発酵食品は日本の食文化には欠かせないものであり、多くの人が口にしています。しかし発酵食品の特徴や種類、製造方法などまでは知らない方も多いでしょう。そこで今回は、発酵食品の製造方法や、製造するときに注意すべきポイントを解説します。
ポイントを押さえれば安全で高品質な発酵食品を作れるため、ぜひ最後までご覧ください。
目次
発酵とは、微生物に物質を分解させて、人間の体にいい働きを促す食材に変化させることです。
そして微生物の働きを利用して食材を発酵させたものが、発酵食品です。
微生物には乳酸菌・麹菌のほか、酵母やカビなども含まれ、食品中の糖分やデンプンを分解し、酸やアルコール、ガスなどを生成します。
食材を発酵させると食品の風味が変わり、旨味や栄養も生まれるため、近年では健康面でも注目されています。
発酵過程で生成される有機酸や酵素は、腸内環境を整える効果があり、健康に寄与します。さらに発酵食品の保存期間は長いことから、古くから食品保存の手段として利用されてきました。
発酵食品の原型は昔から存在しており、万葉集にも記載があるように、奈良時代に入ると主に酒造りが盛んになりました。
平安時代になると味噌や醤油の製法が確立され、江戸時代には納豆・漬物などが一般的な食材となり、今日に至ります。
日本は温暖湿潤な気候であり、非常にカビが発生しやすい気候のため、発酵食品を作りやすい環境です。
カビにとってありがたいともいえる環境により、日本では古くから自然と発酵食品が多く作られてきました。
発酵食品の種類としては主に飲料・食品・調味料があります。
特に日本の発酵食品の中でも数多くあるのが調味料であり、料理でも頻繁に使われています。
ここからは、発酵食品の製造に欠かせない微生物の種類について解説します。
酵母菌とは、糖を分解してアルコールと二酸化炭素を生み出す微生物です。
パンやお酒を作るときには欠かせない微生物であり、清酒やワインなどお酒から香る匂いは、酵母菌によるアルコール発酵によるものです。
酵母菌は植物・野菜や果物の表面・空気中など自然界のあらゆるものに生息しており、非常に身近な微生物といえるでしょう。
発酵食品の製造で役立つ細菌には、主に以下のような種類があります。
参考:乳酸菌の分類と性質
乳酸菌は糖を乳酸に変える働きがあり、発酵乳では乳酸が乳タンパク質を凝集させる作用があるので乳が固まります。
乳酸がタンパク質を凝固させる性質を利用し、牛乳に乳酸菌を入れて発酵させたのがヨーグルトやチーズです。
また、乳酸菌は漬物にも用いられており、野菜に元々付着している乳酸菌と、野菜に含まれる糖類とが影響し合って作られています。
納豆菌は、文字通り納豆を作る際に使われる菌です。加熱した大豆に加えて発酵させると、たんぱく質を分解してアミノ酸を作ります。
納豆には欠かせない粘りは、ポリグルタミン酸と多糖類のフルクタンが結合することで出るものです。
酢酸菌は、酢を作る際に使われる菌です。酵母菌を利用して穀類や果実をアルコール発酵させたあと、酢酸菌を加えて発酵させることで酢ができあがります。
発酵に使う真菌は無害で、毒はありません。発酵食品の製造で活用される真菌には、以下のような種類があります。
麴菌は味噌・みりん・醤油・米酢など、古くから日本で使われている調味料に関連しています。和食を形作るのに欠かせない菌であり、その重要性から、平成18年に日本醸造学会が「国菌」と認定しました。
麹には食材に甘みとうまみをもたらしてくれる酵素が多く含まれており、肉や魚を柔らかくしてくれます。
白カビ・青カビはペニシリウム属のカビです。白カビは胞子の色が白いことから、白カビと呼ばれています。代表的なのはチーズで、チーズの表面で増殖して発酵に寄与します。
