとのことです。
アンデス貿易株式会社の「海藻のエキス」を使ったトマト栽培の試験では、慣行栽培と比較して収穫数や収益が大幅に向上しました。特に海藻由来のバイオスティミュラントに含まれる多糖類、ミネラル、ビタミン、アミノ酸が植物の生育を促進し、食味の向上にも貢献しています。
試験結果によると、「海藻のエキス」を使った栽培では、収穫したトマトの糖度と酸度のバランスが良好となり、「味が濃厚」「旨味とコクがある」との評価を得ています。土壌環境の改善と葉面散布の併用により、特に夏場の高温時に根が弱りがちな時期でも安定した生育が可能になったと報告されています。
OATアグリオ株式会社のバイオスティミュラント資材を使用したアスパラガス栽培では、2週間に1度の流し込みで茎の太さに大きな差が確認されました。フルボディを流し込んだ畑では細いものが少なく、15mmから20mm以上と太いアスパラが増えました。また、収穫の終盤でもアスパラは太さを維持し、全体の収量も増加しました。
栃木県足利市のアスパラガス農家・齊藤秀統さんは、2022年の低温で全国的にアスパラガスの収量が85%程度まで落ち込む中、バイオスティミュラント資材を使用することで例年比ほぼ100%の収量を維持することができたと報告しています。
参考:
AGRI JOURNAL2024年10月29日記事『トマトの試験で収穫数、収益がアップ! 海藻由来のバイオスティミュラントの効果は?』
マイナビ農業2022年7月6日記事『植物本来の力を底上げし、天候不良に負けない野菜を作る 増収と高品質をサポートするバイオスティミュラント』
果樹農家では、海藻由来のバイオスティミュラント資材を使った結果、花芽の数が増え、開花率が向上したとの報告があります。花卉農家においても、フルボ酸資材を使用することで根の張りが良くなり、花の発色が鮮やかになった事例が確認されています。
栃木県小山市のいちご農家・添野常知さん(45年の経験を持つベテラン農家)は、バイオスティミュラント資材「フルボディ」を使った年が、これまでのベストの年になったと語っています。特に苗の育成段階での根の発達が顕著で、これが病害抵抗性の向上と収量・品質の向上につながりました。
いちごの栽培では親苗の定植から次の育苗まで14ヵ月もかかるため、品質の良いいちごを収穫しつつ良い苗を育苗することが重要です。バイオスティミュラント資材の使用によって、いちごの根がしっかりと伸長し、株姿の葉の立ちも良くなったとのことです。
「リダバイタルとアルガミックスも使っています。2週に1回、収穫まで6回ほど葉面散布しました。リダバイタルの効果で光合成がしっかりでき、苗は元気に。アルガミックスの効果で、しっかり花も実も育ちました」と添野さんは効果を実感しています。
Frontiers in Plant Science誌に掲載された研究では、ブドウの「Redglobe」品種に対して、ブラシノステロイド類似体を開花初期に散布したところ、糖度の向上、果実の着色改善、アントシアニン含有量の増加が見られました。収量に影響を与えることなく果実品質の向上が確認されています。
同誌には、オリーブ栽培においてセレン(Se)を葉面散布した実験結果も報告されており、エキストラバージンオリーブオイル(EVOO)の栄養価と機能性の向上が確認されています。抗酸化物質(カロテノイドやフェノール)の増加により、オリーブオイルの酸化安定性が向上し、結果として保存期間の延長にも貢献しています。
農業LABブログによると、モモの事例では海藻由来のバイオスティミュラントの使用により、収穫後60日で無処理区の32.2%の果実が腐敗したのに対し、処理区では耐病性が向上し腐敗率が低下したことが報告されています。
参考:
マイナビ農業2022年7月6日記事『植物本来の力を底上げし、天候不良に負けない野菜を作る 増収と高品質をサポートするバイオスティミュラント』
Y. Rouphael1 et al., Editorial: Biostimulants in Agriculture. Front. Plant Sci., 04 February 2020
農業LABブログ2025年3月17日『【解説】海藻資材の多彩な効果【バイオスティミュラント】』
バイオスティミュラント資材は、植物本来の力を引き出し、環境ストレスへの耐性を高め、収量と品質の向上に貢献する重要な農業資材です。土壌処理、灌水、葉面散布など様々な方法で使用でき、作物の生育段階や環境条件に合わせて適切に活用することで最大の効果を得ることができます。
特に注目すべきは、バイオスティミュラント資材が単なる収量増加だけでなく、根系の発達促進、病害抵抗性の向上、環境ストレスへの耐性強化、品質向上など多岐にわたる効果を発揮している点です。アスパラガス、トマト、いちごなど様々な作物での成功事例が報告されており、従来の化学農薬や肥料に依存しない持続可能な農業への転換において重要な役割を果たすことが期待されています。
バイオスティミュラント資材を使用する際は、製品の特性を理解し、少量から試すことで自分の栽培条件に適した使い方を見つけることが大切です。また、基本的な栽培管理をしっかり行いながら、バイオスティミュラントを補完的に使用することで、最大の効果を引き出すことができるでしょう。
欧州ではすでに多くの研究と実証試験によってバイオスティミュラントの効果が認められ、日本でも「みどりの食料システム戦略」の中で重要な位置づけとなっています。今後さらに研究が進み、より効果的なバイオスティミュラント資材の開発と活用法が確立されることで、環境と調和した持続可能な農業の実現に貢献するでしょう。