青カビも、胞子が青色であることが名前の由来です。チーズの内部で増殖し発酵に寄与します。ブルーチーズ(ロックフォールチーズ、ゴルゴンゾーラ)といったブルーチーズに使われています。
発酵食品には、豆類、魚介類、乳製品、穀類など多くの種類があります。本章では、日本の代表的な発酵食品と製造方法について解説します。
納豆は、蒸した大豆を納豆菌で発酵させて作ったものです。
作るうえで必要なものは、基本的には大豆・納豆菌・わらづとです。わらづととは、わらで作られた包装になります。伝統的な作り方は、以下の通りです。
現在はわらがなかなか手に入らないことから、天然の納豆菌を使うことが減ってきました。
培養された納豆菌を用いるのが、現代の作り方です。
納豆にはタンパク質をはじめ、脂質・糖質・ビタミンB1など栄養成分が多く含まれています。
また発酵するとさらにナットウキナーゼなど新しい有用成分も作られるため、血栓症や高血圧の予防・コレステロール値の低下にも期待できます。
味噌は、大豆を発酵させて作ったものです。米味噌・豆味噌・麦味噌・合わせ味噌があります。
味噌の種類のひとつ・米味噌の材料となるのは、大豆・米・塩・麹菌です。代表的な作り方は、次のとおりです。
米麴と塩を混ぜる際は、水を加えるなどの調整が必要です。水分が少ないと発酵しにくく、かといって多すぎると発酵が進みやすくなってしまいます。
樽に詰めるときは味噌玉にして投げつけるようにして、空気を入れないように注意しながらフタをして重しをのせます。
なお、味噌の種類は麹の種類や発酵時間などによって変わります。
白味噌は、米麹を使って作られる甘口の味噌です。大豆よりも米麹のほうが割合は多く、熟成期間が短い味噌です。ほかの味噌に比べ、塩分濃度が低い点が特徴です。
対して赤味噌は、長時間水に浸した大豆を使います。白味噌よりも熟成期間が長く、コクや深みがあるのが特徴です。食品に含まれる糖とタンパク質が加熱されて褐色になることから、赤味噌と呼ばれています。
醤油は、日本の食卓に置いて欠かせない調味料です。 物や汁物などの調理に使用したり、お刺身・冷ややっこなどに直接かけて使ったりなど、日本食の味のベースになっています。
材料は主に大豆・小麦・塩・麹菌・水です。基本的な作り方は、次のとおりです。
生醤油を加熱して殺菌するのは、微生物の活動を止めるだけでなく、醤油の保存性も高めるうえでも欠かせない作業です。
みりんの材料は、もち米・米麹・焼酎または醸造アルコールです。基本的な作り方は、次のとおりです。
酵素の働きでもち米のデンプンが糖に変わり、アルコールと甘味が生成されるまでには約2ヶ月間かかります。しっかり熟成させることで、「まろやかさ」とみりん特有の「深い味わい」が出ます。
みりんには以下のような種類があります。
どのみりんも料理にコクと甘みを加え、食材の臭みを消し、照りを出す効果があります。
漬物は、「発酵漬物」と「無発酵漬物」の2つに大きく分けられます。
発酵漬物では、塩分を含む漬け床に水が含まれている野菜を漬け込みます。野菜には元々乳酸菌が付着していることを活かし、野菜の糖類などを分解して乳酸を作ります。
さらに野菜から出た水と乳酸があわさることで乳酸菌が育ち、漬物ができるという仕組みです。
乳酸が出ると酸味が出るため、酸に弱い腐敗菌の働きが鈍くなり保存性が高まります。
漬物の種類は、以下の通りです。
・塩漬け:キャベツや白菜、きゅうりなどの野菜を塩で漬けるシンプルな方法。たくあん、浅漬けなど
それぞれで製造方法のみならず、風味や合う食材も変わります。
甘酒は、日本の伝統的な飲み物です。原料は米麹または酒粕で、米麴の場合は「麹甘酒」、酒粕の場合は「酒粕甘酒」と呼ばれています。
麴甘酒は、炊いたご飯またはおかゆに米麹と水を混ぜて発酵させたものです。
酒粕甘酒は、酒粕に砂糖と水を加えて発酵させています。
麹甘酒はノンアルコールですが、酒粕甘酒は酒粕自体にアルコールが含まれるため、少しアルコールが残っています。
甘酒には病院で使われる点滴と似た成分が入っていることから「飲む点滴」とも呼ばれており、栄養価が高く、美容や健康にも良いとされています。
米麹から作る甘酒は特に発酵食品としての利点があり、腸内環境を整える効果も期待できます。
ヨーグルトは、生乳や他の乳製品を乳酸菌で発酵させて作る発酵食品です。生乳に種菌と呼ばれる乳酸菌を加えて発酵させます。
基本的な発酵方法には、前発酵と後発酵のどちらかを使用します。
前発酵は、原料をタンクで発酵させてから容器に詰める方法です。一方、後発酵は、原料を容器に詰めてから発酵させます。
前発酵でも前発酵でも、乳に含まれる糖分を乳酸菌が分解して乳酸を生成します。
乳にはタンパク質のひとつ・ガセインが含まれています。ガセインの「酸で固まる性質」を利用して作られたのが、ヨーグルトです。
ヨーグルトの主な種類は、以下の通りです。
ヨーグルトにはタンパク質・ビタミンB2・パントテン酸・カルシウムなど、牛乳の栄養価が受け継がれています。
鰹節は、日本の伝統的な発酵食品であり、特に出汁を取るために広く使用されます。
鰹節の製造過程には、カビ付けと呼ばれる発酵の工程が含まれています。カビ付けは、鰹節の風味と旨味を深めるうえで欠かせません。
鰹節の製造方法は、次のとおりです。
熟成された鰹節は本枯節(ほんがれぶし)と呼ばれ、非常に上質な風味を持ちます。
ここでは発酵食品を実際に製造する際、注意すべきことを解説します。
原材料は、新鮮で質の良いものを使用しましょう。劣化した材料は、発酵の進行に悪影響を与える可能性があります。
また発酵食品を作る際は、適した品種の原材料を選ぶことが重要です。
例えば醤油の場合であれば、良質なたんぱく質を多く含んでいるもの、高たんぱくな大豆や小麦を使用することで、良い醤油が作れます。
発酵は、特定の温度範囲でおこなってこそ進むものです。温度が高すぎると雑菌が繁殖しやすいうえ、低すぎると発酵が進まないことがあります。
温度計を使用して、常に発酵温度を確認しなくてはなりません。
また発酵する際は、時間も重要です。発酵が不十分だと風味が出ず、過発酵になると品質が劣化することがあります。時間を見つつ、定期的に発酵の進行をチェックし、異常がないか確認しましょう。
発酵食品のpHレベルとは、食品の酸性度を示す指標です。
pHは0から14の範囲で測定され、7が中性、7未満が酸性、7以上がアルカリ性となります。
参考:厚生労働省 A 通則
例えば、ヨーグルトやチーズは酸性の環境で発酵が進行します。
ヨーグルトの適切なpHレベルは 4.0〜4.5で、乳酸菌による乳糖の発酵で乳酸が生成され、酸性度が高まります。
またチーズの適切なpHレベルはおよそ4.5〜5.5です。ただし種類によって酸性度が異なる点に注意が必要です。
適切なpH管理を行うことで、安全で美味しい発酵食品を製造できます。
発酵食品を安全かつ美味しく製造するためには、原材料の選定、温度と時間の管理、pHレベルの確認が欠かせません。
新鮮な材料は発酵の進行をスムーズにし、最終的な栄養価を高めます。発酵に最適な温度と時間を守ることで、風味や味もよくなります。
製造方法だけでなく、理想の発酵に必要な要素をしっかりと管理して品質を確保し、安全で美味しい発酵食品を作りましょう。
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